第二十四章

 

3-361:惜別〔13歳:LEVEL33〕
どういうわけか、敵のはずの黒錬邪が黄錬邪の胸をブッ刺した。ドッキリの類か?
などと考えていると、黒錬邪は覆面を取った。この顔、以前どこかで見たような…。
春菜「な…なぜ…兄さん…が…ぐふっ!
勇者「ハッ、そうか貴様…!だがなぜだ、貴様は俺が倒し帝牢に送ったはず…!」
冬樹「起きたら外にいた。」
勇者「どんだけ末期の夢遊病患者だよ!寝ながら脱獄ってオイ!」
春菜「復讐…ですか…?かつてアナタを操り、悪へと導いた私への…。」
冬樹「もう終わりにしよう。兄として、お前の野望の幕を切るために…俺は来た。」
勇者「いや、引きに来いよ。もしくは下ろすか閉じるか。」
冬樹「だが、その幕が…見当たらない。」
勇者「たとえだよ!実物を探すな実物を!」
春菜「ハァ、ハァ…なんだかやっと…目が覚めたような…そんな気分…。」
冬樹「先に逝ったアイツらにヨロシクな。秋花と…あと…うん、アイツ。」
春菜「ご…ごめんね…お兄…ちゃん…みんな…。 ごめん…なさい…センパ……」
黒幕は途中退場した。
冬樹「…安らかに眠れ、春菜。 お前の不始末は…兄が責任を持って、片付けろ。」

将一「えっ…誰に命令!?」
将一は不意を突かれた。

 

3-362:行事〔13歳:LEVEL33〕
面倒だけ遺し、黒幕は逝った。まぁ手間が省けたし、黒錬邪はいい仕事したと思う。
ついでに知らぬ間に追いついて来ていた将一も押し付けてきた。頑張れ雑魚野郎。
〜学園校跡〜
勇者「ふーむ…なんとかここはわかったが、やはり島の頃と形が変わっ…ぐふっ!
勇者はとんでもないニオイに襲われた。
オナラ魔人が現れた。
勇者「ぐっ、この生きた公害め…!何しに来やがった…!?げふっ!」
オナラ「探していたよ少年。校長殿は今動けないのでね、私が用件を…伝えに…。」
勇者「なに、校長だと…?って貴様、血が…しかも相当の深手じゃないか雑魚め。」
オナラ「もう長くは無いでしょう、気にしないでいい。」
勇者「ああ、そのつもりだ。」
オナラ「それはそれで切ないな…。」
勇者「で?そんなお前が死をも恐れず伝えに来た用件はやっぱり超クサい。」
オナラ「五将の場所…だよ。一体は学校地下、残りは学校から…北に…東に…。」
勇者「こんなに形が変わっちまった今の状況で北も東もあるまい?マズいな…。」
オナラ「大丈夫…感覚が覚えているさ…。それが「学校行事」の…うぐぅ!」
勇者「学校行事…?あの先公ども、この日のために俺達をいろんな場所に…!?」
オナラ「私の「イモ園」、「六本森」、「地獄の雪山」、「六つ子洞窟」…そこ…に……」
勇者「…む?オイ、オナラ魔人…? オイッ!!」
返事が無い。
ただの汚物のようだ。

 

3-363:伝達〔13歳:LEVEL33〕
亡きオナラ魔人によると、他の将はかつて俺達が行ったことのある地にいるらしい。
言われてみると確かに、地形は変わっちゃいるがなんとなく道がわかる気がする。
だが、一人でなんとかなる距離でも相手でもない。手分けをする必要があるな…。
勇者「というわけだ、何か名案があったら発言を許可する。」
無線「えぇっ、勇者君!?ま、また知らぬ間に盗聴器やら無線やら仕掛けて…?」
勇者「どこに仕掛けたのかは聞かない方が幸せだぞ。」
無線「ど、どこだろう…。」
勇者「とりあえず、島にいる皆に状況を伝えたい。何かちょうどいい魔法はあるか?」
無線「え?んーと…〔狼煙〕とかどうかな?敵にも見えちゃうとは思うけど…。」
勇者「構わん、やってくれ。」
無線「わかったよ。で、何て伝えればいい?」

勇者「姫ちゃん…好きだ!」
勇者は本題を忘れている。

 

3-364:五人〔13歳:LEVEL33〕
数分後、五将の居場所を知らせる狼煙が立ち昇り…
そして―――。
冬樹「久々のお出掛けで気分がいい、まだまだのんびり…遊ばせてもらうぞ。」

義母「ハァ〜…なんか連戦とか超ダルいんだけどぉ〜?」

賢二「今度こそ…今度こそ年貢の…。」

武史「盗子…待ってろよ!邪魔者ブッ倒したら、すぐ迎えに行くからな…!」

勇者「さーて、ついに最後の戦いの…始まりだな。」

役者が出揃った。
冬樹「ん?」
義母「はぁ?」
賢二「あれ?」
武史「おっ?」
勇者「いや、揃ってどうする。」
散れ。

 

3-365:自由〔13歳:LEVEL33〕
行くべき場所は五箇所もあるのに、なぜか学校跡に集結してしまった俺達五人。
将一「ふむ、随分増えてしまったな。いくら俺でも分が悪いか…?やれやれだ。」
冬樹「久しぶりだな凱空の子。元気か?」
勇者「いや、お前の時間感覚ってどんなだよ。」
賢二「あっ!アナタはさっき、新しい黒錬邪さんを倒してくださった…!」
勇者「なにぃ?なんだやはりお前の手柄じゃなかったのかこの先天性役立たずめ。」
賢二「病気扱いって酷いな…。」
武史「盗子ー!待ってろよ盗子ぉー!!」
巨大父「ぬぐぉおお!い、急げ…急ぐんだ勇者…! もうダメだ、父さん…」
勇者「なっ、親父…!? どうかしたのか!?まさかもう限界が…!?」
巨大父「鼻の頭が痒い!」
勇者「我慢しろ!床屋に行ったらよくあることだ!」
冬樹「凱空…久しく見ぬ間に成長したな…。」
勇者「いや、それさっき俺が言った。」
義母「てゆーかぁ〜、超帰りたいんだけどぉ〜?」
勇者「そーいや…黄錬邪亡き今、もう押さえてなくてもいいんじゃないかコイツ?」
将一「フッ…いや、変わらず帝都を目指すさ。俺は他人が嫌がる事が大好きでな。」
勇者「チッ、なんて性格の悪い奴だ!親の顔が見てみたいぜ!」
賢二「ここ13年間の育ての親って…。」
武史「盗子ー!いたら返事してくれ盗子ぉー!!」
いい加減戦え。

 

3-366:自慢〔13歳:LEVEL33〕
人数が増えた勢いでうっかり忘れていたが、そういや今は世界のピンチだった。
いつも余裕な親父だが今回ばかりはマジで辛そう。いい気味だ…もとい、マズいな。
ゴゴゴゴゴゴゴ…!(揺)
巨大父「ぬぐぅ…!き、聞こえているか勇者よ!?早く五将のもとへと向かうのだ!」
勇者「ふむ、めんどくさい。」
賢二「今さらそれは無くない!?」
巨大父「くっ、頼むぞ…倒せとは言わん、とりあえず五将達の気をそらしてくれ…!」
賢二「そ、そうか!本体は五つの脳で操るわけだから、そっちが戦闘中なら…!」
巨大父「その隙に私は鼻を…!」
勇者「ってそっちかよ!まだ諦めてなかったのか!」
冬樹「凱空の言う通りだ、ここは俺に任せて行くがいい。他の二人はもう行ったぞ。」
勇者「カマハハは家に帰ってそうだがな。」
賢二「武史さんも目的が違ってそう…。」
将一「人間風情が一人で俺と…フッ、面白い。その自慢の腕、見せてもらおうか。」

冬樹「ん。(両腕を前に)」
将一「いや、比喩的な意味で。」
任せていいのか不安だ。

 

3-367:対峙〔13歳:LEVEL33〕
で、気を取り直して―――。
〜学園校跡〜
将一「やっと体が温まってきたな…。さぁ、いこうか。」
冬樹「ん、どこへ…?」

〜イモ園跡〜
将二「フッ、よく来たな女…いや、男か?変わった生き物め。」
義母「アンタに言われたくないしぃ〜。」

〜六つ子洞窟跡〜
将三「なんだよオイ、貴様ごときが一人で来たのか?アホなのか?」
賢二「ですよね…。」

〜六本森跡〜
将四「勇者の記憶と照合するに…貴様がシスコン兄貴か。キモッ。」
武史「盗子のニオイがする…。アイツは、そう遠くねぇ!」

〜地獄の雪山跡〜
将五「…アレ?」

ふ〜む…迷った。
頑張れ主人公。

 

3-368:名前〔13歳:LEVEL33〕
〜学園校跡〜
将一「むぅ…なかなかどうしてやりやがる。お前ほどの男がどうして埋もれていた?」
冬樹「好きなんだ、砂場。」
将一「ホントに埋もれてたのか。しかも自主的に。」
冬樹「俺は冬…しんしんと降り積もる雪…。熱くギラギラたぎるのは、ガラじゃない。」
将一「だからひっそり陰に生きてきたと?フン、名へのこだわりか…実にくだらん。」
冬樹「夏生まれ。」
将一「お前の親はもっとこだわるべきだったな。」
冬樹「特に執着の無い名前だが、貴様を倒し…最期にでっかく遺すのも悪くない。」
将一「フッ、言いやがる…って執着無かったのかよ。」
冬樹「食らうがいい魔神。この技を食らって生き延びた者は、今までいない。」
将一「ほぉ、面白い…!見せてみるがいい!」
冬樹「そんな技をたった今編み出した。」
将一「そりゃあ死んだ奴もいないだろうよ!」
冬樹「それじゃあいくぞ。黒騎士槍術、新奥義………お、「思い突き」。」
冬樹は思いつかなかった。

 

3-369:余裕〔13歳:LEVEL33〕
〜イモ園跡〜
将二「意外と厄介だなその大鎌…。よくそんなのをその速さで振り回せるもんだ。」
義母「べっつにぃ〜?」
将二「勇者には隠していたようだが、相当の実力者だったと見える。」
義母「だ〜からぁ〜?」
将二「その調子でずっとやられると結構傷つくんだが。」
義母「てゆーかアンタ超ウザいんだけど〜。超ダルいしぃ〜。」
将二「…フッ、余裕ありげに振る舞うのもいいが…バレてるぜ?貴様手負いだろ?」
義母「さっき爆弾でバリ空飛んだってゆーかぁ〜?超ハイなんだけど〜。」
将二「認めてる割に余裕に聞こえるのはナゼなんだ…。」
義母「ハァ〜超めんどいけどぉ〜、今回はアタシも…負けられないってゆーかぁ〜。」
将二「ほぉ、母代わりのカマ野郎の分際で、いっちょまえに親心か?」
義母「急がないと…」
将二「なにやら…わけありのようだな。」

義母「ドラマの再放送がぁ〜。」
あればいいってもんじゃなかった。

 

3-370:必勝〔13歳:LEVEL33〕
〜六つ子洞窟跡〜
将三「・・・・・・・・。」
賢二「ハァ、ハァ、なんとか、生きてる…!」
将三「お、お前…そんな逃げの魔法ばっか達者になって何がしたいんだ…。」
賢二「生きたい…。」
将三「こ、この俺が罪悪感を覚えるとは…ある意味恐ろしい奴よ。」
賢二「なんとか時間を稼げば、勝った人が助けに来てくれるかも…それまでは…。」
将三「フッ、甘い考えだ。 どれだけ待っても助けは来ない。悪は…必ず勝つのだ。」
賢二「だ、だったら…!」
将三「だったら…?」

〜その頃〜
勇者「へっくし!」
勇者はアテにされた。

 

3-371:無視〔13歳:LEVEL33〕
〜六本森跡〜
将四「フフッ、どうしたシスコン?随分息が上がってるようだがもうお疲れか?」
武史「悪いな…少し、遅れそうだぜ盗子…。」
将四「いい加減相手してくれないとスネるぞコラ。」
武史「…ま、安心しろ。本気でやっても厳しい相手だってのはわかってるつもりだ。」
将四「厳しい…?全然わかってないじゃないか。お前じゃ「勝てない」…だ。」

武史「待ってろよ、盗子…!」
将四「こっち見ろよ泣くぞオイ。」
心理戦なら勝ちだ。

 

3-372:直感〔13歳:LEVEL33〕
役割分担して颯爽と飛び出したはいいものの、華麗に迷った。雪山は一体どっちだ。
あっちに明らかに怪しい白い山の頂が見えるが、あからさま過ぎてなんだか怪しい。
目的地は敵の体の一部でもある…罠を張る気なら簡単にできると俺は思うのだ。
というわけで俺は自分の直感を信じ、ひたすら走り…そして、やっと辿り着いた。

〜イモ園跡〜
将二「…ん?」

うん、まぁ…いいかな。
勇者は〔妥協〕を唱えた。

 

3-373:敗北〔13歳:LEVEL33〕
雪山を探していたつもりが、辿り着いたのはどう見…どう嗅いでもイモ園の跡地だ。
一体なぜだ…とも思ったが、コイツも将には違いないのでOKとすること決めた。
勇者「やれやれ…ここにはカマハハが来てるはずなんだが、奴はどうした?」
将二「あぁアイツか…フッ、アレは死んだよ。そこそこいい線いってたんだがなぁ。」
勇者「そうか。」
将二「え、いや、軽っ。」
勇者「相手が魔神じゃ死んでも意外じゃない。そもそも奴が強いって方が意外だ。」
将二「でもホラ、いつ〜とかどうやって〜とか、色々聞きたくなるのが人情だろう?」
勇者「そうか?」
将二「なんて非情な…いや、察しがいいのか?フッ、そうさ奴は死んじゃいない。」
勇者「そうなのか?」
将二「本心だったのか…。」
勇者「…ちなみに奴は、どこに?」

将二「家に…。」
将二はドラマに負けた。

 

3-374:始動〔13歳:LEVEL33〕
状況的にさすがに真面目にやってるかと思いきや、全然やってなかったカマハハ。
失った力をどう補うかまだ全然わからん俺にとっては結構ピンチだ。どうしたものか。
将二「さて…貴様の義母のせいで退屈していたんだ、せいぜい遊ばせてもらうぞ。」
勇者「フン、この遊び人め。」
将二「いや、印象悪い言い方するなよ。」
勇者「ふぅ…。困った状況だが、しばらく待てば勝った誰かが加勢に…と信じたい。」
将二「フッフッフ、そうのんびりと…していられるかな?」
その時、再び大きな地震が起きた。
ズゴゴゴゴゴゴゴ…!(大揺)
勇者「なっ!?こ、この揺れは…まさか…!」
巨大父「ぬぉおおお!?し、しまった…!ダメだ、もはや押さえきれん…!」
勇者「そ、そうか!魔法力が切れちまったのか!」
巨大父「いや、シリアスモードが…!」
勇者「死ねっ!!」
父「す、すまん勇者…!あとは、頼んだぞぉー!!ぃやっほぉおおおぉぉぉぃ…!」
そして魔神は動き出した。

 

3-375:秘策〔13歳:LEVEL33〕
シリアスモードの限界で、ついに力尽きた親父。一気に縮んで海の藻屑と消えた。
動き出した魔神は、本気なら音速らしいが、将が戦闘中だからかそこまででもない。
が、やっぱりそれなりに早い。放っておいたら数時間で帝都まで届きそうな勢いだ。
将二「さぁ、来るがいい。「勇者」の実力、とくと味わわせてもらおうじゃないか。」
勇者「フン、お前にゃわかってるだろ?俺は魔力を失くした身だ、満足には闘えん。」
将二「ほぉ…意外にも身の程はわきまえているらしい。そうとも今の貴様じゃふっ!
勇者の先制パンチ。
勇者「いや、違うんだ。蚊が。」
将二「ならなぜ「グー」だ!?」
勇者「カマハハが抜けた今、将が一匹余っている。面倒だが…急がなきゃなぁ。」

〜その頃〜
将五「ふぅ〜…やるなぁ小娘。 だが、戦法が不自然に多様すぎる。」
少女「・・・・・・・・。」
将五「それに見ない顔だ、貴様…一体何者だ?」
少女「…アタシ?」

少女「私のことは、「姫盗観(ひとみ)」さん…とでも呼ぶれすよ。」
姫のバクチは成功していた。

 

外伝(玖)