51
その後、チンピラ二年のフルネームは『犬井幸太郎(イヌイコウタロウ)』と『猿渡卓郎(サルワタリタクロウ)』、三年女子は『桃井志保(モモイシホ)』先輩だというのをなんとか聞き出しつつ、重苦しい雰囲気のまま釣り場となる川岸へと辿り着いた。
そこにはもう何組か来ていて、そしてそれなりに仲良くやってそうに見えた。ずるい。
〜川岸〜
幸太郎「ハァ〜〜、ったくダリィなチクショウ…さっさと釣って帰んぞ!オイ一年、さっさと竿出せよ!」
翔太「え…まさか“そっち”の趣味が?」
幸太郎「あん?何を言っ…そっちの“竿”じゃねぇよ変態かテメェ!?」
翔太「いやー、「男の付き合いはまず下ネタから」と教えられたもんで。」
卓郎「ハァ?んなこと教えるバカいんわけねぇべ?どこの誰だよ!?」
翔太「流星先輩。」
幸&卓「あーー…。」
志保「あ、あの!早く釣りましょ!でないとほら、他の班が全部…釣っちゃうし…。」
幸太郎「ケッ、んなわけねーっしょ?この川に何匹いると思ってんだよ?」
卓郎「そーだべ。そんなん網でも仕掛けねぇと…」
声「よーし!野郎ども、網ぃ仕掛けろぉおおおおおおお!!」
卓郎「えぇっ!?」

流星「一匹残らず、獲りつくすぞぉおおおおおおおお!!」
強敵が現れた。

 

52
俺達の周囲のどんよりとした空気を吹き飛ばす勢いで登場したのは、同学年から見ても変人と名高いっぽい流さんだった。普段は若干ウザいが今はなんだかありがたい。
流星「よーし一年のお前、この端っこ持って向こう岸まで泳げ!」
男子A「あ、その、すんません!自分、泳げなくて…。」
流星「泳げねぇなら飲み干しゃいいじゃん?」
男子A「んな無茶な!!」
翔太「相変わらず無茶やってんねー流さん。恨み買ったら面倒じゃねこのイベント?」
流星「ん?おぉ翔太じゃねぇか。丁度いい、お前も手伝ってくれよ飲み干すの。」
翔太「いや、なんでそっちの路線ッスか。せめて泳いで渡る方にしてよやんないけど。」
流星「お前も釣り係か?他のメンバーは誰よ?」
翔太「他の班員はあっちッス。一年俺だけなんで軽くアウェー感が。」
流星「うわーー…『光沢コンビ』と…なんだよツイてねぇなお前。」
翔太「コウタク…?あぁ、“幸”太郎と“卓”郎だから?」
流星「いや、二人ともデコ広ぇから。」
翔太「ぜってーアンタが名付け親だろ酷ぇな…って、ツイてないってことは有名なんスか悪い意味で?」
流星「まあな。アイツらずっと前からツルんでて二人は寮でも同じ部屋らしいが、既に同室の一年追い出したって聞くぜ。」
翔太「マジかよ…。人脈作りのイベントだってのに出だしからそんなのと…。」
流星「なんなら俺がどうにかしてやろうか?ガツンとやってやってもいいぜ?」
翔太「ん〜〜…いや、いいッスよ。なんか「俺の兄ちゃんヤンキーなんだぜ」的な感じでみっともねぇし。虎の威は、“借る”んじゃなく…“狩る”もんだ。」
仲良くする気は無かった。

 

53
流さんの情報から、案の定二年のチンピラどもはろくでもない連中だということがわかった。流さんにシメてもらった方が今は楽なのかもしれないが、自分の力でどうにかしないと勝った気にならない。なんとか策を練るとしよう。
幸太郎「オイこら一年!テメェなに勝手にいなくなってんだぁ?」
翔太「いや、流さんが暴れると魚逃げるんで文句言ってきたッス。迷惑ッスよねー?」
幸太郎「チッ…フン!じゃあさっさと準備しろや釣りのよぉ!チンタラしてんじゃねーよ!」
卓郎「だっつーの。食材足んねーと俺らが責められんべ?」
翔太「…だったら頑張ればいいのでは?」
幸太郎「あ゛ぁ!?んだテメェ、俺らにやれっつーのかよ!?」
翔太「準備もなにも、糸から針から付いてる竿じゃないッスか。あと餌付けるだけでしょ。それともなんスか、アンタら母親に靴下履かせてもらわなきゃ家も出れんのか?」
卓郎「テメェ…俺らに喧嘩売ってんのかよ?上等だべ、表ぇ出ろや!!」
翔太「大自然なーーーーう!!」
志保「ちょ、ちょ、待っ…喧嘩は!や、やめましょう!仲良く釣って早くお昼ご飯…ね?」
幸太郎「仲良くなんかできるわけねーだろ?ふざけたこと言ってんじゃ…」
志保「じゃあ、わかりました!じゃあ、負けた方が、買った方の言うことをなんでも聞く…みたいな?勝負!勝負で!」
幸太郎「…へぇ、面白ぇじゃん。ならやってやんよ!俺らが勝ったらみんなの前で土下座させっからな!「僕は一匹も連れませんでした」ってなぁ!」
翔太「じゃあ俺が勝ったら土地買ってもらう。」
幸太郎「スケールでけぇなオイ!!」
プライドどころか人生がかかった。

 

54
桃井先輩の余計な提案のせいで、面倒な勝負をするはめになってしまった。まぁ助け舟のつもりだったんだろうから悪くは言えないが。
ちなみに、ルールは単純。二組に別れ、最終的に多く獲った方が勝ちとなる。多分桃井先輩は戦力にならないだろうし、自分で頑張るしかないんだろう。
翔太「ハァ…やれやれ、なんでこんなことに…。事を荒立てないように努力してたつもりなんだけどな…。」
志保「え、アレで…?」
翔太「さて…じゃあまぁ始めましょうか。一応聞くけど先輩釣りの腕前は?」
志保「ふふ…こう見えてね、実は嘘得意なんです。」
翔太「いや、そのネット界で言うところの“釣り”じゃなしに。」
志保「ところで、この川は何が釣れるんでしょう?」
翔太「あ〜、確かヤマメが釣れるとか。餌はイクラをゲットしてきたんでこれで。」
志保「えー、イクラなんだったら鮭釣りたいなー。」
翔太「いや、そんな“子殺し”的なの望んじゃだめでしょ。」
志保「とりあえず、一人3匹ですね!みんなが3匹釣れれば12匹だし!」
翔太「勝負に勝つなら5匹はいきたいけどね。あのチンピラどもに一泡吹かせないと、折角釣った魚も美味しくいただけねぇ。先輩だってナメられてムカついてるっしょ?」
志保「あ〜〜…私は、大丈夫!強い子なのでね!」
翔太「まぁテンパってなければ意外と普通なんだなーとは思うけども。」
志保「ふふふ。東堂君、女の子は見えてる姿が全部じゃなくってよ?騙されないように気をつけるべし!」
翔太「うぃー。肝に銘じときますわ。さて…じゃあ釣りますか!頼むぜ先輩?」
志保「オッケーでーす!レッツ鮭ーー!!」
翔太「…よーし、一人で釣るかー。」
ある意味3対1かもしれない。

 

55
そしてようやく開始した魚釣り。最初は全然だったが、しばらくするとなんとなく感覚が掴めてきて、ようやく釣れ始めた。
志保「キャー!キャー!つつ、釣れ!釣れたー!釣れたんですけどもーー!?」
翔太「ちょ、落ち着いて先輩!そんなにブン回したらバレちまう!」
志保「えっ!バレるって何が!?秘密が!?例のアレが!?」
翔太「いや、“例のアレ”とか言われてもわからんけども!それはそれでちょっと気にはなるけど、そうじゃなくて魚に逃げられるってこと!下手したら糸まで切れて終わっちまうよ!?」
志保「こ、これ…このままでいたらもっと大きな魚釣れません…?」
翔太「アンタはカジキでも釣る気なのか!?いいから早く釣り上げろってば!」
志保「キャーー!オッケー釣れましたー!ってキモッ!ヌルッ!?ギャーーー!ヌルッとギャーーー!!」
翔太「あーーもう!貸して先輩!なんかあっちも釣れてるみたいだし、急がねぇと負けかねない…!」
志保「ハァ、ハァ、パねぇ…魚、マジでパねぇわ…。」
翔太「完全にキャラ変わっちゃってるじゃねーか。さっき教えられた通り女って怖いわーって思っちゃうわ。」
志保「ふぅ〜〜…さっ!もうひと頑張り!このペースでいけば勝てちゃいますよ!」
翔太「アンタが邪魔しねぇ方が勝てそうな気もするがな…。」
志保「うわ臭っ!手ぇ臭っ!!」
ハンデが重い。

 

56
その後もバタバタが続き、そして時間切れとなった。旗色は微妙だが、それなりには釣れたのでまだわからない。敵が雑魚なことを祈ろう。
幸太郎「オーイ遅ぇぞ一年!待たせんじゃねぇよクソがぁ!」
卓郎「ちゃんと釣れたんだろーなぁ?ノルマぁ満たしてんよなぁ?」
翔太「もちろんッスよ。じゃあ1匹ずつ取り出して天高く投げましょうか、玉入れの要領で。」
幸太郎「フン、いいだろ…ってそれじゃ昼飯になんねーだろうがバカかテメェ!?」
志保「じゃ、じゃあ!せーので発表しま…あっ、じゃあドラムロールの後に!えと、あの…ハイ!どぅるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるる」
翔太「って長ぇよ!肺活量スゲーなアンタ!」
志保「るるるる…るる…だんっ!!ハイ!!」
卓郎「えっ、あ…5匹!」
翔太「フッ…勝ったぁ!6匹ぃいいいいいいいいいいい!!」
幸&卓「なっ…!?」
翔太「ハッハッハ!ざまーみやがれ!散々偉そうにしといて負けるとか」
志保「そっか〜、じゃあ“11対0”かぁ〜♪」
翔太「…え?」
ドンッ(押)
なんと!翔太は川に突き落とされた。
ドッバーーーーン!!(水飛沫)
翔太「ぶはっ!えっ、なに…えっ!?ぶふぉっ!」
幸太郎「プッ…ギャハハハハ!顔!スゲェ顔!鳩に豆鉄砲…ギャハハハハ!」
卓郎「いや〜、ったく酷ぇッスわ『しーさん』。マジ敵に回したくねぇべ。」
志保「酷い〜?“凄い”の間違いっしょ?見たぁ?あーしの超・演・技・力☆」
翔太「ぐっ、まさか…テメェら最初っから…!」
志保「言ったっしょー東堂?騙されないように気・を・つ・け・ろって♪キャハッ☆」
マジで3対1だった。

 

57
アホな子だと思ってた桃井先輩のまさかの裏切りで、俺は川に突き落とされてしまった。野郎どもの反応を見るに、どうやら以前から付き合いのある仲間だったっぽい。認めたくはないが、どうやら俺は完全にハメられちまったようだ。
翔太「ゲホッ、ゴホッ!ふ、ふざけやがって…グルだったのかよ…!」
幸太郎「どんな手ぇ使おうが勝ちは勝ちだ。約束、覚えてんだろうなぁ?」
翔太「あ゛ぁ!?何言ってんだよ、そんなの無効に決まってんだろーが!ゲフッ!」
志保「無効〜?アンタこそ何言ってんのぉ?「“二組”に別れて“最終的に”多く“獲った”方が勝ち」…全然間違ってなくな〜い?」
幸太郎「まんまと引っ掛かっただけのバカがなにイチャモン付けてんの〜?カッコ悪ぃ奴だなぁオイ!ギャハハハ!」
翔太「くっ…!計画的な犯行かよ…汚ぇ…!」
志保「こーゆーサプライズがあった方が面白いっしょ〜?ま、一緒になったのが女子だったらヤメたげたんだけどねー。な〜んかアンタは、目が…さ。あーし、生意気な奴って嫌いなのよね〜。」
卓郎「あ〜、そろそろ時間じゃね?幸(コウ)、しーさん、バカは置いて先行くべ。」
志保「そ〜ねぇ。あーし腹減っちった〜♪」
幸太郎「11も釣りゃ十分っしょ〜!しかも三・人・で・だもんなー!ギャハハハハ!」
三人は悪役っぽく去っていった。
翔太「チッ、「実は嘘得意」…か。まんまとしてやられたわけか、情けねぇ。」
流星「よぉ翔太、見たとこやられちまった〜って感じか?やっぱめんどくせぇな志保りん先輩は〜。」
翔太「知ってたんスね?そういやさっき「光沢コンビ“と”」って…。」
流星「まあな。オメェならなんとかするかもと放っといたが、言ってやった方が良かったか?」
翔太「…いや、良かったッス。おかげで自分の甘さを痛感できた。」
流星「フッ…やるのか?」
翔太「ああ、もちろんだよ…。今日のキャンプファイアーは、焼き肉パーティーだ!!」
さすがの流星も止めた。

 

58
まだ5月ということもあり、服もそう簡単には乾かず、仕方なく俺はビショ濡れのままキャンプ場へと帰還した。言い訳を考えるべきかとも考えたが、何を言ってもあの三人が邪魔してきそうだな…分が悪ぃ。
〜キャンプ場:炊事場〜
チョコ「あー翔ちんやっときたー…って、ワオ!なぜにビショ濡れなの!?」
翔太「ふむ、まぁ…若さゆえ?」
圭子「なんか深過ぎて聞くに聞けない…!」
中二病「これは、何かあるな…ハッ、もしや…!」
翔太「ああ。実は…この地方に古より伝わる突発豪雨領域、『レイニング・ワールド』に巻き込まれてな。」
中二病「えっ!?や、やはりか…!」
チョコ「いや、全然“やはり”じゃないし。思っきしビックリしてたし。」
翔太「んー、まぁ実は…」
幸太郎「おー東堂君、遅いから心配して…えっ、どうしたんだいビショ濡れじゃないか!もしかして“あの後”、川に…落ちたのかい?」
卓郎「マジかーそりゃ大変だわ。急いで着替えにいくべ?」
翔太「…いや、お気遣い無く。」
幸太郎「何言ってるんだ、風邪引いたら大変だろう?(いいから来いやボケ)」
卓郎「そーだべみんなにも迷惑かかるしな?(逆らうじゃねぇよ)」
翔太「ふぅ…じゃあちょっと行ってくるわ。俺の分の飯の確保は任せたぜ小久保。」
圭子「あ、うん。それはいいけど…ホント平気?」
幸太郎「大丈夫。後は俺らに任せて、小久保…さん?」
卓郎「俺らが面倒見っからさ、小久保っち。」
圭子「え、いや、あ……ハイ。」
「大久保です」とは言いづらい空気に。

 

59
寒さをこらえつつなんとかキャンプ場に到着するも、光沢コンビに拉致られてしまった俺。そして人気の無い所に連れて行かれたのだが、そこには桃井先輩が待っていた。なんだまだ何か企んでいやがるのか…。
〜キャンプ場:雑木林〜
志保「あ〜来た来た〜♪おっそいじゃ〜ん東・堂・君?」
幸太郎「ったく、やっと来やがったんスよこのクソ一年〜。俺ら先輩に重てぇ魚持たせて自分はのんびり来るとか信じらんねーなぁ。」
卓郎「つーかテメェよぉ、さっき俺らのことチクろうとしたべ?」
翔太「ん?そんなことしねぇッスよ。3対1じゃ、俺が何を主張しても勝てなそうだし。」
幸太郎「ギャハハハ!やっとわかったかよ自分の立場ってやつをよぉ!じゃあ罰ゲームのことも、わかってんよなぁ?」
翔太「あ〜、確か大富豪から莫大な遺産を受け継がされる…でしたっけ?」
幸太郎「んなわきゃねーだろ!それじゃ逆にご褒美じゃねーか!」
翔太「いや〜、いろんなしがらみが大変ッスよきっと?」
幸太郎「んなことどーでもいいんだよ!違ぇだろ最初に言った罰ゲームの話だよ!」
翔太「あ、女王様に踏まれる的な?」
幸太郎「だからそれもご褒美じゃねーか!!」
翔太「えっ。」
卓郎「えっ。」
幸太郎「あっ…いや、違っ…違ぇし!」
志保「幸…アンタ、そーだったのね…。踏んだげよっか?」
幸太郎「え………ち、違ぇし!!」
微妙に間があった。

 

60
相手の勝手な自爆でなんとなく軽く仕返しできた感があるが、未だピンチは続いている。こいつらはこれ以上俺に何を求めてるんだろうか。いい加減ムカついてきたな。
翔太「先輩らは…なに?ジャイアンの家系?この世は自分中心に回ってるとか思ってない?」
卓郎「ジャイアン〜?何言ってんだテメェ?ジャイアンって…あのジャイアンだろ?」
翔太「そうそう。なんだっけ、お前のものは俺のもの、俺の…ハートはお前だけのもの?」
幸太郎「ってプロポーズかっ!ふざけてっとブン殴るぞテメェ!?」
翔太「おー、段々ツッコミがキレてきたッスねー。ご褒美にムチでシバきましょうか?」
幸太郎「うぐっ…て、テメェにされても嬉しかねーよ!あ、いや、誰にでも!!」
志保「な〜んか息吹き返しちゃってな〜い?あーし超つまんないんだけどー。」
翔太「あー、さっきのは負けだと素直に認めたらなんか楽になってね。悔やしがってもしょうがない。」
志保「仕返し…しようとか考えちゃってな〜い?」
翔太「ハハッ、んなアホなこと考えてねーッスよ。学園生活まだ長いってのに、先輩に喧嘩売るとか損しか無ぇし。」
志保「ふーん、嘘クサ…ま、いいけどね。考!卓!行くよ。」
幸太郎「え、いいんスかしーさん?コイツ放っといたらみんなにチクり…」
志保「んな負け犬っぽいことする子じゃないよ。いびり甲斐がある生意気なクソガキじゃんか。そうっしょ?」
翔太「フッ…クソガキを肯定するのはさすがに嫌だけどね。」
幸太郎「チッ、命拾いしたな…。ま、後でどうなるかは知んねーがな!フン!」
三人は去っていった。
翔太「ふぅ〜〜〜…だいぶスッキリした。」
翔太に復活の兆しが。

 

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