外伝(伍)

 

外伝:終が行く〔1〕
アタイの名は「終(おわり)」、15歳の小粋なレディ。ただいま青春真っ盛り。
ちょいと成り行きで「マオ」とかいう珍妙な獣を体に飼うハメになっちまったけどね。
まぁ放っておいたら何しでかすかわからない霊獣だったし、仕方ないんだけどさ。
〜ギマイ大陸:ケンド村〜
終「んじゃま、急だけどアタイは旅に出ることにするよ。じゃあね大ババちゃん。」
老婆「な、何をしに行くつもりじゃ!?村の外は危険でイッパイじゃぞ!」
終「ちょいと世界征服に。」
老婆「何そのもっと危険な感じ!?」
終「でさぁ、大ババちゃんに頼みがあるんだけど、聞いてくれるかい?」
老婆「ハァ〜、言って聞く子じゃないしの…。なんじゃい、言うてみぃ?」
終「この村、滅ぼしていいかい?」
老婆「えぇっ!?アホか!生まれ育った村を滅ぼす娘なんぞどこの世界におるか!」
終「ところがどっこいここに。」
老婆「どっこいじゃないどっこいじゃ!一体何のためにそのような悪行を!?」
終「いやぁ、その方がハクが付くじゃない?新たな「魔王」…その誕生劇には、さ。」
さすがは“アレ”の親って感じだ。

 

外伝:終が行く〔2〕
豪快に村を焼いて颯爽と旅立とうと思ったのに、ギャーギャーうるさい大ババちゃん。
仕方なく、そういう噂を流すよう村中に徹底するってことで妥協することにしたわけ。
終「んじゃ、今からアタイが言うことを死ぬまで守るんだよ?墓場まで持ってきな!」
村人A「あ゛ぁ?なんでそんな面倒なこギャーー!!
終「まずは…そうだねぇ、アタイは村人何人かを犠牲に悪魔を召喚した…かねぇ。」
村人B「プハッ!悪魔を召喚て!イマドキ悪魔なんて信じギャーー!!
終「んで、闇の儀式で「魔王」になった…みたいな感じでどう?」
村人C「いや、もう現時点でギャーー!!
終「その後アタイは、その狂気に酔って大量虐殺…うん、完璧だね。」
村人D「も、もう既に狂気ギャーー!!
こうして村は滅んだ。

 

外伝:終が行く〔3〕
なんだかんだで村も半壊したことだし…って感じで、アタイは旅立つことにした。
目指すはメジ大陸。やっぱ歴代「魔王」が城を構えた、あの大陸しかないよねぇ。
終「てなわけで、急いで向かうよ。しっかりとついてきなダンディー。」
男似「な、なんで私まで…。」
終「何言ってんだい、一人じゃ寂しいじゃないか。冷たい子だねぇ。」
男似「いや、より冷酷なのはどっちかと言うと…」
終「まぁ安心しな、アンタはアタイの側近…幹部のお偉いさんとして置いたげるよ。」
男似「まさか今以上に親に顔向けできない状況になるなんて…。」
終「さ、行くよダンディー!これから先は修羅の道…一瞬も気を抜くんじゃないよ!」
男似「あ、うん。ところで移動手段は…?」

終「走って泳いで。」
男似「走って泳いで!?」
しかも十日で。

 

外伝:終が行く〔4〕
前人未到のトライアスロンの末、なんとか十日でメジ大陸に到着できたアタイ達。
まずはデッカイことをやらかして、名前を売らなきゃねぇ。さ〜て、どうするかねぇ…。
〜メジ大陸:田舎町モコモ〜
終「でもまぁ、まずはご飯だね。さすがに十日も飲まず食わずはキッツいわアタイも。」
男似「し、死ぬかと…ホントに…死ぬかと…。」
終「さ〜て、さっさと腹ごしらえして、サクッと滅ぼそうかね、世界。」
男似「サクッとって…あ、でもなんで急に世界征服なの?似合ってはいるけども…。」
終「さぁねぇ…もしかしたら、「マオ」の影響かもしれないねぇ。血が騒ぐのさね。」
男似「それは年中のような…。」
終「おっ、ここはなかなか良さそうな店だよ、この店にしようかダンディー。」
男似「え、いや、でもお金が…」
終「ハァ〜…学習能力の無い子は嫌いだよ。アタイは、金は払わない。」
こうして町は滅んだ。

 

外伝:終が行く〔5〕
その後、勢いでいくつか町を消したんだけど、一向にアタイの噂が広まる気配無し。
なんだか誰かの陰謀なんじゃないかって気もしてくるね。じゃなきゃ納得できない。
終「おかしい…これほどまでに残虐に、壊滅させてるってのに…!」
男似「あのさ姉さん…多分だけど原因は、姉さんが…」
終「なんだいアンタ、このアタイに何か落ち度でもあるっていうのかい!?」
男似「目撃者も残さないから…じゃない?」

あーー…。
完全犯罪が裏目に。

 

外伝:終が行く〔6〕
ダンディーに痛いとこ突かれてわかった。そうかいアタイはやり過ぎてたのかい。
んじゃま、これからは加減してやろうかねぇ。破壊衝動にも少しは慣れてきたし。
〜メジ大陸:ワッキサ村〜
終「とはいえ、のんびりする気もないのに…ダンディーはどこ行ってるやら…」
占い師「そう急くでない次なる「魔王」よ。今はまだ、その時ではないのだから。」
終「…ん、誰だいアンタ?その気配の断ち方は並みの人間じゃないね?」
占い師「私はしがない旅の占い師。名乗ることに意味は無い。」
終「食えないジジイだねぇ…。で、何の用だい?」
占い師「これより三年の後、汝の前に、汝の生涯を左右する者が現れるであろう。」
終「ハァ?なにさいきなり…。 アタイの生涯をだって?誰なんだいそいつは?」
占い師「その者は汝を解き放ち、全てを新たなる時代へと導くだろう。」
終「解き放つ…?アタイは別に何にも縛られてなんかいないよ?」
占い師「時を待て未熟なる「魔王」よ。力を蓄え、そして「勇者」と出会うがいい。」
終「…なんか偉そうだねぇアンタ、気に食わない。」
占い師「ぶふっ!! えぇっ!?ば、バカなっ、私の背後へ回れる者など…!」
終「アタイに命令だなんて、百万年早いんだよっ!!」
占い師「いや、ちょっ…!」
占い師はボコボコにされた。

 

外伝:終が行く〔7〕
妙な占い師の妙な予言…アタイを解き放つ「勇者」が現れるとか違うとか。
よくわからないけど、三年も待つとかフザけんじゃないよ。アタイは短気な方なんだ。
終「そこを敢えて三年待ってみようと思う。」
男似「えっ、それどんな発想の転換!?姉さん…なんか疲れるよ…。」
終「前に、よく当たる占い師の噂を聞いたことがあってね。もし当たるなら…さ?」
男似「当たるなら…何?何その期待に満ちた瞳…?」
終「だって燃える展開じゃないの、「勇者」と「魔王」の頂上決戦…血がたぎるねぇ。」
男似「ハァ…。で?じゃあどうやって三年潰そうっての?のんびり過ごすの?」
終「バカ言っちゃいけないよ。勇者ご一行が来るんだよ?だったらもてなさなきゃ。」
男似「城を構え、兵を揃え…磐石な体制を整えようってわけね?」
終「いや、得意料理を増やしたり…」
男似「主婦か!違うでしょ、もっと、こう、あらゆるものを蹴散らす的な…ねぇ?」
終「掃除…?」
男似「だから主婦か!」
後の「戦業主婦」である。

 

外伝:終が行く〔8〕
三年待つと決めたはいいものの、じゃあ何して待とうかが決まらない今日この頃。
あまりのんびり待ちすぎて、逆に挙兵が間に合わなくなったりしたら困るしねぇ…。
終「てなわけで、使える子らでも頑張って集めようと思う。任せたよダンディー。」
男似「頑張るのは私なんかい…。 ま、逆らう気は無いけどね、諦めてるし…。」
終「とはいえ、アタイが認めるレベルの人間がそう何人もいるとは思えないけどさ。」
男似「ちなみに合格の基準とかは?例えば、大岩を粉砕できるレベル…とか。」
終「…島?」
男似「地球滅ぶ地球滅ぶ。」
終「ハンパな奴らじゃ「勇者」もガッカリだしねぇ。そんな思いはさせらんないよ。」
男似「あ、あのさぁ姉さん、なんでそんなにまで「勇者」にご執心なの…?」
終「RPGが好きだから。」
男似「ゴメン、その感覚よくわかんない…。」
終「面白そうじゃないか、決してクリアできないRPGの実写化…燃えるねぇ〜。」
このようにゲームが若者に与える悪影響が昨今の(以下略)

 

外伝:終が行く〔9〕
それから二年が経ち、アタイは17歳…更にピッチピチのムッチムチになっていた。
でもあと一年も…まったく、この女ざかりを待たせるとは敵もいいご身分だよ。
〜メジ大陸諸島:カチャ島〜
終「久しぶりだねぇダンディー、状況を聞こうか。勧誘の方はどうなってるんだい?」
男似「あぁ〜…全然ダメ。名のある猛者は一通り当たってみたんだけど…。」
終「やれやれ、やっぱり安すぎたのかねぇ…時給。」
男似「いや、そもそもまず時給制なのが…。」
終「あ、奴はダメだったのかい?最強と噂の「暗殺者」、「暗殺死(あさし)」は?」
男似「あ〜、なんか目立つことは嫌いだって。」
終「最近本出したじゃないか。握手会とかやりまくってるらしいじゃないか。」
男似「ちなみにそのフィアンセ、「麻音(あさね)」嬢も同じね。」
終「堂々と歌出してる子じゃないか。なんなんだいそのフザけたバカップルは…。」
男似「まぁ総合して、うさんくさいって意見が大多数だったよ。終って誰だと。」
終「ん?アタイのブロマイドは配らなかったのかい?」
男似「いや、だからこそ誰だと。」
終「ハァ、仕方ないねぇ…。闇に潜んで二年…やはり動くしか…むっ、誰だい?」
少年「フッ、そういうことなら…どうだいアネゴ、俺と手ぇ組んでみないかい?」
謎の少年が現れた

と同時にボコボコにされた。

 

外伝:終が行く〔10〕
いきなり現れて偉そうな口利いてきた小僧をとりあえずボコッてみた17の春。
このアタイと対等に話していい奴がいるとすれば、それは未来のダーリンだけさね。
少年「ぐふっ…俺かい?俺は「呪術師」の「解樹」。呪いの研究の旅をしてる。」
終「フン、そのじゅじゅちゅ師がアタイに何の用だい?アタイは忙しいんだよ。」
解樹「アンタを探してたんだ。この一年で数多のダンジョンを潰した、謎の女をさぁ。」
終「あ〜…ありゃただの暇潰しだよ。まぁ結果的にいい装備集めになったけどねぇ。」
解樹「ひ、暇潰しであの惨事かよ…ますますいいじゃんか。なぁ、俺と一緒にぶっ!
終「アタイは態度のデカいガキは大嫌いだよ。早死にするからねぇ。」
解樹「す、すま…すみません。 で、どうでしょう?俺の情報買わねッスか?」
終「情報?なんだいアンタ、その手の経験でもあるのかい?」
解樹「色々情報が必要でねぇ、スパイまがいのことして今じゃ札付きの身ッスわ。」
終「ふ〜ん…ま、ネタ次第ってとこかねぇ。」
解樹「フッ…最近、隣国「シムソー」で、大規模な国獲り劇があったらしくってさぁ。」
終「国獲りかい…。似た噂はチョイチョイ聞くけど、成功例は久々に聞いたよ。」
解樹「だろぉ?そいつ仕留めりゃよオメェ、そりゃ確実に名は上がぶふっ!
終「言ったろう?生意気なガキは、嫌いだと。」
息子の方が酷いが。

 

外伝:終が行く〔11〕
解樹とかいう小僧が言うには、隣の国で一騒動起きたらしい。で、その国を奪えと。
まぁ確かに、戦場でチマチマやってくよりかはその方が手っ取り早い気もするねぇ。
終「てなわけで、城を落としに行くよダンディー。今回のヤマは、ちょいとデカいよ。」
男似「オーケー姉さん。ま、最近暇だったし…いいんじゃない?行こ行こ。」
解樹「ちょ、ちょっと待ってくれよ!俺も連れてってくれ!絶対に力になぶへぇ!!
終「雑魚は要らないよ。強くなってから出直しといで。」
男似「で、どうするの?さすがに二人で正面突破ってのは…」
終「気が合うねぇダンディー、それでいこう。」
男似「ゴメン、ちっとも合わせらんない…。」
終「でも参ったねぇ…城攻めするには、ちょいと武器が心もとない感じだよ。」
男似「あ〜、確かに他の装備に比べて武器は大したの無いねぇ。どうしよっか?」
終「まぁまだ一年もあるし、前に聞いたあの噂の魔人を探そうか。」
男似「噂のって…「武器商人」やってるっていう妙な魔人のこと?」
終「そう、「魔人:ゴッピリン」…そいつから、全てを奪い取るよ。」
父の名は「ゴッパリン」だ。

 

外伝:終が行く〔12〕
城攻めする前に装備を補強しようってな話になって、とある魔人を探すことに。
魔人のくせして随分有名な武器屋って話だから、捕まえれば期待はできそうだよ。
〜メジ大陸:とある武器屋〜
終「てなわけでね、ゴッピリンとかいう魔人を探してるんだよ。アンタ知ってるかい?」
店主「あ〜、まぁこういう商売だから噂くらいはねぇ。けど見つけてどうする気かね?」
終「ハァ?何言ってんだいアンタ、武器屋探す目的なんて決まってるじゃないか。」
店主「いや、まぁそうだが。」
終「殺して奪う。」
店主「まさかの発想に同業者としては震えが止まらないよ…。」
終「まぁ安心しな、そいつの噂を聞いたらアタイに連絡…できるなら生かしとくよ?」
店主「え、何その一択…?」
終「んじゃ頼んだよ、死にたくなかったら気合いで探しな!じゃあね!」
バタンッ(扉)

店主「ア、危なかッタ…。」
ミス!終は獲物に逃げられた。

 

外伝:終が行く〔13〕
世界中駆けずり回って、結局最初の武器屋がターゲットだと知ったのは約一年後。
捕まったら死ぬと知ってるだけあって頑張って逃げてたようだけど、なんとか捕獲。
終「まったく、手間かけさせてくれたもんだよ。なんで逃げたんだい?」
店主「イヤ、わかるダロ!ナンデか聞いチャウその根性ガわかランよこっちは!」
終「じゃあ聞こうかい、遺言。」
店主「チョ、ちょット待テ!話せばワカル!話セバ…!」
終「決まったかい遺言は?」
店主「話シテよ…。 マ、言葉ヲ遺しタイ家族なんゾ…モウいないのダがナァ。」
終「ん?なんだい、子供と死に別れでもしたのかい?」
店主「家出だヨ。武器屋ヲ継ぐのガ嫌だッテねぇ…。モウ三年になルカ。」
終「遺言を。」
店主「同情ゼロ!?マ、待ってクレ!ト、とってオキの武器がアルんだ!」
終「とっておき…?チンケな代物だったら許さないよ?」
店主「フフフッ、見テ驚け?これこそガ、かの魔神の角ヨリ切り出しタ伝説の魔剣…」
ゴッピリンは宝箱を開けた。

だが中身は空っぽだった。
終「…で、遺言は?」
店主「バ…バカ息子ォオオオオオオオオン!!」

ザシュッ!(斬)
後に魔剣は息子が手にする。

 

外伝:終が行く〔14〕
気づけば、あの占い師と会ってぼちぼち三年。そろそろ動かなきゃって感じに。
ま、国攻めって言ってもボスを仕留めれば終わるし、大した作業でもないけどね。
〜メジ大陸:シムソー国〜
終「さてと…んじゃ行こうかねぇ。準備はいいかいダンディー?」
男似「まさか、三年も準備期間があって結局二人だとは思わなかったけどね…。」
終「細かいことは気にするんじゃないよ。ついでに兵力も奪えばいいだけさね。」
男似「ハァ…ま、そう言うとは思ってたけどね。 で?今回の作戦を簡単に言うと?」
終「殴って蹴って。」
男似「ゴメン、もうチョイ細かく…。」
終「面倒。アンタこそ敵の情報はちゃんと調べてきたのかい?」
男似「あ〜、今は城にいるみたいだよ。しかも側近は遠征中…チャンスかもね。」
終「いいかいダンディー、倒すのはボスだけだよ?他は未来の部下だからねぇ。」
男似「でもそのボスが手強そうだよ?姉さんは甘く見てるかもしれないけど…」
終「安心しな、油断はしないさ。今回ばかりは…手加減抜きだよ。」
いっつもじゃん。

 

外伝:終が行く〔15〕
そして―――
〜シムソー国:城門前〜
男似「ハァ、まったく…なんで「暗殺者」が白昼堂々襲ってくるんだか…。」
暗殺死「俺は逃げも隠れもしない。金のためならば…というかむしろ目立ちたい。」
男似「参ったなぁ…。今回ばかりは、この「三日月の鎌」を…振るわなきゃだねぇ。」
麻音「んじゃ、死んじゃってね〜。バイバ〜イ♪」
男似「フン、死ぬのは…アンタらだよ。」
ページの都合で省略します。
〜王の間〜
終「んじゃま、ぼちぼち始めようかねぇ。アタイの野望のため、死んでくれるかい?」
男「警備が手薄な時とはいえ…貴様、何者だ?」
終「アンタも楽しませてくれそうじゃないか。その歳でいい魔力だよ、「皇帝:帝雅」。」

帝雅「フッ…身の程知らずめ。来るがいい、力の差というものを…思い知らぐふっ!
帝雅は思い知らされた。

 

第十四章