第二十九章

 

4-436:足止〔14歳:LEVEL45〕
また所変わって、勇者vs大魔王戦は…?
〜大魔王城最上階:終焉の間〜
ズッガァアアアン!
夜玄「…みなさん、右です!」
ドッガァアアアアアン!
無職「ひぃいいい!ぎ、ギリギリです!一瞬でも遅れたら死ぬですよ…!」
大魔王「ハァ〜…やっぱ邪魔だよね、その予知能力。一番困っ…」
マジーン「オイオイ、マジでそれが一番か?」
ガキィイイン!(受)
大魔王「くっ…! キミも、随分と邪魔だよ…覇王。」
マジーン「オメェの好きにゃさせねぇよ。勇者の野郎が起きるまで、粘ってやらぁ。」
夜玄「ええ。我らが力を合わせれば、足止めくらいは造作も無いです。」
無職「い、居づらい…。」
無職だけ何もしてない。

 

4-437:期待〔14歳:LEVEL45〕
なんと勇者はお昼寝中らしく、残りの2人が頑張っているらしい。
無職もちょっとは働け。
大魔王「ふぅ〜…あのさぁ欧剣さん。まだ喋れるうちに、一つだけいいかなぁ?」
マジーン「あ?なんだよオイ、命乞いでもしようってか?」
大魔王「いや、確か前は「終末が見たい」とか言ってたのに、なんでそっち側に?」
マジーン「フン、オメェじゃ役者不足なんだよ。お前が勝っても、世界は終わらねぇ。」
大魔王「僕じゃ力が足りないとでも?」
マジーン「力じゃねぇんだ。オメェは絶対、途中で飽きてヤメちまうタイプだ。」
大魔王「ん〜?あ〜、確かにそうかも。」
マジーン「だが、コイツは違う!コイツならきっと…俺の願いを叶えてくれる!」
無職「えっ!?なんですその負の期待!?」
マジーン「俺はコイツを王にする。そして世界の、終わりを見るんだ。」
否定できないから怖い。

 

4-438:訂正〔14歳:LEVEL45〕
マジーンの口から明かされた、わからんでもない真実。
果たして勇者は、その期待に応えてしまうのだろうか。
無職「なんか、聞かない方がいいことを聞いた気がするですが…。」
マジーン「そういや爺さんはなぜこっち側なんだっけ?「先々代天帝」がどうとか…」
無職「確か盗子さんは次期「天帝」と…。じゃあ彼女のお婆さんとかです?」
夜玄「ええ。塔子様を次期と考えるなら、「先代」と呼ぶべきでしょうか。」
無職「ま、まさか「天帝」さんまでもが滅亡を望むとか…。」
夜玄「いやいやいや。私は「世界を守れ」と言われたのです。正反対ですよ。」
大魔王「あれ?じゃあこっち側なんじゃん?」
夜玄「いや、それはそれで違…ふぅ、なんだか複雑な感じになってきましたね。」
大魔王「まったく、「天帝」ってのはいつの世も…なんで僕の邪魔するかなぁ?」
マジーン「あ〜、そういや俺ら「十賢人」を集めたのも帝都の連中って聞いたなぁ。」
夜玄「「天帝」とは代々、世界を平和へと導く者…神のごとき人間なのです。」
マジーン「あのやかましい嬢ちゃんがか?」
夜玄「…「天帝」とは、大体…」
盗子は除外された。

 

4-439:召喚〔14歳:LEVEL45〕
そんなこんなで3人の白熱のバトルは続き、そして…。
大魔王「ハァ…楽しいは楽しいんだけど、なんか盛り上がりに欠けると思わない?」
マジーン「盛り上がり?これ以上無ぇってくれぇ激戦じゃねぇか。何が不満だよ?」
大魔王「だってホラ、どう見ても今…悪vs悪だし。」
マジーン「わ、悪かったなぁ悪人顔で。まぁ中身も正義ってわけじゃねぇけどよぉ。」
大魔王「それにキミ、いくら斬っても死なないじゃん。なに?化け物だったの?」
マジーン「化け物だぁ?失敬だな、ちょいと不死身なだけさ。」
無職「やっぱりアナタ、あちら側では…?」
大魔王「とりあえずさ、ちょっと人数多いし…そろそろ1人、消えてもらおうかな。」
夜玄「まずは私…ということですね。」
無職「えっ、でも先が見える人を倒すとか無理じゃないです?」
マジーン「ま、予知しても意味無ぇ程の速さか広範囲の攻撃…そんなとこだろうよ。」
大魔王「あ〜、なるほどね!」
マジーン「…すまねぇ。」
夜玄「いえいえ、わかっていたことですから。」
大魔王「さーて、じゃあ呼ぼうかな…」
夜玄「さぁ来ますよ…彼のしもべ、呪われし双竜の片割れ「豪雪竜:ユッキー」が。」
ユッキーて。

 

4-440:残酷〔14歳:LEVEL45〕
夜玄の言った通り、直後に「豪雪竜:ユッキー」を召喚した大魔王。
名前はともかく強そうだった。
豪雪竜「ブフォォ…ブフォォオオ…。」
マジーン「こ、コイツが悪名高い…。やれやれ、こんなの飼ってやがったのかよ。」
大魔王「まぁ「業火竜」の方は、この前やられちゃったんだけどねぇ〜。」
無職「ど、どどどどうするです!?これからワチらはどうなるです!?」
夜玄「…フフ、未来は勝手にやってきます。無理して先に知る必要は無いのです。」
夜玄はマジーンにメモを渡した。
マジーン「あん?なんだよコレは…?」
夜玄「アナタはそれの通りに。そうすれば、望む未来は訪れますよ。」
マジーン「オメェ、死ぬ気か…?いいのかよそれで?」
夜玄「私は生きるために生きてきたわけじゃない。目的を、果たすためですから。」
無職「わ、ワチには?ワチには何かできることないです…?」
夜玄「…後で、話しましょう。」
無職「つまり「死ぬ」と!?」
残酷な予言だった。

 

4-441:安心〔14歳:LEVEL45〕
豪雪竜を前に、何かしら策があるっぽい夜玄。
全てをマジーンに託し、最期の頑張りを見せるっぽい。頑張れジジイ。
大魔王「へぇ〜、まだ諦めないんだ。死なない未来でも見えたってわけ?」
夜玄「いえいえ、私は死にますよ。避けられない運命というものはあるものです。」
大魔王「その割には絶望感が感じられないじゃん。なんでなのさ?」
夜玄「先のことは私にもわかりません。ですがこれで未来に、一筋の光明は残る!」
大魔王「まぁいいや。やっちゃいなよ、ユッキー!」
豪雪竜「ブフォォオオオオオオオ!!」
豪雪竜は凍える吹雪を吐いた。

だが夜玄は魔法で食い止めた。
大魔王「へぇ、そんな魔法も使えちゃうんだ。やっぱ長生きはするものなんだねぇ。」
夜玄「お嬢さん、私の後ろにいなさい。そうすれば、まだ死にはしない。」
無職「で、でも…!」
夜玄「まだ大丈夫、安心していい。」
無職「しきりに「まだ」を強調するのはなぜ…!?」
無職は安心できない。

 

4-442:背後〔14歳:LEVEL45〕
豪雪竜の攻撃を、魔法の力でなんとか防いだ夜玄。
だが攻撃はなおも継続中だった。
大魔王「ん〜、結構頑張るねぇ。でも本職じゃないんだから、もう限界だよね?」
無職「だ、大丈夫です!?随分辛そうですが大丈夫です!?」
夜玄「し、心配は要りませんよ。アナタはまだ…」
無職「アナタ実はドSさんです!?」
大魔王「でもまだ本気じゃないんだよね〜。さぁ、そろそろ本気で集中してよ。」
豪雪竜「ブフォッ!ブッフォオオオオオオオ!!」
夜玄「…今です!!」
豪雪竜「ッ!!?」
マジーン「ラジャー!」
ザシュッ!(斬)
マジーン、会心の一撃!
背後から竜の首をハネた。
マジーン「ハハッ、マジで決まったわ!そこまで見えてたとかスゲェな爺さん!」
夜玄「フ…フフ…。注意さえ引いてしまえば、背後を取るなんて造作も…」
大魔王「あ〜…確かに、そうかもねぇ。」
マジーン「なっ!?テメェいつの間」

ザシュッ!(斬)
マジーンの首も飛んだ。

 

4-443:希望〔14歳:LEVEL45〕
敵の虚を突いたつもりが逆に突かれてしまったマジーン。
やはり所詮マジーンはマジーンなのか。
マジーン「くっ、なんてこった…油断しちまったわ…。」
無職「う、うわー!聞いてたですけど首だけで生きてるとかトラウマ級ですー!」
大魔王「ハハハ!残念だったね〜。予知は無理でも予想くらいできるんだよ僕も。」
夜玄「フフ…まぁ、これも予知通り…。ここから先は、私にもわかりませんがね…。」
大魔王「ハァ?予知通りとか強がりも大概に…」
夜玄「私に見えるのは、ここまで…。私は希望を守った…後は…お任せします…。」
大魔王「ッ!!?」
勇者「ああ、よくやったなジジイ。」
大魔王「しまっ…」
ザシュッ!(斬)
夜玄は介錯された。

 

4-444:伝統〔14歳:LEVEL45〕
疲労のあまり知らぬ間に力尽き、目が覚めると状況はかなり変わっていた。
まぁとりあえず、俺の見せ場はまだまだ残されているようで何よりだ。
無職「ちょっ、な、なんでお爺さんを斬っちゃうです!?アナタどこの鬼さんです!?」
勇者「フッ、せめてもの情けだ。凍てついた体でジワジワ死ぬのは苦痛だろう。」
大魔王「…ホントは?」
勇者「勢いで。」
無職「やっぱ鬼です!」
大魔王「で、調子はどうなの?睡眠取って体調は万全!って感じかな?」
勇者「フン、バカか貴様は?眠ったくらいで傷が癒えたら医者なんぞ要らんわ。」
無職「いや、だからなんでそんな強気な弱音が吐けるです…?」
大魔王「どうやら限界みたいだね。待った甲斐が無くて残念だよ。」
勇者「…ふぅ、やれやれ仕方ないな。ついに、「あの魔法」を使う時がきたのか…。」
大魔王「ハハハ、またハッタリ?好きだねぇ〜そういうの。」
勇者「フッ、ならば見せてやろう。我が一族に伝わる伝統の…上級魔法をな!!」
勇者は〔他力本願〕を唱えた。

だが何も起こらなかった。

 

4-445:絶望〔14歳:LEVEL45〕
プライドを捨てて唱えた魔法も不発に終わり、仕方なく自分で頑張ることにした俺。
だがやはり勝てそうにない…。負けるというのか?この俺が…負けると…?
勇者「ゼェ、ゼェ、ありえん、こんなことは…あってはならん…!ちくしょう…!」
無職「ゆ、勇者さん…。」
大魔王「ハァ〜〜…ガッカリだなぁ…。僕、何のために今日まで待ったんだろ…。」
勇者「う、うぉおおおおおお!ガッカリするなぁああああああ!!」
無職「だ、大丈夫です勇者さん!きっと助けが来るですよ!誰か…」
大魔王「誰がぁ?相手になりそうな人って、キミの父親くらいなもんじゃない?」
勇者「そ、そうだ親父だ!あのクソ親父なら、いつヒョッコリ現れても不思議では…」
大魔王「それは無いね。帝雅班からさっき通信が入ったよ、遠くで戦闘中だって。」
勇者「なっ…!?じゃ、じゃあ…じゃあ他には…!まだ誰か…」
大魔王「諦めなよ、もうわかってるでしょ?」
勇者「フザけるな!俺は…俺は、諦めるのと盗子が、大っ嫌いなんだ!!」
大魔王「さぁ…死のうか。」
勇者「くっ、ここまで…かよ…!」

声「待ぁーーーーてぇーーーーー!!」
なんと!意外な人物が現れた。
大魔王「ッ!!?」
無職「えっ…!?」
勇者「お、お前は…まさか…!」

勇者B「俺だ!!」

俺かっ!?
もう何がなんだか。

 

4-446:完全〔14歳:LEVEL45〕
俺のピンチに現れたのは、まさかの俺だった。この展開はさすがに予想外だ。
勇者A「お、俺…なのか…?いや、そんなはずはない。貴様は一体誰なんだ?」
勇者B「よぉ俺。相変わらずのナイスガイだな。我ながら惚れ惚れするぜ。」
勇者A「フッ、お前こそな。」
無職「やはりご本人では!?」
勇者B「だからそう言ったろ?まぁ少しばかり、離れ離れになってはいたがな。」
勇者A「ッ!! そういや少し透けて…そうか、あの時お義母様に鈍器で…!」
勇者B「そう、転送途中で止められたせいでな…一体化しきれなかったんだよ。」
勇者A「そうか。つまり俺は、まだ「完全体」じゃなかったというわけだな。」
無職「な、なんか会話の軸が人間のそれじゃ無いですが大丈夫です…?」
大魔王「つまりはどういうことなのかなぁ?わかりやすく教えてもらっていい?」
勇者A「フッ、そうだなぁ…」
勇者B「まぁ簡単に言うなら…」
ピカァアアアアア…!(輝)
激しい光がほとばしった。
2人の勇者は1人になった。
勇者「貴様は、ここで死ぬってことだ!!」
邪悪なオーラが噴き出した。

 

4-447:仕事〔14歳:LEVEL45〕
どうやら俺は、「断末魔」を吸収中だった方の俺とうまく合体できてなかったっぽい。
どうりで、究極の呪いを制したって割に力が沸かんわけだ。これで合点がいったぜ。
しかも都合良く、傷や疲労も無かったことになった感じだ。これは…勝ったな!
勇者「というわけで無職、貴様を殺す!」
無職「って、ええぇっ!?なにゆえにワチです!?」
勇者「む?いや違う、俺が殺すのは…ぬぐっ、なんだこりゃ…頭が、痛ぇ…!」
無職「ハッ…!まさか、呪いの力に耐え切れなくて逆に乗っ取られ…」
勇者「世界を滅ぼすのは、この俺だ!!」
無職「や、やっぱり!…なのかよくわからない程に普段の行いが邪悪ですっ!」
勇者「うぐっ、どうやら…完全に飼い慣らすには、もう少し時間が要るようだぜ…!」
大魔王「それは困るなぁ〜、暇じゃん僕。」
無職「…ま、まさか…?」
勇者「5分でいい…なんとか耐えろ。それが貴様の、最後の仕事だ。」
最初の仕事でもあった。

 

4-448:交戦〔14歳:LEVEL45〕
呪いを受け入れた割に平気だったのは、どうやら不完全な状態だったからっぽい。
俺が完全体となると同時に「断末魔」も完全体となり、俺の体内で暴れ始めた。
これはいけない。力を奪うどころか逆に奪われてしまっては本末転倒だ。
見事コイツを我が物とし、その強大な力をもって大魔王を倒さなければならない。
そして新たな統治者として君臨し、世界を混沌の渦へと導くことが俺のさだめ。
邪魔する者はブッた斬り、そうでない者も程よくブッた斬り、盗子は理由なく斬る。

全人類は、この俺の前にひざまずくのだ。
押されてるのか素なのかどっちだ。

 

4-449:両断〔14歳:LEVEL45〕
というわけで、しばし戦えない状況に陥ってしまった勇者。
果たして無職は、時間稼ぎ程度の役には立てるのだろうか。
大魔王「今度はキミが相手なわけね…。で、強いの?何ができる人なのかなぁ?」
無職「え゛…えと、しいて言うなら…何も…。」
大魔王「じゃあどいてくれる?」
無職「…でも、やることに意義があるです!」
大魔王「無いよ。残るのは「結果」だけさ。キミの頑張りなんて、存在と共に消える。」
無職「そ、そんなことないです!頑張ることは決して…」
大魔王「無意味だよ。」
無職「違っ…」
大魔王「やるまでもないよ、キミとじゃ絶対楽しめないね。負ける気しないし。」
無職「な、何が悪いです!?例えばワチの何が!?」

大魔王「名前が。」
痛恨の一撃!

 

4-450:極悪〔14歳:LEVEL45〕
戦闘の前から早くも言葉でコテンパンにされた無職。
結果は見えてるがとりあえず頑張れ。
ズバシュ!(斬)
無職「きゃうう! い、痛いです…!でも…」
大魔王「やっぱダメだね〜。頑張りは伝わるけど、ことごとくセンスが無い感じ。」
無職「ハートの方が痛いです…!」
大魔王「なんで勝てないとわかってて無理するかなぁ〜?全然わっかんないよ。」
無職「ワチだって、死ぬ前に一度くらい、役に立ちたいんです!!」
大魔王「だから無理だってば。キミなんて何の役にも立たないし…死になよ。」
ドスドスッ!(刺)
痛恨の一撃!
無職は剣で胸を貫かれた。
無職「ぐふぅ!!

大魔王「な…にぃ…?」
その切っ先は、大魔王にも届いていた。
勇者「フッ…壁役ご苦労。 役に立ったじゃないか、無職。」
あんまりな扱いだった。

 

第三十章