第十七章

 

241:施設〔8歳:LEVEL5〕
今回もまた運転手に問題があったため、例の如く親父の運転で大獣車は走った。
そして着いたのは「一家団ランド」という施設。一見アットホームそうだが、しかし…。
勇者「オイ案奈、ここは一体どんなスポットなんだ?嫌な予感しかしないのだが…。」
案奈「首吊り〜、飛び込み〜、その他各種アトラクションが〜充実しておりまァす。」
血子「一回こっきりで人生終わりじゃん!いくつも楽しんでらんないじゃん!!」
少年「ねぇパパ、ここに来ればママに会えるってホント?」
父親「ああ、すぐに会えるよ…すぐに…。」
血子「騙されてる!騙されてるよボウヤ!?」
父「感動の光景だな…。父さんちょっと泣けてきたぞ。」
血子「血子も泣きそうだよ違った意味で!!」
勇者「こんな負の感情が渦巻く所に、俺達は一体何をしに…。」
義母「てゆーか〜、アタシもうお腹すいちゃったんだけどぉ〜?」
案奈「え〜、この先にレストランがありまして〜…」
勇者「やれやれ…どうせ毒入りの食べ物でも売ってんだろ?」
案奈「餓死するまで〜監禁されまァす。」
勇者「せめて商売しろよ!!」
血子「だ、大丈夫だよダーリン!血子が頑張ってお弁当作ってきたから!」
勇者「おぉ、やるじゃないか血子…って、これは何ていう料理だ?」
血子「えっとね、「ミミゴー」ってゆーの。こんな大きいのは結構貴重なんだよ☆」
勇者「へぇ〜。 だがそんな貴重品、どこで手に入れたんだ?」
血子「えへへ☆ 学校で☆」
勇者「学校…?」

ほ、邦壱…。

的確な推理だった。

 

242:最期〔8歳:LEVEL5〕
なんとも怪しい遊園地「一家団ランド」。出口とか無さそうな雰囲気でイッパイだ。
もともと期待なんぞしていなかったが、まさかこれ程までに酷い旅とは思わなんだ。
勇者「コラ親父!なんでこんな不気味な場所まで連れて来たんだ!?目的は!?」
父「はっはっは! 目的もなにも、そんなの家族で楽しむために決まっとろうが。」
勇者「楽しめねーから言ってんだよ!」
父「ワガママを言うな勇者。 最後の…家族旅行…なんだから…。」
勇者「最期になりそうなのはテメェのせいじゃねーか!」
義母「ねぇ勇者ちゃん。あの「お化け屋敷」なんだけど〜、超入ってみたくな〜い?」
血子「えぇ〜!こ、怖いよ!化け物がいるんでしょ!?」
勇者「化け物が何を言うか。」
血子「違うもん!血子はただのキュートな根っこだもん!お化け怖いー!!」
勇者「ったく…。 騒ぐな血子、こんなのは所詮子供騙し…」
看板『霊魅のドキドキお化け屋敷』
勇者「本物かも!!」
義母「ん〜、じゃあアレは〜?あのメリーなんとかってゆーの。」
勇者「む?「メリーゴーランド」のことか?」
血子「ち、違うよダーリン!「メリーゴートゥヘル」って書いてある!」
勇者「まともなアトラクションは無いのかよ!このフリーパスチケットの意味は!?」
父「やれやれ…。 じゃあ最初は穏やかに「観覧車」でも乗ってみるか?」
チョメ「ポピュッパー!ポピュッパップー!!」
勇者「言っとくがチョメ太郎、勘で乱射するから「勘乱射」ってわけじゃないぞ。」
チョメ「ポ、ポピュッ!?」
血子(どうするダーリン?きっとその観覧車にも何かあるよ?)
勇者「…俺は行くぞ。 逃げ回るのは、性分じゃないからな。」

閉園時間まで生き延びれば、それで済むんだ。

勇者は「24時間営業」の事実を知らない。

 

243:真剣〔8歳:LEVEL5〕
結局、親父の提案に従い観覧車に乗った俺達。二人乗りなので俺は親父と乗った。
親父は最初は大人げなくはしゃいでいたが、途中から次第に静かになっていった。
うるさいのも嫌だが、嵐の前には静けさが訪れるというし…かなり不安で仕方ない。
父「思えば、こうしてお前と落ち着いて話すのも久しぶりだな…。」
勇者「久しぶり? 俺の記憶が確かなら、恐らく人生で初の経験だと思うが?」
父「そうか…確かにそうかもしれんな。」
勇者「? どうした親父、いつになく神妙な顔つきだが…。」
父「今日はちょっと、お前に大事な話があってな。」
勇者「大事な話? 悪いが貴様なんぞと結婚してやる気は無いぞ?」
父「ちゃかすな勇者。 父さん、シリアスモードは五分が限界なんだ。」
勇者「な、難儀な生き様だな…。」
父「母さんのことだ。」
勇者「母さ…ま、まさか俺の…ホントの母親のことか!?」
父「お前は何故か聞いてこなかったから、今まで話さなかったんだが…。」
勇者「どうせろくでもない事実が待ってると思ってな。怖くて聞けなかった。」
父「まずは結論から言おう。 お前の母はもう…既に、亡くなっている。」
勇者「…そうか。 だがまぁ一度も抱かれたこともない母だ、特に感慨も無いな。」
父「そう言ってやるな。 自分の死を覚悟のうえ、お前を産んだんだからな…。」
勇者「えっ…。」
父「お前のその「勇者」って名前だがな、考えたのは実は…母さんなんだよ。」
勇者「なっ!俺の名は、親父がRPG好きって理由で付けられたんじゃ…!?」
父「母さんがRPG好きだったんだ。」
勇者「同じか!そのフザけた事実は揺るがないのか!!」
父「…む? 気づけばもう一周か、早いな…。」
勇者「おぉ、言われてみればそうだな。意外にも何事も無くてビックリだぞ。」
父「違うぞ勇者、こういう時はこう言うんだ。 「時間が…止まればいいのに…」。」
勇者「お、親父!?いきなり何を言い出すんだ!?」
父「すると男は言う、「じゃあ魔法…かけてやろうか?」。 そして見つめ合う二人!」
勇者「なんだそのクサいセリフは!?顔から出た業火で世を焼き尽くせそうだぞ!」
父「そして二人は熱いキッス! オゥ、なんたる定番!しっかしロマンティーック!!」
勇者「間違えるな!そんな定番はモテない妄想野郎どもによる悲しみの産物だ!」
父「いや、待てよ?その前に停電で止まるという展開もありがち!ありがっちー!」

そういえば…五分経ったな…。

副作用が出るほど苦痛なのか。

 

244:苦悩〔8歳:LEVEL5〕
観覧車の中で、親父に衝撃の真実を中途半端に聞かされた。ホント中途半端に。
正直気にはなったが、その後回復した親父は何一つ覚えていなかったので諦めた。
まぁ死んだと聞かされた以上、我が未来には関係あるまい。 別にいいか…な…。
勇者「ふぅ〜、なんとか夕方まで生き延びたな…。 ぼちぼち帰らないか親父?」
父「今夜は…帰したくない!」
勇者「まだ続いてたんかい!!」
案奈「あ、出口は〜館内各所に〜合計五ヶ所ございまァす。」
勇者「おぉ、ちゃんと出口はあったのか。 一応外に帰す気はあったのだな。」
案奈「アタリは一つで〜ございまァす。」
勇者「残りは何だ!!?」
父「さぁ行け勇者よ!ちゃんとアタリの出口を探してくるんだぞ!」
勇者「チッ、偉そうに…。 わかったよ、俺も帰れなきゃ困るんでな。」
父「アタリが出たらもう一本だ!」
血子「アイスじゃあるまいし!」
勇者「…やれやれ。もう相手にするな血子、行くぞ。チョメ太郎もだ。」
血子「あ、うん!」
チョメ「ポピュッパー!」

タタタタタッ…(走)

父「…勇者にな、母親の話をしたんだ。」
義母「ま、マ〜ジでぇ〜? なにも今日する話じゃなくな〜い?あったま悪ぅ〜。」
父「うぬぅ〜…。」
義母「ねぇパパちゃ〜ん、この家族旅行の目的〜…」
父「言うな、これでも反省してるんだ。折角の…そして最後の旅行だったのにな…。」

義母「…って、何だっけぇ〜?」
父(母親役…間違えたかな…?)

まだ疑問形なのか。

 

245:意表〔8歳:LEVEL5〕
「一家団欒」を掲げた旅行も見事失敗に終わった夏は過ぎ、秋がやってきた。
明日は遠足…恐らくは春に引き続き「蒼茫海賊団」を探すことになるのだろう。
教師「春は残念な結果に終わりましたが、気づけば秋遠足の時期になりましたね。」
勇者「なぁ先公、そういやその海賊団ってのは滅多に目撃されないんだよな?」
教師「ええ。まぁ春遠足の少し前に彗星の如く現れた新参の海賊ですからね。」
盗子「つい最近じゃん! だったら目撃されなくて当然なんじゃないの?」
勇者「うむ。少なくともそんな短期間でなぜ「幻」とまで言われるのかわからんな。」
教師「あ〜。 実はその船、消えたり飛んだりするらしいのですよ。」
勇者「なっ!? バカな!今の技術で船ごと消えるとか飛ぶとか有り得んだろ!?」
姫「クルック〜。」
勇者「ハト!? そうか、マジックか!」
盗子(ヤバい!通じ合ってきてる!!)
教師「しかも彼らは、そんな船を持ちながらほとんど港を襲わないのです。」
盗子「ふ〜ん、確かに変だね。でも「ほとんど」ってことは少しは襲ってるんでしょ?」
教師「ハイ、食い逃げとか。」
盗子「ショボッ!それが「海賊」のやること!?ただの小悪党じゃん!」
教師「ですが彼らの技術力は未知数…。脅威となる前に潰すのが得策なのです。」
博打「疑わしくば滅せよ…か。相変わらず恐ろしい思想だぜティーチャー…。」
巫菜子「宝を奪えって話は建て前だったわけだね…。(まぁどのみち悪だけどな。)」
教師「ん〜、大体こんな感じですかね。 みなさん、わかりましたか?」
生徒「ハーイ!」

教師「というわけで、明日は「イモ掘り」に行きます。」
生徒「どういうわけで!?」

前フリはフェイクだった。

 

246:懐古〔8歳:LEVEL5〕
秋の遠足は三年ぶりの「イモ掘り」らしい。あの思わせぶりな会話は何だったんだ。
てっきりまた海賊探しだと思って心の準備をしてたってのに…やれやれだよ。
教師「今回は五号生同士の親睦を深めるイモ掘りです。仲良くしてくださいねー。」
勇者「チッ、まぁそういうことなら仕方ない。不本意ではあるが一時休戦といくか。」
暗殺美「不本意なのはこっちの方さ。死ねや。」
巫菜子「ま、まあまあ。とりあえず獣車の中では…ね?(とばっちり食うだろうが!)」
盗子「ところでさ、今日はどこ行くの?オナラ魔人のイモ園は燃えちゃったよね?」
勇者「そうだな、激しく燃えたよな。」
姫「バケツリレーの甲斐も無くね。」
盗子「撒いてたのは灯油じゃん!」
教師「燃えたんじゃありません。燃やしたんです。」
盗子「冷静に開き直らないで!! …って、やっぱ先生が着火したんかい!」
教師「別に気にしてませんよ。もう済んだことですから。」
盗子「アンタ加害者じゃん!!」
教師「実はあの時燃やさなければ、土の病気であの土地は永久に死んでいた…。」
盗子「そ、そうだったの!?」
教師「…というのはどうでしょう?」
盗子「いま考えたんかい!!」
勇者「まぁ落ち着け盗子。 それよりもホラ、到着前にマスクを装着しとくべきだ。」
盗子「あっ! そ、そだったね。前回は勇者…死にかけたんだもんね…。」
勇者「そうだな…。「ガスマスク」じゃなくて「デスマスク」だったからな…。」

「だった」で済めばいいのだが。

 

247:遭遇〔8歳:LEVEL5〕
走ること数時間。俺達はオナラ魔人のいるイモ園へと到着した。 既に少し臭い。
よし、ならば俺もマスクを装着し、ニオイに備えるとするか。 もう嗅ぎたくな…え゛?
勇者「フッ…。ひ、久しぶりだなオナラ魔人。去年の秋にボコして以来か。」
オナラ「だ、誰だ貴様!?私に銀行強盗の友人はいないぞ!(プ〜)」
勇者「ウルサイ!この「目出し帽」はオヤジの差し金…グハッ!やっぱ臭ェ!!」
盗子「が、頑張って勇者!見た目が滑稽すぎて同情しきれないけども!」
暗殺美「というかよく考えるさ勇者!それ鼻にも穴あるから被る意味無いさ!」
オナラ「ところで、キミらは何しに来たんだね? 私は入園を許した覚えは…」
教師「おやおや、今日はいい感じに乾燥してますね〜。」
オナラ「や、やめてくれ!もう燃やさないでくれ!!」
勇者「グフッ…ま、まぁ諦めろ。 コイツに目を付けられた時点で…む?」
ブロロロロロ…。(上空から)
暗殺美「な、何さこの音は!?空の上から…!?」
勇者「空飛ぶ船…ま、まさかコレが「蒼茫海賊団」!?」

〜その頃、船内では〜
少女「腹減ったニャー!もう耐えられニャいのニャー!死ぬぅうううう!」
少年「ライ殿、お願いだから我慢して欲しいッス!食糧街はもう少し先なんスから!」
ライ「あっ!イモ園!イモ園があるニャ!ここを襲うのニャ「下端(カタン)」!」
下端「駄目ッスよ!船長は犯罪事は嫌いなんスから!」
ライ「うーるーさーいー!海賊団ニャんだし悪事の一つ二つは仕方ニャいのニャ!」
下端「せ、船長〜。もう自分には止められないッス〜。」

賢二「いや、でもここは臭いから…。」

なんと!賢二は生きていた。

 

248:躊躇〔8歳:LEVEL5〕
突如上空に現れた海賊船。恐らく「蒼茫海賊団」と見て間違いは無いだろう。
幻とか言われてる割にはヤケに堂々と出て来たので驚いたが、これはチャンスだ。
ここで奴らを一網打尽にし、この「学園校の蒼き竜巻」の名を世に轟かせてやる。
盗子「ど、どうするの勇者!?真っ直ぐこっち向かって来てるけど!」
勇者「どうするもこうするも、どうしたりこうしたりだ!」
盗子「サッパリわかんないよ!!」
姫「…深いね。」
盗子「深いの!?」
暗殺美「まぁとりあえず、空から引きずり降ろさなきゃ話にならないのは確かさ。」
勇者「そうだな…。 オイ先公、何かいい案は無いのか?たまには頭貸しやがれ。」
教師「さぁ〜?名前でも呼べば降りて来るかもしれませんよ? フフフ。」
勇者「へ…?」

〜その頃、甲板では〜
下端「船長!なにやらイモ園には誰かいるようッス!どうするッスか?」
ライ「きっとイモ泥棒ニャ!けしからん奴らニャ!」
賢二「どの口がそんなセリフを!?」
太郎「遠足か何かじゃないの?」
賢二「えっ…アレッ!?ななななんでみんながいるの!?」
剣次「どうした賢者殿?お仲間でもいたのか?」
賢二「あ、ハイ。 仲間というか悪魔というか…。」
剣次「悪魔…そうか、この異臭はそのせいか。」
賢二「いや、それは悪魔に失礼かと。」
剣次「で、どうする?殺るなら手伝うぜ?」
賢二「…だ、ダメですよ!僕の友達なんですから!!」

賢二は一瞬ためらった。

 

249:再会〔8歳:LEVEL5〕
色々と考えた結果、やはり海賊船は砲撃して撃ち落すことにした。バズーカあるし。
まぁそれで倒せるとは思えないが、うまくやれば着陸させることはできるだろう。
そして奴らを一網打尽にし、この「学園校の蒼き隼」の名を世に轟かせてやる。
勇者「よし、野郎どもバズーカを用意し…む?なんだあの白い布は…?」
姫「あ〜、今日はいい天気だしね。」
盗子「洗濯物!?「白旗」って意味じゃないの!?」
勇者「ば、バカな!仮にも「海賊」と名乗る奴らが、戦わずして降参などと…!」
盗子「あっ、出て来たよ!誰か出てき…うぇっ!?」
賢二「白旗ですー!降参なので撃たないでー!」
暗殺美「えっ!ああああアンタは…!!」
勇者「お前…生きていたのか!!」
賢二「勇者君!みんなー!会いたかったよー!!」

勇者「カルロス!!」
賢二「だから賢二だってば!!」

感動の再会もブチ壊しだ。

剣次「おぉ、勇者じゃねーか!」
勇者「カルロス!」
賢二「えぇっ!?」

剣次の本名だった。

 

250:談笑〔8歳:LEVEL5〕
賢二達の登場でゴタゴタしたため、結局遠足は中途半端な感じで終了した。
その夜、俺は再会したカルロスを家に招待した。親父とも話したいだろうからな。
父「いやぁ〜、久しぶりだなカルロス。もうアレはどれくらい前の話かなぁ?」
勇者「まだ俺が二歳ぐらいの頃か。確か一ヶ月程ウチにいて、剣とかも習ったな。」
剣次「あ〜、あん時は参ったぜ。まさか放浪中に宇宙船が墜落するとはねぇ。」
父「それにしても、しばらく会わん間に海賊になってるとは驚いたな。 ハハハ!」
勇者「あ、そういや船は先公が調べたいとか言ってたが…その間どこに住むんだ?」
剣次「その点は問題ねぇよ。みんなまとめて間借りさせてくれるって人がいてさ。」
勇者「ほぉ、また随分と奇特なヤツがいたもんだな。あんな騒がしそうな連中を…」
(「ちょっ、アンタ何してんの!?ここは血子の部屋…って、なんでおコタ持参!?」)
(「ん〜。 ちょいと狭いけど、まぁミカン箱よりはマシにゃ。」)
(「うわっ!しかも他にもいる! 三人も集まって何!?何する気なのよ!?」)
(「あ、自分のことはお構いなくッス!」)
(「いや、お構いなくとか言われても!居るだけで迷惑なんだってば!」)
(「じゃあ僕には、お構って。」)
(「あつかましいよ!!」)

聞こえない。俺には何も聞こえない。

勇者は現実から目を背けた。

 

251:再考〔8歳:LEVEL5〕
遠足も終わり、体育祭の季節となった。まぁ今年は五号生だし優勝は堅いかな。
勇者「体育祭が終わりゃもう冬…なんか今年は一年が早いな。」
盗子「冬か〜…あっ、そうだ!冬といえばちょっと気になることがあったんだよ!」
勇者「安心しろ、俺はお前は気にならない。」
盗子「気にしてよ!四六時中気にしててよ! …って、「極秘書庫」のことだよ!」
賢二「あ〜。 前に言ってたね、侵入して先生に怒られたって。」
勇者「極秘書庫?あの「歴史全書」とかいう、親父が書いた小説があった所か?」
盗子「それなんだけどさ、その本ってホントに…小説なのかなぁ?」
勇者「あん?何を言ってるんだ、冗談は顔と体と心と魂だけにしろ。」
盗子「全部じゃん!存在全部じゃん! …って、だってさ、ベビルん時にホラ…」
賢二「あっ、そっか!その時聞いた話では「式神」で守るほど重要な場所って…!」
盗子「でしょでしょ?そんな場所に、ただの小説置いとくって絶対おかしくない?」
勇者「…なるほど、これは検証の余地があるな。 よし!今から行くぞ!」
盗&賢「うげっ!?」

盗子は余計なことを言った。

〜放課後〜
勇者「…というわけで、今から侵入する。心の準備はできたか?」
盗子「イヤッ!イヤだよ!絶対にイヤァーー!!」
賢二「僕も先生に殺されかねないようなことはしたくないよー!」
勇者「ありがとう、やっぱお前らは親友だ。」
二人「話を聞いてーー!!」
剣次「安心しなよ賢者殿、式神とやらはこの俺がチャッチャと片付けてやるからさ。」
賢二「だ、ダメですよ剣次さん!アナタ利用されてるんですよ!?気づいて!」
勇者「さぁ入るぞ。先公にバレたら厄介だからな。」
二人「「厄介」で済めばいいなぁ…。」

今度こそ死刑かもしれない。

 

252:歴史〔8歳:LEVEL5〕
カルロスの助けを受け、俺達は再び極秘書庫に侵入することができた。
もしあの本が真の歴史書なのだとしたら、「魔王」と「勇者」は実在したことになる。
となれば、解明しないわけにはいかない。 たとえ(盗子の)命を危険に晒そうとも。
剣次「じゃ、俺はもう帰るぜ。何する気かわかんねぇけど頑張れよな。」
勇者「ああ、手間かけたなカルロス。」
盗子「こ、こうなったら腹を決めるしかないね!」
賢二「もしバレたら首をキメられるけどね…。」
勇者「見つけたぞ「歴史全書」。 さぁ読め賢二、さっさと読んでさっさと逃げるぞ。」
賢二「うん…オッケー! えっと〜…新星暦523年、突如現れた「魔王」により…」
勇者「その概要部分は前回読んだ。だからもう本編に入ってくれ。」
賢二「あ、そうなんだ。 じゃあねぇ…。」

ある日、とある小さな島で一匹の「霊獣」が生まれた。
その名は「マオ」。恐るべき魔力を秘めた霊獣だった。

マオには実体が無かった。
そして、実体が無ければ力も発揮できなかった。
そこでマオは、契約者たる人間に力を貸すことで肉体を得ることにした。

マオが目を付けた者の名は、「終(おわり)」。
終はちっちゃな頃から悪ガキで、15で不良と呼ばれていた。

新星歴523年のことだった。

勇者「20年前…結構最近のはずなのに、俺達が知らないのは何故だ…?」
盗子「ん〜。真面目な話のはずなのに、妙にフザけてる気がするのは何故…?」

マオの憑いた終が世界を征服するのには、一年とかからなかった。
人々は恐怖にプルプル震え、チワワのモノマネが流行した。

だが新星歴526年、世界を救う五人の戦士が現れた。
「勇者:凱空(ガイク)」と「四勇将(しゆうしょう)」だった。

賢二「あっ、出て来たね「勇者」さん。」
勇者「うむ。 一体どんな活躍をしたのかが気になるところだぜ、同じ「勇者」として。」

凱空は四勇将と共に、魔王城へと乗り込んだ。
「武闘王:拳造(けんぞう)」は、荒々しい拳技で魔王軍を蹴散らした。
そして「剣豪:秋臼(アキウス)」は、華麗な剣技で終を追い込んだ。

その間凱空は、必死に四葉のクローバーを探していた。

マオ封じを試みたのは、「退魔導士:妃后(ひこ)」。
妃后は自らの体内にマオを封印しようと術を練った。

凱空「お前は純血の退魔導士だから、多分耐えられる!つーか耐えて!」
妃后「あ、うん!任せてよ凱空君!」


妃后「…ギブ。」

妃后、途中でアッサリ断念。
だがマオを半分奪われた終は、魔力もまた半分に。

そこで「賢者:無印(むいん)」、氷の柱に終を封印。


めでたしめでたし。

盗子「な、なんだか最後の方はすんごい投げやりなんだけど…。」
賢二「それになんだか、肝心の勇者さんだけちっとも活躍してないんだけど…。」
勇者「いや、待て!まだ続きがある! きっとこっからに違いない!」

…と、そう単純な話でもなかった。
なぜなら、妃后が死ねばマオは甦るはずだからだ。

そのため、凱空達はまだ休むことはできなかった。
失われた太古の退魔術書、「天地封印術典」の解読が急務となった。
そこで凱空と四勇将は、必死にその作業に取り組んだ。


サッパリわからなかった。

仕方なく凱空達は、とりあえず無人島へと移住した。
終を封じた氷柱も、人知れずその場に移した。
そしてその事実を誰にも知られぬよう、その島を外界から隔離した。


この計画を「隔離計画」、島の名を「カクリ島」と呼んだ。

盗子「か、カクリ島!?ここじゃん!この島じゃん!!」
勇者「むー。この島だって話になるとやっぱ現実味に欠けるな…。 どう思う盗子?」
盗子「わっかんないけど、やっぱこんな部屋に隠してあるくらいだしさ〜。」
勇者「賢二、お前は?」
賢二「でもその割に、今日の警備は手薄だったよね?」
勇者「お前は?」
教師「死にますか?」
三人「うわぁーーーー!!」

三人はしばらく投獄された。

 

253:計画〔8歳:LEVEL5〕
俺達が地下牢(学校なのに!)から釈放された頃には、もう体育祭は終わっていた。
半月にも及ぶ獄中生活と説教はさすがに辛かったが、そのぶん得たものはあった。
そこまでするということは、やはりあの本は本物なのだ。 この島には…何かある!
勇者「…というわけで、今日から色々と調べようと思う。 協力頼めるか?」
盗子「イヤッ!イヤだよ!もう牢獄なんて絶対にイヤァーー!!」
賢二「次こそホントに命が危険っぽいから、僕も手伝えないよ…ゴメン。」
勇者「ありがとう、そう言ってくれると思ってた。」
二人「だから話を聞いてーー!!」

〜物陰〜
教師「ホラ、あんなこと言ってる。困ったことをしてくれましたねぇお馬鹿さん。」
剣次「す、すまねぇ!まさかそんな事情があるとは思わなかったんだよ!」
教師「シッ、声が大きい。ウッカリが過ぎると牢獄行きですよ?」
父「そう責めるな…確かにカルロスはちょっと馬鹿だが、根は良い馬鹿だ。」
剣次「いや、どうせなら「馬鹿」の部分から否定してくれよ…。」
教師「もし邪魔でもされたら終わりなんですからね。今後は頼みますよ?」
剣次「わかってる。もうウッカリはしねぇよ。」
父「安心しろ、その点は私もなんとかフォローする。」
教師「まぁアナタがそう言うのなら…。じゃあお任せしますよ? …凱空さん。」

父「うむ。」

剣次「なっ!? アンタが凱空なグベヴォバブボッ!!

勇者は親の名も知らないのか。

 

254:執着〔8歳:LEVEL5〕
冬になった。本来ならば「地獄の雪山登山」の時期だ。 だが今年は行く気は無い。
なぜなら、俺には「隔離計画」について調べるという重要な作業があるからだ。
勇者「どうだ盗子、あれから何かわかったことはあるか?」
盗子「それがさ、バレたらマズいから聞き込みとかもできなくてさ〜。」
勇者「賢二、お前は?」
賢二「とりあえず街の図書館では何の収穫も無かったよ。」
勇者「お前は?」
教師「ホント死にますか?」
三人「うわぁーーーー!!」

三人は再び投獄された。

 

255:一年〔8歳:LEVEL5〕
流れるように時は過ぎ、もう一年が終わろうとしている。今年は異様に早かった。
特に秋後半と冬の記憶が一切闇に包まれている…というか、実際闇の中に居た。
だが、俺は懲りない。たとえまた(盗子が)捕まろうとも、絶対に秘密を暴いてやる。
たとえ(賢二が)死にかけようとも、絶対に真実を解き明かしてやるのだ。

もうじき春が来る。そして、ついに俺は六号生になる。

今年の卒業生はゼロだった。

 

外伝(伍)