外伝(陸)

 

外伝:勇者凱空W〔1〕
時は新星暦523年。「魔王」が現れたというので、俺はそれを討つべく旅に出た。
だが、帝都の老紳士の話とは違い、世間はその事実を知らないようだ。なぜだろう。
情報はデマなのか、それとも独自のルートから秘密の情報を入手したのだろうか。
しかし今のままじゃテンションが上がらんな。自分なりに気持ちを盛り上げていくか。
まずは、『新星暦523年、突如現れた「魔王」により、世界は絶望の闇に包まれた。』
ふむ、こんな感じか。そしたら当然『大陸は瞬く間に魔物に支配された。』となるな。
そうなると世界はヤバい。『破壊、殺人…。人々は皆絶望し、そして死を覚悟した。』
んー、ちょっと怖いな。『破壊、殺人、ピンポンダッシュ』…ふむ、これくらいが素敵だ。
そしてそこからが俺のターン!『しかし、希望の灯はまだ消えてはいなかった。』
で、『その三年後、世界を救う者…そう、「勇者」が現れたのである。』で完璧だ。

よし、これでいこう。
歴史はこうして創られる。

 

外伝:勇者凱空W〔2〕
勢いで三年後に世界を救うと決めた俺だが、さすがに一人でというのは難しい。
そしてなにより、一人でやっても盛り上がらない。仲間…パーティーが必要だ。
〜ギマイ大陸:とある酒場〜
凱空「というわけで、パーティーを探しにきた。心当たりがあったら教えてほしい。」
店主「ん…?あぁ、ちょうど今日やるよ。」

実に楽しかった。
「パーティー」違いだった。

 

外伝:勇者凱空W〔3〕
仲間を探しにきたはずが、違った意味のパーティーで盛り上がってしまった。
奇妙な婆さんに絡まれ大変ではあったが、まぁ楽しい夜だったから良しとしよう。
〜翌朝:とある宿屋〜
凱空「…だが、なぜお前がここにいるんだ婆さん?ここは俺の宿のはずなんだが。」
老婆「ウフフ、イヤですよぉ。昨晩あんなに愛し合っておきながら…」
凱空「こちらこそイヤなのでヤメてほしい。」
老婆「ま、お前さんを気に入ってもうてな。こっそり忍び込んでみた次第よ。」
凱空「ふむ…そうか、ならば仕方ないな。」
老婆「そ、そう簡単に許されるとは思わなんだ。なんなんぢゃその懐の深さは。」
凱空「ところでお前は何者だ?見たところ…ただの婆さんと見せかけて、実は…」
老婆「…フッ、なかなかに良い目をしておる。この「無印」…久々に、胸が躍ったわ。」
凱空「垂れてるがな。」
凱空さんてば酷い。

 

外伝:勇者凱空W〔4〕
聞けば、酒場で会った老婆は魔導士の類らしい。これもまた巡り合わせだろうか。
もしかしたら有能な弟子とか紹介してもらえるかもしれないので、事情を話してみた。
無印「オーケーわかったわい、行っちゃる。」
凱空「まさかの不本意な返答に驚きが止まらない。」
亀「あ〜、まぁ諦めなよ兄ちゃん。ムーちゃんは無駄に積極的な変人なんだわ。」
無印「すまんが弟子はとらんでなぁ。まぁ安心せい、ワシは歳ぢゃが…強いぞぃ?」
凱空「ふむ…そうか、じゃあ頼む。」
亀「お、お前…それは考えた末なのか考えてないのかどっちなんだ?」
無印「んで、他に仲間はおるんかね?「魔王」を討つとなれば力は必要ぢゃて。」
凱空「アテは無い。まぁ行けばなんとかなるだろう、行き当たりポックリだ。」
亀「お前それ死んでるじゃねぇか。」
無印「ならば南へ向かってみんかえ?面白い男の噂を、聞いたことがあるんぢゃ。」
凱空「ほぉ、面白い男…か。」

それは楽しそうだ。
そういう意味じゃなかった。

 

外伝:勇者凱空W〔5〕
無印が知る噂話を頼りに、仲間を増やすべく俺は南に向かってみることにした。
なんでも凄腕の剣士がいるらしいが、「エリン大陸」まで戻るのは少々骨だなぁ…。
〜ギマイ大陸:パンシティ〜
凱空「ふむ、まだまだか…歩きとなると随分遠いな。まぁ暇だからいいが。」
亀「いや、世界のために急いでんじゃねぇのかよ。なんだよその暇潰し感。」
無印「この街は世界有数の近代都市…ここなら良い乗り物があるやもしれぬが?」
凱空「ん〜乗り物か〜…むっ?」
市民A「うわぁー山賊だー!山賊が出たぞぉー!」
無印「おや山賊かい。そういや最近多いと聞くねぇ、物騒な世の中じゃて。」
凱空「山賊か…放ってはおけんな。よし、とりあえず朝飯だ!」
亀「言ったそばから放っとくってお前…。」
山賊A「オイオイ、「山賊なんざ朝飯前」だぁ?言ってくれるでねぇのぉオメェ!」
凱空「む?なんだお前達が山賊か。面倒だな…見なかったことにしてほしい。」
山賊B「ば、バカ言うでねぇ!ナメだごど言っでっどオメェ…あ゛っ、「族長」…!」
族長「あ゛ぁ?このオラ達を面倒扱いだぁ?面白ぇじゃねぇかぁ、ブッ殺すぞぁ!!」
凱空は無意識に敵を増やす。

 

外伝:勇者凱空W〔6〕
パンシティで偶然出会った山賊を、仕方なく退治するハメになった。スゴく面倒だが。
凱空「やれやれ…夜通し歩き続けて腹が減ったんだがなぁ。眠気も凄まじいし。」
族長「オメェ、あくまでナメるかよ…フザけやがって!オイ野郎ども、やっちまえぇ!」
山賊B「や、ヤメるだ族長!あんま街で暴れるのは良ぐねぇごどだど…!」
族長「あ゛ぁ?オイ「山塞(ザンソク)」オメェ…このオラに意見するだか?」
山賊B「や、オデは…悪ぃごどばっがししでねぇで、皆ど共存しでぐべきと思っで…」
凱空「…フン、甘いな。」
山賊B「なっ、オメェ…オデはオメェのためさ思っで…!」
凱空「別のまんじゅうをくれ。」
山賊B「っで飯を食うなっ!そっぢの話がよオイ!」
族長「と、とことんフザけやがって…!オイ砲撃隊、大砲持って来いやぁ!!」
凱空「いや、俺は無益な殺生は好きじゃない。というか基本的にめんどくさい。」
族長「撃てぇええええええい!!」
ズドォーーーン!!(撃)
山賊は大砲をブッ放した。

見事頭に命中した。
無印「え゛ぇっ!?な、なんともアッサリと…!?そんな…! 亀吉、診てみとくれ!」
族長「ぐわっはっは!なんだよコイツぁ? 弱ぇ!弱すぎだぁーっはっはー!」
亀「ムーちゃん!こ、この小僧…ダメだ…!」
無印「なっ…!?」

亀「寝てる…!」
確かにダメな子だった。

 

外伝:勇者凱空W〔7〕
なんにもせず、すんなりやられてしまった凱空。
だが大砲で撃たれてただ寝てるだけというのはある意味スゴかった。
族長「ぐわははは! さ〜て野郎どもぉ、次は街を襲うぞぉーー!!」
亀「どーするムーちゃん?あんまし目立つとろくなことねぇが…」
無印「ふむ…まぁ仕方あるまいて。やらねばやられ…」
山賊A「ぎゃ…うぎゃあああああああああ!!
亀「なっ、なんだなんだぁ!?」
山賊C「ぎょへぇえええええええええ!!
凱空「ふぅ…やっと出てこれたか。コイツが熟睡とは、珍しいこともあるものだ。」
亀「起きるの早っ!あの直撃食らって兜が飛ぶだけとは…って、何か変じゃね?」
無印「ふむ…この邪悪なオーラ、ただごとじゃないねぇ。お前さん、何者ぢゃ?」
族長「フザけやがっててめぇええ!死ねやぁあああああああ…ああああああっ!?
族長はぐちゃっとやられた。
亀「ひ、酷ぇ…!」
凱空「…ハンバーグ?」
亀「怖ぇ…!!」
山賊B「ば、バガな…!あの族長を、一撃で…だど…!?」
凱空「コイツは完全に乗っ取った。我が名は「断末魔」…この世を、滅する悪夢だ。」
「蒼い悪魔」が降臨した。

 

外伝:勇者凱空W〔8〕
頭の「守護神の兜」が外れ、ひょっこり出てきた「断末魔」。
勇者(ノーマル)と並んだら双子のような振る舞いだった。
凱空「俺は…俺は自由だー!今日から俺のことは「魔王」と呼ぶがいい!」
亀「いや、ミイラ盗りにも程が…なぁムーちゃん、なんとかなんねぇのかよ?」
無印「難しいねぇ…。並みの魔法じゃ止められんが、あまり強力だとダーリンが…!」
亀「なんで今のタイミングで呼び方変えたのかは置いといて、なんとか頑張れ!」
少女「キャ、キャー!悪魔ぁー!!」
凱空「うるさい小娘だな…まぁもうハンバーグ工作は飽きたし、次は「つみれ」か。」
亀「ち、違いがわからねぇ…!」
無印「チィ、やらねばならぬか…!」
凱空の攻撃。

ミス!何者かが凱空の腕を掴んだ。
青年「オイオイ、物騒なガキだな〜ったく。いい男は女にゃ手ぇ上げねぇもんだぜ?」
凱空「…何者だ、貴様は?」
青年「あ?あ〜、俺は「拳造」だ。そっから先は…まぁ、拳で語ってやんよ。」
長くなるので語らせません。

 

外伝:勇者凱空W〔9〕
目が覚めると、俺は見知らぬ部屋に寝かされていた。隣で寝ている無印がウザい。
凱空「ここは…どこだ?そしてなぜ隣にいる無印?お線香クサいからどいてくれ。」
無印「む?おぉ起きたかダーリンよ。覚えてないぢゃろうがワシが人肌で温めて治」
凱空「ごめんなさい。」
無印「い、いいんぢゃ…ウソぢゃし…。」
亀「いや、今のは「お断り」の意味じゃ…?」
凱空「う〜む…確か俺は戦闘中に…ふむ、よく寝た。妙に清々しい気分だ。」
亀「す、清々しいってお前、あんだけのことやっといてオイ…。」
凱空「あれだけの…?あぁ、例のアレか…ならよく無事だったなお前達。」
拳造「おぉ、起きたのか小僧。俺と張るとかオメェやるじゃねぇか。強ぇなオイ。」
凱空「そうか、お前が止めてくれたのか。なんとも頼もしいじゃないか。」
拳造「あぁ?一体何の話だよそりゃ?」
凱空「よろしく、新しい仲間よ。」
凱空は勝手に決めた。

 

外伝:勇者凱空W〔10〕
帝都を出てから多分もう1年以上経っている気がするが、詳しくは覚えていない。
まぁまだみんな平和そうだし、特に問題は無いだろう。きっとなんとかなると思う。
〜エリン大陸:サブロ岬〜
凱空「ふぅ、やっとエリンか…随分かかったなぁ。とても計算外だ。」
亀「いや、それ食い逃げしては追われてを繰り返してるからだろ。お前のせいだよ。」
凱空「人は支え合って生きるものだ…だから金なんて払わない。なぁ拳造?」
拳造「巻き込まねぇでくれ。」
凱空「まずは村を探して一休みして、凄腕剣士の捜索はその後…でいいか無印?」
無印「ワシはダーリンに任せるよ。全てを…ワシの、全てを…☆」
凱空「お前はどう思う?」
妃后「ん〜、ご飯かなぁ?」

ふむ…この子は誰だ?
勝手について来てた。

 

外伝:勇者凱空W〔11〕
知らぬ間について来ていた妃后とかいう子を知らぬ間に仲間に加えていた俺達。
まぁ、いいか。聞けば「退魔導士」だというし、いて困るということもないだろう。
〜エリン大陸:ババン山〜
凱空「ふむ、女が一人いるだけでなんだか華やぐな。紅一点というやつだな。」
無印「なっ、何を言う!?最初っからいたぢゃないかワシという紅色が!」
凱空「いや、賞味期限が。」
亀「酷ぇ…!!」
妃后「ねぇ凱空君、お目当ての人はこの上にいるのかなぁ?迷惑もいいとこだね。」
凱空「うむ、噂じゃこの山らしいぞ。なんでも見るからに普通じゃない達人らしい。」
拳造「へぇ、そりゃ面白そうじゃねぇの。腕が鳴りまくるぜ。」
凱空「いや、あくまで平和的にいくぞ。この通り素敵な手土産も用意したしな。」
亀「だから真冬に「スイカ」はヤメとけとあれほど…」
声「ほほぉ…よもやこの時期に、それほど見事なスイカを拝めるとはなぁ。」
凱空「むっ、誰だ貴様!?貴様がこの山に住むという剣豪かっ!?」

スイカ「去るがいい幼きスイカよ。さもなくばヌシのスイカ…スイカでは済まんぞ?」
じゃあどうなるんだ。

 

外伝:勇者凱空W〔12〕
ババン山の中腹で出会ったのは、頭なのかスイカなのかわからない妙な男だった。
確かに見るからに普通じゃないが、そういう意味とは思わなかった。強いのか…?
凱空「よくわからんが、多分お前が俺が求めていた男だろう。よし、仲間になろう。」
スイカ「フン、断る。ワシは孤高のスイカ…ヌシのようなスイカと交わる気は無い。」
亀「ヤベェなコイツ、仲間どころかまず会話が通じねぇじゃんか。」
妃后「なんか邪魔クサい人だね。」
凱空「そこをなんとか頼む。俺の熱きスイカは、お前のスイカにも負けちゃいない。」
スイカ「ほざくなスイカよ。ワシのスイカと同じ?貴様ごとき早熟なスイカなど…」
凱空「スイカは、スイカだろうがっ!!」
スイカ「ッ!!!」
凱空「スイカには無限のスイカがある。そのスイカは…スイカなんじゃないのか?」
スイカ「…そうだったな。このワシが、そんな簡単なスイカも忘れていたとはな…。」
凱空「仲間に…いや、スイカに…なってくれるか?」
スイカ「うむ、いいだろう!」
もう何がなんだか。

 

外伝:勇者凱空W〔13〕
勢いに任せてみたら、意外にもアッサリ仲間になってくれたスイカの人。
名は「秋臼(アキウス)」らしいが、それ以外は基本的に意味不明。でもまぁいいや。
これでそれっぽいメンツも集まったことだし、準備としては…あと一つだけだな。
〜ギマイ大陸:パンシティ〜
凱空「というわけで、戻ってきたぜパンシティ!さぁハイテクな車、ゲットだぜっ!」
亀「だよな…。早めになんとかしねぇと間に合わねぇぞ世界の危機に。」
男「世界の危機…?それはまた物騒な話だ、詳しく聞かせてもらえんかね?」
拳造「あ゛?なんだよテメェは?テメェが車でもくれるってぇのかオイ?」
男「ま、近いようなものかもね。僕の名は「ナンダ」、職業は略して「ロリコン」だよ。」
亀「お前の存在も十分物騒じゃねぇか。なんなんだその職業は。」
ナンダ「電力車を無償で提供しよう。礼は不要だ。その代わり…力を貸して欲しい。」
無印「力を貸せときたかい…ま、話によるかねぇ。どんな事情があるんぢゃ?」
ナンダ「とある情報が入ってね。不穏な影が動いている…世界の幼女が危険だ。」
亀「それお前のことじゃねぇのか…?」
ナンダ「キミ達の強さは前に見た。その力で幼女達を…悪の手から守ってほしい。」
凱空「…わかった、任せてくれ。」
凱空は通報した。

 

外伝:勇者凱空W〔14〕
ナンダとかいう奴から車をもらい、やっと移動が楽になった。ナンダは投獄された。
そういえば奴は去り際に、謎のダンジョン荒らしがなんとか騒いでいた気がする。
奴が懸念していた「不穏な影」というのは、そいつのことなのだろうか。気になるな。
もしかしたらその影とやらが、後に「魔王」として立ちはだかってくるのかもしれない。
そうか、見えないと思っていたが、やはり確実に悪の芽は育ちつつあるわけだな。

…などと考つつ、岩盤に直撃した。
乗り物運も遺伝だった。

 

外伝:勇者凱空W〔15〕
そして、色々ありつつも三年の月日が流れた頃、世界の状況は一変していた。
随分と遅刻して現れた「魔王」だったが、そこからの勢いが凄まじかった。
想像を絶するスピードで…なんと、わずか数日で世界を征服したのである。
どうやら誰かが裏で築いていた下地を乗っ取ったらしい。なんとも鬼のような奴だ。
ふむ、これは敵として申し分無い。まさしく「勇者」の出番だが、やる気はない。
〜メジ大陸〜
凱空「この大陸に、奴がいるのか…。無印、拳造、秋臼、妃后、準備はいいか?」
無印「フッ、もちろんぢゃよダーリン。ワシはいつでもオーケーぢゃ、カモン☆」
亀「いや、そういう意味じゃねぇかと…。」
拳造「ま、せーぜー楽しませてもらいてぇもんだな。雑魚ばっかだったらキレるぜ?」
スイカ「ワシのスイカも問題なくスイカだ。まぁスイカの方のスイカは実は」
妃后「ねぇこの人殴っていい?」
凱空「よし、じゃあ行くぞお前達!そして世界を、面白おかしく変えるんだ!!」
一同「オォッ!!」
こうして凱空の真の戦いが始まった。
そして彼は、運命の出会いを果たすことになる。

 

第十六章