外伝(捌)

 

外伝:勇者凱空Y〔1〕
それは、凱空達が終を封じてから、5年が経過したある日のことだった。
あれから5年。我が未来の妻は、未だ氷の中で眠り続けている。
外から見つめるのもそれはそれで良いのだが、やはり切ないものだ。
だが、蘇らせるわけにもいかん。思い通りにいかない女ってのはまったく…最高だ!
凱空「お前もそうは思わんかカルロス?」
剣次「いや、でも振り回され好きってのは大抵報われないんだぜ?」
凱空「確かに…そうかもな。だから念のため、「縦横無尽流」をお前に託すのだよ。」
剣次「彼女と結ばれる日が来なかった場合に備えて…か。意外と用意周到だなぁ。」
凱空「だが俺に子が生まれたら返してくれ。」
剣次「いや、「技術」ってそんなもんじゃねぇだろ。習得より難しいよそれ。」
凱空「とにかく、色々頼むぞカルロス。なんだか最近少し…嫌な予感がするのだ。」
剣次「ヘッ、任せとけよ。墜落した宇宙船から救ってもらった恩は、必ず返すぜ!」
撃墜したのは凱空だ。

 

外伝:勇者凱空Y〔2〕
木になった柿を落とそうと石を投げたら宇宙船が落ちてきたのが、ちょうど1年程前。
俺はその時拾った少年に、自分の持てる技術の一端を授けることにしたのだった。
彼は事の真相を知らない。言うわけにもいかない。だからつまり、侘び代わりとして。
凱空「という、言うに言えない事情があるんだ。すまんなカルロス。」
剣次「言ってる言ってる!アンタ全部言っちゃってるよズバリと! え、マジで!?」
凱空「本当にすまん。だが、動揺している場合じゃないぞカルロス?」
剣次「…ああ、気づいてるぜぇ?腕試しには、ちょうど良さそうな状況じゃんか!」
男〔木陰〕「チッ、気づかれていたか…!」
剣次の攻撃!
ミス!謎の男は素手で止めた。
剣次「なっ、剣を素手で…だとぉ!?何モンだよアンタ!?」
男「我が名は「途冥人(トメイト)」。残念だが俺には、いかなる物理攻撃も効かん。」
凱空「ふぅ…やれやれ、やはり来てしまったか。いつか来るとは、思っていたよ。」

帝雅「久しいなぁ「勇者」よ。返してもらいに来たぞ…我が主をなぁ。」
今度こそ因縁の戦いが始まる。

 

外伝:勇者凱空Y〔3〕
平和な日々を打ち破るように現れたのは、かつての強敵…確か帝雅といったか。
これだけの時を経てなお嫁を奪いに現れるとは、ストーカーにも程がある。
凱空「すまんが帰ってくれストーカー。我が妻はとても嫌がっているぞ。」
帝雅「いや、その言葉はそのまま返そうこの誘拐犯め。」
凱空「だが、この俺の熱視線でも溶けない氷だ、貴様とてどうしようもあるまい?」
帝雅「フッ、この私が無策でやってくるほど愚かだと思うのかね?」
凱空「なにぃ?これだけの魔法を解除できる魔導士なんて、聞いたことが…」
声「だが、魔法も呪いも突き詰めれば根源は同じ。「呪術師」に不可能は無ぇのさ。」
成長した解樹が現れた。
凱空「じゅ…じゅじゅちゅ師?」
やっぱり言えなかった。

 

外伝:勇者凱空Y〔4〕
なんと、彼女にかけられた魔法を解けるという者が現れてビックリな今日この頃。
凱空「仕方ないな…カルロス、まずは優先してじゅじゅちゅ師をなんとかするぞ。」
剣次「オーケー任せてくれ!修行の成果を見せてやるぜ!」
途冥人「おっと、そうはさせんよ。貴様の相手はこの俺がしよう。」
帝雅「もちろんキミの相手は私だよ、凱空君。術式の邪魔は絶対にさせん。」
凱空「フン、ダブルデートか…。だが男同士じゃ楽しめそうにないなぁ、残念だっ!」
凱空の攻撃!
ミス!帝雅は攻撃を防いだ。
帝雅「あの時は多勢に無勢で不覚をとったが、今の私に死角は無い。」
凱空「マズいな…手ぶらで倒せる敵ではなさそうだ。」
剣次「なぁ凱空さん、俺のを片方貸そうか?俺なら片方でもなんとか…」
凱空「いや、それではお前が危険だ。俺は…そうだなぁ、これでなんとかなるだろ。」
帝雅「なっ…貴様、そんなもので私の相手をするだと!?なんたる屈辱…!」
凱空「フッ、安心しろ。コイツで闘うのは、初めてってわけじゃない。」
凱空は「ゴボウ」を構えた。

 

外伝:勇者凱空Y〔5〕
手ぶらじゃなんなのでゴボウで闘うことにした俺だったが、やはりかなり分が悪い。
チュイン!
凱空「ふぅ、まさかそれ程の腕前だったとはな。あの時は風邪でも引いていたか?」
帝雅「氷と共に主が砕けでもしたら大変だからな、力をセーブしていたまでだよ。」
チュイン!チュィーーン!
凱空「互角とまではいかんが、この俺と闘える力を持つ者がまだいたとはな…。」
帝雅「というか待て!なぜゴボウでそのような強度と金属音が出せるのだ!?」
凱空「ちょっとした魔術の応用だ。ある程度の強度まで上げるくらい造作も無いよ。」
帝雅「なっ…それ程の芸当、誰に仕込まれた!?」
凱空「フッ、「通信教育」だ。」
帝雅「やることなすこと規格外…やはり、“今のまま”で勝てる相手ではないか…。」
帝雅はマントを脱いだ。
なんと、その首には「呪縛錠」が付いていた。
凱空「なっ…!貴様、そんな枷をつけたまま闘っていたというのか…!?」
帝雅「我が主に付けられたものだ。忠誠の証にと思っていたのだが…仕方ない。」

くっ…ちょっと羨ましい。
犬扱いでもいいのか。

 

外伝:勇者凱空Y〔6〕
なんと、今まで「呪縛錠」をつけた状態だったという帝雅。なんとも驚きだ。
しかも、本来鍵が無ければ外せないアレを気合いで引きちぎって見せたのだった。
帝雅「…さて、ではそろそろ茶番はヤメにしようか凱空君。」
凱空「確かに見違えたな。これは俺と互角…下手するとそれ以上か。」
帝雅「なかなかの洞察力だ。ならば抵抗が無駄なのもわかるだろう?」
凱空「やれやれ…仕方ない、ではこの俺も奥の手を出すとしようか。」
帝雅「おっと、また「あーーっ!」などと叫ぶ気かね?悪いがそんなくだらん手は…」
凱空「フッ、あんな生易しいものじゃない。さぁ現れるがいい、ゴボウの精霊達よ!」
凱空はゴボウをバラ撒いた。
帝雅「ご、ゴボウの精霊…だと…?また私の知らぬ謎の秘術を…!?」
凱空「勢いでやってみた。今は反省している。」
帝雅「き、貴様ぁあああああああ!!」
帝雅はぶちキレた。

 

外伝:勇者凱空Y〔7〕
本気を出した帝雅の攻撃力は凄まじく、俺は防戦一方でさぁ大変な状況に。
まさか一対一でこれ程のピンチを味わう日が来ようとは思わなかった。少し楽しい。
凱空「ハッハッハ!久々に血湧き肉踊る楽しい闘いだ、彼女との闘い以来だな。」
帝雅「フフッ、強がりも大概にしたまえ。豪快に血を撒き散らしながら何を言う?」
剣次「お、オイ凱空さん大丈夫か!?その血の量は…待ってろ、俺が加勢に…!」
凱空「ッ!! 来るなカルロス…!!」
帝雅「フハハハハ!そうか貴様にも枷があったか、ならば私が消してくれよう!」
帝雅の攻撃!
ミス!剣次には当たらなかった。

だが代わりに、凱空の顔面を斬り裂いた。
凱空「ぐぉあああああああああああっ! こ、この俺の顔にぃいいいいいいいい」
剣次「す、すまねぇ凱空さん…!俺のせいで…」
凱空「ダンディーな傷跡がああああああっ☆」
剣次「お、俺の…おかげで?」
剣次は混乱している。

 

外伝:勇者凱空Y〔8〕
カルロスをかばうため、顔に素敵な傷を負ってしまった。カッコはいいがとても痛い。
帝雅「この実力差にその傷…終わりだな。大人しく死んでもらおうか凱空君。」
凱空「…ふぅ、やれやれ…少し、間に合わなかったか。だが死ぬ前で良かったよ。」
帝雅「何の話だ…?ハッ、この模様は…!」
帝雅は地面を見て驚いた。
なんと!さっきのゴボウが「五芒星」を描いている。
帝雅「こ、これは…まさか…!」
凱空「そう、ダジャレだっ!!」
帝雅「そんなバカなっ! いや、この手の模様は何かしら魔除けの…」
凱空「今の俺なら大丈夫とは思うんだが、“奴”を出すのは久しぶりなんでなぁ。」
帝雅「む?どうした貴様、兜なんぞ取っ…な、なんだその…邪悪なオーラは…!?」
凱空「フッ、よぉ久しぶりだなぁ「断末魔」。少しでいい…俺に力を貸しやがれ。」
本気の凱空のお出ましだ。

 

外伝:勇者凱空Y〔9〕
五芒星のおかげか俺の実力か、なんとか「断末魔」も制御できている。やれそうだ。
帝雅「ぐふっ、なんという力だ…!まさかあの状況から形勢が逆転しようとは…!」
途冥人「ならば俺に任せてもらおう!名高き「勇者」を討ったとあれば名も上がる!」
凱空「退くがいい雑魚よ。お前なんぞ推理モノなら最初の晩に死んでるレベルだ。」
途冥人「フン、聞いていなかったのか?俺は「魔欠戦士」だ、いかなる物理攻撃も」
右手がフッ飛んだ。
途冥人「え…う、うぎゃあああああああ! う、腕が!俺の腕がぁあああああ!?」
凱空「いかなる物理攻撃も…?フン、そんなの所詮、「人間レベル」の話だろう?」
剣次「す、スゲェ…!こんなに強かったのかよ…!あと、いつになくシリアスだし!」
凱空「下がっていろカルロス。周りに気を使う余裕は、ナッスィーーーン!だよん♪」
剣次「ええぇっ!?」
凱空は突然壊れた。

 

外伝:勇者凱空Y〔10〕
一体何があったのか、突然集中力がプツリと切れた。なんだか全てがワンダホー!
凱空「うぐっ、ど、どういうことだ…?性格が…真面目を保て…な…イェーイ!」
解樹「いや〜、どういうことだはこっちの話だよ。その程度で済むとか化け物かよ?」
凱空「じゅじゅちゅ師…そうか、貴様の仕業だな?貴様の、「呪い」の一種か。」
解樹「そう、「シリアス限界」…真面目な思考を抑制され、やがて精神崩壊に至る。」
凱空「フッ…効かんな。残念だがこの俺に呪いの類は機関銃。ズダダダダダンッ!」
剣次「ヤベェめちゃくちゃ効いてやがる…!いや、いつも変人ではあるけども!」
凱空「貴様の…目的は何だ?呪いの押し売りが趣味ってだけの、ゲス野郎か?」
解樹「…アンタさっき、「断末魔」って言ったろ?俺それ欲しいんだわ、くれねぇか?」
凱空「フッ、やめておけ。貴様ごとき雑魚には、過ぎた力よ〜〜〜〜おっ(ポンッ♪)」
解樹「や…やりづれぇ…。」
自業自得だった。

 

外伝:勇者凱空Y〔11〕
どうやらこの異常な状況は、解樹とやらが作り出したようだ。困ったが少し楽しい。
凱空「ゼェ、ゼェ、に、逃げろカルロス…!もしくは、禿げろ…!」
剣次「いや、禿げねーけど!でも逃げもできねーよ、アンタが死んじまう!」
途冥人「殺す!この腕の恨み、絶対に晴らしてくれるっ!」
帝雅「どうやら再度、形勢は逆転したようだな。今度こそ終わりにしてくれよう。」
剣次「ば、万事休すかよ…!」
解樹「なっ、なんだこりゃ…!?まだ術式は終わってないってのに…これは…!」
突如、邪悪なオーラが辺りを包み込んだ。
なんと!終の氷がパリンと砕けた。
凱空「くっ、しまった…!間に合わなかったのか…!」
帝雅「おぉ!ついに目覚めたか我が主よ!」
終「・・・・・・・・。」

ズッガァアアアアアアアアアン!!(大暴)
終は寝起きが悪かった。

 

外伝:勇者凱空Y〔12〕
解樹の術で封印が弱まったせいでか、魔王は内側から破って出てきてしまった。
そしてその直後盛大に大暴れ。辺り一面は荒野と化した。なんて素敵なパワーだ。
終「ふぅ…で、なんだいアンタらは?状況をわかりやすく説明してもらおうかねぇ。」
解樹「ひ、久しぶりだな終…さん。お…俺だぜ?俺が封印を解いてやっ」
ドッガアアアアアン!!(蹴)
解樹は岩山にメリ込んだ。
解樹「な…なん…で……。」
終「いや、なんとなく。」
剣次「ひ、酷ぇ…!これが…「魔王」かよ…!」
終「用も無いのに寄ってくるのが悪いんだよ。 消えな、アンタは顔が暑苦しい。」
途冥人「なっ…なんて無礼な女だ!いくら以前の「魔王」とて」
ズガンッ!(蹴)

キラーーン☆
途冥人は星になった。

 

外伝:勇者凱空Y〔13〕
魔王の寝起きの悪さは凄まじく、魔欠戦士は蹴り飛ばされてシューティングスター。
その後、解樹も岩壁から引き抜かれ、同じく蹴り飛ばされて空の彼方に消えた。
剣次「凄まじいなこの人…。こんな人に惚れるとか凱空さんどんだけドMだよ…。」
帝雅「さ、さすがは我が主!味方にさえもその残虐な振る舞い…素晴らしい!」
終「味方…?アタイは、あんなの仲間にした覚えは無いんだけどねぇ。」
帝雅「いや、彼らはアナタのために私が用意した「新魔王軍」の」
終「あ〜〜〜…ヤメたよ、それ。もういいんだよ。」
帝雅「な…なんだと…?」
終「マオが半分抜けたからかねぇ、そういう欲求は全然無くなっちまったんだよ。」
帝雅「ま、「魔王」を…やめるだとぉ? 裏切りだ…これは、とんでもない裏切りだ!」
終「…あっそ。」
帝雅「死ねぇええええええええええ!!」


キラーーン☆
帝雅も星になった。

 

外伝:勇者凱空Y〔14〕
見事な同士討ちで、敵の脅威は勝手に去った。相変わらず魅力的な強さだ。
凱空「やっと会えたな魔王…いや、終よ。この5年、会えるのを待ちわびていたぞ。」
終「5年…ハァ、アンタのしつこさはゴキブリ並みだねぇ。さすがのアタイも参ったよ。」
凱空「そうか、じゃあ結婚しよう。」
剣次「って早っ!敵同士からいきなり結婚てアンタ…!」
終「…フン、そんなんじゃねぇ〜。こう見えてアタイ、意外にもロマンチストなんだよ。」
凱空「ぐっ、ならば…夜空に輝く幾千の星たちよりも、キミの方が近い。」
終「いや、そりゃそうだけども!一瞬キュンとしかけたアタイの乙女心を返しとくれ!」
凱空「絶対に、幸せにする。この俺…の「四つ葉のクローバー」が。」
終「アンタがしろっ!!」
凱空「俺で…いいのか?」
終「ハッ…!い、今のは単なる言葉のアヤで…!」
凱空「ま、時間は腐るほどあるんだ。これからじっくり落としてやる…覚悟しておけ。」
終「へぇ〜、言うじゃないか。このアタイに勝てるとでも思うのかい?」
凱空「フッ、まあな。なにしろ俺はこれまで一度も、負けたことが無いんだ。」
凱空は偉そうに言ったが、凄まじく苦戦した。
結局落とすまでに、3年もかかったという。

 

外伝:勇者凱空Y〔15〕
そして、更にその翌年―――
「ぎゃああああ!もうダメぇー!死ぬぅうううう!」
「そ、そんなこと言わずにホラ!奥さん!」
「ヒッ・ヒッ・フォオオオオ!!」
「いや、旦那さんは黙っててください!」
「ヒッ・ヒッ・うっふ〜ん☆」
「奥さんは妙な色気を出さないで!」
「む、無茶を言うな!愛する妻の初出産だぞ、黙っていられるか!むしろ歌うぞ!」
「アタイなんか見知らぬ男の前で股開いてんだ!色気出さずに何出せってのさ!」
「子供を出してください子供をっ!!」


「はーい、生まれましたよ〜!」

「「うぉおおおおおお!ラブリィイイイイイイ!!」」
勇者が生まれた。

 

第二十二章