第十六章

 

226:進級〔8歳:LEVEL5〕
春…。 8歳になった俺は、今日から五号生として学校に通うことになる。
去年は始業式をサボッてえらい目に遭ったので、今回は真面目に出席しよう。
もしも戦闘になったなら、今年は俺がみんなを守ってやるべきなのかもしれない。
それが去年地獄を見せた奴らへの、当然の報いだと思っているからだ。

…などと考えながら、急いで学校へ向かっている。

勇者は寝過ごした。

 

227:遠足〔8歳:LEVEL5〕
大量の転入生を迎え、今年もなんとか定員に達した我らが冒険科。
おかげでクラスメイトも、盗子、姫ちゃん、巫菜子、博打以外誰が誰だかわからん。
まぁ早速訪れる春の遠足で、そのウチのかなりの人数は消えるんだろうがな。
ちなみに今年は生徒会を脅して学園祭を中止にさせたため、春行事は遠足だけだ。
教師「今回の遠足は、「クラス対抗宝探し」をやってもらいます。」
勇者「宝探しか…確か一昨年もやったな。 なんだ、ネタ切れなのか?」
教師「いいえ、少し違うんですよ。今年のは前回のような「ゲーム」じゃないです。」
盗子「ゲームじゃないってことは…実際にどこかにある何かを探せってこと?」
教師「ハイ、幻と言われている「蒼茫(そうぼう)海賊団」の財宝を」
巫菜子「ん〜、沈没船かぁ〜。結構大変そうだね。(めんどくせーなオイ…。)」

教師「奪ってきてください。」
生徒「現役から!?」

クラスで対抗どころじゃない。

 

228:先制〔8歳:LEVEL5〕
今回の春遠足の目的は、どうやら「海賊」から宝を奪うことらしい。
確かに海賊は悪党だが、それから宝を奪う行為は悪じゃないのかと問い詰めたい。
勇者「今回のクラス対抗は、各学年のA〜C組同士が手を組み戦う三つ巴戦だ。」
弓絵「キャー!キャー! 勇者センパーイ☆カッコいいですぅ〜☆」
勇者「というわけで、今回A組連合軍の指揮を執ることになった勇者だ。よろしく。」
少年1「あぁん?ちょっと待てや! リーダーつったらやっぱ六号…ぐわっ!
勇者「俺達は「同志」だ。手を取り合って頑張ろう。」
盗子「まったくもって説得力が無いよ!」
芋子「ワタイは芋さえ食えればなんでもいいわ。」
盗子「そういう集まりじゃないから!」
博打「ところでブラザー、敵の戦力分析はもう済んでるのかい?」
勇者「正直C軍はカスばかり…つまり敵は、暗殺美率いるB軍ということになる。」
栗子「あ、あの、あの…」
姫「あの世。」
勇者「ん〜、賢二。」
盗子「コラそこ!勝手に連想ゲーム始めない!」
巫菜子「えっと、どうしたの栗子ちゃん?(気ぃ遣わせんじゃねーよクソガキが。)」
栗子「あ、あの…まままずは、その「海賊船」を探すのがせ先決な気がしまりまり!」
勇者「フッ、甘いな。お前は暗殺美の姑息さを全然わかっていない。」
栗子「で、でも…!」
勇者「まぁ座れ、わからんと言うなら今からその意味を教えてやる。」
栗子「え? あ、ハイ…あうっ!

画鋲の攻撃。
栗子はお尻に2のダメージ。

 

229:魅了〔8歳:LEVEL5〕
予想通り先制攻撃を仕掛けてきた暗殺美。 しかし画鋲なんていつの間に…。
やはり今回は、海賊船より邪魔者の駆除が先らしい。大きな戦になりそうな予感だ。
と考えていた遠足当日、早速刺客の魔の手は迫ってきた。 しかも、すんごい量で。
勇者「くっ!まさか集合場所(学校)が即戦場になるとは思わなかったぜ…!」
歌憐「みんなー!今日はカレンちゃんのために集まってくれてありがとー♪」
C軍男子「うぉおおおお!カレンちゃーん!!」
勇者「って、なぬっ!? なぜB軍の歌憐の取り巻きにC軍が…!?」
弓絵「「歌姫」の能力ですよ先輩☆半端な男子は一瞬で釣られるらしいです〜!」
盗子「ど、どうするの勇者!? 人数違うし、それにあの子の歌声は…。」
勇者「まぁ歌は問題なかろう。要はあの音痴な歌声を聴かねばいいんだ。」
弓絵「先輩違いますぅー!歌憐の歌には色んなバージョンがあるんですー!」
盗子「えっ!バージョンて…どゆこと!?」
弓絵「盗子先輩には教えませーん!」
巫菜子「じゃあ私には教えてくれる?(教えなかったらブッ殺すぞ小娘!)」
弓絵「えとですねー、「攻撃」「防御」「統制」とか、いっぱい種類があるんですぅ〜!」
盗子「ムッキィー!結局アタシにも聞こえてるしー!」
歌憐「じゃあ最初は、いつものあのバラードいっちゃうねー♪」
C軍男子「イェーーーーイ!!」
勇者「お、オープニングからバラード…なんて盛り上がりづらいコンサートなんだ!」

歌憐「それでは聴いてください…「LaLaLa乱打戦」♪」

曲名がバラードじゃない。

 

230:妨害〔8歳:LEVEL5〕
歌憐の能力により、敵の数が一気に増えた。いくら雑魚でもこの量は少々キツい。
しかも、こうしてる間に暗殺美に先を越されるかもしれない。なんとかせねば。
勇者「チッ、これを全部相手してるとなると…時間が足りん!」
盗子「あ!そうだ栗子、何かいい機械とか無いの?ホラ、歌を邪魔するような…。」
栗子「まま任せてくらはい!わ私が「妨害用拡声器」を作っちゃってましたですよ!」
勇者「おぉ、さすがは「機関技師」! …だが一体誰が使うんだ?」
芋子「えー、イヤだわ栗子〜。ワタイは歌なんて歌えないわよ〜。」
盗子「えっ!なにその感じ!? その「実はノリノリよ☆」みたいな感じは!?」

衣装もバッチリ決まっている。

勇者「つまり、任せていいわけだな?芋っ子よ。」
芋子「仕方ないわね、やったるわ。「皇女」でも庶民の歌謡曲くらい知ってるわよ。」
歌憐「ララララ〜乱闘〜♪」
C軍「乱闘ー!!」
勇者「ヤバい、始まっちまったぞ! 急げ芋っ子!!」
盗子「って、これのどこが「バラード」なんだよ!」
芋子「あー…ゴホッ、ゴホン。  いぃーーーしやぁ〜〜きイモ〜〜♪」
歌憐「!!?」
C軍男子「な、なんだ!?」
盗子「えっ!? た、確かに邪魔できてるけどソレって歌謡曲なの!?」
芋子「おイモ〜おイモ〜♪ おイモ〜だよ〜♪」
C軍男子「はぁ!?何言ってんだよテメェ!おイモじゃねーよ!!」
芋子「おイモだYO!」
C軍男子「え、あっ…HEY YO!」
芋子「お芋、食いたいYO!」
C軍男子「く、食いたいYO!」

もう、何がなんだか。

芋子はライブを乗っ取った。

 

231:逃亡〔8歳:LEVEL5〕
芋子のライブジャックにより、なんとか歌憐の攻撃を回避することに成功。
というわけで学校の敵は芋子に任せ、俺達は港へ急ぐことにしたのだった。
勇者「よし、さっさと港へ行くぞ!遠足は今日一日しかないんだ!」
弓絵「船旅ですねー☆ 新婚旅行は南の島がいいですぅ〜!」
盗子「違うから!海賊船を探しに行くの!」
弓絵「はぁ〜。つまんない人ですね〜盗子先輩って。」
盗子「べ、別にいいじゃん!ユーモアなんて別にいらな…」
弓絵「存在が。」
盗子「ムッキィー!やっぱアンタが一番ムカツクー!!」
巫菜子「あれ?そういえば今日は姫ちゃんは…?(サボりかよあの天然は?)」
勇者「む?まぁいいさ。 こんな危険な遠足、無理して参加することもない。」
栗子「ばば博打さんも途中からみ見かけませんでよ?」
勇者「あの野郎ぉ…!!」

〜その頃、博打は…〜
タッタッタッタッ…(走)
博打「フッ、「三十六計逃ぐるに如かず」ってね。俺にはまだ果たすべき使命が…」
声「おっと、逃がさないでござるよ少年!」
博打「!!」
法足「さぁ食らうがいいでござる!束縛の大奥義、「忍法:大王蜘蛛縛り」を!!」
博打「…くっ! なら俺は、かつて世界を滅ぼした必殺ビームを絞り出してやるぜ!」

世紀の「嘘つき対決」が始まった。

 

232:石化〔8歳:LEVEL5〕
博打の野郎は逃げたが、未だ無傷な我らがA軍。今のところは順調な感じだ。
来るべきB軍との全面戦争に向け、少しでも多くの仲間と共に向かいたいものだ。
などと考えていると、当然の如く次の刺客が現れた。 まぁ、楽勝な相手なのだが。
勇者「ほぉ…次の相手はお前ってわけだな? 俺に逆らう気なのか土男流よ!!」
土男流「し、師匠ー!悪いけど今の私はB軍の一員なんだー!」
メカ盗子「ソシテ アタシハ 「オニイチャン」ノ イチイン。」
盗子「そんな物騒な組織は要らないよ!!」
勇者「う〜む…よし、お前に任せるぞ栗子。俺達には時間も人的余裕も無いんだ。」
栗子「えぇええっ!?な、なななんで私の出番だったりしちゃいますか!?」
勇者「相手はロボだ。「機関技師」なら気合いでバラせ。」
メカ盗子「ロボチガウ。」
勇者「特に顔の部分を重点的に。」
盗子「なんで!?」
土男流「ま、待ってくれ!たとえ師匠でも見逃すわけには…!」
勇者「そうか、短い付き合いだったな…。 お前はホント、いい弟子だったのに…。」
土男流「い、イヤだー!やっぱり通っていいから私を見捨てないでくれー!!」

都合のいい弟子だ。

土男流「…というわけで、すまないが一人で死んでほしいんだ栗子先輩ー!!」
栗子「ひ、ひぇええええっ!!」
メカ盗子「クラエ ヒッサツ ビーム ア…ネジ トレタ。」
土男流「うわー! く、首が落ちそうだよトーコちゃーん!?」
メカ盗子「ウ ウチクビ モード?」
土男流「違うんだー!そんな自分を不利にしちゃうような形態は無いんだー!」
栗子「はわわわ!えええっと、そ、それは多分こっちのネジででですよ!」

〜一時間後〜
栗子「ん、んと、後は多分…ハイ! これで全体の整備も終わりましたよ☆」
土男流「わーい!助かったぜ先輩ー! もうアンタは敵じゃないぜー!」
メカ盗子「アリガト。 モウ コウゲキ シナイ。 アンタ オンジン。」
栗子「えへ、えへへ☆ か、機関技師として当然の事をしただけだってばさー☆」
土男流「あ、そうだ!栗子先輩にお茶を出してやるんだトーコちゃん!」
メカ盗子「ア、 キガ ツカナ カッタ。 イマ ツクル。」
栗子「えっ!まま、まさかそんな機能までと搭載しちゃってやがるですか!?」

メカ盗子「デル ワキカラ。」
栗子「Σ( ̄▽ ̄;) ワキ!?」

栗子は石になった。

 

233:眠宝〔8歳:LEVEL5〕
土男流は栗子に任せて港へと続く林道に入ると、そこには大きな分かれ道が。
確か左が近道だが、両方とも港には出られるはずだ。 さて、どっちを選ぶか…。
巫菜子「土の荒れ方から見て…多分B軍は左だね。(チッ、やっぱ近い方かよ。)」
勇者「ならばお前らは右へ行け。 俺が敵を食い止める、その間に抜き去るんだ。」
盗子「えっ!まさか一人でB軍を…100人以上を相手にする気!?死んじゃうよ!」
勇者「放せ!こうしてる間も惜しいんだ! 俺は一刻も早く…」
盗子「イヤッ!!」
勇者「お前から離れたい!!」
盗子「そっちがメインなの!?」
巫菜子「でも勇者君、行ったところで追いつけるの?(もう遅ぇだろがよボケが!)」
勇者「フッ、この俺のお手製…「謎の遠足リュック」に不可能は無い!」
盗子「リュック!? 五年目にしてついにベールを脱ぐの!?」
勇者「今まで散々驚いた。これ以上ビックリするなど有り得んわ!見るがいい!!」

姫「…ほぇ?」
勇者「ビックリーー!!!」

謎は深まるばかりだ。

 

234:再会〔8歳:LEVEL5〕
もはや暗黙の了解なのか、今回も期待を裏切ってくれた我が遠足リュック。
おかげでせっかくの秘策がフイに…。 だがまぁ、姫ちゃんが可愛いから許す。
勇者「くっ!万事休すか…!」
姫「あ〜、じゃあ私が連れてってあげるよ。」
盗子「あっ!それって「天使草」!? 確かに空飛んで最短距離を行けば…!」
勇者「よし、じゃあ頼むぞ姫ちゃん!剣がデカいぶん重いだろうが、頑張ってくれ!」
姫「むー、〔砲撃〕!」
一同「え゛っ!?」

天使草はフェイクだった。

勇者「今なら賢二の気持ちがあああぁぁぁぁぁ……!!

キラン☆(青空に一点の光)

姫「行っちゃった…。」
盗子「自分が撃ち込んだんじゃん!」
弓絵「違いますよ勇者センパーイ!弓絵の実家はそっちじゃないですぅー!」
巫菜子「ま、まぁとりあえず…行こっか?(敵がいねーなら楽でいーや。)」
霊魅「うふふ…。 残念だけど…ここから先は通しませんよ…。」
盗子「れ、霊魅!?ここにはアンタが張ってたの!?ってか一人で!?」
弓絵「こっちは100人もいるんですよー?先輩一人で何ができるんですかー?」
霊魅「あらあら…。「霊媒師」をナメたらダメですよ…。」
銃志「動くなよテメェ、俺に近づくと…死ヌぜ?」
盗子「えっ!? なんでそいつが…!?」

〔霊媒師〕
「死霊」を召喚する能力を持つ謎深き職業。
「偽魂(ぎこん)」という核を媒体として霊を呼び寄せる。
偽魂を壊すか術者を倒すまで、その死霊は消せない。

霊魅「退けば良し…退かないなら…うふふ…。」
盗子「へ、へーんだ! そんな奴が何さ!?その程度の雑魚が何人いたって…」

ゴップリン「オヒサシブリ。」
盗子「いやーーーーん!!」

どうでもいいが盗子も雑魚だ。

 

235:機会〔8歳:LEVEL5〕
どわああああああああああああああああああああああああああああああああ!!
うわあああああああああああああああああああああああああああああああああ!!
勇者「好いた者の手にかかり死ぬ…か。悪くないかもし…んでたまるかぁーー!!」
声「ん?おぉ、勇者ではないか。人力飛行に挑戦とはまた随分と無謀な試みだな。」
勇者「ぬぉっ!? お、お前は夏の…ちょ、ちょうどいい!助けてくれ鬼ババア!!」
麗華「…ごきげんよう。」
美咲「クエェ。」
勇者「嘘だ嘘だ嘘だ!鬼じゃない!天使だ!女神だ!女神ババア!」
麗華「この期に及んで大した度胸だと少々感銘すら受けるぞ、潰れトマト。」
勇者「わわ悪かった!だから「十数秒後の俺」を的確に表現するのはやめてくれ!」
麗華「やれやれ…。 まぁいい、乗れ。」

勇者は美咲の背に乗った。

勇者「ふ、ふぅ〜…。 ありがとう、感謝する。だが礼は言わんぞ!!」
麗華「まったく…お前の半分は「意地っ張り」でできてるのか?」
勇者「そんなことより、貴様はこんな中空で何をしてるんだ?魔界にでも帰ぶっ!
麗華「うむ。少々急用ができてな、「エリン大陸」へと向かっている最中だ。」
勇者「た、大陸…!?」
麗華「そうだ。お前も聞いたことくらいはあるだろう?」
勇者「大陸…。」

麗華「来るか?」
勇者「へっ!?」
麗華「ワシも色々忙しい身だ。お前のような微少な力とて、足しになる日もあろう。」
勇者「だ、誰が美少年だ!!」
麗華「えらく都合のいい聞き間違いだな。というかそれならなぜ怒る?」
勇者「大陸…広い世界…強大な敵…。」
麗華「まぁ返事は今すぐでなくてもいい。考える時間くらいくれてやろう…2秒間。」
勇者「短い!!」

勇者は旅立ちの機会を与えられた。

 

236:妨害〔8歳:LEVEL5〕
ナイスタイミングで俺を助けた麗華は、なんと大陸への出撃を求めてきた。
「旅立ち」と言えば「勇者」として避けては通れぬもの。それに大陸には憧れもある。
行ったところで特に目的は無いが、こんな片田舎で一生を終えるよりはマシか…。
勇者「…よ、よし!行ってやろうじゃねーか!そして無理矢理にでも名を残す!」
麗華「生きて帰れるという保証は無いが…いいのか?」
勇者「フッ。そんな保証など、生まれて此の方一度も手にした記憶は無いが?」
麗華「好いた者への別れも済ませられんが?」
勇者「ぐぉっ…! いや、いい。離れて深まる愛もあるさ。(ひ、姫ちゃーーん!!)」
麗華「そうか。ならば…」
声「おやおや、いけませんねぇ勇者君。」
勇&麗「!!?」
教師「家に帰るまでが遠足ですよ…っと!」

勇者は突き落とされた。

勇者「ぶ、ブッ殺ぉおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ…!!」

教師「フフッ、まぁこの高度なら大丈夫でしょう。」
麗華「あ、貴方は化け物ですか!神出鬼没にも限度というものがあります!」
教師「いやいや、今の彼の消えっぷりもなかなかでしたよ。」
麗華「貴方が落としたんです!」
教師「ダメですよ麗華君…あの子は巣立つには、まだ早すぎる。」
麗華「し、しかし! 「奴の方」には別段危険な症状は…!」
教師「ん〜、そうでもないのですよ。思想に少々危険な部分がありまして。」
麗華「それも貴方の責任な気が…。」
教師「ま、とりあえずもうしばらくは…ね?」
麗華「…わかりました。貴方がそう言うのであれば。」

勇者の意思は無視なのか。

 

237:乗船〔8歳:LEVEL5〕
突き落とされた後、気合いで着地したのは、なにやら変わった形をした船上だった。
もしやこれが「蒼茫海賊団」の船…? どうやら俺は、図らずも勝ってしまったらしい。
蒼茫海賊団は幻の如く滅多に目撃もされず、噂が一人歩きしたような存在と聞く。
きっと大層な宝を持っているに違いない。よし、とりあえず隠れて様子をうかがおう。
勇者(とはいえ、着地時に随分とデカい音がしたからなぁ…あ、やっぱ来たぜ。)
船員「おかしいな…。確か大きな物音がしたと思ったんだが…むぐっ!?
勇者「騒ぐな。騒げば貴様はサメも食わん程にぐっちゃぐちゃな代物に変わるぞ。」
船員「き、貴様…こんなことをして、ただで済むと思っているのか…?」
勇者「フン、ほざくな!海賊風情が偉そうに!」
船員「か、海賊!?フザけるな!我らは「海軍」だ!!」
勇者「お…?」

勇者は国家権力を敵に回した。

船員「海軍に楯突くとは、もはやA級犯罪…。名を名乗れ小僧!捕えてくれるわ!」
勇者「フッ、名乗る程のモンじゃない。」
船員「いや、使いどころ間違ってるぞそのセリフ!そんな謙遜は求めてない!」
勇者「黙れ礼儀知らずめが!人に名を聞く時はまず自分からだろうが!」
船員「そ、そう言われればそうだな。えっと、私の名は…」
勇者「興味無い。」
船員「なら聞くなよ!!」
勇者「ケッ、海軍がなんだってんだ!そんなのこの俺様がブッ潰してやるよ!!」
船員「な、なんだと…!?」

勇者「この宿敵様がなぁ!!」

宿敵は前科一犯になった。

 

238:混乱〔8歳:LEVEL5〕
海軍を撒くのに時間がかかり、なんとか港に着いた頃には既に夕刻だった。
危うく国家を敵に回しかけたが、顔は見られてないのでまぁ問題は無いだろう。
港には盗子達の姿もあった。どうやら生き残ったらしい。チッ、しぶとい奴らめ。
勇者「そうかみんな生きてたか。じゃあ俺と別れてから何があったか教えてくれ。」
盗子「あぁ…うぅ…。」
巫菜子「うぐぅ〜…。」
勇者「む?やけに放心状態だなお前ら。何か衝撃的なことでもあったのか?」
盗子「ご、ゴップリンが…。」
勇者「ゴップリン!? ば、バカな!奴は俺が倒したはずだ!」
巫菜子「お化けが…攻撃が…。」
勇者「まさか化けて出やがったのか!?しかも攻撃って、一体どんな!?」
栗子「わ、ワキから…。」
勇者「ワキ!?ワキからなのか!?そんな微妙な部位からどんな攻撃を!?」
栗子「もう…飲めな…。」
勇者「飲ますのか!?」
栗子「お、お気持ち…だけで…。」
勇者「お気持ちは嬉しいのか!?」

勇者はその晩、妙な夢にうなされた。

 

239:家族〔8歳:LEVEL5〕
結局、どの組も海賊団は発見できずに終わった春の遠足。続きはきっと秋だろう。
今回も普通に疲れたし、とりあえず帰って大人しく寝ることにする。
勇者「ふぅ〜…、ただいまー。」
チョメ「ポピュッパ☆」
勇者「よしよしチョメ太郎。出迎えは嬉しいが、とりあえずそのバズーカは降ろせ。」
チョメ「ポプゥ〜…。」
義母「あ、おっ帰り勇者ちゃ〜ん☆ 超ひっさしぶりって感じぃ〜?」
勇者「む?なんだ、来てたのかカマハハ。オカマバーは休みか?」
血子「今日はお義母様に料理を習ってたんだよ☆」
勇者「そしてお前はいつまで居る気なんだ血子?」
父「あぁ、やはり一家団欒はいいなぁ…☆」
勇者「何が一家だ!四割が魔物じゃねーか!!」
血子「ひ、酷いよダーリン! オカマは魔物じゃないよ!お義母様に謝って!」
勇者「お前が謝れよ!!」
父「よーし、じゃあ家族が全員揃ったところで話がある。 母さん、よろしく。」
義母「えっとね〜、この夏はみんなで旅行に行こうかなってゆーかぁ〜?」
血子「旅行!ダーリンと旅行!血子は大賛成ーー☆」
チョメ「ポピュパッポプ!」
勇者「俺は却下。こんな濃すぎる奴らとの旅なんて、休まるどころか逆に疲れる。」
義母「でも〜、このメンツじゃなきゃ行けないしぃ〜。値段も超安いんだけど〜。」
勇者「このメンツってことは…家族を対象にした旅ってことか?あざとい商売だな。」
血子「なんてプランなの?お義母様。」

義母「「一家心中」。」
勇&血「縁起でもない!!」

帰りの交通費が要らない。

 

240:旅行〔8歳:LEVEL5〕
夏休み。 今年の夏は、半ば無理矢理に家族旅行へ連れて行かれることになった。
しかもプラン名は「一家心中」…。 果たして俺達は、無事に帰れるのだろうか。
案奈「あ、皆様ァ〜。本日は当車をご利用いただき〜誠にありがとうございまァす。」
勇者「おぉ、お前か案奈。偶然じゃないか。お前が今日のガイドなのか?」
運転手「ゲホッ、ゴホッ!ぞ、ぞじで私が今回の運転手で…ゲハッ!!」
勇者「な、なんで俺が会う運転手は不安要素のある奴ばかりなんだ…。」
案奈「ちなみに〜ワタクシは10歳〜、運転手は享年86歳で〜ございまァす。」
血子「享年て!!」
案奈「尚〜、条例により〜、火薬〜ガソリンなどの危険物は〜…」
勇者(チッ、持ち込み禁止か!だがチョメ太郎は絶対持ってる…マズいぞ!)
案奈「車内で〜販売しておりまァす。」
勇者「取り締まれよ!!」
案奈「また〜、悪路につき〜、状況により止むを得ず〜…」
勇者「あぁ、急停車する場合があるってんだろ?」
案奈「心停止する場合が〜ございまァす。」
血子「誰が!!?」

運転手「・・・・・・・・。」
勇&血「まさかっ!!」

これで金を取る気か。

 

第十七章