第十六章

 

4-241:道程〔14歳:LEVEL40〕
帝都を発ち、数日が経った。
今のメンバーは盗子、賢二、無職、土男流、忍美。手負いの暗殺美は置いてきた。
目指すは「メジ大陸」だが、それには極寒の「ナシ大陸」を経由する必要がある。
が、イヤだ。あんな寒い思いはもう二度としたくない。決戦の前に凍死しかねん。
よし、そうと決まれば船を探そう。海路ならば経由無しに直接メジ大陸に乗り込める。

きっと沈むんだろうが…。
勇者は選択を迫られた。

 

4-242:約束〔14歳:LEVEL40〕
ナシ大陸を迂回してメジ大陸へ向かうべく、俺達は船を探しに港へやってきた。
〜タケブ大陸:ラミィ港〜
勇者「よし、じゃあ恒例の乗り物強奪ターイムのお時間だ。楽しみだなっ!」
盗子「楽しめるかっ!懲りずに言うけどなんで「強奪」が前提なんだよ!」
賢二「そ、そうだよ。先におっきな戦いがあるんだし、それまでは大人しく…ねぇ?」
勇者「オーケー、行って来い。」
盗&賢「話を聞いてーー!!」
賢二「…というのがお約束の流れなんですが、どなたかご質問のある方は?」
無職「そ、その妙に慣れきった対応でわかったです。「拒んでも無意味」だと。」
勇者「ならば話が早い、行って来い我がしもべ達よ!」
忍美「し、しのみんはしもべじゃないのだ!言うこと聞くいわれは無いのだ!」
土男流「よっしゃー!頑張るぜ師匠ー!勝負だぜしのみん!」
忍美「えっ?ま、負けないのだっ!」
無職「いや、勝つとか負けるとかの前に…」
勇者「フッ…皆まで言うな、無職。」

船…無ぇな…。
港は焼け野原だった。

 

4-243:情報〔14歳:LEVEL40〕
船を得るために来た港だったが、既に滅ぼされた後らしく酷い有様だった。
大魔王軍が各地で大暴れという噂は前からあったが、結構深刻なんだなと痛感。
勇者「というわけで賢二、魔法で船を出せ。」
賢二「ご、ゴメン勇者君。魔法使いって意外と便利な生き物じゃないんだよ。」
勇者「じゃあ盗子、尻から…」
盗子「出せるかっ!! 出したら出したでアンタそれに乗る気!?」
勇者「誰が乗るかクソがっ!!」
盗子「うわーん!理不尽だけどその平常運転っぷりにホッとする自分もいるよー!」
無職「にしても、どうするですか?どう見ても船があるようには見えないですが…。」
老人「いやいや、残った船はあるよ。ま、少々いわく付きじゃがなぁ。」
勇者「む?なんだジジイ、情報アリか?よし、死にたくなくば話して死ぬがいい。」
土男流「さっすが師匠!素直に教えそうな人をわざわざ脅すあたりが最高だぜー!」
忍美「ダメなのだ怖いのだ!いわく付きとか絶対変なことが起きるのだ!」
勇者「フン、いわく付きがなんだってんだ。そんなの、もう慣れたぞ。」
勇者自身もそうだし。

 

4-244:怪船〔14歳:LEVEL40〕
港にいた妙なジジイが言うには、どうやら難を逃れた船が存在するとか違うとか。
聞くに普通の船ではなさそうだが、まぁこの際贅沢は言ってられん。それでいこう。
勇者「というわけで賢二、魔法で船を呼べ。」
賢二「ご、ゴメン勇者君。人じゃないモノと会話する魔法とかは知らなくて…。」
勇者「じゃあ盗子、死ね。」
盗子「なんでっ!?」
老人「呼んでみるがいいよ。おヌシらが運命に導かれし者ならば、あるいは…」
勇者「ふむ、なにやら何か知っている風な口ぶりだな。どういう意味だ?」
老人「知らん。」
勇者「よーし野郎ども、ノドが裂けるまで呼びまくってろ!俺はこのジジイを殺す!」
土男流「オーイ!船さぁーん!聞こえたら来てほしいんだー!」
忍美「しのみんも負けてはいられないのだ!オーイ!オーイお船さーん!」
無職「いや、素直過ぎるのにも程が…」

船「呼んだかーーい!?」
無職「って、ホントにキターー!」
盗子「てゆーか返事したー!!」
謎の船が陽気に現れた。

 

4-245:出航〔14歳:LEVEL40〕
呼んだらホントに現れた謎の船。相変わらず常識外れな世界だぜまったく。
まぁ船が返事するはずが無いので、中に誰かいるんだろうが…一体何者だろう。
勇者「ま、気にしても仕方ないな。乗り込むぞ。」
賢二「大魔王討伐に向かう途中で溺死とか…イヤだけどね…。」
男A「おっと待ちな小僧ども。こっから先にゃあ行かせねぇぜぃ?」
悪そうな集団が現れた。
盗子「勇者!あの旗の紋章って大魔王軍のだよ!どどどどーする!?」
勇者「ば、バカな…!お前がオトリになる…だと…!?」
盗子「アンタこそバカかよ!?勝手にアタシが志願した感じにしないでよ!」
老人「ここはワシが引き受けよう。多角的な攻撃には弱いが、まぁもつじゃろう。」
勇者「あん?邪魔だどけジジイ、こんな奴らは俺がチョチョイとブッた斬って…」
賢二「うわっ、火矢を構えてるよ!早く出航しないと船が燃やされちゃう…!」
老人「おヌシらには行くべき道がある。行って、我が弟子の無念…晴らしておくれ。」
勇者「むっ、貴様は…」

ポン老師「さぁ行けぃ子供達よ!そして…おヌシらは、必ず勝つのじゃ!!」

弟子って…誰だろう?
老師の願いは届かなかった。

 

4-246:武器〔14歳:LEVEL40〕
謎の船に勢いで乗り込み、俺達は海へ出た。あとは沈まなければなんとかなる。
…と思っていたのだが、どうやらそう簡単にはいかないらしい。そう、追っ手だ。
大魔王の差し金なのか、俺達を亡き者にしようと襲ってくる奴らが最近クソ多い。
だが、海の上ではこちらも自由に動けない。今回のはなかなかにしんどそうだ。
〜船内〜
勇者「オイ盗子、状況はどうだ?邪魔な奴らはどうなった?」
盗子「あ、うん。さっき賢二が一撃かましたから、今は随分向こうで止まってるよ。」
勇者「いや、お前のことなんだが。」
盗子「なんで未だ邪魔者扱い!?」
土男流「師匠ー!なんかおかしいんだー!船内のどこにも人がいないんだー!」
忍美「そうなのだ!ロッカーにも引き出しにも茶筒の中にも!」
勇者「いや、お前じゃあるまいし。」
賢二「え、でも誰もいないって…じゃあなんで動いてるんだろう?」
勇者「そんなことより武器とか積んでないのか?ミサイルとか…核とか?」
盗子「どんな最終兵器だよ!そんなのあったら乗ってるこっちも怖いよ!」
無職「なんか武器的なものは無さそうですよ。あるのは網とかモリとかです。」
勇者「ふむ、漁か…よし!野郎ども、しっかり稼げ!!」
稼ぐな戦え。

 

4-247:挙手〔14歳:LEVEL40〕
追っ手はしつこく追ってくるが、船には武器が無い状況。やはり結構面倒そうだ。
にしても、賢二の魔法はそれなりの火力に見えたが…まだ生きてるとは奇妙だな。
勇者「というわけで、なんか気になるから誰か聞いて来い。」
盗子「えぇっ!?いや、なんでそんな無謀なことするの!?わざわざ敵にとか…!」
勇者「まずは一人か。他にはいないかー?」
盗子「え!立候補じゃないよ今の!?」
土男流「じゃあ私が行くんだー!師匠の期待には絶対に応えてみせるぜー!」
忍美「しのみんも!しのみんも負けられないのだ!」
無職「し、仕事ならワチも逃げないですよ!チャンスは掴みにいくものです!」
賢二「まぁ、言い出したら聞かないしね…。行けと言うなら泣きながら行くよ。」
盗子「えっ、意外にも賢二まで!? そ、そんな流れならアタシだって…」

一同「どうぞどうぞ。」
盗子「Σ( ̄□ ̄;)!?」
伝統芸をパクッた。

 

4-248:偵察〔14歳:LEVEL40〕
どうにも気になるので、敵の詳細を確認することにした。気になったらまずは実行だ。
勇者「さぁ行ってこい盗子。安心しろ、骨も残らん。」
盗子「せめて拾って!?せめて「骨は拾ってやる」と…!」
勇者「仕方ないな…じゃあ俺が見てくる。なぁに、どうせ大した奴らじゃないさ。」
盗子「あ、危ないよ勇者!それ見事な「死亡フラグ」!」
勇者「よし賢二、ちょっと俺を〔砲撃〕で撃ち込んでくれ。軽く見てくる。」
賢二「いや、その魔法はそんな使い方する魔法じゃ…」
勇者「フッ安心しろ、経験済みだ。」
賢二「え、じゃあホントにやっちゃうよ?後で怒らないでよ…ね?」
ズドォオオン!(撃)
賢二は〔砲撃〕を唱えた。
ヒュゥウウウウ〜…
男A「お、オイ!なんだアレ…!?」
男B「ん…?ひ、人だ!人が飛んで…」

ズダンッ!(着地)
勇者は頭から刺さった。

 

4-249:昇格〔14歳:LEVEL40〕
賢二に魔法で打ち出され、敵船まで飛んでみたものの、見事に着地に失敗した。
以前はもっと長距離を飛ばされたので、今回くらいなら大丈夫だと思ったんだが…。
勇者「ぐっ、ぬぐぐぐ…!この俺に、これ程の痛みを…許さんぞ貴様らぁ!!」
男A「す、スゲェ…こんな壮絶な八つ当たり、初めて見たぜ…!」
勇者「うるさい黙りやが…む?オイお前ら、内臓がコンニチハしてるじゃないか。」
男B「フッ、驚いたか?そう、これは嗟嘆様の力を得て進化した、黒猫様の奥義!」
勇者「そうか、「死体使い」の…てことは腹話術なんだろ?自分に「様」とかオイ。」
男C「フッフッフ…違うさ!黒猫様はついに、「死体マスター」に昇格されたのだ!」
〔死体マスター〕
「死体使い」の上級職。
死体への憑依のみならず、複数の死体を遠隔操作することまで可能。
遠隔操作された死体は、その脳の記憶を元に勝手に動く。
勇者「ふーん。」
男A「いや、少しは驚いてくれないと、その…!」
勇者「フン、つまり起き上がれん程に粉砕すれば終わりなんだろ?簡単なことだ。」
いつも通りだ。

 

4-250:余裕〔14歳:LEVEL40〕
謎の追っ手の正体は、黒猫の操る死体集団だった。まったく悪趣味なことしやがる。
勇者「だがまぁ、不死身なだけで雑魚は雑魚…俺の敵ではないな。一瞬で倒し…」
声A「うふ☆ 相変わらず甘いのですね勇者様♪」
声B「やっぱりケーキみたいに甘いのですね勇者様☆」
勇者「むっ、お前達は…!」

ワルツ「ワルツと♪」
ポルカ「ポルカが♪」
勇者「AVデビュー。」
双子「し、しないですぅーーー!!」
懐かしの双子が現れた。

 

4-251:秘密〔14歳:LEVEL40〕
死体の群れの中から現れたのは、なんと帝都の武術会で会った双子だった。
だがこの二人は、見た感じ普通に生きているように見える。一体どういうことだろう。
勇者「お前ら生きてたのか。確かに兄丸らの死体と戦った時には見なかったが。」
ワルツ「あっ、それには秘密があるのです♪」
ポルカ「あるのです☆」
勇者「なるほど、殺される前に完全服従して難を逃れたというわけだな。雑魚め。」
ワルツ「こ、困りました!この人勘が良すぎます!」
ポルカ「見せ場泥棒は相変わらずです!」
勇者「別に仲間と思ってたわけじゃないが、裏切られた感は否めんな。ムカつくぞ。」
ワルツ「ウフフ☆ 生きるためなら♪」
ポルカ「手段は問わない♪」
勇者「それがこの俺!勇者様だーー!!」
双子は勝てる気がしない。

 

4-252:人道〔14歳:LEVEL40〕
聞けば、愚かにも双子は敵側に寝返ることで生き延びていたのだという。
そして来たるべきこの時に備え、密かに兵(死体)を集めていたらしい。グロいわ。
勇者「まったく、討伐しに行った相手側に寝返るとはクソみたいな奴らだな。」
ポルカ「し、仕方ないのです!生きるためでした!」
ワルツ「そうです!生き残るためでした!」
勇者「だが、天空城を降りた今…逃げればいいんじゃね?」
双子「ハッ!そういえばっ!」
勇者「いつの世も「可愛い」は正義、そして「バカ」は悪だ。覚えとけ。」
ワルツ「くっ、でも…一度外した人の道!」
ポルカ「今さら戻れぬ人の道!」
勇者「そうか?」
双子「なんてズ太い…!」
勇者は「我が道」を行く。

 

4-253:登場〔14歳:LEVEL40〕
どうやら悪の道に堕ちたというよりただのアホらしいが、双子は退く気無しらしい。
そうと決まればやることは一つだ。軽い様子見のつもりだったが、やってしまおう。
勇者「容赦する気はさらさら無い。貴様らも死ぬ気でかかってくるがいい!」
ワルツ「では、参りますっ! ワルツと♪」
勇者「勇者が♪」
ポルカ「ポルカを…えっ!?」
勇者「死ねぇえええええええ!!」
勇者の先制攻撃。

ミス!船が大きく揺れて攻撃が逸れた。
ポルカ「はわわ!揺れます揺れます〜!」
ワルツ「うわわ!化け物がぁ〜〜!!」
勇者「ま、まさか…!」

海竜「ぐぉおおおおお!!」
姫「ぐぉーーー!」
勇者「うぉおおおおおおおおお!?」
海竜に乗った姫が現れた。

 

4-254:悠然〔14歳:LEVEL40〕
例の如く読めないタイミングで現れた姫ちゃん。相変わらず可愛いくてたまらない。
ふむ、こうなったら遊んでいる暇は無い。すぐに戻って昼飯にしよう。大晩餐会だ!
勇者「よし、行こう姫ちゃん!昼食には好きなモノを用意しよう!」
姫「とにかく丸焼きがいいよ。」
勇者「オーケー任せろ、目の前に手配した!」
海竜「ッ!!?」
ワルツ「そ、そうはいかないのです勇者様!」
ポルカ「お待ちください勇者様!」
ワルツ「ピンチの次はチャンスあり♪」
ポルカ「そう、ですから次は…」

勇者「…あ゛ぁ?」
ワルツは石化した。
ポルカは石化した。

勇者は悠然と立ち去った。

 

4-255:調理〔14歳:LEVEL40〕
ウザい双子に一喝し、俺は海竜に乗り姫ちゃんと自分の船へと戻った。
奴らの船も懲りずに追ってきているようだが、まぁまだ距離もあるし大丈夫だろう。
勇者「さぁ土男流、メシの支度だ。まずはその海竜を三枚に下ろすぞ!」
土男流「乗せてもらっといて早速食っちゃうとか非道すぎてたまんないぜ師匠ー!」
盗子「ちょっ、アンタも止めようよ姫!仲良しなんじゃないのこの海竜と!?」
姫「うん、大好きだよ「蒲焼き」ちゃん。」
賢二「その割になんて怖ろしい名前を…。」
無職「あっ、で、状況はどうだったです?敵さんはどんな人達だったですか?」
勇者「ん?あぁ、見知った双子と愉快な死体達だった。」
忍美「死体は全然愉快じゃないのだ!その感性は理解しかねるのだ!」
勇者「ところでお前はなんでいるんだ?」
忍美「今さらそれは無いのだー!どうせなら初日に言ってほし…うわーん!」
盗子「同志に出会ったー!」
勇者「よし、じゃあ早速調理に入るぞ!」
余った分はスタッフが美味しく(略)

 

第十七章