目が覚めると、そこには見たことのない天井があった。
|
|
ベッドに腰掛け、僕は冷静に、今の自分の状況を考えてみることにした。 頭は今も死ぬほど痛いけど、こんな非現実的な状況…普通に考えたら夢なんだろう。でもそう思えるからこそ、そう冷静に考えてしまえるからこそ、やっぱり夢じゃない気がするんだ。 だってこれまで、どんなにおかしな夢でも、その中で「これって夢かも…」とか考えたことって不思議と無かった。だからこんなに冷静に色々考えられることが、逆におかしく感じられ…というか、ぶっちゃけ夢であってほしくないので、その線は敢えて考えないことにして楽しもう。 どうせ夢なら、せめて楽しい夢がいい。 道端で出会った不思議な老人、図書案で再会した不思議な本、そしてこの不思議な世界…。これらの情報と、これまで数々の勇者本から学んだファンタジーな展開から総合して考えると、導き出される結論はこうだ。 僕は今、『本の中の世界』にいる。 うん、これだ。これが一番それっぽい。
え゛ぇえええええっ!? |
やって来たのは、村人とかじゃなく見るからに人間じゃない生き物…ベラスと名乗ってるからにはきっとベラスなんだろう。え、でもなんで…!? 「ゆ、勇者様…!お逃げください、いきなりベラスの軍勢がってウワォ!」 後から入ってきた、この緊迫した空気に似合わないテンションの村人のおかげで、状況はすぐに把握できた。どうやら村はベラスの強襲にあったらしい。 …いや、違う。僕は知っていた。僕はこうなることを…倒しに行くはずの敵が逆に村に現れるっていうこの展開を、こうなる前から知っていたんだ。なぜなら『あの本』に、そう書いてあったから…。 魔人ベラスは、物語の中盤少し前あたりに現れる敵。村を支配したりして迷惑をかける、例のよくあるパターンの奴だった。強さも大したことなくて、名を上げるために勇者を倒そうと村までやってきて、逆に返り討ちにされる。 そんな敵が今目の前にいる。そして状況からしてここは僕の部屋…やっぱり今は、僕が『勇者』なんだ。あの物語の続きを、僕が演じてくって流れになってるに違いない。 となると、今の僕が言うべきセリフは一つ… 「表へ出ろ魔人。貴様の墓にしちゃ、この部屋は狭すぎる。」
え゛ぇえええええっ!? |
何かが違った―――。
僕なら十二分に闘える。いや、余裕で勝てるに違いない。
――――そう、思っていたんだ。
体が宙を舞った。
アバラの折れる、音がした。
口いっぱいに…鉄の臭みが広がった。
次元が…違った。
|
|||
|
---|