外伝(玖)

 

外伝:男似が行く〔1〕
俺の名は「男似(だんじ)」。男の中の男を目指す硬派な3歳児。だが職はまだ無い。
男を極めるにあたり最も相応しい職は何なのか…考えても全然わからないからだ。
「勇者」「剣士」「武闘家」「戦士」…どれも魅力的で、色々考え始めたらキリが無い。
こういう場合は視点を変えて、敢えて形から入ってみるのもいいのかもしれない。
そう思って防具屋に来てみた。 重厚な鎧、丈夫な胴衣、素敵な法衣、ゴスロリ…

うん、いいかもしんない。
男似は目覚めちゃった。

 

外伝:男似が行く〔2〕
職選びのつもりが別の世界に目覚めてしまい、それから全てが変わっていった。
変わり果てた俺は親にも見離され、仕方なく島を出た。こうなったらもう戻れない。
だが職はまだ決まらず、仕方なく俺は場末のバーでバイトを始めることにした。
ママ「よろしくねぇ坊や。私のこと、ホントのママと思ってもいいのよぉ〜?」

新しいパパができた。
普通のバーじゃなかった。

 

外伝:男似が行く〔3〕
オカマバーで働くようになり1年が経った頃、客のオカマから気になる噂を聞いた。
それは「三日月の鎌」という、かつて伝説のオカマが操ったという強力な武器の話。
今はどこかに埋まっていて、オカマの中のオカマだけが引き抜けるとか話していた。
なんでもその鎌は、振るう度に持ち主の「男気」を食らう、呪われた武器なんだとか。

もう、戻れない。
さっき抜いたばかりだった。

 

外伝:男似が行く〔4〕
2年も働いていると、酒の絡む商売だけに、しばしば困ったお客もやってきた。
中には料金を踏み倒して逃げようとする奴もいたため、そんな時にはよく戦った。
自慢じゃなく強かった俺は、例の鎌に頼らずとも全戦全勝…そう、“あの日”までは。
男似「ハァ、ハァ…くっ、バカな…!この俺が、手も足も出ないなんて…!」
少年「いい線いってるが、この俺に逆らうには10年早い。出直してくるんだな。」
男似「いや、お前が金持って出直して来いよ。」
少年「俺の名か?いいだろう、教えてやろう。」
男似「聞いた覚えは全く無いんだが…確かに気になるな、いいよ名乗るがいい。」

少年「ヒック、俺の名は「凱空」…基本的に、何もしない男だ。」
金くらい払え。

 

外伝:男似が行く〔5〕
常勝無敗の俺の前に現れたのは、凱空と名乗る少年…こいつがまたメッチャ強い。
結構本気で挑んだにも関わらず、あっけなく倒されてしまった。世界って広いな…。
男似「フゥやれやれ…参ったな、まさか完敗とは思わなかったよ。」
凱空「お?いいねぇ、カンパーイ♪」
男似「いや、まだ飲む気かよ文無しの分際で。」
凱空「フン、貴様はまだ力を隠し持ってるように俺には見えるがな。」
男似「…へぇ、さすがだねぇ。やっぱりタダ者じゃないらしい。」
凱空「いや、タダで済むならそれに越したことは無いんだが。」
男似「そっちの話じゃねーよ。会計の方はキッチリ済ましてから消えろボケ。」
凱空「フッ悪いな、俺は店に金は払わん主義だ。」
男似「それは主義とかどうとかじゃなくて常識的な問題だよ。」
凱空「と、まぁそういうわけだ。もう眠いから帰るぞ俺は。」
男似「ま、待て!スタッフとして見過ごすわけには…って、いない!?早っ!」
後に手配犯になる男だった。

 

外伝:男似が行く〔6〕
人生初の敗北。負けたのもくやしいが、食い逃げされたのもくやしい。あの野郎…!
男似「…というね、困った客がいたんですよ〜。酷いと思いませんかお客さん?」
凱空「まったくだな。」
男似「ってなぜ貴様がまた来てるんだーー!?」
凱空「ここの子供酒はなかなかイケる。それに、リーズナブルだしな。」
男似「無銭飲食に安いもクソもないだろうが!ブッ殺…」
凱空「やめておけ。中途半端な覚悟の者に、この俺は止められない。」
男似「なっ…!?この俺が、中途半端…だと…?」
凱空「その言葉遣いがいい証拠だよ。お前はオカマに、なりきれていない。」
男似「いや、オカマにじゃなく女になろうとするのがオカマだと…。」
凱空「何を迷う?何をためらう?迷いある弱き者よ。」
男似「…確かに、かつては男の中の男を目指した身…。未練があったのかも…な。」
凱空「さーて、そろそろ帰るかな。ごちそうさ…むっ、なんだその大鎌は…?」
男似「だから見せてやるよ、この俺の男気の…最後の輝きを!っていないっ!?」
凱空は空気を読めない。

 

外伝:男似が行く〔7〕
3年後―――。
エリン大陸からギマイへと移り、3年が経った。修行に励み、腕は格段に上がった。
いつの日か、奴との再戦に勝利するため…できる限り強くなっておかなければ。
〜ギマイ大陸:とあるオカマバー〜
男似「…てゆー無銭飲食野郎がいたんですよ〜。酷いと思いませんかお客さん?」
少女「ま、気持ちはわかるね。」
男似「でしょう〜?」
少女「アタイも、金は払わない。」
男似「え、そっち!?そっちがわかるの!?」
少女「その男とは気が合いそうだね、いつか会ってみたいもんだよ。」
男似「チッ…二度とそんな気が起きないようにしてやる。まずは名乗りな、アンタ。」
少女「アタイの名は「終(おわり)」。アタイに逆らって…無事に済むと思うでないよ?」
男似「へぇ…面白い。」
男似はボコボコにされた。

 

外伝:男似が行く〔8〕
その後、何度となく店に来て、その度に私をボコボコにして無銭飲食を続けた彼女。
その傍若無人っぷりには、もうあきれたを通り越して、負けたと思った。完敗だった。
そんなこんなで気づけば私は、彼女を「姉さん」と呼び慕うようになっていった。

店は潰れた。
尋常じゃない被害額だった。

 

外伝:男似が行く〔9〕
店が潰れ、居場所が無くなった私は、そのまま姉さんと一緒に暮らすようになった。
姉さんは、傍若無人な自由人のくせに、なぜか皆に慕われる不思議な人だった。
〜ギマイ大陸:ケンド村〜
少年A「終ネェちゃーん!ちょっと来てよーお願いだよー!」
終「ん?ったくやかましい坊やだねぇ。上唇と下唇を本返し縫いで縫い合わすよ?」
男似「フフッ、さすがは姉さん、子供相手でも厳しいねぇ。」
少年A「えーイヤだよアレ痛いしー!」
男似「ホントにやっちゃうあたりが特に。」
終「で、何の用だい?くだらない話だったら酷いよ?嘘付いたら針千本伸ばすよ?」
男似「いや、むしろ見てみたいよそれ。千本の針を、こう、ビューンと…?」
少年B「んとよぉ、村外れの洞窟に変なほこらがあったんだよ!探検しよっぜ!」
終「却下。悪いけどアタイはそんなに暇じゃないんだよ。アンタらだけで行ってきな。」
少女「無理だよぉ〜、私達だけじゃ行けない高い所とかもあるんだよ〜!」
終「ハァ〜仕方ないねぇ…ダンディ、アンタ行ってきな。アタイは家でゴロゴロする。」
男似「え、なんで私が?てゆーか今さりげなく暇なの暴露しちゃってない?」
少女「ん〜…まぁいいや、行こうよおに…おね…うん、行こうよ!」
少女は気を使った。

 

外伝:男似が行く〔10〕
姉さんの代わりに子供達に付き合わされるハメになった。これ結構毎度のこと。
13歳にもなってガキと遊ぶのは疲れるけど、姉さんには逆らうだけ無駄だしねぇ…。
〜ケンド村:東のほこら〜
少女「もぉ〜!「央遠(おうえん)」も「右遠(うえん)」も早いよぉ〜!どこぉ〜!?」
男似「ハァ…よくあんなに走り回れるもんだね〜。超ダルいし…恨むよ姉さん…。」
声A「オーイ!ちょっと来なよ「左遠(さえん)」〜!なんか変なのがあるー!」
左遠「えっ、ホントー!?うわっほーい☆」
男似「変なのねぇ…。まったく子供ってのは変なもの大好きだよね〜…。」
声B「うっせーよオカマ!オメェの方が変だろーが!」
男似「オーケーお前殺す。」
声A「オニネェちゃんも早くー!」
男似「お前も若干殺す。」
左遠「行こうよ、おに…ネェちゃん…。」
左遠は気が抜けない。

 

外伝:男似が行く〔11〕
兄弟の声がする方に行ってみると、そこには妙に禍々しい漆黒の石碑があった。
特に何がってわけじゃないけど、なんとなくイヤな予感がした。近寄っちゃ…危険だ。
男似「なんだかイヤな感じがするね。近寄っちゃダメだよ、何あるかわかんないし。」
央遠「えーなんでだよぉー!?って、なんか字ぃ書いてあっぞ!見てみオニネェ!」
男似「ん?字って…?」

石碑『最凶の霊獣、ここに眠る。起こすなよ!絶っ対に起こすなよ!いやマジで!』

男似「・・・・・・・・。」
右遠「オニネェちゃん、コレ…「前振り」だよね?「開けろ」って言われてるよね?」
央遠「なぁオニネェ、開けちまおうぜ!ここでやんなきゃ男がすたるぜ!だろ!?」
男似「いや、もうとっくにすたれてるし。」
左遠「とっくに開いてるし…。」
一同「え゛っ!?」

どこの芸人の仕業だ。

 

外伝:男似が行く〔12〕
開けちゃいけないと感じた謎の石碑は、その心配もむなしくとっくに開いていた。
てことは、とっくに封印も解かれてて…でも何事も無い…ん?じゃあ何も問題ない?
男似「…でもま、警戒しとくに越したことはないよね。帰るよ、危険かもしれない。」
央遠「だからイヤだっつてんべ!?男にはやんなきゃなんない時があんだよ!」
男似「姉さんに言いつけるよ?」
央遠「でも今じゃない気がする。帰るぞお前ら。」
右遠「な、情けないけど正しい判断だと思うよ。あのネェちゃん本気でやるしね…。」
左遠(ガクガクブルブル…!)
男似「そんなになるほど怖いんだね…。」
左遠「ち、違うの…あ、違くもないけど、終ネェも怖いけど、そうじゃなくて…後ろ…。」
男似「ッ!!?」
男似は背後を振り返った。
何か黒い影のようなものを見つけた。
男似「…アンタは、何?目の錯覚とかじゃなさそうだけど。」
影「フッフッフ、我が名は「マオ」…霊獣マオ。どうだ、力が欲しくないか…?少年。」

男似「少年?」
マオ「しょ…少女…?」
マオは混乱している。

 

外伝:男似が行く〔13〕
多分石碑から出てきたんであろう黒い影は、その名を「霊獣:マオ」と名乗った。
確か旧大戦で大暴れした「魔神」も同じ名前だった気がしたけど…何か関係が…?
男似「力が欲しいかって?何それ意味わかんない。私は危ない橋渡る気は…」
マオ「フッ、本当にそうか?何やら強さに未練があるように見えるがなぁ。」
男似「ッ!!」
マオ「我を取り込めば貴様は強くなれる。その時貴様は「最強の男」となるだろう。」
男似「さ、最強の…男…。」

声「ヤメときなダンディ、ハンパな覚悟で手ぇ出したらアンタ…死ぬよ?」
振り返ると終がいた。
男似「な、なんで姉さんが…ここに?」
終「ん?あぁガキ共が泣きついてきてね。なんでも妙な扉のある石碑があって…」
男似「あ、そういえば知らぬ間にあの子達…。」

終「うっかり開けちゃったと。」
「うっかり」で済む事態じゃなかった。

 

外伝:男似が行く〔14〕
最強の男…。男に未練は無いと思ってたのに、なぜかその言葉には心が揺れた。
もし姉さんが来なかったら…私は…。 あぁ、とりあえずあの子らは後で軽く殺す。
マオ「ふむ…邪魔が入った、改めて聞こう。どうだ貴様…力は欲しいか?」
男似「…いや、ヤメとくよ。確かに強さは欲しいけど、他に奥の手は…あるんでね。」
終「んじゃあアタイがもらうよ。」
男似「え゛ぇっ!?ちょっ、姉さん…!?」
マオ「ほぉ、更なる強者から名乗りが上がるとはな…。オイ小娘、二言は無いか?」
終「最近暇なもんでね、ちょいと世界征服でもしたいなぁ〜と思ってたんだよ。」
男似「いや、暇潰しにしてはスケールが…!」
終「オロオロしてんじゃないよ男だろ?いいから黙って、アタイについてきな。」
男似「ね、姉さん…?」
マオ「フッ…いいだろう。貴様に我の、力をくれてやる。」
こうして「魔王」が誕生した。

 

外伝:男似が行く〔15〕
そして、3年の月日が流れた。
〜メジ大陸:魔王城〜
凱空「ふむ、やっとここまで来たか…。もうこれ以上敵とは会いたくないもの…む?」
声「ちょっとぉ〜、勝手に入られたら超困るってゆーかぁ〜?」
凱空「…む?お前は確かオカマバーの…。随分印象が変わったが、何があった?」
男似「説明とか超ダルいんですけどぉ〜。」
凱空「なんだオイ、そんなこと言うと泣くぞオイ。」
男似「じゃあ死ねばぁ〜?」
凱空「前は握るのも躊躇していたその鎌…それのせいか?どんな心境の変化だ?」
男似「…ま、事情が変わったってゆーかぁ?なりふり構ってらんない〜みたいな?」
凱空「フッ…面白い。枷が外れた貴様の実力…見せてもらおうか。」
男似「ハァ〜?超ウザ〜。」
男似は「三日月の鎌」を振りかざした。
全ては「魔王」…終のために。

 

第二十五章