外伝(壱)

 

ある日、それは遠く離れた世界で「勇者」が生まれたちょうどその日。
とある村で一人の少女が産声をあげた。

 

1:誕生〔0歳:LEVEL1〕
パパさんのリストラ直後に生まれたので、「無職」と命名されたです。え、本気…?

お昼の公園が似合いそうな人生が、いま始まったですよ。

無職は軽く死にたい。

 

2:理由〔0歳:LEVEL1〕
生まれて数日考えたですが、まだ自分の名に納得がいかない今日この頃ですよ。
でももしかしたら、何か壮大な、凄まじく愛の溢れた意味が込められている可能性が
パパ「娘よりは…娘よりは先に…。」

なかったですよ…。

父よそれでいいのか。

 

3:現実〔1歳:LEVEL1〕
1歳になったですよ。 パパさんは相変わらず無職です。現実は厳しいですよ。
でもどんなピンチであっても、家族みんなで支え合っていくことで乗り切ることができ
メモ『実家に帰らせていただきます。(妻より)』

なかったですよ…。
無職は希望を断たれた。

 

4:説教〔2歳:LEVEL1〕
気づけば2歳です。 パパさんはまだ無職だし、ママさんもまだ戻らないです。
ワチもやっと喋れるようになったので、パパさんに説教をくれてやろうと思うですよ。
無職「ねぇパパさん、いつになればお仕事見つかるですか?いい加減にするです。」
パパ「すまないな無職…。わかった、明日から仕事探すよパパ。」

え、今日まで何を…?
無職は父を諦めた。

 

5:決意〔2歳:LEVEL1〕
ワチの説教が多少は心に響いたのか、一応仕事を探し始めたらしいパパさん。
でも世間は厳しいらしく、状況は思わしくないようです。世知辛い世の中ですよ。
無職「で、大事な話って何ですかパパさん?いつになく顔が真剣ですよ?」
パパ「聞いてくれ無職、パパは決めたんだ。パパはな、マグロ漁船に…」
無職「えっ!まさかワチのために、それほどの決意を…!?」

パパ「なるんだ。」
父は施設へ送られた。

 

6:学校〔3歳:LEVEL1〕
3歳になったので、学校に行くことになったですよ。学費は奨学金に頼るです。
両親いないので、とっとと手に職つけて社会に出るしか生きる術なしな感じですよ。

所長「みなさん入学おめでとう。ようこそ「こんにちワーク」へ。」

…アレ?
果たして学校なのか。

 

7:成果〔3歳:LEVEL1〕
学校かと思ったそこは、「こんにちワーク」という職業斡旋所的なとこだったです。
ちょっと計画とはズレたですが、まぁ結果的に職が得られるならそれで良しですよ。
職員「えー、こんにちは。私がみなさんの担当です。頑張って職を掴みましょうね!」
無職「ハイ質問です!ここの就職率はどうなってるですか?成果を知りたいです。」
職員「あぁ大丈夫、歴代の就職率は100%ですから。 戦士が10人、魔導士が5人…」
一同「お、おぉーーー!!」

職員「あとは「ニート」です。」
無職はソッコーで辞めた。

 

8:改心〔3歳:LEVEL1〕
全くもって希望が持てなかったので、こんにちワークとはサヨナラしたです。
そもそもこの不況の世で、誰かに頼ろうとしたワチが間違ってたかもですね。
誰かに頼って探してもらうんじゃなく、やりたいことは自分で探すべきなのですよ。
そしていつか魅力的な職に出会って、それに心惹かれっ!ゴンッ!
無職は身を轢かれた。

 

9:勧誘〔3歳:LEVEL1〕
決意を新たにした瞬間何かに轢かれ、ワチは華麗に宙を舞ったです。痛かった…。
目が覚めるとワチはベッドに寝かされていて、そこには男の子が立ってたですよ。
少年「よぉ、起きたかよ大丈夫か?悪かったなぁウチの運転手が…ホレ慰謝料だ。」
無職「う゛ぅ…同情するなら職をくれですよ。 あ、お金もいるですけど。」
少年「ん?なんだアンタ、働きたいのかよ?なんなら上に紹介してやろうか?」
無職「え、ホントですか!?やっとワチにも職が…!?」
少年「決まりだな。 ようこそ…「義勇軍」へ。」
頼らない誓いはどうした。

 

10:期待〔3歳:LEVEL1〕
成り行きに任せまくって、ワチは「義勇軍」という軍隊に所属することになったです。
これで職場はできたですが、まだ職業は決まってないです。安心はできないです。
軍隊ってことはやっぱり…兵士系?いや、女子としては医療班も捨てがたいです。
まぁとにかく、いろんな職種の人が行き交うこの職場は期待大ですよ。嬉しいです。
無職「あ、少尉さん!今日から入った無職です。ワチは何すればいい感じですか?」

少尉「いや、特に。」
無職は居場所が無い。

 

11:気遣〔5歳:LEVEL1〕
その後、特に…ホントに何も無いまま2年が経ったです。人生お先真っ暗ですよ。
少年「お…?おっ、なんだよ元気そうじゃねーかよアンタ。2年ぶりくらいか?」
無職「ん…あぁ!アナタはワチをスカウトしてくださった、確か名前は…戦仕さん?」
戦仕「オゥよ!そういやアンタ、どこの部隊に入ったんだ?なんか暇そうじゃんか。」
無職「未だ無所属ゆえだと思うです。」
戦仕「へ…?オイオイ、もう2年だろ?一匹狼にも程があるぜよ。」
無職「ワチの意思じゃ…。どういうわけか、誰もワチに仕事くれないのですよ…。」
戦仕「あ〜、アンタの名前無職だよな?そういや噂に聞いたことあるぜよ。」
無職「え!一応話題に上っちゃったりな存在ですか!? で、みんなは何と!?」
戦仕「なんか、「名前勝ち」させちゃマズいと。」

え、なにその気遣い…?
無職は父を恨んだ。

 

12:怪物〔5歳:LEVEL1〕
どうやらワチが孤独なのは、パパさんがかけた呪いみたいです。死にたいです…。
一応独学で訓練はしてるですが、一人で頑張っても成果が見えないし寂しいです。
無職「…というわけで、ご相談なのです。ワチはどうすれば部隊に所属できます?」
少年A「ん〜、なかなか難しいんじゃない?ここんとこ平和でどこも人余ってるし。」
少年B「ホラこの組織表見てみなよ。どこも定員イッパイじゃん?」
無職「むぅ〜…あ!この第4部隊ってとこは少ないです!ここなら余裕ありじゃ?」
少年達「ッ!!!」
少年達は凍りついた。
少年A「そ、その隊は…ヤメた方がいいよ。部隊長が、その…“アレ”だから…。」
無職「あ…もしかして弱かったりです?確かに弱小部隊は命のピンチですね…。」
少年B「あ、いや、実力はもうナンバー2…「中将」より強いと言われてるんだけど…」
無職「強いのですか!でもなんで…その人が中将さんじゃないです?性格…?」
少年A「彼の名は「ワキスメル大佐」…職業は、「ワキガ」。」
無職「わ、ワキ!?」
少年B「ただ「ワキが臭い」ってだけで、「大佐」に甘んじてる不遇の男…。」

なんですかその怪物。
勇者はこの頃オナラ魔人に出会った。

 

13:惨劇〔5歳:LEVEL1〕
ワチが部隊に入るには、なにやら大きな障害がある模様です。困ったことです。
でも背に腹は…って感じなので、思い切って飛び込んでみることにしたですよ。
少尉「なるほどね…ま、ウチは来る者拒まずだよ。でも大佐は“アレ”だけどね…?」
無職「い、一応話は聞いてきたです。大きな不安と若干の好奇心でイッパイです。」
少尉「あ〜、でもその割にかなり繊細な人だから気をつけて。あ、とりあえずコレ。」
無職「へ?なんですコレ…?鼻栓?」
少尉「あ、5銀(約5万円)ね。」
無職「高っ!え、なんですその法外な値段!?というか鼻栓とか大げさ過ぎでは?」
少尉「まぁ無理にとは言わないけど…とりあえず、死者だけでも両手じゃ足りない。」
無職「え!なんですそのテロ!?まさかの毒ガスレベル!?」
少尉「わっ、来た…!」
無職「え、あっ…ぐふっ!?
ひょっこりと長身なマッチョが現れた。
少尉「ど、どうもはいさ。おひさひぶいへふ。」
大佐「やぁ少尉、相変わらず活舌悪いな。あ、また鼻に不自然なゴミ付いてる、ぞ。」
少尉「ぎゃ、ちょっ…それ取っちゃ…!ぐへぇっ!!
大佐「むっ!?くっ、また例の流行り病か…!なぜウチの隊ばかり…!」
無職は生死の境を彷徨った。

 

14:苦難〔13歳:LEVEL1〕
その後、なんだかんだで時は流れ―――
ワチは無職、結局今も「無職」…。レベルが全然上がらないのは仕様っぽいです。
でも今は一応第4部隊の「中佐」として、今日も大佐さんと一緒で鼻がもげそうです。
しばらく平和だった世の中ですが、最近なんか不穏な動きがあるとかよく聞くです。
詳しい話はよく知らないですが、とにかく今言えるのはとりあえず鼻がもげそうです。
鼻の機能は働かなくしてるはずなのに、どういうわけか鼻がもげそうなわけです。

未だに全く慣れないニオいですが…隊員との別れには、若干慣れたです。
犠牲者数はハンパ無かった。

 

15:希望〔14歳:LEVEL1〕
そして―――
春…。14歳になったワチの周りは、今までに無いくらいバッタバタしてる状況です。
とっても強くて悪い敵さん集団がどこからか現れて、宇宙は一気に大変なことに。
敵さんは強くて、義勇軍は壊滅状態。中将さんを始め、もう大半の人が亡き者です。
なんと常勝無敗を誇ったあの大将さんまで、一戦交えて深手を負っちゃう非常事態。
そんでもって敵さんは、そのまま「地球」とかいう星へ向かっちゃった模様なのです。
今必死で追ってるですが、着いた先には相当な修羅場が待ってるに違いないです。
でもワチは、気持ちじゃ負けないのです。夢を持って生き残ろうと思うわけですよ。

ワチ、この戦争から帰ったら…就職するんだ…。
露骨にダメな予感が。

 

第五章