外伝(肆) |
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〜魔王が行く〜
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1:誕生〔0歳:LEVEL1〕 | |
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出生届の間違いで、「魔王」という名にされてしまった。お役所さん、そりゃないよ。 生きてるだけで後ろ指差されるという僕の悲惨な人生が、いま始まった。 |
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2:暗黒〔0歳:LEVEL1〕 | |
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オムツからヨダレ掛けまで、全てが黒に統一されている僕のコスチューム。 「魔王=黒」という安直な考え方はやめてほしいですお母さん。 あと、息子に「様」を付けるほどノリノリなのもキッツいですお母さん。 |
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3:苦悩〔1歳:LEVEL1〕 | |
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今日は僕の誕生日。 でも母さん、誕生日を「黒ミサ」と呼ぶのはやめてください。 ところで、いま食卓に並んでる肉は何の肉ですか? …怖くて食べられない。 |
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4:些細〔1歳:LEVEL1〕 | |
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今更だけど、もし役所のミスがなかったら、僕はどんな名前になっていたんだろう? 気になった僕は、母さんの日記をコッソリと覗いてみることにした。 『役所の手違いで、大事な息子が「魔王」なんて名前にされてしまった。可哀想に。』 母さん…だったらなんで、出生時からノリノリだったの…? 『私は「魔皇」と書いたのに…。』 ミスって…その程度…? |
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5:謝罪〔1歳:LEVEL1〕 | |
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母の日記を読み、今まで憎むべき人を誤っていたことに気づいた夏の昼下がり。 お役所さんに罪は無いのに、僕はずっと恨んでた…。 やはり一度謝っておきたい。 そう思った僕は役所へと向かった。 今のこの気持ちを、担当だった人に伝え… 母さんの、仕業ですか? |
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6:会話〔2歳:LEVEL1〕 | |
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生まれて二年が経ち、僕もやっと流暢に言葉が話せるようになった。 というわけで、出生時から気になっている「ある疑問」を母にぶつけてみたのです。 魔王「母さん、僕には父さんはいないの? 見かけないってことはやっぱり…」 母「…そう、今はもう…いないんですよ…。」 魔王「そ、そっか…。 あ、じゃあさ、父さんってどんな人だったの?知りたいよ!」 母「ウフフ。とっても素敵な人でしたよ。」 魔王「ホントに?例えばどこらへんが??(わくわく!)」 母「名前が。」 そこに愛はありましたか? |
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7:驚愕〔2歳:LEVEL1〕 | |
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父さんはもういないと告げられ、さすがにショックだった僕。どこまで薄幸なんだか。 もし父が正常な人間だったら、共に協力して母さんを倒そうと思っていたのに…。 魔王「ところで母さん、父さんはいつまでこの家にいたの?」 母「あ〜、ちょうど一年くらい前まででしょうか。」 魔王「えっ!じゃあ僕も会ったことあるの!?でも覚えてないよ僕!!」 母「あの人、あんまり帰って来ませんでしたから…。」 魔王「あぁ…お仕事が忙しかったんだね…。 そっか、一度も会えなかったのか…。」 母「いいえ?去年の誕生日に、一度だけ会ってるはずですよ?」 魔王「…へ?」 魔王「Σ( ̄□ ̄;)!!」 もしかして、僕は父さんを食べましたか? |
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8:反抗〔2歳:LEVEL1〕 | |
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去年の誕生日、無理矢理食べさせられたお肉が父さんかもしれないだなんて…。 もうホントにグレてやりたい。でもそれじゃ母さんの思惑通りなので、絶対グレない! 魔王「母さんが魔王好きなのはわかったけど、僕は絶対にならないからね!」 母「えぇっ!は、反抗期!?反抗期ですか魔王様!? やったー!第一歩☆」 魔王「そんな一歩は踏み出してないから!僕は善良な人間になりたいの!」 母「ん〜、まあいいんじゃないですか?」 魔王「…へ? い、いいの!?ホントにいいの!?」 母「「善良を装う魔王」というのも、新しくて素敵ですよ。」 魔王「えっ!なんで「魔王」は確定なの!?てゆーか「装う」て!違うから!!」 母「よーし!方向性の決まった魔王様を祝って、今日はお赤飯にしましょうね!」 魔王「いや、祝わないでいいから!「魔王」なんかになる気は無いから!!」 母「まずはニワトリを絞っ…」 魔王「血の赤なの!?」 こんな残念な親がいるなんて、僕だけだと思う。 |
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9:毒舌〔2歳:LEVEL1〕 | |
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2歳になったのにちっとも嬉しくないのは、絶対に母さんのせいだと思う。 だから僕は、精一杯の毒舌で母さんを傷つけてやることにしたんだ。 母「魔王様、今年の「貢物」は何がいいですか?何でもおっしゃってください。」 魔王「「お母さん」が欲しい。」 母「も、もう!この子ったら☆」 |
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10:敵増〔2歳:LEVEL1〕 | |
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最近、母さんの暴走が日に日に激しくなっている気がする。 なぜなら母さんの部屋を訪れたら、机の上にこんな原稿が置いてあったからです。 『急募!! 「資格:強くてたくましい方」、「時給:応相談」、「職種:四天王」』 て、敵が増える…。 |
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11:謎人〔2歳:LEVEL1〕 | |
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広告は意外にも反響があり、20人も集まった。これから面接があるそうです。 でも、仮にも「四天王」が「アルバイト」というのはいかがなものだろう? 魔王「それでは次の方どうぞ。」 男「ヌシが魔王か。ほぉ、なかなか良い面構えをしておるな。」 母「あ、アナタ!魔王様に向かってなんという口の利き方を…!」 男「女は黙っていろ。ワシは今、このスイカと話しておるのだ。」 魔王「えっ?スイカ??」 男「2歳でその体躯…さすがは「戦闘族バルク」と言ったところか。良いスイカだ!」 魔王「ち、違いますよ!?僕はスイカなんかじゃ…」 男「フッ、照れるな。その瞳の奥に輝きしスイカ…実に素晴らしい!ガッハッハー!」 魔王「・・・・・・・・。」 こんな人ばっかりです。 |
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12:忠誠〔2歳:LEVEL1〕 | |
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面接に来たのは予想通りアホな人ばっかりで、結局全員不採用になった。 でも数日後、意外な理由から「四天王」は集まることになるのです。 声「たのもぉ〜!!魔王様はおられますかー!?」 …ガチャッ。(扉) 魔王「…ハイ、どちらさんですか?宗教の勧誘ならウチはもう「邪教」に…」 男1「我が名は「鴉(カラス)」。是非ともアナタ様の家臣にしていただきたい!」 魔王「は…? えっ、なんですかいきなり??」 女「私は「華緒(はなお)」。我らはアナタのお父上…嗟嘆様に救われた人間です!」 男2「この「黒猫」も是非!嗟嘆様に誓った忠誠、今後はアナタ様に捧げまする!」 魔王「と、父さん…? そっか、父さんは素晴らしい人だったのか…良かった…。」 男女「我ら、「嗟嘆四天王」!!」 魔王「えっ!? いやいや、三人しかいないじゃん!もう一人は!?」 鴉「最初から三人ですが、心は「四天王」です!」 魔王「いや、心構えの問題じゃ無いと思うよ!?」 華緒「そんなことは気にせずに!共に嗟嘆様のカタキを探し、そして討ちましょう!」 僕もカタキに入るのでしょうか? |
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13:迷惑〔2歳:LEVEL1〕 | |
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突如現れた「四天王」。敵に回して命を狙われても困るので、手なずけることにした。 できることなら深い忠誠を誓わせ、共に手を取り母さんを倒したいものです。 鴉「ま、魔王様!大変です!「義勇軍」と名乗る騎士団が急に攻めて参りました!」 魔王「えっ!なんで!?僕はまだ何もしてないのに…なんでなの!?」 母「あぁ、それはワタクシめが…」 魔王「な、何か変な情報でも流したの!?勝手なことしないでよ!」 母「雇いました。」 魔王「もっと大迷惑だよ!!」 母「荒波に揉まれてこそ、真の「魔王」は育つと思いまして…つい…」 魔王「「つい…」じゃないから!育つ前に死んじゃうから!!」 母「つい、全宇宙に求人を…。」 こ、このアマァ…!! |
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14:晩餐〔3歳:LEVEL3〕 | |
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一年が過ぎ、僕は3歳になった。母が雇った刺客との戦闘でレベルも上がった。 家臣達も懐いてきたので、ぼちぼち復讐に乗り出してもいいのかもしれない。 僕と四天王…四人がかりなら、なんとか寝首くらいは掻けそうな気がするのだ。 魔王(期は熟した。今夜、母を討つよ。 これが奴の最後の晩餐となろう。) 鴉(ハッ!) 華緒(あっ、来られましたよ!) 母「さぁ魔王様、黒ミサの準備が整いましたよ。」 魔王「ああ、わかった…すぐ行く。」 鴉「おぉ、これはスゴいご馳走だ!」 華緒「わぁ〜!見たことも無いお料理がイッパイですねぇ!」 魔王「そうか、お前達にとっては珍しいものなんだね。 僕は以前に食べ…」 魔王「Σ( ̄□ ̄;)!!」 ま、まさか…。 |
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15:旅立〔5歳:LEVEL7〕 | |
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そして月日は流れ…気づけば俺は、すっかり母親の邪気に毒されていた。 まぁ「魔王」になってやる気はサラサラ無いのだが、生真面目に生きる気も失せた。 こうなったらこの星を離れ、奴の目の届かぬ地で自由に破壊を楽しもうと思う。 華緒「ま、魔王様!どこへ行かれるおつもりですか!?」 魔王「俺は旅に出る。お前らも、後は好きにしろ。」 華緒「そ、そんな…!」 鴉「で、でしたら我々も…我々もご一緒させてください!」 華緒「もはや我々は、アナタ様に忠誠を誓った身…離れるわけには参りません!」 魔王「お前ら…。」 家臣達「お願いします!お願いします魔王様!!」 魔王「…だったらその呼び方はやめろ。俺は「魔王」になる気なんぞ無いんでな。」 鴉「で、では…!!」 魔王「フッ、好きにしろ。バカどもめが…。」 華緒「あ、あの〜…ところで、「魔王様」でなければ今後はどうお呼びすれば…?」 魔王「「魔」の「王」…意味合い的にはいいのだが、「魔王」の職との区別が欲しい。」 鴉「ならば、「古代語」で「魔の王」を意味する言葉ではいかがでしょう?」 魔王「古代語か…なるほどな。いいだろう!」 魔王「さぁ準備はできたか!? 行くぞお前達!!」 家臣達「ハッ!!」 魔王「俺の名は「ユーザック(王)・シャガ(魔)」!「ユーシャ様」と呼ぶがいい!!」 |
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