第二章

 

3-31:決意〔13歳:LEVEL26〕
段々と騒がしくなってきた試合会場。この俺としたことが、不覚にも緊張している。
下手に攻撃を食らうことは死を意味する。生命的にではなく、社会的な死だ。
今まで築いてきた伝説が、「脱糞」の一言で上書きされてしまってはたまらない。

いざとなったら、全員…!
観客の命が危ない。

 

3-32:召集〔13歳:LEVEL26〕
開始前からピンチな武術会は、俺の体調をよそに、ぼちぼち始まろうとしていた。
商南「おーい、大丈夫か勇者ぁー?生きとるかぁー?」
勇者「で、デカい声を出すな商南。今の俺はそんな些細な振動にすら敏感だぞ。」
暗殺美「いつになく追い込まれた顔したアンタを見るのは、いい気分さ。」
勇者「昔の奴はいいこと言ったもんだぜ。「真の敵は己の内にいる」とはな…。」
暗殺美「いや、それはそういう排泄物的なものに向けた言葉じゃないさ。」
姫「頑張ってね勇者君。おべんと食べる?」
勇者「ありがたいが姫ちゃん、今はところてん式にヤバいからお断りするぞ。」
姫「あ〜ん。」
勇者「あーん。」
商南「ってやるんかい!そこまでいくとちょっと感心するわ!」
放送「それでは本戦一回戦を始めます。選手の方は各試合場に集合してください。」
勇者「…よし、じゃあ行ってくるとするか。すぐに片付けてくるから待ってるがいい。」
暗殺美「あ、でも…。」
勇者「ん?」

暗殺美「もしもの時は、近づくんじゃないさ。」
勇者は無言で立ち去った。

 

3-33:初戦〔13歳:LEVEL26〕
そして一回戦が始まった。今日は人生の中で、最も過酷な一日になるやもしれん。
姫「勇者くーん!頑張るよー!」
商南「一応情けでアンタに賭けてんねんからなー!負けたらシバくでー!?」
暗殺美「そいつは腹を壊してるさー!ボディーを狙うがいいのさー!」
少年「なんだアンタ、モテモテ君か?なぁんか嫌味な野郎だぜ見せつけやがって。」
勇者「あん?お前の耳はどうなってるんだ、半分はヤジだったじゃないか。」
少年「俺っちは「獣化戦士」の「兄丸(あにまる)」。アンタの名前は勇者かよ?」
勇者「ああそうだ。俺の名は「勇者」の「勇」に「勇者」の「者」で「勇者」だ。」
兄丸「普通に「勇者」でいいじゃねーか。なんなんだその無意味な回りくどさはよ。」
勇者「悪いが便所が俺を呼んでいる、貴様と遊んでる暇は無いんだ。 来い。」
兄丸「へぇ、俺っちに先攻取らせてくれるって?いい度胸だよ!「獣化:獅子王」!」
兄丸は力を込めた。
兄丸はライオンに変化した。
勇者「獅子か…フン、獣ごときが人間様に勝てると思っているとは、片腹痛いな。」
兄丸「ただのライオンと一緒にすんな?獣化戦士の真髄、とくと見やがれ!」
勇者「貴様こそ思い知るがいい。力の差というものをな。」
兄丸「調子ん乗りやがって!死にさらせぇー! ガルルルルル!!」
兄丸は大声を上げた。
観客はすくみ上がった。
勇者「ぎゅるるるるぅ〜!(腹の音)」
勇者も対抗した。

 

3-34:手段〔13歳:LEVEL26〕
初戦の相手は獣化戦士らしい。良かった、こういう単純そうな奴は扱いが楽そうだ。
兄丸「さぁいくぜ!食らってフッ飛びな!「ライオン・タックル」!」
ササッ!(避)
勇者「フッ、遅いな。昼飯時の出前くらい遅い。そんなんじゃ俺には当たらんぞ。」
兄丸「最小限の動きで避けるたぁやるじゃねーの!じゃあ「ライオン・クロー」だ!」
ガィン!(受)
勇者「まだ遅い。失って初めて大切だったことに気づくくらい遅いな。」
兄丸「…なんでアンタ反撃してこねぇよ?俺っちごときにゃ力出すまでもねぇと?」
勇者「悪く思うな、下手に動くと力以上の何かが出そうなんだ。 ブリブリと。」
兄丸「ウンコじゃねーか!その擬音はどう考えてもウンコじゃねーかよ!」
勇者「もとい、ビチビチと。」
兄丸「マジで腹痛ぇのかよ!?そんなんで試合出てくるなんてナメ…うがぁっ!
勇者の攻撃。
兄丸のワキ腹を貫いた。
兄丸「て、テメェ…!そんなんアリ…かよ…!」
勇者「俺は「勇者」、勝利を宿命付けられた男だ。そのためなら手段は選ばん。」
兄丸「ぐふっ、卑怯な…!」
勇者「ほれポチ、死にたくなくば「ワン」と鳴け。」
兄丸「ぐっ…!」
ライオンはネコ科だ。

 

3-35:本気〔13歳:LEVEL26〕
隙を突いて一撃くれてやったのだが、生意気にも立ち上がりやがった兄丸。
あまり動きたくない俺の気持ちをよそに、ガンガン攻撃してきた。とってもウザい。
兄丸「フザけやがって卑怯者め! 死ねやぁ!ガルルルル!」
勇者「チッ…!」
兄丸「オラオラオラー!」
勇者「ぐっ!」
兄丸「ハハッ!」
勇者「フンッ!」
兄丸「おわっ!」
勇者「ぁ…。」
兄丸「え゛!」
勇者「と見せかけ…ぁ…。」
兄丸「どっちだよ!騙す気なのかマジなのかどっちなんだ!?」
勇者「くっ、どうやらもう限界のようだ。一撃…一撃だけ全力を込め、貴様を倒す。」
兄丸「へぇ、一発勝負か…いいねぇ。俺っちもそういうわかりやすいのが好きだぜ。」
勇者「この俺を本気にさせたこと…それを後悔しながら地獄で腹が痛い。」
兄丸「最後まで気を抜くなよ!折角の決め台詞が腹痛に食われ…なっ!?」
勇者「…悪いな獣野郎、今の俺に手加減はできそうに、ないぞ。」
勇者は魔力を解放した。
魔剣から毒々しいオーラが噴き出した。

兄丸は「ワン」と鳴いた。

 

3-36:必殺〔13歳:LEVEL26〕
危険を承知で魔力を開放してみた。今の俺にとって、リキむ行為はかなりの賭けだ。
余裕が無いので加減もきかん。この一撃で勝負を決め、そしてトイレに直行するぜ。
勇者「俺を恨むなよ?全てはこの俺を追い詰めた貴様が悪い。」
兄丸「お、俺っちのせいじゃねーよ!アンタ最初っからもう追い詰められ…!」
勇者「食らえ、必殺っ…!!」
勇者は魔剣を振りかぶった。
兄丸は腹を見せて服従のポーズをとった。
商南「ヤバッ、あいつ目ぇマジやん!勢い余って殺してまうんちゃうか!?」
暗殺美「いや、あれは勢い余らなくても殺す気マンマンな感じさ。」
姫「おやっちゃん、アンマンひとつー。」
売り子「あいよー!」

兄丸「ひ、ひぃいいい!!」

勇者「残虐パーーーンチ!!」
商南「って殴るんかーーい!!」
勇者はトイレに直行した。

 

3-37:交渉〔13歳:LEVEL26〕
必殺パンチで兄丸をしとめ、便所もかろうじて間に合い、なんとか事なきを得た。
だがこの状況はマズい。初戦でこんな感じでは、とても決勝まで残れそうにない。
勇者「というわけで、だ。一瞬でこの腹痛を止める都合のいい薬を出してくれ商南。」
商南「(ニヤリ) ん〜。まぁあるにはあんねんけど…ごっつ高いでぇ?」
勇者「チッ…ホラよ、昔々ある所で略奪した「金の剣」だ。俺には要らんからやるよ。」
商南「金ゆーたかて不用品やろ?そないなもんと換えたるほど安ないなぁ〜。」
勇者「そしてこれが我が家に代々伝わる「銀の剣」だ。とても大事だがこれもやる。」
商南「どう見てもセットやんけ! …ま、ええわ。そいつで手ぇ打ったる。ホレ。」
勇者は「必殺下痢止め薬」を手に入れた。
勇者「なぁオイ、下痢止めなのに「必殺」とあるのが凄まじく気になるんだが…?」
商南「まぁ軽く呪われとるしな。」
勇者「サラッととんでもないこと言うなよ。いい加減呪いは食らい飽きたぞ俺は。」
商南「飲むも飲まんもアンタの自由。ウチの仕事は売るだけや。ほな頑張り〜。」
勇者「…やれやれ、仕方ない。背に腹はかえられんか…。」
勇者は薬を飲んだ。

 

3-38:男女〔13歳:LEVEL26〕
商南の薬のおかげで、嘘のように腹痛が止まった。奴め…だったら最初から…!
司会「それでは二回戦を始めます。選手の方は勝手に始めてください。」
勇者「勇者だ。腹痛が治まった今、誰であろうと俺の敵ではない。去るなら今だぞ。」
少女「俺は「剣武士(けんぶし)」の「女闘(めとう)」。イキがんのも程ほどにしな。」
勇者「ん?その声…なんだお前、女か?女なら女らしくしたらどうだ。」
女闘「「勇者」らしくねー勇者に言われたかねーよ。さっきの邪悪っぷり見てたぜ?」
勇者「フッ、安心しろ。女相手に本気は出さん。峰打ちで頭蓋を砕いてくれる!」
女闘「普通に死ぬじゃねーか! ま、手加減なんかいらねーからいいけどな。」
勇者「そうか、ならば手加減はしまい。峰討ちで頭蓋を砕いてくれる!」
女闘「結局同じかよ!!」
魔剣は両刃で峰は無い。

 

3-39:新枷〔13歳:LEVEL26〕

男のような女、「女闘」。なんとなく大人っぽく見えるが、俺と同い年らしい。
「剣武士」ってのは聞いたことない職種だが、まぁ字面から大体の意味はわかる。
勇者「ようするにお前は、「剣が使える武闘家」…って感じなんだろ?」
女闘「まぁそんなとこだな。けど、1+1は単純に2ってわけにはいかねーぜ?」
勇者「フッ、俺も「魔剣が使える勇者」だ。その意味はよくわかるさ。」
女闘「いや、テメェの場合は「引き算」なんじゃねーか…?」
勇者「ほぉ。ならば体で理解するがいい! では行く…なっ!?」

突如勇者はフラついた。
勇者(な、なんだ急に眩暈が…!?この眠気はどういう…ハッ、まさかこれが…!)
姫「見てよ盗子ちゃん、勇者君が不思議な踊りを踊ってるよ。」
商南「フフッ、ついに始まったようやな…ってウチは商南やゆーてるやろがっ! 」
暗殺美「ん、どういう意味さ?何か知ってんのかさ?」
商南「あ〜さっきの薬な、下痢治す代わりに…「睡魔」に憑かれんねん。」

勇者「・・・・・・・・。」
女闘(?? 急に目を閉じて…隙だらけだ。いや、そう見せかける作戦か…?)
勇者は爆睡している。

 

3-40:朦朧〔13歳:LEVEL26〕
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
女闘「チッ、もういい!罠だろうが知ったことか!いったろーじゃねーかオラァ!!」
ズバシ!!(殴)
勇者「ぶばふっ!!
女闘「…あれ?」
女闘の攻撃はクリーンヒットした。
勇者は目を覚ました。
勇者「ぐっ、お゛っ…!き、貴様…人の寝込みを襲うとはいい度胸だ!」
女闘「って寝てたのか!テメェこそ戦闘中に寝るなんていい度胸すぎるぞゴラァ!」
勇者「やれやれ、腹痛の次は眠気かよ…。とっとと済まして昼寝しなきゃだな。」
女闘「くっ…!あーそうかよ!だったら俺が今すぐ眠らせてやる!食らいなっ!」
女闘の攻撃。
ミス!勇者は攻撃をかわした。
勇者「フッ、遅いな。あまりの遅さにアクビが出ふぁあ〜ぅお。」
女闘「ホントに出すなよムカつく奴め!」
勇者「スピー…。」
女闘「そして寝るなっ!」
勇者「ヒツジが一匹…!ヒツジが二匹…!」
女闘「それは寝たい時のだ!!」
勇者は三匹目で寝た。

 

3-41:甘物〔13歳:LEVEL26〕
ね、眠い…眠すぎて何も考えられん…。下痢に比べればまだマシだが、しかし…。
勇者「さぁもう遊びの時間は終わりだ。もうこれ以上…もう…食べられないぞ…。」
女闘「って寝言かよ!この短時間で一体何をどんだけ食った!?」
勇者「ケーキをたらふく食った。」
女闘「け、ケーキ☆ どどどどんなケーキだ!?新作か!?新作なのか!?」
勇者「食ったら爆発する。」
女闘「新作すぎるわ!!何世紀先のトレンドだよ!」
勇者「む?なんだ貴様、もしやケーキの類が好きなのか?」
女闘「べ、別にいいだろ!俺にだって…少しは女の子っぽいとことかあんだよ!」
勇者「ほぉ、イマドキの女の子は爆弾を食うと。」
女闘「誰が食うかーー!」
勇者「スピーーー…。」
女闘「だから寝るなぁーーー!!」
女闘は攻撃を忘れている。

 

3-42:奥義〔13歳:LEVEL26〕
このままじゃいつ眠ってしまうかわからん。こうなったら“あの技”で決めにかかろう。
勇者「仕方ない…あまりに危険ゆえ封印していた技だが、特別に見せてやろう。」
女闘「封印してた技だぁ?フン、どーでもいーね。とっととかかってこいよ!」
勇者「謎の秘奥義、「睡剣(すいけん)」…寝れば寝るほどムニャムニャム…。」
女闘「言い切れよ!!どーでもいいっつったけどやっぱ気になるじゃねーか!」
勇者「・・・・・・・・スピー…。」
女闘「って寝…いや、違う!この殺気は…ヤバい!!」
勇者の攻撃。
ミス!女闘は間一髪攻撃を避けた。
女闘「な、なんだ今の攻撃は…!?寝てる奴に可能な動きか!?」
勇者「そんなこと聞かれても熟睡中の俺には答えられない。」
女闘「ハッキリ答えてんじゃねーか!「睡眠」の概念を覆すんじゃねーよテメェ!」
勇者「そして恥ずかしながら、俺は寝相があまり良くない。」
ブォン!!(空振り)
女闘「うわっ! それ寝相ってレベルか!?な、なんなんだテメェは!?」
父は何度か死にかけた。

 

3-43:熟睡〔13歳:LEVEL26〕
自称「熟睡中」の勇者は、普段と変わら…普段以上に大暴れしていた。
商南「なぁ?アイツ起きてる時より動きいいんちゃう?ほんまに寝とるんかねぇ?」
暗殺美「そういえば前に一度…奴は授業中に大暴れしたことがあったさ。」
商南「そ、それがあの技やゆーんか?」
暗殺美「いや、その時は起きてたさ。」
商南「関係ある話せんかい!」
暗殺美「聞いた話じゃ、アイツ今まで数える程しか「熟睡」したことは無いそうさ。」
商南「熟睡…せんて?んなアホな、普通そんなんありえへんで?」
暗殺美「戦士たるもの熟睡はするなっていうのが親のしつけだったと聞いたさ。」
商南「ほほぉ〜。意外やなぁ、アイツも一応しつけとかされてんねや?」
暗殺美「禁を破ったらボコボコにされたそうさ。」
商南「うへぇ〜!子も子なら親も親やねんな〜!」

暗殺美「父親が。」
父は何度か死にかけた。

 

3-44:一言〔13歳:LEVEL26〕
勇者はまだ寝ながら暴れていた。
女闘「わっ!ちょ、待て!起きろ!とにかくまずは起きやがれー! キャッ!」
暗殺美「寝てる奴にやられるなんて、あの子も立ち直れないだろうさ。」
商南「むー、ウチもちょい責任感じてまうわ。 悪いけど姫、起こしたってくれる?」
姫「勇者くーん!おっはよー!」
勇者「おっはよー!!」
勇者は簡単に目を覚ました。
女闘「ハァ、ハァ、やっと起きやがったか!フザ、フザけやがって…!」
勇者「む?なんだお前、何もしてないのに随分とボロボロじゃないか。」
女闘「な!?くっそー!こーなったら…これでも食らえよ!「武技:岩盤波状拳」!」
女闘は地面を激しく殴った。
砕けた破片が勇者を襲う。
ミス!勇者は「不思議な踊り」で全て避けた。
勇者「眠すぎてフラフラする。」
女闘「そ、そんなんで避けられただなんて…!」
勇者「退け女闘。 さもなくば、永遠に目覚めん眠りにつくことになるぞ?」
女闘「くっ…!」

お前か、俺が。
勇者も相当ヤバい。

 

3-45:誘惑〔13歳:LEVEL26〕
降参しろと言ったら女闘はホントに降参したので、俺は勝ち上がってしまった。
まだ特に何もしていないというのに…情けない奴だ。眠くても勝てるレベルとはな。
商南「お〜い、お疲れやったな〜。どやねん体の調子は?」
勇者「ったく、眠くてたまらん。今ならどんな誘惑よりも俺は枕を選ぶぞ。」
姫「ご飯食べ行こうよ。」
勇者「うん行く。」
勇者はこの後スープで溺れた。

 

第三章