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そして、なんだかんだで約1ヶ月が経過した。初日がとんでもなかった分、それに比べれば穏やかな日々ではあったけど、普通に考えたらやっぱこの学校は変わってる。既に結構適応しかけてるが、適応しきったら人として終わりな気がしてならない。
〜教室:一年1組〜
翔太「なぁポチ、次の授業って誰だっけ?」
葵「んー?えっとね、金曜の『恋愛学』だから…青木先生かな。」
翔太「うげー、『ヤッさん』かよー。あの人の授業って決まって荒れるからなー。」
葵「いや、主に荒らしてるの翔太君だけどね?」
チョコ「まったくだよー。とばっちり食らう身にもなってよねー。」
葵「主に食らってるの僕だけどね!?」
キーンコーンカーンコーン♪
青木先生「おーーう、席つけー始めんぞー。今日は…どっからだった委員長?」
委員長「だから違いますってば!学級委員長は佐久間君ですから!」
少年「そうですよ先生、学級委員長はこの『佐久間崇(サクマタカシ)』に決まったでしょう?委員長も困ってるし。」
委員長「だからおかしくない!?少なくともアナタだけはおかしくない!?」
青木先生「あーそうだった、授業前に話あんだわ。この恋愛学の延長で、今度『恋愛課外実習』があるぞー。」
メンドク「えー、マジかよめんどくせー。」
青木先生「うるせー黙れよメンドク殺すぞ。めんどくさかろうが、お前らの“恋愛適正”見るにゃ大事な実習なんだよ。」
葵「適正…?恋愛に適正とかあるんですか?」
青木先生「ま、恋愛っつーか人間的な特性だがなぁ。お前ら、一昔前に流行った『成田離婚』って知ってるか?多いらしい例で言うと、新婚旅行先の海外でヘタレがバレて、帰国後離婚される男が少なからずいるって話だ。」
チョコ「なるほど、要は“メッキが剥がれて幻滅”ってやつだね。わかる気するかも。」
青木先生「んなもんオメェ、こっちからすりゃ勝手に期待して勝手にガッカリしてんじゃねぇよっつー話だが、事実そうなってる以上無視もできねぇ。ったくめんどくせー世の中だなぁオイ。」
メンドク「やっぱしめんどくせー。」
委員長「で、つまるところどういった実習なんですか?」
青木先生「んー、まぁ簡単に言うと、窮地に追い込んでテメェらの本性を暴く。敵を知る前にまず自分を知り、その弱さを知るっつー高尚な目的があんわけよ。わかるかぁ?」
モテ王「自分を知るねぇ…フッ、今さら?」
青木先生「知っててそれかよテメェ!?」
モテ王は自覚が足りない。

 

42
青木先生改めヤッさんが言うには、なんでも5月には『恋愛課外実習』なるものがあるらしい。各学年男女2名ずつ×三学年の計12人で班を組み、何かに挑むんだとか。全学年ということは全部で100班か…なかなかに凄まじいイベントだ。
翔太「やれやれ、出たな最初の難関“班分け”…。ある意味これがイベントの成功をある程度を左右すると言っても過言では無いよな。」
チョコ「だよね。できればもうクジ引きとかで決めてくれって感じだよね諦めつくし。下手に「好きな奴と組め」とか言われて余っちゃったりしたら立ち直れないよね。」
翔太「まだ入学したてでグループができきってない今、こういうイベントでの組み合わせは後々まで影響するからな…。」
青木先生「よーし!じゃあお前ら、適当に男女2×2で班つくれー。」
チョコ「ってキタよ鬼の命令!アンタに人の心は無いの!?自分から人に歩み寄れないシャイなあんちくしょうの気持ちわかんないの!?」
青木先生「黙れよチョコ、テメェはガツガツ行けるクチじゃねぇか乙女ぶってんじゃねーぞコラ。」
チョコ「知ったような口利かないでよもうっ!翔ちん、組も!」
翔太「お、おう。なんかお前がE棟の理由がわかってきたわ…。けど他はどうする?」
葵「あ、あのさ…」
翔太「ほぉ…いい度胸だ。」
葵「やっぱ…新しい人間関係つくるいいチャンスだよね…。」
モテ王「よぉ翔太っち!チョコと組むの?じゃあ俺」
翔太「却下だ!!」
モテ王「ま、寮でも一緒だしな!オーケー別々に楽しもうぜ!」
翔太「えっ、あ、おう…。」
さすがに心が痛んだ。

 

43
配慮の足りないヤッさんのせいで、俺達は自分で実習の班メンバーを集めるはめになった。折角の機会だし、仲間内だけで固めるのはもったいない気がするので、ポチやモテ王は断った。はてさてこれからどうするか。
チョコ「で、どーする翔ちん?安牌とるか、冒険してみちゃうか…。」
翔太「んー、けど現時点で安牌とわかってる奴って少なくね?今んとこ“常識人”にカテゴライズできそうなのはポチと委員長ぐらいだぞ。」
チョコ「だよねー。でも折角だしもったいないよねー。」
翔太「フッ、やはり気が合うな相棒よ。とはいえ、既にわかってる危険牌をわざわざ選ぶのも無謀だし、ここは全く知らない奴から選んでみるってのはどうだ?」
チョコ「いいねーそれ。んじゃアタシは女子、アンタは男子を…ってのもつまんないし、敢えて逆を誘ってみちゃうってどうよ?」
翔太「チャ、チャレンジャーだなお前…。だが面白い、いいだろうやってやんよ!」
チョコ「オケー。じゃあ行ってくんね〜。」
翔太「ふぅ〜〜…。というわけで、どうだろう?」
少女「って、はしょるね随分!?まぁ確かに聞いてはいたけども!「もしかして話しかけられちゃうかも」とか思って軽く髪とか整えちゃってたけども!」
翔太「つーことはまんざらでもないわけだろ?確か名前は…『大久保』だっけか?チビのくせに“大”とか身の程知らずにも程があるな。『小久保』でいいか?」
少女「いや、『大久保』だから!普通に『大久保圭子(オオクボケイコ)』だから!「小久保でいいか?」とかサラリと聞かれても困」
翔太「オーケーわかった小久保。よろしくな!」
圭子「あっ、うん、よろしく!何がわかったのかイマイチわかんないけども、なんかもういいや!」
圭子は適応力がパない。

 

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歩くのと説明が面倒だったため、手近なところで手を打って、聞き耳を立てていた大久保(通称:小久保)をゲットした。これまで喋ったことも無いからどんな奴かはわからんが、見た感じツッコミ系なのでそれなりに常識はあるものと信じたい。
翔太「さて、俺のノルマは達成…あとはチョコの見立てがどうなるかだな。」
圭子「でもチョコちゃんて…意外と危ういよね。あのアグレッシブさがどう転ぶか…。」
翔太「ああ、知ってるよ。自分で言うのもなんだが、俺と意気投合できちゃう時点で結構変人だぞアイツ。」
圭子「ホントに自分で言うのもなんだって話だねそれ…。」
チョコ「やほー、帰ってきたよー。」
翔太「おぉ、意外と早かったな。で、お前が最後の一人か…名前なんだっけ?」
男子「なにぃ?貴様、この我に名を求めるだと…?フッ、いいだろう聞かせてくれよう。我こそはかつて、冥界の暗黒魔界大戦で名を馳せた英雄…人呼んで、『ブラック・リバー』だ!!」
翔太「…オーケー、よろしくな『黒川』。」
圭子「よ、よりにもよって凄いの連れてきちゃったねチョコちゃん…。確か『黒川権造(クロカワゴンゾウ)』君だっけ?」
中二病「ちょ、違っ…!ぶ、無礼だな貴様!我が名はそのようなふざけた名ではない!霊界一の大魔術師、『ブラック・リバー』と呼ぶがいいよ!」
翔太「結局『冥界』なのか『魔界』なのか『霊界』なのかどっちなんだ。」
チョコ「おっもしろいでしょー?この子が『黒歴史』って言葉覚える瞬間に、立ち会ってみたいと思わない?」
翔太「お前やっぱ鬼だな…そういうとこ凄まじく嫌いじゃないが。」
中二病「ほほぉ、『ブラック・ヒストリー』…我が輝かしき歴史のことか。知りたくば、存分に知らしめてくれようぞ!」
圭子「が…頑張るぞぉー!」
圭子の負荷がデカい。

 

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そんなこんなで、若干の不安はあるものの、とりあえず班のメンバーは決まった。ここからは班員ごとの席に分かれ、ヤッさんの説明を聞いてから当日の作戦を立てることになるらしい。
青木先生「よーし、分かれたなー?んじゃあ説明すっぞー。今回の実習は、表向きはただの遠足だ。とりあえずバス乗って山の方行ってから、歩いて山に登る。」
中二病「バスだと…?やれやれ、そのような稚拙な乗り物を使うというのか。我が下僕たる『ブラック・タイガー』なら…」
チョコ「いや、それどこの海老?」
翔太「“表向き”ってことは当然裏があるんだよな?いいのかよそんなネタバレして?」
青木先生「まぁ最初に「本性を暴く」っつー目的言っちまったしなぁ。隠してもバレんだろ?それに、ガキの浅知恵で警戒したところでどうにかなるもんでもねぇよ。」
翔太「何かしら仕掛けてくるわけか…面白いじゃねぇか。」
青木先生「ちなみに、様々な障害をかいくぐりつつ、期間内に異性のアドレスを20件まで集める…それがテメェらに課せられたノルマだ。1件5点、計100点満点のテストだと思いな。あぁ、同じクラスの奴は対象外だぜ?」
圭子「一気に20件…とか考えたらちょっと難しそうな響きだけど、みんなが同じ条件なら教えあうわけだし、結構簡単っぽくない?」
青木先生「フッ、そう思うだろ?だが意外とそうじゃねぇ。採点は実習の一週間後に行うんだが、“相手のケータイ”にもアドレスがあって、初めて得点とみなす。この意味がわかるか?」
チョコ「仮に交換できても、採点までに消されたらアウト…ってわけだね?でもさ、登録したのが実習中かとかどうやってわか…あ、だから全生徒の携帯って学校支給なわけ?」
青木先生「まぁそーゆーこった。登録日時や削除履歴が残る特殊仕様でなぁ。さらに、赤外線じゃなきゃアドレス交換はできねぇし、一度消したアドレスはもう二度と登録できねぇ仕組みだ。採点日に全校生徒のケータイ収集すっから、集計すりゃわかっぞー。」
モテ王「けど消すことにお互いメリット無ぇんだから、普通相手も消さねぇよな?やっぱ楽勝なんじゃね?」
翔太「いやちょっと待て、そういやさっき20件“まで”とか言ってたぞ。もしかして…」
青木先生「ほぉ、いい勘してるなぁオイ。その通り、期間中の追加登録可能件数は20件に制限される。」
翔太「なるほどな。合同実習という出会いのイベント…いざ「この人とアドレス交換したい」って時に、メモリーは上限…お前ならどうするよモテ王?」
モテ王「消すわ…俺、めっちゃ消すわ!!」
そもそも聞ければいいが。

 

46
実習の具体的な内容は未だ謎だが、とりあえず“アドレス集め”という課題もあるらしいこと、そしてそれは色々とルールが隠されていそうなことがわかった。前もって聞いておかないと、後で痛い目を見そうだ。
翔太「ったく、頑張ってアドレス聞いたり消したり…めんどくさそうなイベントだな。」
圭子「でもさ、“一度消したメアドは二度と登録できない”ってのは…もうサヨナラくらいの勢いだよね?その後も同じ学生なのに…勇気いるなぁそれ。」
翔太「それどころか、この学園なら消した相手に消したとバレる仕組みがあってもおかしくないぞ。」
青木先生「フッ、つくづくいい勘してやがるなクソガキ。採点後に“片思いアドレス”は消しちまうからな、見りゃバレっぞー。」
チョコ「うっわー鬼っ畜ぅ〜☆」
圭子「心なしか楽しんでそうなのはなぜかなチョコちゃん…?」
葵「つまり、アグレッシブ且つ相手を選びながらアドレスを聞きつつ、自分のは消されない程度に良い印象を残しつつ期間を終えろと………欝だ。」
青木先生「ちなみに毎年似たようなことやってるが、必ず何人かは…できるな。」
モテ王「えっ!で、でででできるって、恋人が!?そ、それとも赤ちゃ」
青木先生「いや、“心の傷”が。」
葵「“消えない系”じゃん!それ“一生消えない系”のやつじゃん!」
翔太「これは…それなりに作戦練ってかからねぇと大怪我するな…。」
圭子「センセー、その実習って具体的にいつなんですかー?」
青木先生「ん?明日。」
ぶっつけ本番になります。

 

47
そして翌朝7時。まったくもって準備もできず、実習の朝を迎えてしまった。まぁヤッさんのキャラ的にその手の連絡がマメじゃないのはわかっちゃいたが、こんな感じが一年続くと思うと恐ろしい。早めに情報源を増やす必要があるな。
〜正門前〜
チョコ「あ、翔ちんおはよー。」
翔太「よぉチョコ、なんだ指定の赤ジャージか普通だな。」
チョコ「はぁ?いや、アンタもじゃん。つかみんなじゃん?」
中二病「フッ、愚か者め…。見るがいいこの『漆黒の魔法衣』を!決して汝ごときでは纏えぬ代物だがなぁ!」
チョコ「うっわ出たよまさかの自作ジャージ!『黒』『ドクロ』『無駄にぶらさがるチェーン』…まさに“アレ”な方々御用達な感じのイタタタタ…!」
翔太「だろ?あとは『使い道のわからないファスナー』がたくさんついてればもう完璧だな。確かに俺らには纏えん代物だよ。」
チョコ「さらに『マント』まで羽織ったら最強だよね!“痛さ”的な意味で!」
圭子「とりあえず止めてあげる気は一切無いんだね、清々しいほどに。」
青木先生「よーしみんな揃ったかー。んじゃ座席表見てバス乗り込みやがれー。あ〜とりあえず権造、テメェはそれ脱いでこい。」
中二病「なっ!?先せ…貴様、我が魔法衣を封じようというのか…!?いや、確かに『ブラック・オーラ』を纏う我ならば彼の地の瘴気にも耐えうるが…しかし…!」
翔太「ボコって血で染めるってのはどうだろう?」
青木先生「それだ!」
乗るな教師。

 

48
ビビッた中二病が着替えて戻り、バスは学園を出発した。これから3時間ほど走った後、どこぞの山に置き去りにされるらしい。そんな奥地に総勢1200人を受け入れられる施設があるのかと問われると甚だ疑問だが。
〜バス内〜
モテ王「あー楽しみだなー!これから1泊2日、男女くんずほぐれつの…」
翔太「いや、くんずほぐれつじゃないと思うが…ちなみに何か勝算でもあるのか?」
モテ王「ん、無ぇよ?いいんだよ思った通り動けば。今は亡きブルース・リーも言ったというだろ?「考えるな、感じろ」って。」
翔太「いや、お前の場合さすがのリーも「頼むから考えろ」と懇願するレベルかと。」
葵「でもさ、僕らの本性を暴くってどんなイベントなんだろうね?面白いくらい嫌な予感しかしないわけだけども。」
翔太「お前はアドレス交換の方だけ心配しとけよ。もはや各所に悪名轟いてんだから。」
葵「それ誰のせいかわかって言ってる!?というか各所ってそれ程の事態なの!?」
チョコ「あ〜噂では『長谷川葵を殺す会』ってのが存在するとか、してほしいとか?」
葵「なんで後半が願望なのか理解しがたいんだけど!?」
圭子「でもホント、何するんだろうね。というか、何させられるんだろうね…。」
翔太「この学園のことだ、どうせ何かドッキリ的なのを盛大に仕掛けてくるんだろうよ。ま、そうと知ってりゃ対策なんてどうとでもなるがな。」
中二病「フッ、その通り。敵国が如何なトラップを仕掛けていようとも、この『トラップ・ブレイカー』と呼ばれる我がいる限り、どんなトラップも一撃でドカンさ。」
チョコ「いや、ドカンじゃ困るから。」
だが確かに踏みそうだ。

 

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そして3時間が経ち、俺達はキャンプ場的な施設に到着した。これから各班に別れ、まずは昼食の準備をすることになるらしい。
〜キャンプ場:自由広場〜
男子A「ハーイ、7班のみんな集まってー。これから昼食準備にあたり、まずは簡単に自己紹介とかしようか。」
中二病「フッ、ならばまずは」
翔太「いや、お前が先陣切ったら後が大変だから自重してくれ。」
男子A「んじゃ、まずは僕から言うね。僕は三年の『沢村琢磨(サワムラタクマ)』、一応僕が『班長』ってことになったんだ。よろしくね。」
女子A「あー、じゃあ次は私でいいですかね?二年ですけど、『副班長』は二年から出すことになってるんで。あ、名前は『芹沢(セリザワ)まどか』ですー。」
琢磨「後は作業しながら適当にって感じで。」
圭子「えっ、二人だけですか!?今この場で全員やらないんです…?」
琢磨「他学年には8人もいるんだよ?どうせ一度じゃ覚えられないし、後で聞きなおすのも気まずいじゃない?会話しながら一人ひとり覚えていこうよ。それにまだ全員揃ってないしね。」
まどか「とりあえずー、食材を調達する組と、火ぃ起こしたり調理器具用意したりする組に分かれましょうかね?」
琢磨「そだね。食材調達は『山菜組』が4人、『川魚組』が4人、んで残り『料理準備組』の4人に分かれようか。」
翔太「ならお前は火起こし担当だな黒川。どうせその手の魔法知ってんだろ?」
中二病「フッ、もちろんだ。我が暗黒魔法『バーニング・クロス・ファイア』なら、どんなお肉も一瞬で灰燼と化すわ。」
圭子「“調理”としては致命的だねそれ…。」
チョコ「冷蔵庫とかに入ればいいんじゃない?」
翔太「いや、それ違った意味で“炎上”するやつだろ。」
琢磨「面倒なんでクジ引きにするね。ハイ引いてー。“ハズレ”に気をつけてねー。」
圭子「えっ!なにハズレって何!?」
中二病「ほほぉ…我は『山菜組』か。」
翔太「決まったな、ハズレ。」
圭子「そういう意味!?」
失礼だが説得力はあった。

 

50
クジ引きの結果、俺は『川魚組』に決まった。他のメンバーは二年の男子2人と三年の女子1人。同学年のいないアウェイ状態に少々不安はあるが、今後こういう状況は頻繁に発生しそうだし、慣れるにはいい練習になるだろう。
女子「あ、えと、その…」
男子A「ったく、めんどくせーなー魚捕りとかマジうぜー。」
男子B「でもやんしかねーべ?つーかよぉ、早く仕切ってくれよセ・ン・パ・イ!?」
女子「はわっ!?えっ、あ、えと…あの…!じゃ、じゃあ自己しょ…私、私は…!」
翔太「ふむ、まずは落ち着こうか先輩。はい深呼吸してー?」
女子「あ、ハイ!ふぅ〜…ヒッ・ヒッ・ヒィーー!」
翔太「いや、そこはせめて“ラマーズ法”でいこうか。“魔女の笑い声”っぽくなるのはボケとしてもおかしい。」
男子A「いいから早く名乗ってくれよウゼェな!」
男子B「そーだよ全然話が進まねーべ?フザけんじゃねーっての。」
翔太「…「人に名を尋ねる時はまず自分から」って言うッスよね?だったらまずアンタらの名前は何だよ?」
女子「あ、尋ねた…。」
翔太「くっ…!ならば俺から名乗ろうか。俺は長谷川…もとい、東堂翔太だ!!」
男子A「あん…?んだよ反抗的だなテメェ、誰だよ?」
翔太「名乗った直後なだけにこれ以上どうしたものか。」
男子B「オイ『幸太郎(コウタロウ)』、コイツ調子乗ってね?完全ナメてんべ?」
男子A「だな。やっちまうか『卓郎(タクロウ)』?」
翔太「なんだかんだ言いながらもさりげなく名乗っちゃうあたり意外と律儀ッスね。」
卓&光「あぁ!?」
女子「あの、その、えっと…あ!空気!いい空気、ですよね!さすがは山奥!」
むしろ最悪の空気だった。

 

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