第二十三章

 

3-346:五将〔13歳:LEVEL33〕
黄錬邪の手を落とし、ダッシュで血のビンを奪おうと思ったのだが、ビンが割れた。
滴る血液…揺れる大地…うん、完全にフラグが立った。だが非を認めたら負けだ。
勇者「チッ、貴様…!なんて卑劣なマネを!」
賢二「いつもながら見事な責任転嫁だね…。もういっそ特許取ろうよ…。」
春菜「困りました…。でもまぁ、今の力でも三将…いや、四将までは抑えられるか。」
勇者「将…?よくわからんな。冥途の土産に詳しく教えやがれ。」
春菜「文献によると、魔神は「五将」と呼ばれる何かにより支配されるとか違うとか。」
賢二「な、なるほど。島ほどの巨体だから、一つの脳じゃ制御しきれない…的な?」
勇者「ほぉ、なら島ごと壊さんでもなんとか…ま、その前にまず倒すべき邪魔者がい」
春菜「5分でいい、眠りなさい。」
春菜から怪しい光がほとばしる。
勇者「ぬぐっ!?き、貴様…この俺を操るとは…!覚えとけ…よ…!」
春菜「目が覚めることはない。なぜなら将の一体は、台座の下にいるので…ね。」
勇者「フッ…な、ナメられたもんだぜ。熟睡を許されずに育った俺をねむねむねむ…」
強がりきれなかった。

 

3-347:意識〔13歳:LEVEL33〕
一瞬の隙を突かれ、黄錬邪に眠るように仕向けられちまった。このままじゃマズい。
こういう時はみずからを傷つけ、正気を保つのがセオリーだ。意識のあるうちに…!
ザクッ!(刺)
賢二「うっぎゃあああ!!」
勇者「け、賢二…俺を担いで逃げろ…。今ここに眠る将が目覚めたら、死ぬ…!」
賢二「えぇっ!ここに将が!? てゆーかなんで自分じゃなくて僕を刺したの!?」
勇者「痛いから。」
賢二「正直者は時に人を傷つけるよね…。」
勇者「俺は眠りに耐性がある、熟睡はせん。だがさすがに、まともには動けん…。」
賢二「だ、ダメだよ勇者君、僕には担げないよ…!足が…!」
勇者「なにっ、ドクロの部屋で痛めたのか!?チッ、雑魚めが…!」
賢二「いや、勇者君が刺したから…。」

言い訳は嫌いだ。
まさに「悪魔の部屋」だった。

 

3-348:口車〔13歳:LEVEL33〕
なんとか意識を保っちゃいるが、賢二が使えんので逃げようがない。困ったもんだ。
勇者「チッ、参ったな…。もうじき「将」とやらが出てきそうだってのに、まったく…!」
賢二「い、痛いぃー!なんでグリグリするのぉー!?」
勇者「息抜きだ。」
ズゴォオオオオン!(轟音)
轟音と共に壁に大穴が開いた。
武史と群青錬邪が飛び込んできた。
群青錬邪「ふぅ〜…やるな、お前。幾多の戦場を回った俺だが、久しく見ぬ強者だ。」
武史「テメェもS級ってだけあるよ。盗子の兄であるこの俺に一歩も譲らんとはな。」
勇者「おぉ、いいとこに来たシスコン!さぁ俺を担いで出口を目指して走るがいい!」
武史「あぁん!?なんでお前なんかを!俺が喜んで担ぐのは盗子」
勇者「は出口でお前を待っている。」
武史「OKわかった、すぐ行くぜ!だがテメェを連れてく義理は」
勇者「無くとも、俺がセットならポイント2倍で褒められるぞ?」
武史「喜べ勇者、俺は心の広い男だ!」
だがストライクゾーンは狭い。

 

3-349:足止〔13歳:LEVEL33〕
アホの武史をなんとか騙して足は手に入った。あとは逃げるだけだ、急ぐとしよう。
勇者「というわけで急ぐぞお前ら。チンタラしてたら色々と面倒なことに…」
群青「おっと、そうはいかんよ。この俺を忘れてもらっては困る。」
勇者「悪いが覚えてない。」
群青「いや、初対面だが。」
武史「ったく…オイ勇者、まずは全員でコイツ仕留めんぞ。一人じゃ時間かかるわ。」
勇者「いやダメだ、俺はまだ体が動かん。早く逃げんと全滅しかねん状況なんだ。」
武史「はぁ?なにわけわかんねぇこと言っ…ぬぉっ!?な、なんだぁ!?」
突如、ドス黒い気配が周囲を支配した。
勇者「チッ…マズい、走れシスコン!楽しい楽しい鬼ごっこの始まりだ!」
武史「よくわからねぇが…ヤベェのは確かっぽいな。それに、盗子が俺を待ってる。」
群青「いやいや、だから俺の存在をだな…。」
賢二「大丈夫、すぐに慣れますよ…。」
賢二は先輩ぶった。

 

3-350:勝負〔13歳:LEVEL33〕
感じる気配的に、どうやら魔神の「将」とやらは地味に復活しやがったっぽい。
じきに地から這い出てくることだろう。呼びづらいし仮に「将一」とでも名付けようか。
勇者「将の一人目だから将一。どうだ、俺のセンスは?」
将一「うむ、悪くない。」
気づけば背後にいた。
武史「わ、わかるぜ、強ぇなコイツ…。確かにこりゃ厄介だ、盗子を待たせちまう。」
賢二「遺書書いてきた甲斐があったなぁ…。」
勇者「よーし、じゃあこれから4人で「足止め役」を決めるぞ。ジャーンケーン…!」
群青「いや待て、なぜさりげなく俺まで入っている!?先ほどまであれだけ無視…」
勇者「あの黄錬邪のことだ、コイツがお前を襲わんという保証は無い。死ぬぞ?」
群青「ぐぬぅ…し、仕方あるまい。」
勇者「んじゃいくぞっ、ジャーンケーン…!」
全員「ポンッ!!」

グー、パー、パー、パー、パー…よし、勝ったぜ!
一人多い。

 

3-351:逃走〔13歳:LEVEL33〕
なぜ将一まで参加していたかは置いといて、足止めジャンケンには無事勝てた。
負けた群青野郎は不満そうだったが、「勝負は勝負だしな」と渋々従った。アホめ。
まぁS級の賞金首って話だ、負けるにしても俺が逃げ切る時間くらいは稼ぐだろう。
タッタッタッタ…!(走)
勇者「オラオラもっと早く走れシスコン!そんな走りじゃ世界は狙えんぞ?」
武史「んだとぉ!?眠ぃっつーからおぶってやってんのになんだその態度は!」
勇者「いや、もう起きたんだが。」
武史「じゃあ降りろやクソがぁーー!!」
賢二「僕だって足痛いのにな…。」

〜その頃〜
将一「99…。」
群青「ぐ…ぐぼっ…!(吐血) ま、まさか…この俺が…! これ…が…魔神……」
ズバシュッ!

将一「これで、100…か。 はてさて、何人逃げ切れるかな…この鬼から。」
悪夢の鬼ごっこが始まる。

 

3-352:七転〔13歳:LEVEL33〕
行きとは違う道を走って逃げた。なぜなら来た道には、まだ姫ちゃんがいるからだ。
魔力も枯れちまったし、もし彼女を守りきれんなんて結果になったらシャレにならん。
出口があるかもわからん道だが、まぁ道があるくらいだ、少なくとも何かあるだろう。
勇者「…と思って走って来たが、分かれ道か…。ふむ、選択肢が広がったな。」
賢二「ど、どうしよう勇者君!?力が分散しちゃうし、やっぱどっちか選ばないと…」
武史「いや、魔神復活を上の奴らに知らせなきゃなんねぇ、ここは別れるべきだ。」
勇者「頑張れ賢二。」
賢二「さよなら勇者君…。」
武史「ある意味見事なチームワークだよな、お前ら…。」
声「…ダメだ、左の方は先でまた3つに分かれてる。だからここは3:1がベストさ。」
賢二「えっ、その声って…!」
なんと!倒したはずの博打が現れた。
博打「ぶばふっ!!
そしてすぐ倒された。

 

3-353:汚名〔13歳:LEVEL33〕
ボッコボコにしたはずの博打が、なぜか目の前に現れた。うっとうしいにも程がある。
勇者「やれやれ、生きていたとはな。どうやらパンチ力まで衰えちまったらしい。」
博打「フッ、これでも幹部の一人だぜ?トドメを刺さなかったブラザーが、甘いのさ。」
勇者「以後気をつける。(抜刀しながら)」
博打「ま、待ってくれブラザー!俺は…改心したんだ。兄者に誓って、嘘じゃない!」
勇者「いや、あんなのに誓われても。」
博打「酷いぜ…!」
賢二「ま、まぁいいじゃん!これでちょうど4人だし…ね?」
勇者「バカか賢二、コイツは裏切り者だぜ?俺がそんな奴を信じるバカと思うか?」
武史「仲間すら信じてねぇしな、お前。」
博打「お願いだブラザー!汚名を返上する機会を、俺にプリーズ!」
賢二「ぼ、僕からもお願いだよ勇者君。人って、変われると思うから…。」
勇者「…お前が一番安全だと思う道は、左右どっちだ?」
博打「ん?俺の勘が言うには右の…あ゛。」
博打が右に決まった。

 

3-354:改心〔13歳:LEVEL33〕
100%外れる読みを持つ博打をある意味信じ、博打は右の道に突っ込んできた。
奴の死因は将一か道の罠かはわからんが、前者ならこっちの安全度は高まる。
勇者「ま、最期にちょっとだけ役に立ったかな。今まで散々人を騙してきた罰だが。」
賢二「改心したって…言ってたのにね…。」
勇者「会心の一撃。」
賢二「勇者君見てると、やっぱ人は変われない気がしてきたよ…。」
武史「う〜む…。」
勇者「ん、どうしたシスコン?何考えてるのかを盗子抜きで答えろ。」
武史「いやさ、100%死ぬって割には…ヤケに素直に引き下がったなぁ〜ってな。」
勇者「ッ!!」
賢二「え…。もしかしてアレは、あっちが安全って読みきった上での…演技…?」
勇者「や、野郎ぉ…!」

〜その頃〜
博打「フッ…やっぱり甘いねぇブラザー…。」
また騙されたっぽい。

 

3-355:不知〔13歳:LEVEL33〕
確証があるわけじゃないが、なんだか博打にハメられた気がして凄まじくムカつく。
ここはなんとか生き抜いて、次会ったら倫理的にヤバいレベルでお仕置きしてやる。
タタタタタッ…!(走)
賢二「ハァ、ハァ…!もうダメェ〜死んじゃうー!内臓が…口から出ちゃいそう…!」
勇者「いいから黙って走れクソ犬!そんな宴会芸の練習は後回しだ!」
賢二「いや、そんな体張る芸風じゃないから…。」
武史「おっと噂の分岐が見えたぜ!悩んでる間が惜しい、全員勝手に飛び込め!」
勇者「地上に出てからが本当の勝負だ!魔神を倒して、世界を我が手に…!」
そして三人は別れた。
〜その頃〜
将一「分かれ道…足跡から見て二手に分かれたか。まぁ多い方を追うのが定石…」
声「ふぅ、俺もつくづくギャンブラーだな…。しかも結局負け越しとはねぇ…。」
将一「…ほぉ、ここに留まったバカがいたか。面白い、果たして足止めになるかな?」

博打「最期くらいは、クールに決めるぜ。」
人知れぬ活躍だった。

 

3-356:不安〔13歳:LEVEL33〕
賢二らと別れ、走ること数分…。なんとか地上に出ることができた。第一関門突破。
だがしかし…剣もモロくて力も衰えちまった今の俺に、これから何ができるだろうか。
まぁ技術や魔法でやれる範囲もあるだろうが、魔神相手に通用するかは疑問だ。
勇者「…てなわけで俺は困っている。だから暴れるのはヤメればいい。」
春菜「ま、まさか生きて出てくるとは…驚きですね。 でも残念、もう戻れはしない。」
ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!(大揺)
突如、巨大な揺れに襲われた。
勇者「なっ、なんだこの揺れは!?新手のアトラクションか…!?」
春菜「この島が、元の姿に戻ろうとしているのですよ。本来の…「魔神」の姿にね。」
勇者「ふーん。」
春菜「軽っ! よ、予想外のリアクションにビックリです…。」
勇者「フン、貴様を喜ばしてやる義理はない。まぁ考えてみりゃ予想の範疇だしな。」
春菜「じきに我が最強のしもべが誕生する。そして世界は、破滅を迎えるのです。」
勇者「世界の破滅か…いいスケールだ。血がたぎるぜ。」
やる方か守る方かどっちだ。

 

3-357:巨神〔13歳:LEVEL33〕
大きな揺れがしばらく続き、島は姿を変えた。まぁ上にいちゃ全体像はわからんが。
勇者「揺れが止まった…次はどうなるんだ?どうせ貴様が操っているんだろ?」
春菜「ええ。完全にとは言えませんが、この体はほぼ私の制御下にあります。」
勇者「魔神が空を飛べるのは知ってる。飛んでって帝都でも滅ぼすつもりか?」
春菜「…なぜそれを?」
勇者「フッ、俺ならそうする。」
春菜「どこの「魔王」ですかキミは…。」
勇者「だが貴様の企み通りにはいかん。将は俺が殲滅し、魔神はまた土へと還る。」
春菜「フフ、それでは間に合いませんよ。彼が本気を出せば、音速で海を越える。」
勇者「なっ、バカな!そんな速さで飛べる物体など…!」
春菜「動き出したこの巨体を止める術は、人類には無い。世界はもう終わりです。」
勇者「ぐぬぅ…!」

声「ハッハッハ!悪いが行かせんぞ魔神、私が相手してやろう!」

勇者「なっ、なんだ今の拡声器で流したような声は!?放送委員のイタズラか!?」
春菜「ハッ! あ、あの山の向こう…あの姿…そんな…!」
勇者「うぉっ!?なな、なんだありゃ…!?」

巨大父「我が名は謎の巨大神…「父さん」だ!」
でっかい父が現れた。

 

3-358:研究〔13歳:LEVEL33〕
夢か幻か、魔神と同じく島ほどの巨体になった親父が現れた。どんな嫌がらせだ。
勇者「むぅ…まさか三十路を過ぎてから成長期に入るとはな。恐ろしい奴め。」
春菜「いや、そんな生き物がいたら魔神並みに驚異かと。」
勇者「まぁいい。原理はわからんが、親父がいるなら大丈夫だろう…と思いたい。」
春菜「くっ…!」
勇者「さーて、親父が倒れるのが先か俺らが将を倒すのが先か…勝負だな。」

〜ニシコ村〜
男A「や、やった…実験は成功だ!我々の長年の研究の成果が、ついに…!」
男B「お、オイ術式に集中しろよ。陣が乱れれば、何が起こるかもわからないんだ。」
校長「気を抜くな。この時のためだけに開発したのだ…この、〔超巨大化〕はな。」
大昆虫の原因が明らかに。

 

3-359:動機〔13歳:LEVEL33〕
いつまでもつかはわからんが、親父が踏ん張ってる間は猶予がありそうな展開に。
というわけで、これまで疑問に思っていたことを今のうちに聞いておこうかと思う。
勇者「ときに貴様、なぜ世界滅亡なんぞ企んだ?」
春菜「え…?そ、それは…。」
勇者「くだらん色恋の怨恨ってわけでもあるまい。どんな高尚な理由かを知りたい。」
春菜「全部…全部“あの女”が悪いんだ…あの女が、私から先輩を奪ったから…!」
勇者「って図星かよっ!そんなんで世界を滅ぼすってアホかオイ!?」
春菜「あの皇女が!凱空先輩を大陸に連れて…!だから、殺してやったんだ!!」
勇者「なっ…!?じゃあ昔の帝都襲撃事件で、盗子の母親を殺したのは…!」
春菜「なのに…なのに今度は知らぬ間に、別の女に寝取られてたなんて…!」
勇者「しかも「魔王」だしな。」
春菜「だから世界を滅ぼすの。もうこれ以上、私の想いが邪魔されないように…。」
勇者「ちょっと待て!だったら親父を殺せば済む話だろうが!それでもう…」
春菜「す、好きだから…無理。」
父は罪な男だった。

 

3-360:強豪〔13歳:LEVEL33〕
黄錬邪の動機は、なんともお粗末なものだった。なんだよ全ては親父のせいかよ。
こんなことなら聞くんじゃなかった。頑張るのが若干バカらしくなってきた感じだ。
勇者「とはいえ放っときゃ俺もヤバいし…仕方ない。まずは貴様を始末するか。」
春菜「魔神に気を張っている今、私は無力…そんな無抵抗な者に手を上げると?」
勇者「フッ、得意分野だ。」
春菜「ふぅ…困りましたね。また少し、力を割かなければなりませんか。」
勇者「おっと、そうはさせんぞ。二度も操られてやるほどお人好しでは…むっ!?」
勇者はとっさに飛びのいた。
なんと!背後に黒錬邪が現れた。
勇者「なっ…!?チッ、あのクソ賢二…しくじりやがったな!?あとで殺すっ!!」
春菜「生きていましたか黒錬邪…フフ、それは良かった。 さぁ、彼をお願いします。」
黒錬邪「・・・・・・・・。」

ドスッ!(刺)

〜帝都:帝牢〜
兵士A「な、なんてこった!この帝牢が何の手引きもなしに脱獄を許すなんて…!」
兵士B「しかも人知れず…!化け物かよ奴は!?」
紳士「…さすがだな。かつて凱空殿と並び称された程の実力者…「黒騎士:冬樹」。」
春菜の胸を槍が貫いていた。

 

第二十四章