第一章

 

4-16:我慢〔14歳:LEVEL40〕
勇者が再び旅立ってから、しばらくが経ち…。
春。 陸路を辿り、なんとかナシ大陸に着いた俺達。気づけば歳も14になっていた。
にしても、もう春だってのにこの大陸…クソ寒い。「氷の大陸」の名はダテじゃない。
〜ナシ大陸:ネマー岬〜
勇者「う゛う゛ぅ〜…さささ寒い、寒すぎる!俺は寒いのと盗子が大嫌いなんだっ!」
盗子「名前出るだけでも…幸せなのかな…。」
賢二「人間の防衛本能って凄いね…。」
美風「ねぇねぇ勇者ちゃ〜ん、お姉さんが暖めてあげようか〜?ギュッて☆」
盗子「ちょっ、勇者にくっつかないでよ年増!ブッた斬られても知んないよ!?」
勇者「暖かいならこの際我慢する。」
盗子「そんなに弱ってるの!?あっ、じゃあアタシが」
勇者「お前は我慢できない。」
盗子も我慢できず泣いた。

 

4-17:希望〔14歳:LEVEL40〕
寒さに弱い俺への当て付けなのか、夜になるとなんと吹雪いてきやがった。死ねる。
勇者「さ、寒いもうダメだ…。賢二、俺が凍ったらレンジで5分ほどチンしてくれ。」
賢二「え、レンジは温風出るわけじゃなくて分子を振動させるんだから…死ぬよ?」
美風「あ、なんか明かりが見えない?人がいるんじゃないあの家?」
勇者「おぉ、よしきた!これで防寒具を奪える!」
賢二「いや、毎度ながらその発想はどうかと…。」
勇者「よし、開けるぞ!」

ガチャ(扉)
貧乏神「…ん?」
金目のモノは無さそうだ。

 

4-18:再会〔14歳:LEVEL40〕
やっと見つけた家の中には、なんとも貧乏臭い人外の何かがいた。何者だコイツ?
盗子「あーーっ!アンタは前に会った貧乏神!なんでアンタがここにいんの!?」
貧乏神「なんや、装備変えたんかい坊よ?前のハリボテ装備は捨てたんか?」
勇者「ん?あぁ、猿魔の頃に会ったのか…。悪いが初対面だ、興味も無い。死ね。」
賢二「何もそこまで…。」
貧乏神「偶然の再会やね。あぁ、そういやつい最近ワシも懐かしいアレとアレやで。」
勇者「いや、全然わかんねーよ。誰と何をどうしたんだ。」
貧乏神「500年も前のアレや。まぁその割にあの坊は変わってへんかったが…。」
賢二「も、もしかして貧乏神さんも誰かに招集されたクチなんですか!?」
貧乏神「いやいや、呼ばれちゃないわ。密航して来よったアレやで。まぁアレや。」
勇者「だからどれだ!?って、まさか貴様、首謀者を知ってるんじゃ…!?」
貧乏神「あ〜、確か名は「救世主」…アレがアレして、アレやったアレやで。」
情報量が少ない。

 

4-19:人選〔14歳:LEVEL40〕
貧乏神の口から出たのは、かつて世界を救ったという「勇者:救世主」の名だった。
勇者「くっ、バカな…!「勇者」ともあろう者が、そんな悪事を働くはず…!」
賢二「疑う余地を感じないのはなぜだろう…。」
美風「ところでさぁ、ジジイは誰と何しに来たわけ?さっさと吐・い・て。」
盗子「守備範囲外にはこの態度…なんか見ちゃいけない女の何かを見たような。」
貧乏神「ワシはアレやで、最初は密航、途中でバレてアレに任命されたアレや。」
勇者「なぜ肝心な所がダメダメなんだ。貴様は芋子か。」
賢二「密航ってことは宇宙船ですよね?旅の一員に望む何か…勇者君なら何?」
勇者「サンドバッグ。」
賢二「今は誰の担当なんだろう…。」
美風「もういいから言ってくれるジジイ?てゆーか言・え。」

貧乏神「フッ…アレやアレ、「会計係」や。」
凄まじい人選ミスだった。

 

4-20:元凶〔14歳:LEVEL40〕
どうやら貧乏神は、悪の軍団と旅をしたことがあるらしい。何か聞けるやもしれん。
勇者「ということはだ、救世主+貴様と12神…14人で攻めてきたわけだな?」
貧乏神「全員ちゃうよ。サイズが島ほどあるアレなんかは現地集合やったわ。」
賢二「現地集合って…何か指令でも出てたんですか?宇宙全体に…?」
貧乏神「広告がな。「強者急募!異星を襲うだけの簡単なお仕事です♪」ゆーて。」
盗子「なにその怪しげなバイトみたいな募集!?それにノリ軽っ!」
美風「そんなんじゃ、宇宙警察に冗談と思われても当然かも…意外とヤルね敵も。」
貧乏神「ま、結局は食料切れて、燃料切れて、全員キレて…大変やったけどね。」
賢二「絶対味方にしたくない凄さですね…。 で、それをどう乗り切ったんですか?」
貧乏神「不時着したんよ。ちょうどええ感じにアレやった星、地球にやね。」
勇者「ちょっと待て!じゃあなにか?敵は最初から地球目当てで来たわけじゃ…」
貧乏神「あ〜、目指しとったアレは「桃源星」…地球より豊かな、楽園のアレや。」
勇者「・・・・・・・・。」

ザシュッ!(斬)
諸悪の根源は去った。

 

4-21:寝室〔14歳:LEVEL40〕
貧乏神の自白により、全ての元凶が奴にあることがわかったのでとりあえず斬った。
まぁ放っといても地球にも来たのかもしれんが…俺は面倒なことは考えない主義だ。
勇者「ふむ…まぁ今日はこのまま寝るとするか。夜も遅いしなぁ。」
賢二「でもこの部屋は無理だよね…真っ赤に模様替えされちゃったし…。」
勇者「見たところ二階建てだ、上に行きゃ2部屋くらいあるだろ。最悪盗子は外な。」
盗子「なんでアタシだけ!?女ってゆーなら美風もそーじゃん!」
勇者「いや、きっとクサいし。」
盗子「クサくないもんっ!!ねぇヤメてホントにヤメて!?裁判起こすよマジで!」
勇者「はーへ、ひふは(さーて、いくか)。」
盗子「鼻ふさがないでぇー!」
勇者は二階に上がった。
ガチャ(扉)
勇者「チッ、2部屋あって一方が2人部屋か。もう一方もそうだったらアウトだな…。」
盗子「セーフだよ!?1人部屋だったりした方がアウトだよアタシ的には!」
賢二「家の広さからして3人部屋って線は無さそうだよね。さぁ、どうなるかな…?」
ガチャ(扉)

栗子「…ほ?」
盗子の運命やいかに。

 

4-22:事情〔14歳:LEVEL40〕
2階の寝室には、なんと栗子がいた。なんだ、貧乏神はロリコン的な何かなのか?
勇者「よぉ栗っこ、久しぶりだな。俺じゃない俺ならどこかで会ったかもしれんが。」
栗子「はわっ!?な、なぜなぜに勇者先輩が乗り込んでいらっしゃるのでして!?」
賢二「あ、久しぶりだね栗子さん。まさかこんな所で会えるなんてビックリだね。」
栗子「どぅわっ!?けけけ賢二先輩!?また会えるなん…会えて良かっ、良しっ!」
美風「あ、慌しい子ね…。まぁアンタの百万倍はマシだけど。」
盗子「なにさそれ!怒るよ!?てゆーかその評価基準は何!?」
勇者「生理的に。」
盗子「うわーん!究極だよぉー!!」
勇者「で?なんでお前はここにいんだよ?生きるにも難儀する土地だろ?」
栗子「あ、ハイ、そそその、クソ寒いんで、暖房を売り付けに、おおお爺ちゃんと…。」
賢二「あ〜、確かにバカ売れしそうだもんね…。 じゃあ今お爺さんは行商中?」
栗子「・・・・・・・・。」
賢二「え…ま、まさか誰かに…とか…!?」
栗子「グスン…その…あ、新しいだだだ暖房の開発中に、失敗して…島ごと…。」
盗子「島ごと何!?」
破壊力が暖房じゃない。

 

4-23:始末〔14歳:LEVEL40〕
事情を聞くと、なにやら栗子の祖父は爆死したのだという。つい最近のことだとか。
で、途方に暮れてるところを貧乏神に拾われたらしい。アイツ…いい奴だったのか。
勇者「オイ賢二…お前ちょっと下に行って、こっそり始末してこい。アレ。」
賢二「アレを!?いや、確かにそうすべきとは思うけども…!」
栗子「へ?し、始末って…なな何をですか?」
勇者「鳥の一種だ。十羽集まると「ジュウシマツ」という怖ろしい怪鳥に化ける。」
栗子「ウワォおっかねぇですね!いいい一刻も早くシマツ始末をばっ!」
盗子(ど、どうしたのさ勇者?いつもの残虐性はどこへお出掛け中なの?)
勇者「生きるためだ。快適な移動手段が無ければ、俺は死ぬ。」
栗子「かかか、快適がどうしやがったのでしょう?」
勇者「ふむ…頼みがあるんだ。暖房完備の車を作ってくれないか?4人乗りの。」
盗子(ホッ…今回は入ってる…。)

栗子も…放ってはおけんしな。
盗子は考えが甘かった。

 

4-24:出発〔14歳:LEVEL40〕
3日後。 俺達は完成した車で近くの街へ向かうことにした。栗子は適当に騙した。
勇者「じゃあ行くか…そうだ栗子、一番近い街か村は何てとこだ?」
栗子「え、え、えと、チチチーキユ村だったかと。」
勇者「む?「エエエトチチチーキユ村」…長い名だな。」
栗子「いや、あの、えと、そういう意味では…!」
賢二「大丈夫だよ、わかっててやってる目だから。」
美風「でもさ〜勇者ちゃん、こんな子が3日で作った車なんて信用できるの〜?」
栗子「だだ大丈夫ですの!経験豊富ッスよ!お、お爺ちゃんと…暖房作ったり…。」
勇者「急に不安になったぞ。誰も爆発の経験は聞いてない。」
盗子「アタシは乗れるかどうかがまず心配なんだけどね…。」
勇者「ちなみに栗子、もちろん自動操縦は付いてるんだよな?」
栗子「あっ!そ、それはもう…頑張りまっす!!」
児童操縦搭載だった。

 

4-25:相性〔14歳:LEVEL40〕
もはや恒例と諦めていたのだが、なんと超意外にも今回の乗り物は順調に走った。
思えば幼児の頃から、乗り物だけは相性が…ん?いや、他にも悪い相性ばっかか。
盗子、両親、先公ども、ペット、師匠、装備、あと盗子…恵まれてないにも程がある。
唯一姫ちゃんだけ別格だが、他は全滅だ。なんだ、乗り物だけじゃないじゃないか。
そんな中を生き抜いてきた俺が、乗り物ごときに苦手意識とは…恥ずかしいぜ。

破片と共に宙を舞いながら、俺は自分を恥じた。
やっぱり事故った。

 

4-26:化物〔14歳:LEVEL40〕
性能なのか栗子の腕なのか、結局車は大爆発。事故はともかくなぜ大破なんだ。
〜魔国:チーキユ村〜
勇者「ふぅ〜…やれやれ、酷い目に遭っ…だ、大丈夫か盗子!?その顔は!?」
盗子「生まれつきだよっ!顔がツブれてこんなピンピンしてたら化け物だよ!」
美風「え…生まれつき…?」
盗子「なんだよどっちに転んでもダメなのかよっ!てゆーか飽きたよこの流れ!」
栗子「すすすみません!よ、良かれと思っての脱出機能がよもやの大惨事を…!」
勇者「アレ無い方が無事だった気がするわ。勢い余って現世から脱出しかけたぞ。」
盗子「てゆーかアタシは屋根にしがみついてたんだよ!?生きてるの奇跡だよ!」
賢二「ま、まぁいいじゃん二人とも。なんか村っぽい所までは来れたわけだし…ね?」
勇者「ったく…甘い奴め。お前を食う魔獣はきっと虫歯になるな。」
賢二「や、ヤメてよなんか現実になりそうで怖いから…。」
勇者「それが賢二の…最期の言葉だった。」
賢二「いや、変なナレーション付けるのもヤメてくれる!?」
勇者「ハッハッハ!冗談だよ冗談!」

だから、後ろは振り向くな。
賢二の背後に巨大な影が。

 

4-27:魔獣〔14歳:LEVEL40〕
村の近くでワイワイしていたら、なんともデッカい魔獣が現れ賢二を鷲掴みにした。
魔獣「グルルルルルルゥ〜!!」
賢二「うひゃーーー!!えっ!?うひょーーーーー!!」
勇者「それが賢二の…最期の言葉だった。」
賢二「言葉になってないし!そんな最期じゃ死んでも死に切れ…死にたくなぃー!」
美風「やぁ〜んジタバタしてるぅ〜!可愛い〜☆」
栗子「どどどーしましょ!?賢二先輩死んじゃう!?プチッと握りつぶされちゃり!?」
勇者「そうか?俺にはジャレてるように見えるが。」
盗子「どこの世界に頭を鷲掴みにするジャレ方があんの!?」
賢二「ペルペロスを…思い出すなぁ…。」
盗子「経験済み!?てゆーかそれもしかして走馬灯!?」
勇者「…チッ、仕方ない。道中で手に入れたこの剣の…試し斬りといこうか。」

もちろん買ってないが。
また店主が餌食に。

 

4-28:無茶〔14歳:LEVEL40〕
魔神戦のせいで、小さい戦いにノリ気になれなくなった今日この頃。とっても面倒。
魔獣「グルオアアアアァ〜!!」
勇者「ふぅ、だがしかし…悪いな魔獣、そんな奴でも大事な…大事な…大事な?」
盗子「そこはなんとか言ったげてよ!無理してでも何かを!」
賢二「死のう…。」
栗子「わ、わた!だだだ大事ですよ!け賢二先輩は、とっても大事な…一大事?」
盗子「ハイそこ!言うなら言う!言えないなら黙っとく!」
勇者「そしてワタイは芋を食う。」
盗子「え、なんでそこで芋子が出てくんの!?どーゆー流れなの!?」
勇者「いや、暇すぎて。」
賢二「助けてほしいなぁ…。」
魔獣「グオォオオオオオォ〜!!」
魔獣は賢二を掴んだまま飛び立った。
賢二「ちょ、わっ!?お、お助けぇーー!!」
栗子「うわぉ!ととと飛び去りやがりましたよ!?どどどっか行っちゃいますよ!?」
勇者「くっ、賢二…無茶しやがって…!」
盗子「いや、してないよね!?」
みんな何もしてない。

 

4-29:解説〔14歳:LEVEL40〕
そして賢二は消えていった。もう毎度のことだが、いつ見ても見事な消え方だ。
などと考えていると、見知らぬ老婆が声をかけてきた。
老婆「やれやれまた悪さかい…まったく飼い主に似て困った化け物だよ。」
勇者「フン、出たな化け物…この俺がブッた斬ってやる!」
老婆「そうそう化け物…って誰が化け物じゃ失敬な!ワシのことじゃないわっ!」
勇者「フッ、気にするな。どうせもうじきそっちの世界に行く身だろ?」
老婆「何を言うかい!アタシゃあと三百年は生きるんじゃ!」
盗子「いや、それこそ化け物の仲間入りじゃない!?」
老婆「ふぅ…まったく、「新王」といい最近の若いモンはどうしてこう…。」
美風「シンオウ〜?何それ? あ…わ、若い子なの?若くてきゃわゆい男の子っ?」
老婆「もう王都に戻ってしもうたがね。何考えてるか見えん子じゃったよまったく…。」
栗子「へ、変な王様なんですね。さすがきょきょ凶死先生の故郷…的な?」
老婆「なっ…凶死…じゃとぉ!?ヌシらまさか、前王子を知る者かね!?」
盗子「えっ、そういう流れなの!?じゃあその新王ってゆーのは、先生の子…!?」
老婆「ふむ、「新王:絞死」…失われし狂国を5歳にして蘇らせた、恐るべき小僧よ。」

チッ、「大魔王」降臨か…!
合ってるようで違う。

 

4-30:出発〔14歳:LEVEL40〕
魔の生き残りがいると聞かされた俺達は、仕方なく王都とやらに向かうことにした。
どうせ放っといても出会っちまう気がする…ならばコチラから打って出るべきだろう。
勇者「というわけで、乗り物を用意してみたぞ。」
魔獣「ギャーーーオ!!」
盗子「えぇっ!?だ、大丈夫なのコレ!?てゆーかどこで見つけてきたの!?」
美風「図鑑でも見たことないわね…品種改良?うわ、あの人の子ならあり得る〜。」
勇者「ま、とにかく行こう。聞けばまだ5歳…悪の芽は早めに摘んじまうに限る。」
栗子「でででも!ま、まだ悪モンて決まったわけじゃないとかそうでもないとか!?」
勇者「俺は気にしない。」
盗子「気にしようよ!そんな適当な感じで殺されたら誰もがたまんないよ!?」
勇者「まぁあの先公のガキだ、どうせタダ者じゃあるまい。フッ…楽しみだぜ。」
賢二はどうした。

 

第二章