第二章

 

16:不覚〔4歳:LEVEL1〕
入学から一ヶ月。学園生活にも随分慣れ、友達と呼べるような奴も少しはできた。
勇者「おいコソドロ…じゃなくて、何だっけ?」
盗子「盗子(とうこ)だってば!いい加減覚えて!将来立派な盗賊になる女だよ!」
勇者「盗賊に立派もクソもあるかよ。死ね。」
盗子「ムッキィー!もう怒った!まずはアンタのハートから盗んでやるー!」
勇者「無理。」
盗子「キッパリ言われたー!」
勇者「ブサイクだし。」
盗子「バッサリ斬られたー!」

歯に衣を装備しますか?


はい
いいえ

 

17:出遅〔4歳:LEVEL1〕
隣のクラスに俺好みの可愛い子がいる。
だが俺は「勇者」…将来はどこぞの姫君と結ばれるというのは、もはや暗黙の了解。
たかだか町民風情に熱をあげるわけにはいかない。そこが「勇者」の辛いところだ。

少女「よろしくね勇者君、私は「姫」っていうの。」

アリ…かな。

勇者は〔妥協〕を覚えた。

 

18:雑魚〔4歳:LEVEL1〕
二つ隣のクラスは「村人科」。みな毎日同じセリフを黙々と復唱している。
俺が思うに村の名前なんて「看板」でいいじゃねーか。くだらん科だぜまったく。
それに比べてウチは実用的だからな。レベルが違うよレベルが。雑魚どもめが!

教師「えー。それでは今日は、ヒーローらしい登場ポーズをレクチャーします。」

くだらん科だぜ…まったく…。

その割に勇者のポーズはキマっている。

 

19:遠足〔4歳:LEVEL1〕
明日は遠足がある。なんだか初めての4歳児らしい行事といった感じだ。
ドキドキ感とワクワク感、そしてわずかなイヤな予感が入り混じる。
教師「えー。今度行く島には「ゴップリンの洞窟」という洞窟がありとても危険です。」
勇者「オイオイ、そんな危険な場所に遠足行くのかよ。」
教師「ですからみなさん、くれぐれも道に迷わないように!」
生徒「は、はーい。」

教師「狙うはゴップリンの首です。」
生徒「…え゛。」

イヤな予感しかしない。

 

20:前日〔4歳:LEVEL1〕
打倒魔人ゴップリン。ここで手柄をあげれば早くも勇者として名を残せる。
命は惜しい。だが胸の奥から込み上げてくる熱い何かが俺を突き動かす。
今夜は眠れそうにない。

勇者「この熱い胸の高鳴り…やはり俺は勇者だ!」

勇者は風邪で遠足を休んだ。

 

21:傷跡〔4歳:LEVEL1〕
不覚にも病欠してしまった遠足の翌日、クラス内は重苦しい空気に包まれていた。
いつもはやかましい盗子でさえ、今日は死んだ魚のような目をしている。生臭い。
いくつか花瓶を乗せた机もあったが、予想の範囲内なので特に驚くのはヤメておく。

そんな地獄のような遠足は、来年もまた春にやってくる。

勇者は「秋の遠足」の存在を知らない。

 

22:間違〔4歳:LEVEL1〕
遠足で人数が減ってしまったため、三つあった冒険科は二つに統合された。
そのおかげで俺は、愛しの姫君と同じクラスになることができたのだ。
勇者「よ、よう!姫…ちゃん。」
姫「あ、こんにちは忍者君。」
勇者「え゛。」
姫「…ん? あ!ごめんね、間違えちゃった。そうだよね違うよね。」
勇者「あ、あはは。頼むぜオイ…あははは。」
姫「まだ「おはよう」の時間だったね。」
勇者「え゛。」
姫「おはよう亡者君。」

姫はさりげなく二度間違えた。

 

23:職業〔4歳:LEVEL1〕
冒険科の中には俺以外にも「勇者」を目指す輩は存在する。
だがみんな「剣士」や「魔法士」等を極めて「勇者」と呼ばれようとしているのだ。
この腑抜けどもめ…「職業:勇者」を名乗る度胸も無いような奴は死ねばいい。
少年「えっと、キミが「勇者」希望の勇者君?」
勇者「ん?そうだが貴様は?」
少年「実は僕もそうなんだ。お互い勇者目指して頑張っていこうね!」
勇者「おお、そうなのか!んじゃライバルだな、よろしくな!」

とりあえず、邪魔者は消すことにしている。

勇者のキャラは「魔王」向きだ。

 

24:宿題〔4歳:LEVEL1〕
明日から夏休み。 「一人一体魔物を狩ってこい」という無茶な宿題を出された。
そのため旅にでも出ようかと考えていた時、クラスの3バカどもが話し掛けてきた。
少年A「ねぇ勇者君、明日キミんちにお邪魔してもいいかなぁ?」
勇者「あん?貴様らとそれほど仲良かった覚えは無いが?」
少年B「宿題についてキミからの貴重なアドバイスを聞きたいんだ。」
少年C「俺達、できるだけ長い旅とかせずに済ませたいんだよ。」
少年A「だからキミの家で、「勇者」としての意見をじっくりと聞かせてほしいんだ。」

フッ、やれやれ…人気者はこれだから困る。

彼らの狙いはチョメ太郎だ。

 

25:不安〔4歳:LEVEL1〕
3バカトリオがやってきた一昨日の「勇者独演会」は、まんざらでもないものだった。
だが一転して昨日は不安な気分。なぜならチョメ太郎が初めて食事を残したからだ。
体調でも悪いのではと少し心配したのだが、今日は元通りよく食ったので一安心。

一体原因は何だったのだろう…。

あの日以来3バカを見かけない。

 

26:忘却〔4歳:LEVEL1〕
俺の学校には隠された謎の部屋がある。入学初日に偶然見つけてしまったのだ。
何があるのかは知らんが、「番獣」がいたことを考えると多分ヤバいものなのだろう。
勇者「…ん?番獣…?」

勇者はひらめいた。(電球)

プルルルル…ガチャ(電話)
盗子「ハイもしもし盗子だよー。 …勇者?何の用さ?」
勇者「宿題のターゲットが決まった、お前も手伝え。実はな…」

盗子「…はぁ!?イヤだよアタシ!そんな番獣なんかに勝てるわけないじゃん!」
勇者「心配するな。万一の時は囮でも残してズラかれば平気だから。」
盗子「そんなのわかんないじゃん!囮とか通じなかったらどうすんのさ!?」
勇者「大丈夫、以前もそれで逃げたことあるん…ハッ!!」

だから賢二を見かけない。

 

27:突入〔4歳:LEVEL1〕
翌日、俺と盗子は番獣を倒すため秘密の部屋の前に来ていた。
盗子「こ、この部屋にその賢二って子を置き去りにしてきたの…?」
勇者「置き去りじゃない!囮だ!」
盗子「なお悪いし!キレるのおかしいし!」
勇者「待ってろよ賢二!いま助けてやるからなー!」

勇者は「除霊グッズ」を装備している。

 

28:番獣〔4歳:LEVEL1〕
扉を開けた先にはやはりあの時の番獣がいた。まるで壁のようにクソでかい。
番獣「ガルルルルル!!」
盗子「こ、コイツってまさか…「ペルペロス」!?」
勇者「む!?盗子、知ってるのか!?」

〔ペルペロス〕
巨犬タイプの高レベル召喚獣。
ぶっちゃけ今の勇者の手に負える相手ではない。

盗子「だ、ダメだよ勇者…勝てっこないよ!逃げようよー!」
勇者「くっ、こうなったらやはり「あの魔法」を…。いや、しかしうまくいくかどうか…。」
盗子「えっ!何かいい手があるの!?なら使って!何でもいいから早く使ってよ!」

勇者「お手!」
盗子「アホかーーー!!」

番獣「バウ。」
盗子「やるのかよ!!」

勇者「伏せ!」
番獣「バウ。」
勇者「おかわり!」
番獣「バウバウ。」
勇者「賢二!」
賢二「こんにちは…。」
勇&盗「出たぁーーー!!」

賢二は生きていた。

 

29:感謝〔4歳:LEVEL1〕
ペルペロスは意外にも大人しく、どうやら奥に進もうとする奴以外は襲わないようだ。
というわけで賢二も生きていた。おかげで除霊グッズが無駄に…。やれやれだ。
賢二「酷いよ勇者君!僕を置き去りにするなんて!」
勇者「置き去りじゃない!囮だ!」
盗子「だからそこはキレるとこじゃないから!」
賢二「僕が今日までどんな思いで生きてきたか…君にはわかる?ううう…。」
勇者「賢二…「ありがとうございます」は?」
賢二「…へ?」
勇者「助けに来てやったんだ。礼を言うのが当たり前だろ?」
賢二「な、何を言ってるんだよ!元はといえば勇者君のせいじゃないか!」
勇者「俺は命の恩人だ。礼は?」

賢二「あ…ありがとうございます。」

勇者は誰にも屈しない。

 

30:策略〔4歳:LEVEL1〕
なんとか賢二を丸め込んだ俺。こんな奴の下手に出てやる気は毛頭無い。
賢二「な、何はともあれ…ありがとう勇者君!これでやっと家に帰れるよ!」
勇者「…いや、そりゃ無理だ。お前の帰る家はもうない。」
盗子「なんかアンタは死んだと思って、親はショックで引っ越しちゃったらしいよ。」
賢二「えぇぇ、そんなぁぁ…!じゃあ僕はこれからどうすればいいんだよぅ…ううう。」
勇者「安心しろ、賢二。俺に任せろ!」
賢二「ゆ、勇者君…。」

勇者の目は怪しく光っている。

勇者「実は俺が経営していた「宿屋」があるんだが…。」
賢二「え゛!まだ4歳なのに!?」
勇者「旅立ちには金がいるだろうからな。今は休業中だが1歳の頃に始めたんだ。」
賢二「え゛!さらに若い頃に!?」
勇者「そこをお前に任せる。分け前は「8:2」でいい。俺からのせめてもの償いだ。」
賢二「そ、そんなに…。 勇者君、キミって人はなんていい人なんだ…!」

もちろん勇者が「8」だ。

 

第三章