第十八章

 

4-271:墓標〔14歳:LEVEL40〕
「断海」の影響で対岸の街はほとんど消し飛んでいて、綺麗サッパリな感じだった。
今日はもう疲れたのですぐにでも休みたい気分だが、仕方なく宿は諦めよう。
勇者「盗子、賢二…安らかに眠れ。この街の残骸が、お前らの墓標代わりだ。」
無職「えと、ちゃんと弔ってあげてはどうです?こんな墓標とかあんまりです…。」
勇者「よーし土男流、じゃあ軽くひとっ走りしてアイス買って来い。」
無職「いや、「アイスの棒」もあんまりかと…。」
勇者「まぁ俺も鬼じゃない、死んだなら墓くらい作ってやるさ。 死んだのなら…な。」
無職「へ…?」
無職は上を見上げた。
なんと!美咲の背に乗る二人が見えた。
勇者「フッ、やはりな。一瞬影が見えたからもしや…と思ったが、やるじゃないか。」
美咲「クエ!」
盗子「ひ、酷いよ勇者!あんな場面で置き去りにするなんて酷すぎだよっ!」
勇者「む?どうした、何か珍しいことでもあったか?」
盗子「いや、いつも通りだけど!いつもそうなんだけどもっ!」
確かに今さらだった。

 

4-272:電脳〔14歳:LEVEL40〕
間一髪美咲が助けたようで、生意気にも生きていた二人。
超微力とはいえ、今の状況で戦力が減るのは避けたかっただけに助かったぜ。
勇者「にしても…参ったな、ナシ大陸じゃないかここ…。く、クソ寒いぞチクショウ!」
盗子「ま、まぁいいじゃん!いくら寒くっても死ぬほどじゃないよ!ね?」
勇者「お前は死ぬほどウザい。」
盗子「今はそんな話してんじゃないよ!大丈夫だって励ましてるだけじゃん!」
勇者「フン、そう願いたいもんだ。だが俺が動けん状況で敵が来たら…どうだかな。」

〜その頃〜
夜玄「…というわけで、勇者一行には逃げられた模様です。どういたしましょう?」
大魔王「ん〜、だから追っ手とか別にいいって言ってるじゃん。ヤメようよ。」
電脳「(ガガッ)いや、是非やらせてくれたまえ。彼らを倒すのが僕の悲願なのだ。」
大魔王「でもさ、失敗したのはアンタが改造した船のせいじゃんか。わかってる?」
電脳「確かに彼が来たのは計算外だった。だが次は無い、安心していい。」
大魔王「ん〜、まぁいいけどね。そんな体になってまで…しつっこいねぇアンタも。」
夜玄「でもまさか、「魂の電子化」などという離れ業が可能とは私も驚きましたよ。」
電脳「フフッ、甘く見ないでほしいものだな…」

電脳「僕の頭脳と「ロリータ・コンピュータ」に、不可能は無い。」
ロリコンは不滅だった。

 

4-273:無情〔14歳:LEVEL40〕
なんと、死ぬ前に自身の魂をコンピューターに移植していたナンダ。
その狂気ともいえる執念が幼女と勇者を襲う。
大魔王「あ〜、まぁ好きにやりなよロリコンさん。どうせ僕はしばらく動けないしねぇ。」
夜玄「いや、ロリコンに好きにやらせるのはどうかと…。」
電脳「安心したまえ、その最新鋭の医療器具があれば、キミの完治は遠くない。」
大魔王「確かにいい感じかも。助かるよ。 で?これからはどう遊ぼうってわけ?」
電脳「フフッ…“ある男”を向かわせている。我が最強のしもべをね。」
大魔王「へぇ最強かぁ〜、面白そうだね。どんな人なの?」
電脳「何年か前…とある理由で自殺を図った男を保護してね、改造したのさ。」
大魔王「え、なにそのちっとも保護じゃない保護?」
電脳「元々が才のある男だったが、私の力を得てその力は更に増強されたよ。」
夜玄「ですが、機械ごときが彼らに勝てるとは…」
電脳「甘く見るなと言ったはずだよ?彼は傑作…最強の、「魔導サイボーグ」だ。」
そして、無情な―――
ズッゴォオオオオオン!
勇者「なっ、魔法弾だと…!?早速追っ手かチクショウめ…!」
賢二「えっ…?」
機械「避けタカ…素早イナ。だガ、次は外さナイ。」
賢二「ちょ…ちょっ、待って!?あ…アナタは…!」
勇者「むっ!?なんだ賢二、知り合いか!?」

賢二「お、お父さん…!」
親子対決が始まる。

 

4-274:順序〔14歳:LEVEL40〕
いきなり攻撃してきた妙なオッサンは、なんと賢二の親父なのだという。
確か賢二の親は、賢二が死んだと思ってショックで引っ越したと聞いたが…。
勇者「オイ、どうなってるんだ賢二?あんなメカニカル親父が親だってのか?」
賢二「ま、間違いないよ…。確かに様子は全然…変わっちゃってるけど、でも…。」
盗子「じゃ、じゃあ話し合おうよ!家族ならきっと話し合えば…」
機械「俺に家族はいナイ。子供二人は失踪シ、妻は病に倒レタ。全てに絶望シタ。」
賢二「お、お母さんが!?お母さんの方は…病気で…?」
勇者「どうやら…絶望につけ込まれ、誰かに改造されたと見るのが妥当な線か。」
無職「そ、そんな…!なんかあんまりなお話です…!」
勇者「となれば、始末するしかないな。立ちはだかる者は、もはや敵でしかない。」
賢二「なっ…ち、違う敵じゃない!お父さんだよっ!」
勇者「だがロボだぞ?」
賢二「ロボチガウ!」
機械「そう、ロボチガウ。俺ハ「魔導サイボーグ」…名は、「賢三(けんぞう)」。」
順序がおかしい。

 

4-275:無理〔14歳:LEVEL40〕
倒すべき敵は賢二の父のサイボーグ「賢三」。なぜ親の方が数字が大きいんだ。
それに、「賢三」に「拳造」、「賢二」に「剣次」…カブッているにも程がある。
だがまぁそんなこと今さら気にしてもしょうがない。とりあえず敵ならば、討つのみだ。
勇者「覚悟を決めろ賢二。これは展開的に話の通じん流れだ、殺すしかない。」
盗子「だ、ダメだよおかしいよ!親子が殺し合うだなんて…!」
勇者「俺なら余裕。」
盗子「アンタを基準に考えちゃダメ!」
勇者「それにお前んとこも似たようなもんだろ。」
盗子「そ、それは言っちゃダメ!」
賢二「む、無理だよ…僕には…無理だ…。」
勇者「あ゛ん!?この期に及んで何ナメたこと…」

賢二「いや、MPが…。」
完全にガス欠だった。

 

4-276:複雑〔14歳:LEVEL40〕
覚悟どうこうの前に、そもそも力が残ってなかった俺達。そういやもうクタクタだ。
こうなったら一旦退いて、パワーを溜めねばならんだろう。よし、逃げるか。
勇者「仕方ない、俺が食い止めるからお前らは先に逃げてろ!邪魔だ!」
無職「え!で、でもロボ的な方はきっと素早いかと思われ…!」
勇者「多分空なら安全だ! オイ美咲!貴様、何人まで乗せて飛べる!?」
美咲「クエ!」
勇者「チッ、まったくわからん!」
盗子「じゃあなんで聞いたの!?」
勇者「よくわからんが気合いで頑張れ!そうでなけりゃ夕飯のメインは貴様だ!」
美咲「ク、クェ!」
賢二「だ、大丈夫なの勇者君!?一人じゃ…」
勇者「問題無い。機械化されて強化されてるにしろ、所詮は…貴様ごときの親だ。」
賢二は複雑な気分だ。

 

4-277:逃走〔14歳:LEVEL40〕
賢二ごときの親なんぞ俺だけで十分なので、俺が一人で食い止めることにした。
勇者「よし!さぁ逃げるんだ姫ちゃ…ん?土男流もチビッ子も見当たらんが…?」
盗子「あれっ!?ホントだ!いつの間に!?」
無職「えと、さっきの「アイス買って来い」を合図に…です。」
勇者「くっ、しまったジョークと言い忘れた…!オイ賢二、行って彼女を護衛しとけ!」
賢二「えっ、で、でも…!」
勇者「動揺してる貴様なんぞいつも以上に使えん、強引にでも連れてけ無職!」
無職「は、ハイ任されたです!お気をつけて!」
勇者「さぁ行けぃ美咲!」
美咲「クエッ!!」
美咲は全速力で飛び去った。
盗子「え、アタシは…?」

あー。
盗子は素で忘れられた。

 

4-278:家系〔14歳:LEVEL40〕
賢二と無職は逃がしたものの、盗子を忘れていた…が、まぁ些細な問題だ。
勇者「さぁ来い賢二父よ!大人しく待ってるとは律儀で感心したがもう結構だ!」
機械「充電完了。ビバ太陽光発電。」
盗子「全然待ってたわけじゃないじゃん!ピンチじゃん勇者!」
勇者「適当に何発か食らわしたら逃げるぞ、準備し…速いっ!」
ズゴンッ!(殴)
魔導サイボーグの攻撃。
勇者はいいのをもらってしまった。
勇者「ぐほぁ…! うぐっ、しまった…!あんな…賢二の親ごときに…!」
機械「我が一族は魔道の家系ダガ…肉弾戦も、嫌いジャナイ。」
勇者「…チッ、そうだったな…“あの女”の、親でもあったか…!」
賢二はよその子かもしれない。

 

4-279:狩猟〔14歳:LEVEL40〕
賢二の父というより麗華の父らしく、結構苦戦しそうな賢二父。こりゃ面倒だ。
やはり今日のところは見逃してやることにしよう。俺はそんな心の広い男。
盗子「ど、どーする勇者!?疲れててしんどいよね!?でも逃げるにしてもどこへ…」
勇者「やはり空だな。美咲を追う素振りが見られなかった…多分奴は飛べない。」
盗子「そ、そんなこと言ってもアタシらだって飛べないじゃん!」
勇者「いや、お前は普段から浮いてるよ。」
盗子「そういう意味じゃ無しに!」
勇者「チッ、仕方ない…!やはり俺がオトリになる、だからお前は」
盗子「で、でも勇者…」
勇者「犠牲になれ!」
盗子「あれれっ!?じゃあオトリの意味は…って、キタァアアアアアアアッ!!」
魔導サイボーグの攻撃。

ミス!謎の飛行物体が二人をかっさらった。
飛竜「グォ〜!」
盗子「え!アンタは…リュオ!? た、助けに来てくれたんだね!ありがとー!」
飛竜「〜♪」
飛竜は昼食前だ。

 

4-280:寄添〔14歳:LEVEL40〕
ソボーのペットだったという飛竜に拾われ、なんとか逃げることができた俺達。
途中食おうとしてきたことを除けばまぁグッジョブだ。生かしておいてやろうか。
〜空の上〜
勇者「ふぅ、なんとかなったな。予想通り敵も追っては来れんようだし。」
盗子「で、これからどーしよ?やっぱ姫を捜す気?」
勇者「いや、姫ちゃんは…恐らく追っても捕まらん。発信機に従って賢二を追うぞ。」
盗子「ま、まだ付いてるんだねそーゆーの…。」
勇者「つーか盗子、あんまりくっつく…チッ、まぁいい。今だけは…このままでいい。」
盗子「えっ!?な、何その意外な反応!?ちょ…えぇっ!?」
勇者「い、いいから黙って…大人しくそばにいろ。」
盗子「う、うんっ…☆」

ふむ…死ぬかもしれん。
勇者は凍えている。

 

4-281:限界〔14歳:LEVEL40〕
ささささすがは氷のナシ大陸…あ相変わらず俺に厳しい地だ。まったく頭が働かん。
だだだが、ややはり盗子なんぞの熱をアテにするのはたまらん。早急にっくしゅん!
ヒュゥウウウウウ!(吹雪)
盗子「うっひゃー!さっむ〜〜い!死ぬぅーー!!」
勇者「あぁ、なななんだ…そそんな所にいたのか…先公。」
盗子「そっちは行っちゃダメ!帰ってきてっ! って、マジいたりしないよね!?」
勇者「と、盗子…ももし俺が凍ったら、熱湯で5分温めてからご飯にかけてくれ…。」
盗子「え!何そのカレー感覚!?だ、ダメだよ勇…ハッ、村だ!リュオお願い!」

飛竜「ペッ!」
盗子「うわぉ飼い主そっくり!!」
盗子の扱いは共通だった。

 

4-282:避難〔14歳:LEVEL40〕
しばらく記憶が途絶え、目が覚めた時に俺が見たのは、知らん部屋の天井だった。
勇者「う゛…こ、ここは…?」
盗子「あっ!気が付いたんだね勇者!良かったぁー!」
勇者「チッ、地獄か…。」
盗子「って失敬だよ!こんなプリチーな餓鬼がどこにいんのさ!?」
勇者「姫ちゃんはどこだ?ちゃんと合流できたんだろうなオイ?」
盗子「いや、その前にアンタ死にそうだったからさ。とりあえず避難したんだよ。」
勇者「避難…?そういやどことなく見た覚えのある建築様式だが、どこだ…?」
相原「おぉ、目が覚めたかね蒼き少年よ。なかなかにしぶとい。」
部屋の奥から相原が現れた。
勇者「やはり地獄か…。」
相原「いやいや。」
だが遠くもない。

 

4-283:責任〔14歳:LEVEL40〕
見知らぬ部屋の奥から現れたのは、死神医師の野郎だった。意外と縁のある奴だ。
そしてこの部屋…柱の模様などから判断するに、恐らく「魔国」の…絞死の城だ。
勇者「というわけで、絞死を呼んで来い。俺に挨拶が無いとは生意気だ。」
相原「ほほぉ、いい勘をしているね。確かにここは彼の城だよ、ナシ大陸のね。」
勇者「てっきり大魔王軍に乗っ取られたもんだと思ってたが、無事だったんだな。」
絞死「取り返したんですよ、力ずくでね。まぁだいぶ荒されていてションボリですが。」
絞死が現れた。
勇者「よぉ、どうだったよ絞死?〔武者修行〕のおかげで良い師には出会えたか?」
絞死「不発でした。」
相原「本人を前にそれは酷い。」
勇者「だが、少しは成長したように見える。大魔王戦での健闘、期待しているぞ。」
絞死「いや、なぜ一緒に行く流れになってるのか全くわからないのですが。」
勇者「フッ、お前の父に教わった手法だ。」
絞死「私には…関係の無い話です。」
勇者「そうもいかんのが世の中ってもんでなぁ。親の責任は、子の責任なんだよ。」
勇者の母は「魔王」だ。

 

4-284:説得〔14歳:LEVEL40〕
少しは戦力になる感じに育ってそうな絞死だが、どうやら協力する気が無いっぽい。
盗子との二人旅ってのも拷問級なので、なんとか連れて行きたいのだが。
勇者「まぁまだ親しくもない仲だが、お前も城を壊された恨みもあろう?行くぞ。」
絞死「確かに恨みはあるので、倒しには向かいますよ。一人で…ですがね。」
勇者「どうせ行くなら一緒に行きゃいいだろ。何にこだわってるんだ貴様は?」
絞死「私はこれまで…一人で生きてきました。それは、これからも変わりません。」
勇者「フン、ほざくな。人は一人では生きられん。それはこの俺とて例外ではない。」
盗子「えっ…あ、あの俺様主義の勇者が」
勇者「姫ちゃんがいなければっ!」
盗子「あーそっちね!そっちのパターンね忘れてたよっ!」
絞死「他人と歩む道など、私にはありません。必要だとも思いません。」
勇者「教わってないから知らんだけだろう?「無知」を偉そうに語るとは愚かだな。」
絞死「な、なんですって…?」
勇者「ついて来い、絞死。来れば父の教えを…代わりに俺が、叩き込んでやる!」
絞死「・・・・・・・・。」
決して良い条件ではない。

 

4-285:出発〔14歳:LEVEL40〕
嫌がる絞死をなんとか言いくるめ、共に旅立つことに決まった。
向かうは当然メジ大陸だが、ここからじゃ陸路しか選択肢は無さそうだ。
勇者「時に絞死よ、貴様が用意した乗り物には…もちろん暖房はあるんだよな?」
絞死「まぁこういう大陸ですし、乗り物には普通に付いてますよ。大丈夫です。」
勇者「ほほ〜。ちなみに燃料は何なんだ?」
絞死「「核」です。」
盗子「全然大丈夫じゃなくない!?ウチらだけの被害じゃ済まないくらいに!」
勇者「フッ、まぁいい…なんとかなるさ!行くぞっ!」
数日後、とある大地が死んだ。

 

外伝(漆)