外伝(壱)

 

外伝:勇者凱空〔1〕
俺の名は「凱空(ガイク)」。エリン大陸に咲く一輪の花…も恥じらう十歳児だ。
一応将来は「勇者」になる予定だが、今は「魔王」が居ないので魔王待ちの状況。
なんだか本末転倒のような気もするが、基本的に細かいことは気にしない主義だ。
…しかし、その時まで何もしないで待つというのは、さすがの俺でもどうかと思う。
やはり今のうちに、「戦隊」でも組んでみるべきだろう。 よし、まずは命名からだ!
凱空「う〜む、れんじゃ…連…五錬…じゃ…者…蛇…? いや、「五錬邪」だ!!」

少し変な気もするが…まぁいい。今後は気をつけよう。
後に息子に「勇者」と付ける。

 

外伝:勇者凱空〔2〕
俺の思いつきにより、突発的に発足した正義の組織「五錬邪」。もちろん五人組だ。
というわけで俺は、メンバーを集めることにした。大丈夫、ちゃんとアテはある。
少女「あ、凱空先輩だ! 凱空センパーイ!」
凱空「ん? おぉ、来たか「春菜(しゅんな)」…もとい、「黄錬邪」よ。」
春菜「えっ?きれ…なんですかソレ?」
凱空「お前のコードネームだよ。今日から戦隊を組むって言ったろ?」
春菜「い…言いましたっけ?」
凱空「ああ、今な。」
春菜「今日も変わらずマイペースですね…。」
凱空「俺は赤が好きだから「赤錬邪」。そしてお前は黄色の黄錬邪だ。」
春菜「へ?なんで黄色に決まってるんですか?私は別に黄色は好きじゃ…」
凱空「カレーが好きだから。」
春菜「いやいや!勝手に決めないでくださいよ!カレーなんてむしろ嫌いですし!」
凱空「じゃあカレーが嫌いだから。」
春菜「おかしいし!無理矢理すぎるし! …って、そもそもカレーって茶色では!?」
凱空「いや、洗濯しても微妙に落ちなかったカレーの…」
春菜「そんなピンポイントな!確かにそれは黄色っぽいですけども!」
凱空「ん〜、じゃあやっぱ「茶錬邪」か?しかしなぁ〜。」
春菜「なんで「カレーから離れる」って発想が無いんですか…。」

凱空「…カレーんじゃ?」
春菜「黄錬邪で…いいです…。」
黄錬邪が仲間に加わった。

 

外伝:勇者凱空〔3〕
黄錬邪が仲間になった。まだ3人集めねばならんが、大丈夫。次も呼び出してある。
少女「なんだよ凱空、こんな所に呼び出しやがって。決闘でもフッかける気か?」
凱空「おぉ、待たせたな「秋花(しゅうか)」…もとい、「桃錬邪」よ。」
秋花「はぁ?なに言ってんだテメェ?ついに脳ミソ腐りやがったか?」
凱空「フッ、何を今さら。」
春菜「いや、そこは一応怒っときましょうよ。」
秋花「んで?その「モモなんとか」って一体何なわけ?呪文か何か?」
春菜「えっとですね秋花先輩、なんか今日から戦隊を組むとか言い出しまして…。」
秋花「ったく、またアホなことを…。」
凱空「な、なんだとコンニャロウ!!」
秋花「あん?なにさ、ヤルっての!?」
凱空「俺の脳はまだ腐ってないぞ!」
秋花「そっちか!今さらそっちの話か!」
春菜「というか「まだ」ってどうですか!?」
凱空「まぁ細かいことは気にするな。とにかく大人しく桃錬邪れ。」
春菜「ちなみに私は、カレーが嫌いだから黄錬邪だそうです…。」
秋花「…なるほどね、わかるわかる。」
春菜「わかるんですか!?ちょっと凱空先輩に汚染されてきてませんか!?」
秋花「カレーで黄錬邪ねぇ〜。じゃあ桃色ってのは…やっぱヒロインだからだよな☆」

凱空「オシリが桃みたいだから。」
秋花「人類共通だよ!!」
今日からキミも桃錬邪だ。

 

外伝:勇者凱空〔4〕
桃錬邪が仲間になった。なかなかいいペースだ。この調子でどんどん増やそう。
春菜「あっ、いた!おーい、お兄ちゃーん!」
少年「…ん?春菜と凱空…それに春菜か。」
秋花「なんで「春菜」を二回も言うんだよ!アタシにも触れろっての!」
凱空「よぉ、そんなとこにいたのか「冬樹(とうき)」…もとい、「黒錬邪」よ。」
春菜「あ、あの…やっぱり説明から入らないと意味が…」
冬樹「いい名だな、気に入った。」
秋花「なんで伝わってんだよ!?」
凱空「フッ、これがいわゆる「アイコンテスト」だ。」
秋花「どんな大会だよ!それを言うなら「アイコンタクト」だろうが!」
冬樹「まぁ気にするな、桃錬邪。」
秋花「なっ…なんで知ってんだよ!さっき命名されたばっかだよ!?」
春菜「なんかゴメンなさい、こんな天然な兄で…。」
冬樹「どうしよう凱空、褒められた。」
春菜「褒めてない!ちっとも褒めてないよ!照れるのおかしいよ!」
凱空「いやぁ〜、参ったな〜☆」
秋花「お前もだよ!!」
黒錬邪が仲間に加わった。

 

外伝:勇者凱空〔5〕
黒錬邪も加わり、残るは一人…と思っていたら、標的は向こうからやってきた。
少年「…フゥ、なるほどな。俺が呼ばれたのもそういう意味かよ。」
春菜「あ、「夏草(なぐさ)」君。」
夏草「で?俺は何錬邪なんスか凱空先輩? 緑?青?あとは…まさか白とか?」
凱空「おぉ、話がわかるじゃないか。説得の手間が省けて助かるよ「群青錬邪」。」
夏草「ちょっと待て!なんスかその微妙な色は!?なんで俺だけ!?」
凱空「よっ!出オチ要員!」
夏草「なに持ち上げてるっぽく言ってんスか!全然嬉しくねーよ!」
凱空「イヤか?色合い的に青系色が欲しかったんだが…。」
夏草「なら素直に「青錬邪」でいいじゃねーか!なんでわざわざ濁っ…」
凱空「…瞳が濁ってるから?」
秋花「心が濁ってるから。」
夏草「友達なくすぞアンタら…!」
凱空「まぁとにかく頼むぞ、群青錬邪!よろしくな!」
夏草「…チクショウ!なんで俺だけいつも扱いが適当なんだー!うぉーー!!」
夏草は夕日に向かって走り出した。
春菜「な、夏草君っ…!」
秋花「あ〜あ。」
冬樹「凱空、急がないと…。」
凱空「…わかってる。」

もうじき夕飯の時間だ。
誰も追わなかった。

 

外伝:勇者凱空〔6〕
俺達が五錬邪を結成し、エリン大陸を飛び出してから二年近い月日が経過した。
だが俺達は止まらない。いつか世界中に平和な日々が訪れるその日まで!
〜ギマイ大陸:コウ森〜
女「キャー!魔人よー!誰か助けてぇー!!」
魔人「グヘヘ!諦めな、いくら叫んだって誰も助けは…」
声「待ぁーてぇーーー!!」
高台の上に赤錬邪が現れた。

きわどいポーズで相手を誘っている。
魔人「だ、誰だ貴様っ!?というかなんだその悩殺ポーズは!?」
赤錬邪「フッ、俺か?俺は、猿の尻よりちょっぴり紅い紅蓮の炎…赤錬邪っ!!」
女「ひ、ヒーローさんなの!?セリフがとっても中途半端だけども!」
魔人「ケッケッケ!バカが、たった一人で魔人様に勝てるとでも思ってんのかぁ?」
黒錬邪「俺もいる。 便所のシミより微妙に黒い、漆黒の影…黒錬邪。」
魔人「チッ、仲間がいやがったか!」
女「微妙に黒いの!?それとも漆黒なの!?どっちなの!?」
黄錬邪「わ、わた、私は…その…。」
魔人「まだいたかっ!…って、なんだテメェ、ヤル気あんのかコラ!?」
赤錬邪(言え!言うんだ黄錬邪!こういうのはテンポが命だぞ!)
黒錬邪(そうだぞ春菜。今日からみんなでキメるぞって言ったろ?)
黄錬邪「…こ、香ばしいスパイスの香り…黄錬邪…。」
女「えっ、スパイス!?決め手はスパイスなの!?」
魔人「な、なんなんだ!一体テメェらは何者なんだ!?」
桃錬邪「そして今日もオシリが桃…って、んな恥ずいセリフ言えるかー!」
凱空「…何はともあれ俺達!五人揃ってぇー!」
黄錬邪「え?あっ…」
一同「五錬邪っ!!」

群青〔木陰〕「Σ( ̄□ ̄;)!?」
揃ってなかった。

 

外伝:勇者凱空〔7〕
登場シーンも見事に決ま…ったと思ったら、群青錬邪を忘れていた。なんてこった。
ここはなんとか誤魔化して、機嫌を取っておかねばなるまい。リーダーは辛いぜ。
赤錬邪「さ、さぁ行け群青錬邪!敵は一人だ、お前の見せ場にと残しといたぞ!」
群青「いや、いいよ…。俺なんてどうせ目立たない、濁った群青色さ…。」
桃錬邪(お、オイ。すっかり落ち込んでるぞ?ここは一応励ましときなよ。)
赤錬邪(いや、しかし俺はそういうのは…。すまん黒錬邪、頼めるか?)
黒錬邪「そんなことはない。お前は頑張れば目立てる、凄く濁った群青色さ。」
群青「一番否定してほしい所を否定してくれないんだな…。」
黄錬邪(よ、よかった!「凄く」には気づいてない!)
赤錬邪「…わかった、こうしよう。もし敵を倒せれば、お前は今日から「青錬邪」だ!」
群青「ほ、ホントか!?」
赤錬邪「ああ。俺は嘘とおま…嘘が大キライだ。」
黄錬邪(おま!?今「お前」って言おうとしました!?)
群青「よっしゃ!かかって来いクソ魔人!この俺がボコボコにしてやるぜぇ!!」
群青錬邪は立ち直った。
魔人A「ほほ〜。」
魔人B「言うじゃねぇかクソガキ。」
魔人C「死にてぇのか?」
群青(ふ、増えてらっしゃるぅーーーっ!!)
四人は温かく見守った。

 

外伝:勇者凱空〔8〕
群青錬邪が敗れ、残りは四人となった。だが何も心配は無い。いつものパターンだ。
魔人A「な、なんなんだコイツは…?口ほどにもなくメチャメチャ弱かったぞ?」
赤錬邪「フン、ナメるな!こっちの二人(黄&桃)はもっと弱いぞ!」
黄錬邪「いや、威張って言うセリフじゃないですよ!?むしろ隠しといてくださいよ!」
魔人B「エリンからやたら強ぇ戦隊が来たと聞いたが…テメェらじゃないようだな。」
赤錬邪「なんだ、知らぬ間に俺達も有名になってきたみたいだな。」
魔人C「あん?自分がそうだっつーのか?だったら証拠を見せてみやがれ!」
赤錬邪「ほぉ、いいだろう…見て驚け!聞いて驚けっ!?」

赤錬邪「崩落園遊園地で、僕と握手!!」

一同「…へ?」
赤錬邪「フッ…。」
魔人D「な、なんだその「キマッた☆」って顔は!?そんなのが証拠になるかよ!」
赤錬邪「知らんのか!?戦隊ヒーローと言えば遊園地で握手!定番じゃないか!」
黄錬邪「それは「ヒーローショー」の話では!?しかも名前が何か物騒だし!」
魔人E「ふ、フザけてんじゃねーよ!もっと実力的な何かを見せろっつってんだ!」

やれやれ、贅沢な奴らめ。
どうでもいいが魔人が増えてる。

 

外伝:勇者凱空〔9〕
さりげなく魔人は増え続け、いつの間にやら20〜30人に囲まれていた。
で、知らぬ間に黄錬邪と桃錬邪は倒されていた。いつものことだが、弱すぎる。
魔人A「お、お前ら…さっきからなんなんだお前ら!ヤル気あんのか!?」
赤錬邪「フッ、俺はまだ何もしてないぞ!」
魔人A「それが問題なんだっつーの!リーダーなら率先して何かやれよ!」
赤錬邪「1番、リーダー!陸上で素モグリします!」
魔人A「誰が一発芸やれっつったよ!そうじゃなくてホラ、もっと真面目に戦っ…」
黒錬邪「悪いな、その必要はもう無い。」
魔人A「へっ…?」
他の魔人は全て倒れている。
魔人A「そ、そんなバカな!あれだけの大軍をどうやって…!?」
黒錬邪「いつの間に…。」
魔人A「いや、テメェがやったんだろ!?なんで驚いてんだよ!」
赤錬邪「意外と苦労したぜ。」
魔人A「テメェが何したってんだよ!? つーかオイ黒いの!テメェ…何モンだ!?」
黒錬邪「俺か?俺は「黒騎士」。全てを闇に帰す者だとか、そうじゃないとか。」
魔人A「んな曖昧な!ビシッとキメなきゃキザなセリフも台無しだぞ!?」
赤錬邪「俺は「勇者」。基本的に何もしない。」
魔人A「だからしろっての!!」
そんなに倒されたいのか。

 

外伝:勇者凱空〔10〕
黒錬邪の活躍により、残る敵は一人になった。また増える前に始末するとしよう。
赤錬邪「もう仲間は呼ばせん。一人寂しくあの世へと旅立つがいい。」
魔人A「ナメんな!こう見えても俺ぁここらを仕切る魔人様なんだぜぇ!?」
赤錬邪「な、なにっ…!?」
魔人A「ケッケッケ!どうやら驚いたようだなぁ〜。」
赤錬邪「そんな奴が森でコッソリと女を!?」
魔人A「い、言うな!それだけは言うなー!」
黒錬邪「そ・ん・な・や・つ・が…っと。」
魔人A「書くな!だからといって書くなー!って、書いてどうする気だよ!」
黒錬邪「読まずに食べる。」
魔人A「ヤギさんかテメェは!?何がしたいんだ! もういい!殺すっ!!」
赤錬邪「フッ、やれやれ…。ならば最後は俺がキメてやるとするかな。」
魔人A「ハンッ!望むところだ!返り討ちにしてやらぁー!」
赤錬邪「崩落園遊園地で…」
魔人A「それはもういいっつってんだろうがぁー!死ねぇえええ!!」

赤錬邪「僕とアックス!!」
魔人A「え゛っ…?」
赤錬邪は斧を振りかざした。

 

外伝:勇者凱空〔11〕
魔人どもを倒し、とりあえず用事は一つ片付いた。さて、もう一つも済ますとするか。
パチパチパチ(拍手)
声「う〜ん、噂通り見事な腕前ですな。いや、むしろ噂以上でございました。」
赤錬邪「…随分前から見ていたようだが、貴様何者だ?」
紳士「おや、気づかれてましたか。失礼ながら全て拝見させていただきましたよ。」
赤錬邪「悪いが俺に、見られて感じる趣味は無い。用が無いなら消えてくれ。」
紳士「私はアナタ様を迎えに参ったのです。姫の…「皇女」の使者として。」
黒錬邪「こうじょ…聞いたことがある。確か「天帝」の女児のことだ。」
赤錬邪「む?皇女といえば最近、婿を募集してるとか聞いたが、まさか…。」
紳士「ハイ。今やその名轟く五錬邪…その隊長であるアナタ様なら、申し分ない。」

フッ、やれやれ…照れるぜオイ。
紳士は黒錬邪を見ている。

 

外伝:勇者凱空〔12〕
突如現れた天帝よりの使者。どうにも話が胡散臭いのだが、とりあえず聞いてみた。
聞けば天帝というのは代々「女帝」であり、年頃になると婿を募るのだという。
そうやって優秀な遺伝子を手に入れ、優秀な血を濃くしていくのが目的らしい。
そして使者によると、なにやら俺がその花婿候補の一人に選ばれたらしいのだ。
紳士「というわけで、タケブにある王城まで来ていただきたいのですよ、隊長殿。」
赤錬邪「・・・・・・・・。」
黒錬邪「・・・・・・・・。」

頼むから俺を見てくれ。
説明に二時間掛かった。

 

外伝:勇者凱空〔13〕
傷ついた仲間達を癒すため、俺達は近くの村に宿をとることにした。
そしてその夜。冬樹と二人、和んでいたその夜。俺の運命を決める出来事が…。
凱空「・・・・・・・・。」
冬樹「・・・・・・・・。」
凱空「…なぁ冬樹、そろそろ飽きないか?この「心眼にらめっこ」も二時間続くと。」
冬樹「ああ。見えないしな…。」
声「凱空様ー!凱空様ぁー!!」
凱空「? やれやれ…せっかくの静かな夜に騒がしい奴め。 何の用だ使者よ?」
紳士「凱空様、お願いです!今すぐタケブに向かっていただきたい!」
凱空「む?なんだ慌てて。皇女が急に発情期にでも入ったのか?」
紳士「婿の返事は後でも結構。状況が変わったのでございます。」
凱空「くっ、俺のナイスギャグに…触れもしないとは…。」
冬樹「泣くな凱空。こういう時は笑った方が、相手は驚く。」
凱空「ワッハッハ!状況が?どういうことだ!?ハッハー!」
紳士「「魔王」が…現れました…。」
凱空「Σ( ̄◇ ̄;)!!」
紳士「私は一足先に戻ります。アナタ様は明日一番の船でお願いします。では!」
紳士は去って行った。
凱空「・・・・・・・・。」
冬樹「・・・・・・・・。」

…え?倒せと?
凱空の運命は無理矢理決められた。

 

外伝:勇者凱空〔14〕
魔王を倒してくれと告げるだけ告げ、拒否権を与えずに使者は去っていった。
深夜。 俺は皆の寝室を訪れた。いま一度、寝顔だけでも見ておきたかったのだ。
春菜「う、う〜ん…。むにゅにゅ…。」
春菜…。 お前はなぜか、こんな俺を慕ってよく付いて回ってくれたよな…。
兄の冬樹は色々と不安な奴だ。お前の常識で、今後もフォローしてやってほしい。

秋花「スー。スー。」
秋花…。 お前は口こそ悪いが、実は優しい奴だってのは俺が一番よく知ってるぞ。
アレだろ?よく俺を引っ叩いたのも、実は蚊がいたからなんだろ?

冬樹「・・・・・・・・。」
冬樹…。 お前、息してるのか…?

夏草「ぐごぉおお!ぐがぁあああ!」
夏草…。 すまん、特に何も無いや…。


サヨナラは言わない。きっとまた会える。
凱空は皆の財布を懐に入れた。

 

外伝:勇者凱空〔15〕
翌朝。 俺は港で一人、タケブ大陸へ向かう船を待っていた。そう、旅立つためだ。
「勇者」として、魔王を放ってはおけない。だがアイツらは巻き込みたくなかった。
凱空「あの船か…。早いな、もう着いてしまったか…。」
声「行くのか、凱空。」
凱空「!! …冬樹か。 よく気づいたな、やはりお前だけは出し抜けんか。」
冬樹「安心しろ、他の皆はまだ寝てる。」
凱空「そうか…。 丁度いい、お前には後を頼みたいと思っていたんだ。」
冬樹「なぁ凱空、俺も…弱いか?俺もお前の足手まといになると思うか?」
凱空「いいや、お前は強いさ。だからこそアイツらの側に居てやってほしいんだ。」
冬樹「だが、しかし…」
凱空「そこをなんとか、頼む。」
冬樹「あの赤い衣装はちょっと…。」
凱空「そこか、そこなのか。今までノリノリで着てた俺の立場はどうなるんだ。」
冬樹「敵は「魔王」…いくらお前でも、生きて戻れるかどうかわからんが…?」
凱空「まぁ安心しろ。俺は腕っぷし以上に運と個性が強い男だ。」
冬樹「全人民の運命を背負うことになるが…?」
凱空「そんなに気負うつもりは無いさ。合言葉は今まで通り、俺達の“アレ”だ。」
冬樹「俺達の…フッ、そうか。魔王退治もお前の中じゃ、いつもの“アレ”か。」
凱空「ああ。」

「ただの“ゴミ掃除”だ。」

こうして凱空は旅立った。

偉大なる伝説と、悲劇の幕開けだった。

 

第五章