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【No.8:ポイント】 【Side:快人】
なぜだろう、胸が苦しい…。
いつだ、いつからだ?そうだ…昨日の電車の子に会ってからだ。
この胸の高鳴り…これは恋だ、間違いない。いや、電車の中で既に気づいてたけども。

快人「というわけで、もう一度彼女に会いたいと思う。」

僕がそう言うと、健二は「OK…わかってた」とばかりに深い溜め息をつき、こう言った。

健二「諦めろ。」

フッ…いつもながら厳しいな、親友…。

学校への道すがら、僕はいかにして彼女とお近づきになるかを必死に考えていた。
本人に直接「ノー」と言われること以外、諦める理由なんて僕には無い。だから、なんとしてでももう一度、彼女に会わなきゃならないんだ。

快人「あれからさ…色々考えたんだ。あんまり打算的な考えは好きじゃないけど、痴漢から助けようとした僕のプラスポイントは、少なからぬものだと思うんだ。」
健二「ああ、その後のアレでのマイナスポイントには負けるがな。」
快人「くそっ、僕のがもう少し大きければ…!」
健二「いや、ポイントそこじゃねーよ。デカくしてたことがむしろマイナスだからな?」
快人「まぁいいや、本人に聞けばわかるしね。」
健二「お、お前…。『須藤 快人』の名はダテじゃねーな…。」

付いたあだ名は『ストーカー』。

 

【No.9:大きな壁】 【Side:快人】
その後、相変わらず冷めた男健二のお説教が数分間続いた。コイツといると、ホント変わった考えの奴っているんだなぁとつくづく思う。

健二「…てな感じに、もう少し考えて動くべきだと思うんだよ。確かに一瞬で落ちるのが恋かもしんないけどさ、行動はもっと慎重に…な?」
快人「でも幸い僕らは受験生だ、来年彼女と同じ高校に行ければ…チャンスはある!」
健二「な、なんだろうこの骨折り損感。俺のこの数分の努力は一体…って、あーダメだダメだ。あの制服は愛桜付属中って言ったろ?本校の『愛桜学園』は、女子高なんだよ。」
快人「女子高か…胸が躍るな。」
健二「勝手に踊るな!えっ、なぜ今ので諦めない!?どう考えても今のは決定的な諦めポイントだろ!絶対無理だって!」
快人「フッ、無理…か。自分の限界を勝手に決める…現代人の悪い癖だな。」
健二「そ、その諦めの悪さはお前の悪い癖だと…」
快人「さぁ行くぞ健二、そうと決まればすぐ行動だ。」
健二「えっ、いつ何がどう決まった!?つーか行くってどこに!?」 
快人「愛桜学園を…『共学』にする。」
健二「え゛ぇっ!?」

驚愕する健二を引きずり、僕は走った。 愛桜学園…いや、『明日』に向かって。 

 健二は明日が見えない。

 


【No.10:未来の母校】 【Side:快人】
登校を諦めてダッシュで向かったのは、名門私立高校『愛桜学園』。いわゆるお嬢様学校として全国的にも有名らしい。相手にとって不足は無い感じだ。 

快人「ここが愛桜学園…僕の未来の母校か。」
健二「ハァ、ハァ、相変わらず足速ぇなお前、恋に落ちるのの次くらいに…って、だから無理だってば母校とか!」
快人「大丈夫。僕の尊敬する人が本に書いてたよ、「為せば成れ」って。」
健二「『成る』だろ!なんだよそれ願望じゃね!? つーかそれって絶対前のと同じ著者だろ!」
快人「ところでさ健二、この学校で一番偉いのは誰かな?んーまぁいいや、とりあえず入ろうか。」
健二「ちょっ、だから待てって!オイ…!」

先手必勝…勝負とはそういうものだと、僕のバイブル『勝ち逃げ全力疾走』にも書いてあった。
お偉いさんにガツンと言って、絶対この学校を…共学にしてやるんだ!

警備員「・・・・・・・・。」

捕まったが無理もなかった。

 

【No.11:お説教の果てに】 【Side:快人】
警備員「…というのが動機ですか?」
快人「はい…今は反省してます。なぁ健二?」
健二「いや、俺は無実で…。」

正門前で興奮してたら警備員に肩を叩かれ、そして今に至る。
そして警備室でこってり絞られること小一時間…。こういうのは警察とかで慣れてるけど、まさか学校にこんなものがあるとは思わなかった。 愛桜学園…恐るべし!

警備員「…プッ、ブハハハッ!まったく…俺もこの仕事始めて長いが、お前らみてぇなのは初めてだわ。ブハハハハ!」

ひとしきり説教を終えると、急に態度を変え、豪快に笑い出した警備の人。
短髪に髭面…ゴツい体で毛深くて、なんとなくオッサン臭いけど、よく見るとまだ二十代前半くらいに思えた。
と、まぁそんな見た目の話は置いといて、経験長い警備員か…味方に付けておいて損は無さそうだ。意外と気の良さそうな人だし、色々情報を引き出せるかもしれない。

快人「そうですか僕らが初めてですか、それはそれは…。あ、ところで…長いって、どのくらいここに勤めてるんですか?」
警備員「ん〜?あぁ、もう三ヶ月も経つなぁ。」

ダメな方面の人だった。

 

【No.12:信用】 【Side:快人】
話してみたら意外といい人そうな感じがした警備員の人。でも三ヶ月の職歴を長いとか言っちゃう時点で、きっと残念な人生の人だ。 となると…うん、付け入る隙はありそうだ。

健二「な、なぁ快人、もう帰してもらおうぜ。俺ら一応まだ何にもしてないわけだし…」
快人「オジ…お兄さん、お名前は?僕は須藤 快人…この学園の未来を、変える者です。」
警備員「ブハッ!あ?あ〜、俺か?俺は『堂島 丈二郎』。『ジロさん』でいいぞぉ。」

自分をジロさんと言ったその人は想像以上に気さくな人で、僕と健二はすぐに打ち解けてしまった。最初の一時間とはえらい違い…そう考えると、意外と真面目に仕事する人なのかもしれない。 この人なら、信用できるかもしれない。

快人「ねぇジロさん、僕らに…協力してほしい。来年二人でこの学校に、入りたいんだ!」
健二「ちょ、ちょっと待て快人!いつの間に俺まで含まれて…!?」
ジロ「協力か…。フッ、お前らみてぇに向こう見ずな奴ら、俺ぁ嫌いじゃないぜ。」

健二は「ら」が気になった。

 

【No.13:またもや大きな壁】 【Side:快人】
僕は目的と想いを伝え、そしてそれはジロさんにも確かに伝わった。よし、好感触…!
と思ったのも束の間。次の瞬間、ジロさんは急に真剣な顔になっていた。

ジロ「…だが無理だ、やめとけ。」

そう言ってお茶を一気に飲み干し、そして僕の目をジッと見つめながらジロさんは続けた。

ジロ「ここは究極の男子禁制空間…中にいるのは教師を含めてみ〜〜〜んな女だ。警備の俺らでさえ、事件でも起きなきゃ中には入れねぇ。そんな学校を共学に?フッ、バカげてらぁ。冷静に考えりゃお前もそう思うだろ?」
快人「はい、ワクワクします。」
ジロ「お、お前…すげぇのかどうしようもねぇのかわからん奴だな…。」
健二「ぜってー後者ですって、コイツの場合…。」
快人「お願いだジロさん…僕は、本気なんだ。それとも僕が嘘言ってるように見える?」
ジロ「いや、見えねぇから戸惑ってる。」

もっともなご意見だった。

 

【No.14:そしてスタート】 【Side:快人】
ジロ「ブッ…ブハハハハハ!やっぱ最高だわお前、惚れちまったよ!」

しばらく考えた後、急にまた豪快に笑い出したジロさんは、僕の両肩をがっしり掴んでそう言った。そしてさらに、また真面目な顔に戻って言葉を続けた。

ジロ「何があっても、後悔…しねぇな?」

念を押すように言うジロさん。けど僕の辞書に、『後悔』って文字は無いんだ。

快人「振り返ることに意味なんて無い。 人の目が前だけについてるのが、その証拠なのさ。」
ジロ「…フッ、いいだろう。協力…してやるぜ!」
快人「あ…ありがとうジロさん!そして健二!」
健二「たまには俺にも拒否権くれよ…。」

こうして新たな仲間を加え、動き出した『愛桜学園 共学化計画』。
健二は凄まじく帰りたそうな顔をしてたけど、僕は見なかったことにした。

 

 

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