第一章

 

3-16:開会〔13歳:LEVEL26〕
夕方。 武術会の会場に着くと、ちょうど開会式が始まるところだった。
開始時間が遅いのは、今日は予選だけで本戦は明日やるからという話だ。
芋子「よく来たわね愚民ども。まぁせいぜい頑張ればいいと思うわ。」
主催者の無礼な挨拶も5秒で終わり、早速予選に入ることになった。
見た感じ参加者は400人前後。本戦には8人が進出できるシステムらしい。
参加者を八等分し、バトルロイアル方式で戦わせ、各組から一人選出するようだ。
芋子「あ。ちなみに、副賞は芋一年分の他に賞金1000銀(約1000万)だから。」
そのせいでか、オッサンや女の姿も多く見られる。恐らく嫁目当ての奴はいまい。
まったく、これじゃ何のために俺が…。 ま、暇つぶしくらいにはなるか。
盗子は暇つぶしに負けた。

 

3-17:開戦〔13歳:LEVEL26〕
開会式も終わり、早速予選が始まった。時間は無制限、決着がつくまでらしい。
敵の数は約50…まぁ1対50ってわけでもないし、適当に頑張ればやれるだろう。
放送「あ〜。んじゃ、まぁぼちぼち始めていいわよ。 は〜い、カァ〜〜ン。」
一同「えっ?あ…う、うぉおおおおお!!」
勇者「なんつー適当な…あぁ、予選ごときだから適当でいいのか。」
男A「ガハハハ!よそ見してる暇があんのか小僧ぉー!?」
勇者「…貴様の名は?」
男A「俺か?俺の名は「ザッコ」!テメェの名ばぶしゅ!!
勇者「忙しいんだ、地獄で閻魔に聞け。」
男B「な、なんて容赦の無い奴なんだ!太刀筋に全く迷いが無かべぶっ!!
勇者「俺の名は勇者。命が惜しい奴は俺に近づくな。」
男C「渋った割にアッサリ名乗ってるし!さっきの奴も浮かばれなはばっ!!
勇者「あ〜も〜めんどくせぇ!! テメェらまとめてかかってきやがれ!!」
1対50の戦いが始まった。

 

3-18:逃避〔13歳:LEVEL26〕
なんとなくで暴れてたら、気づけば俺が全員相手するような構図になってしまった。
が、大半の奴らはビビッたらしく、数人を残して逃げていった。これなら楽勝か。
勇者「フン。俺の戦いっぷりを見てなお残るとは、いい度胸の奴らもいたもんだな。」
男D「ふっ、逃げるなんて大の大人がやることじゃないさ。」
勇者「ほぉ、わかってるじゃないか。お前の名は?」
男D「僕は「ニート」の「新人(にいと)」。戦ったら負けかなと思ってる。」
勇者「なら何しに来たんだよ!?つーかお前「現実」から逃げてんじゃねーか!」
新人「恥じたら負けかなと思っでぶっ!!
勇者「次ぃ!!」
男E「も、漏れは「萌え師」の「アキ」。芋子たん萌え〜!邪魔する香具師は氏ね!」
勇者「…そんな貴様の、真の職業は?」
アキ「もちろんニーぐぇっ!!
勇者「平穏だ…!平穏な日々が世の中を、こんなにしちまったんだ!!」
勇者は社会を斬った。

 

3-19:恐怖〔13歳:LEVEL26〕
残った奴らも雑魚ばかり。どうやら予選は予想通り余裕でいけそうだ。
勇者「残りは三人か…こりゃ楽勝だな。お前らも死にたくなけりゃ今のうちに…」
少年「ゆ、勇者クン…。」
勇者「おいコラ。初対面の分際で馴れ馴れしく呼ぶんじゃねーよ雑魚が。」
少年「知らないよね…。 ボクは「小太郎」、「村人科」でもキミは有名人だったよ。」
勇者「しょうたろう?なんだお前、学園校の出身なのか?まぁ全く知らんが。」
小太郎「ちなみに職業は…「同・性・愛・者」☆」
勇者「ちょっ、な゛、なんだその職業は!?そしてそのちょっと潤んだ瞳は!?」
小太郎「ゆっ…勇者クン☆ ぼっ、ボクの愛を受け取っt」
ザシュッ!(斬)
勇者「よ、寄るな!悪いが…いや、ちっとも悪くないが俺にそっちの趣味は無い!」
小太郎「ぐふっ…だ、大丈夫…もう慣れてるもん。ボクは、傷つくのを恐れない!」
勇者「俺が恐れてるよ!敵にこれほど恐怖を覚えたのは生まれて初めてだぞ!」
小太郎「心配しないで。勇者クンも、目覚めればきっと…。」
勇者「お前が目を覚ませよ!だからそんな輝いた目で俺を見るなよ!!」
小太郎「初恋…なんだ…。」
勇者「・・・・・・・・。」


ザザシュッ!(斬)
初恋は叶わない。

 

3-20:双子〔13歳:LEVEL26〕
戦闘とはまた別の恐怖を味わった俺。心の傷として残らねばいいのだが…。
勇者「で、あと二人…のようだが、貴様らは見るからに双子のようだな。名は?」
少女A「うふふ☆ えっと、こっちがポルカであっちがワルツだったかしら?」
少女B「あれれ?あっちがワルツでこっちがポルカなんじゃなーい? うふふ☆」
勇者「興味無い。」
双子「聞いておいて!?」
勇者「俺の名は勇者。女に手を上げるのは不本意だが、敵とあらば容赦はせん。」
少女A「初めまして勇者様。私は「舞士(まいし)」の「ワルツ」♪」
少女B「初めまして勇者様。私は「楽士(がくし)」の「ポルカ」♪」
勇者「二人合わせて「雑魚姉妹」!」
ワルツ「勝手に合わせられました!」
ポルカ「しかもとっても失礼に!」
勇者「くだらん挨拶はいい。とっとと来いよ、サンバとルンバ。」
ポルカ「間違えられました!より双子っぽい名前に!」
ワルツ「どっちがどっちか気になっちゃう!」
勇者「どっちもどっち。」
双子「とっても酷い!!」
ホントに酷いのはこれからだ。

 

3-21:泥棒〔13歳:LEVEL26〕
最後に残っていたのは双子の姉妹。どっちがどっちかわからんが、どうでもいい。
勇者「ところでお前ら、勝ち進んでどうすんだ?予選はともかく本戦は一対一だぞ。」
ポルカ「うふ☆ ご心配なく勇者様。戦闘するのはワルツちゃんだけなのです。」
ワルツ「だけなのです♪」
勇者「ウザいのです。」
双子「酷いのです!」
勇者「なるほど、片方は戦闘補助系なわけか。」
ポルカ「そうなのですよ。 ポルカが奏でて♪」
ワルツ「ワルツが踊る♪」
勇者「そして俺がサビだけ歌う!!」
ワルツ「困りました!この方、一番オイしい所だけ勝手に持ってっちゃいます!」
ポルカ「しかもサビだけって!歌詞は無いとは言いにくい雰囲気です!」
勇者「だがまぁアレだな。おかげで倒すべきは一人だとわかって安心したぞ。」
双子「あれれ?でも勇者様、どっちがワルツちゃんかわかるのかしら?ふふふ☆」

勇者「楽器の無い方。」
双子「困りました!!」
今までどうしてたんだ。

 

3-22:新技〔13歳:LEVEL26〕
数分後。雑魚と思われた双子だったが、意外にもやるようで少々手こずっていた。
勇者「チッ、狙いが定まらん…!なぜだ、動きが…!」
ワルツ「あら、危ないですよ勇者様? ボーッとしてると…」
ビシュッ!(斬)
勇者「くっ! 攻撃力はそうでもないが、こう何発も食らうと…しかし…!」
ポルカ「あれれ?どうしたのかしら?まさか体の感覚がおかしいとか?うふふ☆」
勇者「…そうか、貴様の出す音色のせいだな?ただの戦闘補助じゃないわけだ。」
ポルカ「気づかれちゃいました♪でも今さら気づいても(バリンッ!) …え?」
ポルカの楽器が砕け散った。
勇者「やれやれ。まさか予選ごときで、この技を使うハメになるとはな…。」
ポルカ「そ、そんな…!音も無く…!?」
ワルツ「そ、それって、まさか…!」
勇者「フッ、そうさ…。」

勇者「「消音マシンガン」だ。」
ちっとも技じゃなかった。

 

3-23:健闘〔13歳:LEVEL26〕
楽器は壊した。「勇者」として、予選なんぞにこれ以上時間は掛けられない。
勇者「俺に感謝しろよお前達。今後は二度と、二人が間違われることは無い。」
ワルツ「顔です!顔を狙ってます!マシンガンで整形なんて初めて聞きました!」
ポルカ「というか普通に死んじゃいます!」
勇者「やはり最後は、サイレンサー付きじゃキマらんよな。派手に散るがいい!」
ダダダダダダダダッ…!(連射)
ワルツ「わわわわっ…! はぁーーーっ!!(舞)」
ワルツは華麗な踊りで弾をいなした。

全弾観客席に飛び込んだ。
勇者「なにっ!? チッ、ならば楽士の方が先に逝け!」
ダダダダダダダダッ…!(連射)
ポルカ「わわわわっ…! ふぅーーーっ!!(吹)」
ポルカは衝撃波で弾をはじいた。

全弾観客席に飛び込んだ。

 

3-24:真力〔13歳:LEVEL26〕
どうやら俺は、予選を甘く見すぎていたようだ。このままでは俺の威厳が…。
ちなみに観客席は、奴らがはじいた流れ弾のせいで血の海と化していた。
ワルツ「うふふ☆ とっても甘いのですね勇者様♪ケーキかと思っちゃいました。」
ポルカ「うふふ☆ 私達、半端な攻撃は効かないのです♪」
勇者「…そうか。ならば貴様らには、この剣の真の力を見せてくれよう。」
勇者は魔力を込めた。
魔剣からドス黒いオーラがほとばしる。
ポルカ「わわわ!なんだかお名前にそぐわないお姿ですよ勇者様!?」
ワルツ「う、噂どおりでした…!「勇者」でありながら魔力を操る悪魔の子…!」
勇者「もはや貴様らに勝ちは無い。覚悟しろ! いくぞ!えっと名前は…」
ワルツ「ワルツです!」
ポルカ「ポルカです!」
勇者「そうだった、いくぞウ●コとチ●コ!!」
双子「ちゃんと聞いてぇーーー!!」
勇者「隙ありぃ! 食らえ刀神流操剣術、十の秘剣「十刀粉砕剣」!!」
双子「あっ…! あぁああああああっ!!
双子は咄嗟に防御した。
だが防御しきれなかった。

双子は大ダメージを受けた。
勇者は勝利した。

 

3-25:取引〔13歳:LEVEL26〕
予想外に手こずったため気分は良くないが、とりあえず予選は突破した。
本戦は明日なので、今日のところは大人しく宿で英気を養うことにしよう。
勇者「ここが本戦出場者用の宿か…。皇族が取ったにしてはショボい宿だな。」
暗殺美「まぁタダなんだから文句は言えないさ。屋根があるだけまだマシさ。」
勇者「って、なんでお前まで来てんだよ?参加者以外が泊まれるわけないだろ。」
暗殺美「そんなのアンタが宿主に土下座すれば済むことさ。」
勇者「誰がするか!俺は卑屈と盗子が大嫌いだ!」
姫「私は窓際のベッドがいいよ。」
勇者「安心しろ姫ちゃん、キミのためなら俺は店主を説得するぞ。死なない程度に。」
暗殺美「いつの間に来たのさ姫?買いたいモノってのは買えたのかさ?」
姫「あ〜、忘れてたよ。何を買いたかったのかな?」
暗殺美「そっちかさ!そんな根本から忘れるなさ!」
勇者「ま、姫ちゃんもいるなら暗殺美もいっか…。ん?そういや商南はどうした?」

〜その頃〜
少年「すみませんお嬢さん。勇者殿のお仲間とお見受けしますが…いかがです?」
商南「あん?誰やアンタ?せやったらどーやねん?」
少年「なに、ちょっとしたお願いですよ。この薬を、彼の食事に盛ってくれればいい。」
商南「コレは…そか、アンタさっきの予選見てアイツにビビッたクチやな?」
少年「十分な報酬は支払います。明日の勝利を買うと思えば安いものです。」
商南「ふぅ〜…アンタ、なんかウチのこと誤解しとるんと違うか?」
少年「誤解…ですか?」

商南「ウチん仲間は、コイツ(金)だけやで。」
勇者はアッサリ売られた。

 

3-26:失敗〔13歳:LEVEL26〕
俺のために用意された部屋に、姫ちゃんと、仕方なく他二人も泊めてやることに。
明日は大事な試合なので、晩飯を食ったら風呂に入って早めに寝るようにしよう。
〜食堂〜
勇者「ほぉ、宿はイマイチだがメシはなかなかじゃないか。期待できそうだ。」
姫「オバちゃん、ハチミツあったら欲しいよ。」
暗殺美「ちょっ、姫!ご飯にハチミツってアンタどんなセンスさ!」
姫「違うよ暗殺美ちゃん、かけないよ。 飲むだけだよ。」
暗殺美「それはそれでどんなセンスさ!」
商南(この超強力下剤入りスープ…こんなん飲んだら明日は一日ピーピーやで。)
勇者「さて、じゃあ次はスープでもいってみるか。コイツもうまそうだ。」
商南(ニヤリ)
姫「あ…。 私もそっちの赤いスープが良かったよ。勇者君いいなー。」
勇者「む?だったら交換してやるぞ。そっちの緑のもうまそうだしな。」
商南「(なっ!?)
姫は下剤入りスープを飲んだ。
姫「ふぃ〜、美味いよ。私の睨んだ通りだったね。」
勇者「そりゃ良かった。他にも欲しいのがあったら何でも譲っちゃうぞ。」
商南(チッ、失敗かぁー!悪運の強いやっちゃで…!)

姫「勇者君もどう?」
結局勇者も飲んだ。

 

3-27:腹痛〔13歳:LEVEL26〕
夜中。俺は凄まじい腹痛に襲われて目を覚ました。なんなんだこの激痛は。
結局そのまま朝まで便所に篭っていた。 原因は…やはり昨日の夕食だろうか。
勇者「くぅ…。 お、お前ら…無事か?腹のご機嫌は…いかがだ?」
商南「腹ぁ?なんやねんアンタ、腹でも下しよったんか?(ニヒヒ☆)」
暗殺美「私はすこぶる快調さ。アンタの軟弱な腹なんかと一緒にしないでほしいさ。」
姫「私も元気だよ。」
商南「え゛えぇっ!?」
勇者「む?なんだ商南、姫ちゃんが元気だと何かおかしいのか?」
商南「や、その、持病の「いきなりビックリ病」が…。(どんな胃袋しとんねん姫!?)」
勇者「どうやら、誰かに一服盛られたようだな。この俺としたことが…!」
商南「ほなどうすんねん?大会は欠場か?」
勇者「いや、出るぞ。 黒幕は本戦出場者だ、こうなりゃ片っ端からブッた斬る!」

会場に着ければの話だが…。
道のりは険しかった。
〜その頃〜
少女「「苦怨(くおん)」様、どうやらうまくいった模様なのだ。してやったりなのだ。」
苦怨「そうですか。でも油断は禁物です、本戦で会ったら全力で始末してください。」
少女「でも苦怨様、なんでそんなにアイツにこだわるのだ?そんなに邪魔なのか?」
苦怨「問題は彼じゃない。あの盾が必要なんですよ、どうしてもあの盾が…ね。」
新たな勢力が動き出した。

 

3-28:均等〔13歳:LEVEL26〕
重い体を引きずり、なんとか会場まで到着できた俺。だが既に体調は限界に近い。
本戦出場者は8名。3回勝てば優勝できる計算だ。3戦ならなんとかもつ…か?

【対戦表】
┏━━━━━ ┻━━━━━━━┓
┏━━┻ ━━┓ ┏━━┻━ ━┓
┏━━┻ ━┓ ┏━━ ┻━┓
┏━┻ ━┓
┏━ ┻┓
勇者 兄丸 女闘 忍美 ジョニー キン太 戦仕 苦怨


って、うぉおおおおおおい!!

明らかにバランスがおかしい。

 

3-29:再会〔13歳:LEVEL26〕
対戦表を見ると、どう見ても組み合わせが異常だ。誰かの陰謀のニオイがする。
そう思いながらよーく見てみると、メンバーの中に見知った名前を発見した。
勇者「む?戦仕だと…?もしかしてあの、「学院塾」の戦仕…か?」
暗殺美「あ〜、多分そうさ。賞金稼ぎの世界じゃコイツ結構有名人だったさ。」
勇者「ほぉ…。 奴はなかなかの腕だった、こりゃ本戦はそこそこ楽しめそうだな。」
暗殺美「ホレ勇者、噂をすれば影さ。」
戦仕「よぉ、オメェも出てたとはなぁ勇者。あん時の屈辱はまだ忘れてねぇぜよ。」
勇者「戦仕か。俺も貴様とはもう一度闘いたいと思っていたんだ。決勝で会おう。」
戦仕「ああ、やろうぜ。「最強」の称号と、そして盗子サンを懸けて!」
勇者「懸けねーよ!! つーか盗子は悪党にさらわれたぞ、もう死んでるかもな。」
戦仕「なっ…!?じゃあオメェはこんな所で何してるぜよ!?助けに行けよ!」
勇者「はぁ?なんで俺があんな奴を? 話にならん、じゃあな。」
戦仕「ちょっ、待ちやがれ!まだ話は…!」
勇者「焦るなよ。勝ち進めば、イヤでも闘うことになるんだ。いいから離せっ!」
戦仕「逃げるな、勇者ぁ…!!」
勇者はトイレに行きたい。

 

3-30:限界〔13歳:LEVEL26〕
その後、トイレに立てこもること数十分。早くも俺の出番がやってきてしまった。
出せるものは全て出した。多分だが、無理しなければ漏らすことは無いだろう。
だが、余計なモノまで出し過ぎたらしく、まったくもって力が出ない。スッカラカンだ。

俺の先祖は、「干物」だったのかもしれない。
勇者は朦朧としている。

 

外伝(壱)