第二章

 

31:大違〔4歳:LEVEL1〕
おっかない敵から逃げ出して数日。辿りついたのは、また別の星だった。
しつこそうなキャラだったし、いつ”アイツ”が追ってくるかわからない。
どこに逃げても安心できないなら、私が強くなるしかないね。私は生きなきゃ。
ズバッと割れた土男流、多分狩られただろうトナリ…二人のことは絶対に忘れない。

一刻も早く。
「な」なのか「た」なのか。

 

32:伝統〔4歳:LEVEL1〕
私を乗せてきた「トーコちゃんDX」なるロボは、なんか私と住む気みたい。
まぁ確かに一人で生活は面倒だから、手なずけてうまいことアゴで使おう。
勇姫「ところでトーコはさ、やっぱ私の母親がモデルとかなの?」
DX「そだよ♪見た目は十代前半だけど、超高性能CPU積んでんの。凄いっしょ?」
勇姫「うん、凄くどうでもいい。」
DX「な、なにをぉー!?」
勇姫「お母さんは「盗子」…ってことはさ、やっぱ泥棒だったの?」
DX「ロボチガ…あ、ううん。昔は「盗賊」だったけどその後…チョト、話ス、長イ。」
勇姫「なんで時々思い出したようにカタコトになんのさ。何そのロボアピール?」
DX「うっさいな!そうプログラムされ…あ、ロボチガウ!」

どうしようウザい。
騒がしい日常が始まった。

 

33:微妙〔4歳:LEVEL1〕
トーコとの騒々しい生活が始まって数日…。私は学校に入学することになった。
名前は「軍隊学園」。「軍隊」なのか「学園」なのかハッキリしないけどまぁいいや。
来たるべき追っ手襲来の日に備え、できたらここで仲間の一人二人は見つけたい。
すると早速話の合いそうな子と知り合い、冒険談議に華を咲かせることができたの。
少年「俺はいつか「剣豪」になりたいんだー☆」
勇姫「あ、いいねぇ剣豪!是非とも欲しい面子だよ!」
少年「うん。だから勇姫ちゃん、旅立つ時は絶対俺も連れてってね!」
勇姫「オッケー! あ、ところでアンタ名前は…「剣吾」じゃないよね?」
少年「えっ、ごめん…。」
今度は「う」が足りない。

 

34:入学〔4歳:LEVEL1〕
ちょっと色々あった入学式もなんとか乗り切り、翌日。
どうやらとんでもない悪の巣窟に迷い込んだ感があるけど、気にしたら負けかな。
教官「俺様が今日から貴様らを担当する教官だ。ちゃんと従いなよクソガキ共?」
剣吾「な、なんか女の人なのに怖いよね…。勇姫ちゃんどう思う?」
勇姫「名前が「京香」とかだったら笑えるよね。「京香教官」とか…プッ。」

教官「名前は、「阿美(アビ)」だ。」
物騒にも程があった。

 

35:名乗〔4歳:LEVEL1〕
「阿鼻叫喚」とか縁起でもないよって感じの教官にしごかれることになった私。
他の子から聞いたこの学校の噂も相当ひどい。なんか私、選択を誤ったっぽい…。
勇姫「というわけで、華麗に退学しようと思う。アディオス!」
教官「…貴様、名は?」
勇姫「え、私…?私は、勇姫!そして!?」
剣吾「えっ!?えっと…俺は、剣吾…?」
少年「そしてドン尻に控えしはこの俺、「武闘家:闘舞(トウブ)」!」
剣吾「って誰!?なんでごく自然に乗っかってきた!?」
勇姫「私達、3人合わせてーー!?」
ボコボコにされた。

 

36:失念〔4歳:LEVEL1〕
ただのお茶目だったのに、必要以上にボッコボコにされた昼下がり。
勇姫「ふむぅ、まったくもって歯が立たないとか…。酷い目に遭ったね。」
剣吾「俺は完全にとばっちりだしね…。」
闘舞「まったく困ったもんじゃ。」
剣吾「いや、キミは自業自得だからね…?」
勇姫「ところでアンタは誰さ?何の権限で勝手に溶け込んでんの?」
闘舞「俺は闘舞じゃ。ま、こんな学校じゃし、仲良くしようぜユッキー。」
勇姫「フン、ユッキーとか馴れ馴れしく呼ばないで!ユッキー怒るよ!?」
剣吾「えっ、気に入っちゃった!?」
勇姫「にしても、「剣士」に「武闘家」か…ちょっと男臭いパーティーかなぁ。」
剣吾「あれ?そういえば、勇姫ちゃんの職業って…?」

…おや?
考えてなかった。

 

37:職業〔4歳:LEVEL1〕
言われて気づいた。そういえば私、職業とか夢とか全然決まってなかった。
土男流の話じゃ父も祖父も「勇者」みたいだけど、どうにも「勇者」とかピンとこない。
そもそも「勇者」って、基準がまったくわかんないし。漠然とし過ぎてるし。
剣も使えたり魔法も使えたり、時にはもっと特殊な力を使えたりのオールマイティー。
城や街では堂々と窃盗を繰り返すとか、死んでしまうとは情けないとか違うとか。
最終的には世界を救って誰よりもちやほやされるとか、なんでもあり過ぎるよ。

だから私、「勇者」になる!
勇姫は欲に溺れた。

 

38:奇跡〔4歳:LEVEL1〕
熟考の末「勇者」になることを決めた私。でもまず生き残れるかどうかが問題かな。
この学校は4年制で、軍隊付属の軍人養成学校だとか聞いたけど詳細は不明。
キャッチフレーズが『卒業のような奇跡を』な時点で、何が”養成”かよくわからない。
勇姫「あのさ、これからどんな悪行で生徒を苦しめるつもりなの阿美ちゃん?」
教官「”教官”だ。そうだな…一概には言えんが、なぜか生意気なガキから死ぬね。」
勇姫「くっ、なんて遠回しな”殺害予告”…!」
剣吾「しかも”苦しめる”を否定しないとか…。」
闘舞「ちなみによぉ、卒業できる確率ってのはどのくらいのもんなんじゃ?」
教官「卒業…?ふむ、聞かん言葉だ。」
前提が違った。

 

39:掃除〔4歳:LEVEL1〕
入学して、一ヶ月経った。教室が不自然に空席だらけなことは気にしない方向で。
勇姫「って気にするわ!なんで豪快に空席増えてんのさ!?」
教官「ん?だがその分生徒は豪快に減ってる。問題無い。」
勇姫「大問題だから!その理由を聞いてんだよ!」
闘舞「おぉ…今日はいつになく熱いなユッキー。」
剣吾「なんか見直したよ、身の危険もかえりみず…」
勇姫「増えるじゃん!掃除の担当範囲!」
剣吾「その発想は無かった。」
教官「フッ、わかったよ。ならば掃除は俺様が引き受けよう…”得意分野”だ。」

ヤバい、意味が違う。
勇姫は全力で逃げた。
何人かとばっちりを食った。

 

40:演習〔4歳:LEVEL1〕
この軍隊学園には、四季それぞれに何かしらの「演習」があるんだとか。
毎日が戦場だけど、イベントとなるとより一層物騒な何かあるに違いない。
勇姫「ねぇ阿美ちゃん、「春の演習」ってどんななの?やっぱ超おっかない感じ?」
教官「”教官”だ。今度間違えたら貴様は生まれてきたことを後悔することになるよ。」
勇姫「フッ、甘いね。そんなの生後間もなく経験済みだよ?」
闘舞「そんな負の体験をさも自慢げに…さすがはユッキー、あなどれん!」
剣吾「やっぱり、普段の訓練より辛いんですよね…?」
教官「心配無い。貴様らは一年生…”一”にちなんで一番ヤバいのをチョイスした。」
勇姫「心配だらけじゃん!なら四年生は”四”にちなんで四番目!?おかしいし!」

教官「いや…”死”だが?」
結局おかしいし。

 

41:対策〔4歳:LEVEL1〕
鬼の阿美ちゃんいわく、春の演習は一番ヤバい何からしい。
何をもって一番かすらわかんないけど、とりあえず何か対策を練るべきだよね。
勇姫「てなわけで、なんとか生きて帰るための作戦を考えればいいと思う。」
闘舞「あ〜、そういや「療法士」がいたはずだぜ?確か…お、多分アイツじゃ。」
闘舞は少女を指差した。
勇姫は光の速さで拉致った。
少女「えっ、えっ、な、何!?」
勇姫「おめでとう。アンタは私の忠実なしもべに選ばれたから光栄に思うがいいよ。」
少女「えぇーーー!?ま、いっか!うんっ、よろしく☆」
剣吾「受け入れるとか…。」
勇姫「アンタ「療法士」なんだよね?超重要なん…あ、ちなみに名前は?」
少女「あ、えっとねぇ〜…アタシは「栗鼠香(リスカ)」!」
ハートは大丈夫か。

 

42:標的〔4歳:LEVEL1〕
命の危機には回復手段は重要…そう思って捕まえた「療法士」は痛い名前だった。
勇姫「なんか他人治してる場合じゃないよね。まずは自分の心を治せよと。」
栗鼠香「ガーン!じゃあ死のっかなぁーキャハハ☆」
教官「そんな貴様らに良い知らせがある。」
剣吾「ってうわっ!どうやって音も無く背後に!?」
教官「予定を繰り上げて、今から演習に出発する。うまくいけばすぐに死ねるよ。」
勇姫「つまるところ、育てたいの殺したいのどっちなの?」
闘舞「まぁとりあえず聞こうぜ。今回の演習の目標って、なんなんじゃ?」

教官「狙うは…「ゴッペリン」の首だ。」
歴史は繰り返す。

 

43:方向〔4歳:LEVEL1〕
なんか知らないけど、今から演習に向かうとか言い出した阿美ちゃん。
多分そうしないと登校しない奴が何人か出るから、その対策なのかもしんない。
目標は”首”としか言わないから、具体的には何をするのかもわかんない。
でもまぁこうなったら考えても仕方ないよね。今回ばかりは、勇気を出すしかない。

逃げよう。
勇気のベクトルが違った。

 

44:惨事〔4歳:LEVEL1〕
勇気を出して逃亡した翌日。教室に行くと、予想以上に豪快に人が減ってた。
みんな死んだ魚みたいな目してるし…うん、やっぱ逃げて正解だったよ。
勇姫「でもまぁ…無事で何よりだよ、剣吾。」
剣吾「心にも無いこと言わないでよ!来なかった勇姫ちゃんに何がわかるんだ!」
勇姫「ご、ごめん…じゃあ何で生きてるの剣吾?」
剣吾「だからといって隠すべき心は隠してよ!」
栗鼠香「アレは…キツかったよね…。もうホント死ぬかと…。ま、いいけどねっ☆」
闘舞「タフじゃなお前…。さすがの俺も、アレは…」
勇姫「そんなだったの?具体的に何があったの?どんな敵だったのさ?」

剣吾「船が…。」
事故だった。

 

45:罰則〔4歳:LEVEL1〕
演習をバックレて事なきを得たと思われた私だったけど、すぐ捕まって「懲罰房」へ。
そこでの生活は思い出したくもないから省くけど、まぁちょっとした地獄だったよ…。

でもなんか、ちょっとだけ和んだ。
里帰りの心境だった。

 

第三章