第十六章

 

3-241:漂着〔13歳:LEVEL33〕
目が覚めると、俺は見知らぬ浜辺に打ち上げられていた。ここは一体どこなんだ?
あの後、定員オーバーの脱出船は海面に激突。俺はなんとか脱出したわけだが…。
勇者「誰も…いないか。どうやら散り散りになっちまったようだな…やれやれだ。」
声「アーーーーッ!勇者だ!勇者だー! ぃやったぁー!会えたよ嬉しいよぉ〜!」
勇者「姫ちゃんが心配だ…いや、彼女なら無事なんだろうが、しかし…。」
盗子「って無視しないでよ!この際無事を喜んでとは言わないからさぁ!」
勇者「なんでお前なんだ…。」
盗子「だからってそれはあんまりだよ!」
勇者「他に生き残りは?潮の流れから見るに、他にもいてよさそうな感じだが。」
盗子「あ、うん!賢二には会えたよ! でも、他のみんなは…見つかんなくて…。」
勇者「3人か…少々心もとないが仕方ない。すぐに向かうぞ、準備をしろ。」
盗子「えっ、向かうって…どこに?」

勇者「晩飯だ。」
何が心もとないのか。

 

3-242:晩餐〔13歳:LEVEL33〕
その後、宿で休んでいた賢二と合流し、俺達は晩飯を求めて街へと繰り出した。
腹が減っては戦もできん。当然のごとく金は無いが、その辺は経験でカバーだ。
勇者「いい香りだな…よし、ここにするか。3人じゃ不安だが、まぁなんとかなるか。」
賢二「えっと、だからどこに不安がる要素があるの?って、まさか…襲う気?」
勇者「いや、食いきれるかなと。」
盗子「どんだけ食う気だよ!食い尽くす勢いで臨む必要性がどこにあんの!?」
勇者「バカ野郎!丹精込めた料理を残されたら、店主も浮かばれんだろうが!」
盗子「やっぱり襲う気なんじゃん!襲う前から故人扱いかよ!」
勇者「細かいことは気にするな。よし、行くぞ!」
勇者は店内に押し入った。
血子「…ゲプッ。」

盗&賢「うわぁーーーっ!!」
店主は故人だった。

 

3-243:盲点〔13歳:LEVEL33〕
店ごと食い潰そうと定食屋に乗り込んでみたら、血子の晩餐の真っ最中だった。
だがおかしい。血子は商南が「宇宙便」で宇宙に売り飛ばしたと聞いたんだが…。
血子「わっ…ダーリンだ!ダーリンだー! ぃやったぁー!会えたよ嬉しいよぉ〜!」
勇者「だ、抱きつくな血子!せめてその口元の赤いのを拭ってからにしろ!」
盗子「そーだよ離れろよ!なにさキャーキャー騒いじゃってさ!ウザッ!超ウザッ!」
勇者「さっきのお前と丸カブりだしな。」
盗子「Σ( ̄□ ̄;)!!」
賢二「と、ところで!血子さんは何してたの?」
血子「ゲプッ…え?」
賢二「あ、いや…もうわかったからいいや…。」
勇者「やれやれ…まぁいい、とりあえず飯にするぞ。奥で作り置きも見つけたしな。」
盗子「えっ!食べてくの!?この猟奇的環境でどうやって食欲を保てと!?」
血子「大丈夫だって♪みんなで食べればどこで食べたって美味しいもんだよ☆」
賢二「みんな…か。あれだけいたのに今は…。それに、それに先生は…うぅ…!」
勇者「ッ!! …やはり食事はヤメだ。全員戻って、明日に備えて眠るがいい…。」
バタン!(扉)
勇者は出ていった。
血子「え?え?どしたのダーリン?血子に恋焦がれすぎて胸焼けしちゃったとか?」
賢二「ご、ゴメン…。 辛いのは、みんな同じなのにね…。」
盗子「勇者…。」
勇者は茶碗が持てない。

 

3-244:検討〔13歳:LEVEL33〕
夜が明けた。だが光は右からしか差し込まん。清々しくない…やはり左目は必要だ。
片手だと飯もうまく食えん。だから左腕も必要だ。早急になんとかせねばなるまい。
勇者「というわけで、この動かん左腕と左目をなんとかしたいと思う。案は無いか?」
賢二「ん〜…やっぱり病院かなぁ?お医者さんなら何かわかるかもしれないし。」
勇者「ひねりが無い。」
賢二「えぇっ!?ボケとか必要なとこなの!?」
血子「じゃあさ!血子が愛のパワーで奇跡を巻き起こし、でもその代償に血子は…」
勇者「後者だけ採用。」
血子「えぇっ!?無駄に死ねと!?」
勇者「盗子は黙っとけ。」
盗子「えぇっ!?」
勇者「やれやれ…仕方ない、病院を探すか。」
賢二は納得がいかない。

 

3-245:軟派〔13歳:LEVEL33〕
無難でつまらんが、特にいい案も浮かばないので大人しく病院に向かうことにした。
昨日無かった金が今日あるはずもないのだが、そこら辺もやはり経験でカバーだ。
勇者「というわけで、俺の体をとっとと治すがいいヤブ医者めが。」
医師「誰がヤブ医者かね初対面の…おや?キミ、以前にどこかで会ったかな?」
勇者「フン。そんなコテコテの口説き文句じゃ、お茶くらいしかご馳走にならんぞ。」
盗子「意外とその気じゃん!って、そもそもナンパじゃないしね今の!?」
賢二「というか、あれ…?アナタは確か、ギマイ大陸の病院で会った…。」
相原「ふむ、どうやら記憶は戻ったらしいな。良かったじゃないか、蒼き少年。」
第二の死神が現れた。
勇者「なんだ賢二、知り合いか? まぁいい、死にたくなくば早く診やがれ殺すぞ!」
相原「記憶が蘇ったというか…「封印が解かれた」と言った方が相応しいかな…?」
盗子「あ、そういえばあの時の勇者はホントは勇者じゃなかったんだよね。」
相原「いや、今の方が「勇者」らしくない気がするが。」
勇者「いいか、最後の忠告だ。3分以内に俺を治せ!ただし、注射は抜きだ!」
勇者の弱点がわかった。

 

3-246:法外〔13歳:LEVEL33〕
病院で会ったマッド・サイエンティストっぽい医者は、賢二らの知ってる奴らしい。
盗子によるとかなりのヤブだって話だが、とりあえず診せるだけ診せてみることに。
相原「ふむ、漆黒の腕か…これは興味深い。よし、とりあえず何か注射してみよう。」
勇者「ちょっ…!ちょっと待て!寄るなクソ野郎!ブッた斬るぞ!?」
相原「やれやれ情けない。その歳で注射が怖くて「勇者」がやっていけるのかね?」
勇者「そうじゃねーよ!何よりも今引っ掛かってるのは「とりあえず」と「何か」だ!」
相原「これはどうやら、詳しく調べる必要がありそうだ。その左目も同じ状態かね?」
勇者「ああ。いつからかまぶたも上がらん状態だ。視界が悪くてたまらんぞ。」
相原「腹も?」
勇者「腹は黒くねーよ失敬な!」
相原「あらかじめ言っておこう。私の治療費は法外だが…大丈夫かね?」
勇者「ああ、何の問題も無い。」
勇者の支払いも法外だ。

 

3-247:治療〔13歳:LEVEL33〕
そして治療は始まった。ヤブとはいえ医者…生意気にも考えは色々あると見える。
相原「まずはとりあえずレントゲンを撮ろうか。さぁ好きなフレームを選んでねっ。」
勇者「どんだけファンシーなレントゲンだよ!診察に遊び心なんて皆無だろうが!」
血子「だ、ダーリン!血子も!血子も入るぅ〜!」
盗子「ちょっ、フザけんなよ!勇者とのツーショットはアタシが…!」
賢二「いや、写るの骨だよ…?」

〜一時間後〜
相原「よし、次は電気を流してみよう。」
勇者「ちょっと待て!なんで病院にこんな拷問器具まがいのモノが!?」
相原「まがいとは失敬だねキミ。」
盗子「アンタが失敬だよ!」

〜二時間後〜
相原「よし、押してもダメなら引いてみよう。」
勇者「俺は扉か何かかよ!なんだその思いっきり間違った発想の転換は!?」
相原「若干飽きてね…。」
血子「こっちが引くわ!」

〜三時間後〜
相原「…やっぱり風邪です。」
一同「待てぇーーい!!」
賢二は途中で読めてた。

 

3-248:心当〔13歳:LEVEL33〕
結局ヤブ医者は何の役にも立たなかった。一瞬でも期待した自分が恥ずかしい。
勇者「やれやれ…散々付き合わされた結果がこれかよ…。貴様ホントに医者か?」
相原「いや、医学で解明できない…つまり「病」ではないのだ。恐らくは、「呪い」。」
勇者「チッ、やはりか…。ったくなぜ俺の人生にはこうも呪いが付きまとうんだ。」
盗子「だ、大丈夫だよ勇者!いつか全ての呪いから解放される日が来るって!」
勇者「じゃあ消えてくれよ。」
盗子「えぇっ!?アタシもそっち側!?」
賢二「呪いかぁ…どうしようか勇者君?また色々旅しながら情報集めて回る?」
勇者「いや、なんだか胸騒ぎがする。早々に治さんとヤバくなりそうな予感が…な。」
相原「んー…じゃあ南へ向かうといい。私は専門じゃないが、“彼”ならあるいは…。」
血子「彼…?オジちゃん何か心当たりあるの?」
相原「「呪術師」の「解樹(かいき)」…あの男なら、何かわかるやもしれん。」

じゅじゅちゅ師…か。
勇者はうまく言えない。

 

3-249:餞別〔13歳:LEVEL33〕
ヤブ医者が言うに、俺の体を治せそうな予感がしないでもない男は南にいるらしい。
勇者「目指すは南か…。だがギマイ大陸まで戻るとなると、結構かかりそうだなぁ。」
相原「「電列車」で行けば近いものさ。まぁ行けるのは…キミ一人だけだが、ね。」
勇者「…あん?それはなぜだ?」
相原「50銀になります。(約50万円)」
盗子「ってやっぱ金取んのかよ!アレで!?あの体たらくで!?しかも超高いし!」
相原「大丈夫、ちゃんと働いて返せるシステムになっている。」
賢二「そんなシステムがあるほど日常茶飯事なんですね…。」
相原「ところで前にあげた丸薬はどうしたかね?まぁ飲んでたら生きてはいまいが。」
勇者「そんな物騒なモノをよこすなよ!その頃のことは俺は知らんが!」
相原「だが今回のは自信作だ、持っていきなさい。きっと何かの役に立つだろう。」
勇者「何の役に立つかをあらかじめ説明してくれ!薬ってそういうモノだろ!?」
相原「まぁ困った時に飲みなさい。きっと、何かが起こる。」
勇者は途中で捨てた。

 

3-250:郷愁〔13歳:LEVEL33〕
雑魚どもは医者に拉致られたので、俺だけで発つことになった。久々の一人旅だ。
「電列車」ってのに乗るのは初めてだが、問題なく乗り込めた。さすがは俺だぜ。

車掌「えー、ようこそ「最強線」へ。早速みなさまには、殺し合いをしてもらいます。」
急にふるさとの香りが。

 

3-251:犯罪〔13歳:LEVEL33〕
乗り込んだ電列車の名は、「最強線」とかいうらしい。なんとなく展開は想像できた。
車掌に聞くと、はり予想通り。各車両につき1人だけが生き残れるシステムらしい。
まぁいい、どうせ道中の予定も無かったし、ちょうどいい暇潰しだと思って諦めよう。
ハァ…。まったく、なんでわざわざ高い金払っ…てないから怒るに怒れない。
無賃乗車は犯罪だ。

 

3-252:待機〔13歳:LEVEL33〕
そうこうしている間に、車内では雑魚どもが何人か戦い始めた。せっかちな奴らめ。
俺はというと、子供だからかターゲットから外されているっぽい。うむ、ナメやがって。
まぁ数日前には神と戦った程の俺だ、今さら人間ごときに剣を振るいたくはない。
というわけで、しばらくは弱者のフリして身を潜め、最後の一人を仕留めるとしよう。
男A「ハァ、ハァ、貴様で…最後だ!死ねぇーー!!」
男B「死ぬのは貴様だぁーーー!!」
ザシュッ!(斬)

両者「ぐはぁっ!!
勇者の出番は無かった。

 

3-253:余裕〔13歳:LEVEL33〕
様子見してる間に雑魚どもの潰し合いは勝手に完了し、自動的に俺が勝ち残った。
面倒はごめんと思ってはいたが、少しは覚悟していただけにこれじゃああんまりだ。
到着にはまだ時間が掛かりそうだし、他の車両の様子でも見に行ってみるとしよう。
何人いたところで皆どうせ雑魚だ、茶でも飲みながら余裕で殲滅しようじゃないか。
ガラガラガラ…(扉)

邪神「…む?」
うぉーーーー!?
勇者は鼻から噴いた。

 

3-254:混乱〔13歳:LEVEL33〕
暇潰しに覗いた隣の車両には、なんとあの「邪神」が普通にいた。普通に座ってた。
誰に会っても眉一つ動かさん自信のあった俺だが、さすがにこれにはブッたまげた。
いや、ちょっと待ておかしいだろ。どう考えてもこの状況で出てきちゃダメな奴だろ。
邪神といえば魔神に次ぐ、世界第二の脅威…もっとこう、派手な登場であるべきだ。
列車の中でハイこんにちは〜みたいな、そんな気軽なノリで出会えちゃダメなんだ。
ま、まぁいい。とにかく今はアレだ、この状況をどう乗り切るかを考える方が先決だ。
片目片腕の状態では力の差は歴然…今コイツとやり合うのはとっても都合が悪い。
ここはなんとか誤魔化して、戦わないで済むような方向に持っていくしかないのだ

が、無理そうだ。
邪神はガン見している。

 

3-255:販売〔13歳:LEVEL33〕
誤魔化そうにも明らかに正体がバレてる感じの今日この頃。うん、死ぬかもしれん。
邪神「き、貴様は以前、寝起きのわらわを瀕死に追いやった…!」
勇者「い、いや、人違いだ。俺はただの通りすがりの…車内販売員だ!」
邪神「む?なんじゃそうなのか。ならば茶でももらおうかの。少々喉が渇いたわ。」
勇者「(お、アホなのかコイツ…?)茶か…悪いが品切れ真っ最中だ。」
邪神「なぬ?では仕方ない、コーシーとやらでいい。一度飲んでみたかったでの。」
勇者「それも無い。」
邪神「な、なんじゃと…?では何ならあるというんじゃ?売り物は無いのか?」

勇者「んー、油?」
邪神「働け!!」
喧嘩も売ってる。

 

第十七章