外伝(拾壱)

 

外伝:救世主が行く〔1〕
僕の名は「救世主(メシア)」。悪星と名高い惑星「サマラ」に産まれた。
普通の星なら「世界を救う者」って感じの名前だけど、この星の場合はどうだろう。
聞いてみたかったけど、お腹を突き破って出てきたからか、母親はもういない。
肋骨とか頚椎を一本一本折ってジャレてたら、なぜか父親も動かなくなっちゃった。
生後間もなく天涯孤独とか、僕ってばなんて不幸なんだろう。とっても辛い。

僕は、もっと強くなりたい。
既に超強かった。

 

外伝:救世主が行く〔2〕
早くに親を亡くした僕は、仕方なく孤児院へと向かった。ハイハイで。
でもまだ喋れないから交渉は難しい。身振り手振りでアピールしよう。
〜孤児院前〜
救世主「バブー。」
少女「あれ…?どうしちゃったのかなキミ?あ、もしかして迷子ちゃん?」
救世主「バブー!」
少女「ん〜、どうしようかなぁ悩ましいなぁ…うぅ〜〜〜ん…よし、決めた!」
救世主「バブー☆」

少女「ワサビ醤油!」
救世主は調理法が決まった。

 

外伝:救世主が行く〔3〕
謎のお姉さんに捕獲され、逆さに吊るされて数分。マズい、確実に血抜きされる。
にしても、まさかこの僕が手も足も出ないなんて…どうやら世界は広いらしい。
〜孤児院:食堂〜
救世主「バ、バブー!ババババーブー!」
少女「あ、名前?私は「魔姫(まき)」っていうの。」
救世主「バーブーー!!」
青年「いや、そうじゃねーだろ。その状況で名を聞くアホがいるかよ。」
魔姫「あ、「亡者(もうじゃ)」さん♪いいとこに来たね、下ごしらえ任せていい?」
亡者「いいわきゃねーだろ。いくらなんでもお前…」
救世主「バ、バブ!バブバブ!」

亡者「もっと太らせなきゃ。」
完全にアウェーだった。

 

外伝:救世主が行く〔4〕
敵が二人に増え、もう完全に絶望的な状況になった僕。短い人生だったなぁ…。
亡者「ん?どうしたボウズ、震えちまって…寒ぃのか?」
救世主「バブブ…バブブブ…(震)」
亡者「あ、マジで食われると思ってんのか? ハハッ、冗談だよ冗談!なぁ魔姫?」
魔姫「え…?」
亡者「えっ!?」
救世主「バ、バブ…?」
亡者「ま、悪人ばっかの星には違ぇねぇが、別に殺しゃしねぇってば。」
魔姫「じゃあどうするの亡者さん?ウチで飼うの?」
亡者「いや、「飼う」とか言うなよ。 まぁ確かに、ここに置くつもりだけどな。」
救世主「バブッ!?」
亡者「安心しろボウズ、ちゃんと育ててやるよ…この星で、生き抜ける男にな。」
諸悪の根源がここに。

 

外伝:救世主が行く〔5〕
2年後。2歳になった僕は、まぁ色々あったけど…なんとか生きていた。
救世主「ゼェ、ゼェ、ちょ、ちょっとタイム…!」
亡者「オイオイ、もう限界だってーのか?そんなんじゃすぐに死んじまうぜ?」
魔姫「そうだよ食べられちゃうよー?内臓を、こう…グジュッと。」
救世主「むしろ魔姫さんが一番怖いんだけど。」
亡者「とりあえず、オメェはまだ走りこみが足りねぇようだな。足腰が弱ぇわ。」
魔姫「そうだねー。コシが足りないのはちょっとねー。」
救世主「意味の違いが凄まじく怖いんだけど。」
亡者「俺達孤児が生きてくのは簡単じゃねぇ。「傭兵」として生きてくほかねぇんだ。」
魔姫「あ、私は「炊事係」ね?」
救世主「だから怖いんだけど。」
救世主は怯えている。

 

外伝:救世主が行く〔6〕
そんなこんなで月日は流れ、僕は立派な5歳児に成長した。
亡者さんの手ほどきで戦闘力も上がり、戦場でもそれなりの戦果をあげていた。
〜とある戦場〜
ズダダン!ズダダダダン!(銃撃)
救世主「ふぅ、ようやく片付いたみたいだね。まぁ大した相手じゃ…」
敵兵A「ハハッ!テメェがな!」
救世主「なっ、背後に…!?」
ザシュッ!(斬)
敵兵A「ぐぁああああああ!
亡者「フッ、まだまだツメが甘ぇなボウズ。」
救世主「も、亡者さん…。」
魔姫「え…そうなの?ナメていい?」
亡者「いや、そーゆー甘さじゃなしに。」
救世主「フン、どうにもヤル気が出ないだけだよ。な〜んか燃えないんだよね〜。」
亡者「確かにそう見えるな。強くなりすぎて目標が持てなくなったか?」
救世主「…ま、当面は付き合うよ。亡者さんには一応、育てられた恩があるしね。」
亡者「ああ付き合え。最下層民の俺達が、この国を獲る日も…そう遠くない。」
壮大な野望があった。

 

外伝:救世主が行く〔7〕
そして更に時は過ぎ、僕は7歳になった。
孤児院から始まった僕ら反乱軍も、国王軍に匹敵する勢力に成長していた。
亡者「さて…テメェらに集まってもらったのは他でもねぇ。ついに…時が来た!」
反乱軍「うぉおおおおおおおお!!」
亡者「奴隷として蔑まれた俺達が、国の上に立つ時が来たのだ!」
反乱軍「うぉおおおおおおおお!!」
魔姫「王族は大鍋でグツグツ煮込んで今夜の夕飯ね〜♪」
反乱軍「う…うぉおおおおおおお!?」
亡者「だが気を抜くな。国王軍だけじゃなく、陰で動いてる妙な連中もいるしなぁ。」
救世主「妙な連中…ウチの幹部達が暗殺されてるっていう例のアレ?」
亡者「ああ。国王軍だけでも頭が痛ぇってのに…ったくやれやれだぜ。」
救世主「じゃあ僕がやろうか?裏で動くのなら僕も得意だけど。」
亡者「いいや、ダメだ。こっちの作戦に集中してくれ。お前は…俺の右腕なんだ。」
魔姫「あ、もう一方は私ね?私が左腕♪」
救世主「右腕を食おうとする左腕とか…。」
亡者「ハハハッ!じゃあこうしよう、今日から我が軍の名は…「ウロボロス」だ!」
救世主は笑えなかった。

 

外伝:救世主が行く〔8〕
国王軍との戦いは熾烈を極め、両軍ともに大勢の人間が屍になっていった。
〜国王城:国王室 前〜
亡者「ふぅ…やっとここまで来たか。あとは王を討てば…我々の勝ちだ!」
魔姫「楽しみだねー。どんな拷問しようかなぁ?あ、食べてもいい?」
亡者「まだ諦めてなかったのかオメェ…。だから言ったろう?人は食べ物じゃ…」
ゴキュッ!
亡者「いや、「ゴキュッ!」って!そんなノドの鳴らし方…む?オイどーした魔姫?」
魔姫は床に転がっていた。
亡者「なっ!?バカな、周りの敵はもう…」
救世主「…な〜んか物足りないと思ってた理由が、やっとわかったんだよね〜。」
亡者「め、救世主!?テメェが魔姫を…!?」
救世主「僕ってさ、誰かの右腕とか…「脇役」ってイヤなんだ。「主役」じゃないとさ。」
亡者「まさか、陰で動いてた暗殺者ってのも…!」
救世主「アンタの周りは警備が多くてね。この時を待ってた…二人きりになる時を。」
亡者「チッ、どうやら俺は…とんでもねぇ奴を育てちまったらしい。」
救世主「「右腕」に裏切られ、「左腕」も失うとか…散々だねぇ。で、次は「首」かぁ。」
救世主は本性を現した。

 

外伝:救世主が行く〔9〕
僕の育ての親にして、目の上のタンコブであった亡者さんと魔姫さん。
恩はあるけど、それよりも邪魔なんだよね〜。だから、消えてもらうことにしたんだ。
救世主「サヨナラ亡者さん。もう興味無いから、死んでもらっていいかなぁ?」
亡者「チッ、参ったなぁオイ…どこで教育を間違えちまったかねぇ。」
救世主「ん〜…いや、アンタじゃないと思う。」
亡者「魔姫かぁ…。」
救世主「大丈夫、強さはアンタ譲りだよ。おかげで強くなれた。」
亡者「フッ…その俺譲りの強さで、師である俺に勝てるとでも思ってるのか?」
救世主「あ〜大丈夫、もう…終わってるから。」
亡者「なっ…ぐふっ!?(吐血)」
亡者は血を噴いてヒザをついた。
救世主「これでも僕さ、亡者さんのこと父親みたく思ってたんだよ?」
亡者「ハハッ、い、言いやがる…!」
救世主「だから…実の父と同じ方法で、あの世へ送ってあげるね。」
亡者「め、救世主…テメェはこれから…どこへ向かう…?」
救世主「ん?さーね〜? ま、気になるなら…地獄で見てれば?」

ドバシュッ!!
そして国も滅んだ。

 

外伝:救世主が行く〔10〕
三年後。
亡者さんらを倒し、国も滅ぼし、その後も他の国を襲ったり色々はしゃいだ三年間。
でもやっぱりダメだ。どうにもこの星の人達はつまらなくてしょうがない。
奪い、奪われるのが日常…そんな毎日のせいで、虐げられることに慣れてるんだ。
そんな死んだ目なんて、全然面白くない。生きた目を殺すのが面白いんだよね〜。
〜宇宙船内〜
救世主「というわけで、楽園と名高い「桃源星」に向かってるわけだけど…」
貧乏神「すまん!食糧尽きてもうた!!」
救世主「…誰この人?」
竜神「ン?お前が選んダ「会計係」じゃないのカ?」
救世主「いや、知らないし。三年かけて探したんだよ?こんなジジイ要らないし。」
竜神「じゃあ殺すカ。」
救世主「ハァ…お腹減りすぎて動きたくないんだけど…仕方ないねぇ。」
貧乏神「ちょ、チョイ待ち!アレや、アレがアレやでほんまに!近くにアレなんや!」
救世主「いや、「近くに」以外何も伝わってこないんだけど。」
貧乏神「ち、近くに…あるんや。桃源星に次ぐアレ…「地球」いうアレがなぁ。」
こうして地球がピンチに。

 

外伝:救世主が行く〔11〕
顔色の悪い妙な爺さんのせいで、「地球」とかいう星に不時着させられちゃった僕。
でもまぁいいや。「桃源星」ほどじゃないんだろうけど、この星も結構いい星っぽいし。
救世主「てなわけで、好きに暴れちゃってよ。あ、でもすぐには終わらせないでね。」
暗黒神「フン、テメェの指図なんか受けねぇよ。俺は俺らしく自由にやるぜ。」
邪神「わらわもじゃ。無益な争いは好まんのでな。」
救世主「ま、いいけどね〜。さーて、僕はどうしよっかな〜。」
竜神「共に暴れるんじゃないのカ?」
救世主「いや、それじゃつまんないじゃん。そうだ!じゃあ僕は逆側に立とう!」
風神「逆側…どういう意味かのぉ?」
救世主「だって面白そうじゃない?世界を救った英雄が、後で世界を滅ぼすって。」
女神「キャハハ☆ くっだらな〜い!」
守護神「あたまへいき?」
救世主「まずキミらから殺しにいくから。」
太陽神「んじゃま、適当に散るとするわな。遅れてる神もじきに来るだろうよ。」
救世主「だね。じゃあここからは敵同士…ヨロシク頼むね、破滅の十二神さん。」
「人神大戦」の始まりだった。

 

外伝:救世主が行く〔12〕
神のみんなが大暴れする中、十人の地球人…「十賢人」と呼ばれる人達が現れた。
僕が目立つためには邪魔なんだけど、一人で全員仕留めるのはキツいレベル。
仕方ないから適当に話を合わせることにしよう。ま、後で一人ずつ殺せばいいや。
〜魔神の上〜
救世主「とか思ってたのに、まさかバレちゃうとかさぁ。困らせないでよ欧剣さん。」
欧剣「・・・・・・・・。」
救世主「って、なんだ死んじゃったんだ。じゃあ全然困ること無かっ…おっと!」
救世主は謎の攻撃を避けた。
なんと!地面から人が生えてきた。
救世主「…もしかしてキミ、「魔神」の一部だったりしちゃう?」
魔神「貴様が救世主だな?我を呼んでおいて立ち塞がるとは、意味がわからん。」
救世主「アハハ、僕ってば気分屋だからさぁ。悪いけど死んでもらっていいかな?」
魔神「その言葉、そっくりそのまま返そうか。貴様が死ね。」
救世主「イヤだ…と言ったら?」
魔神「号泣する。」
救世主「い、意外な答えにビックリだよ。そういうキャラ…?」
魔神「フッ、こう見えてお茶目が売りでな。」
救世主「えー、それは困るなぁ。キミにはもっと、悪役っぽくしてもらわないと。」
魔神「すまぬな小僧。よっぽどの者でもない限り、我を染め変えることなどできぬ。」
勇者や姫はよっぽどだった。

 

外伝:救世主が行く〔13〕
さすが最強と言われるだけあって、魔神は凄まじく強かった。
欧剣さんのせいで消耗してたせいもあって、こりゃ殺せないなぁと諦めちゃった。
だから邪神や暗黒神と同じように封印術で封じようとしたところで、まさかの大誤算。
うっかり僕まで巻き込まれちゃって、気がついたら変な泉の中で寝ちゃってたんだ。
〜魔神の上:泉のほとり〜
救世主「ゲホッゴホッ! あ〜酷い目に遭った。危うく死ぬところだったよ。」
声「む…なんだ貴様は?こんな所で泳ぎの練習とはヤンチャ坊主にも程があるぞ。」
救世主「あれ…?誰なのさキミ?」
魔王「俺は「魔王」…世界を大変なことにする宿命を、無理矢理背負わされた男。」
救世主「…そこは同情するところ?」
魔王「ああ、できれば盛大に頼むぜ。」
救世主「ハァ…な〜んか調子狂っちゃうなぁ〜。 で、どうする気?強いよねキミ?」
魔王「フッ、貴様も…そうだろう?」

ガキィイイイン!
知られざる一戦だった。

 

外伝:救世主が行く〔14〕
寝起きに「魔王」とかいう人と闘ったんだけど、どうにも疲れちゃって途中で逃げた。
街で話を聞くと、なんと知らぬ間に五百年も過ぎてたとか。寝疲れるわけだよね。
伝承によると、一応僕は正義の味方ってことになってるっぽいけど…どうしようか。
〜タケブ大陸:王都チュシン〜
救世主「ん〜〜…どうしよう。また同じ計画で続けるべきか、考え方を変えるか…」
占い師「しばし待たれぃ邪悪なチビッ子よ。汝の迷い、取り払ってしんぜよう。」
救世主「ん、誰なのキミ?初対面で邪悪とか失礼だよね。」
占い師「これより数日の後、汝の悪事は全て暴かれるであろう。」
救世主「え…?あちゃー、全部バレちゃうのかぁ。じゃあ計画変更しないとなぁ。」
占い師「汝は動くだろう。黒き十字架が、世界を暗黒へと導くだろう。」
救世主「ん〜、よくわかんないなぁ。簡単に説明してくれないと殺すよ?」
占い師「汝の仲間が大暴れで世界がまぁ大変!」
救世主「へぇ、仲間…ねぇ。で?最終的にはどうなるのさ?」
占い師「…それより先は、神にも見えぬ。未来は暗黒と…闇に包まれている。」
果たして誰のせいだ。

 

外伝:救世主が行く〔15〕
偶然出会った占い師の話を信じて、僕は仲間を集めることにした。
こんな時のために封じておいた「竜神」「女神」「太陽神」や、賞金首とか色々と。
ついでに今の情勢も色々調べたけど、敵になりそうな人が意外といるっぽい。
「勇者:凱空」、「四勇将」、「深緑の疾風」…あぁ、「理慈」さんもまだ生きてるとか。
他にも伝説の暗殺者とかいるみたいだけど…一番気になったのは、また別の人物。
目撃者全員が恐怖に震え、「話すくらいなら」と舌を噛んで自害した人もいるらしい。

是非とも仲間にしたい少年だ。
だが敵として出会う。

 

第三十五章