リアル・ゲーム

 

1
少年A「ここか…。寂れた田舎町の寂れた洋館…ここが例の………ここで合ってるよな?」
少年B「さっぱりわからん。だがまぁ、歩き続けて6時間…「ここであってくれ」って話なら同感だな。これで違ったらキレるぞ『拳次(ケンジ)』?」
拳次「あ?オイオイそりゃねぇよ『藍流(アイル)』、お前だってノリノリで乗っかってきたじゃんかよ。」
藍流「そりゃお前、うまくいきゃ一千万だからな。一千万あったら…あー…うん、アレだ、消費税いくらだと思ってんだ?」
拳次「いや、もうちょっと夢のある話しろよ!俺達華の高2男子だぜ?人生これから夢イッパイだぜぇ?」
藍流「ん〜、じゃあキャバクラで…」
拳次「おっ、いいねぇキャバクラ!やっぱ一回行ってみてぇよなぁ!まだガキだっつっても一千万もありゃあ…」
藍流「荒稼ぎ!!」
拳次「行けよっ!!なんで営んじゃうんだよ!?まぁある意味堅実で賢い選択なのかもしれんけども!」
藍流「ま、話が話だしなぁ。変に夢見て裏切られても面倒だろ?」
拳次「かもな〜。題して『潜入ゲーム』…ここの最上階まで無事に辿り着けたら、賞金一千万…か。確かにどう考えても裏があるよな〜これ。」
藍流「フン、裏なんぞそこら辺の紙切れにだってあるんだ、なにも珍しいことなんかないさ。 行くぞ。」
拳次「おぅよ!!」
拳次は扉を開けた。
ズドォオオオオン!!(落石)
拳次「うぎゃーー!!」
藍流「なにぃーーーー!?」
拳次はぐしゃっと潰れた。

 

2
長時間かけてやっと見つけた、『潜入ゲーム』とかいうゲームの舞台っぽい怪しげな洋館。その扉を開けた瞬間、巨大な岩が降ってきて友人拳次は視界から消えた。
藍流「拳次…いい奴だっ……たのか?」
拳次「…い、いや…そこは「だったのに」の流れだろうがよ…いっててて…!」
藍流「お、おぉ生きてたのか拳次!大丈夫か!?」
拳次「…ぐっ、お、おぅ…なんとかな…」
藍流「いや、昼飯のサンドウィッチは?」
拳次「少しは俺の身も案じてもらおうか。」
藍流「まぁそれだけ話せるんだ、死ぬほどってわけじゃないんだろ?」
拳次「ああ、心配ねぇ。咄嗟に中に飛び込んだからな…直撃だけは免れたぜ。 ま、ちょいと左足が、6時10分…20秒になっちまったがな…。」
藍流「何がどうなれば秒まで刻めるのかはあまり考えたくないが、とりあえず大変な状態なのはわかったぞ。」
拳次「若干転がった隙に足は引き抜いたが…この足じゃ6時間どころか一歩も歩けねぇ…。さてどうすっか。」
藍流「今お前、転がったって言ったよな?ならとりあえず…よいしょっと…!」
ゴゴ…ゴゴゴゴ…(転)
藍流は岩をどかして中に入った。
藍流「ふぅ〜…にしてもコレ、どう見てもトラップだよな?」
拳次「ああ。しかも殺す気の…な。この漫画並みの反射神経と運が無きゃ、俺もまず死んでたに違いねぇ。」
藍流「いや、そこは敢えて潰されて紙切れのように…」
拳次「そこまで漫画並みだとひくだろさすがに…っててて…!
藍流「やれやれ…。だがまぁしかし、これでココが例の館ってのは間違い無さそうな感じだな。」
拳次「死ぬ思いして一千万か…どう考えても割に合わねぇなぁオイ。」
藍流「ん?じゃあ尻尾巻いて逃げるか?」
拳次「…フン、逃げようにも逃げ足を封じられてらぁ。死ぬ時は一緒だぜ相棒!!」
藍流「フッ、なら決まりだな。」
拳次「ああ。」

いってらっしゃい。
一緒じゃなかった。

 

3
足が折れてるくせに、はしゃぐ気マンマンの困ったクソ野郎拳次。だが俺は、たかだが一千万ごときで死地に臨むほど愚かではない。
拳次「…とか考えてね?念のため聞くけどもしやお前、一人で帰る気じゃね?」
藍流「フッ、オイオイ困るな拳次…なぜ疑問系なんだ?」
拳次「やっぱりか!なんでお前この状況で親友を見捨てられんだよ!?」
藍流「よく考えろ、この状況で引き返そうとしないお前の方がどうかしてるだろ。」
拳次「フン、俺はやらないで後悔するぐらいなら、やって後悔したいタイプなんだ!」
藍流「いや、確実に“殺られる側”だが。」
拳次「さぁ行こうぜ藍流!中に入りゃきっと誰か…」
声「…いや〜素晴らしい。まさか生身にしてあの一撃をかわすとは、なかなかに興味深い。」
奥から謎の老紳士が現れた。
藍流「どうやら探す手間が省けたようだが…アンタは?」
紳士「おっと、これは失礼。ご挨拶がまだでしたねぇ。私はこのゲームの案内人…『神崎(カンザキ)』と申します。」
藍流「そうか…ちょうどいい、コイツを保護してやってくれ。俺はこれからヤボ用があるんだ…6時間ほど。」
拳次「帰る気マンマンじゃねーか!」
藍流「案ずるな拳次。大丈夫、必ず助けを呼んでみる。」
拳次「呼んで来いよ!なんだよその「一応呼ぶだけ呼んでみる」的なライトなノリは!?それ信じて大丈夫な感じじゃなくね!?」
藍流「フッ、冗談だよ冗談。呼びゃしねーよ。」
拳次「そっちが冗談かよ!せめて呼べよ!!」
紳士「・・・・・・・・。」
紳士はしばらくほっとかれた。

 

4
突如現れた怪しい老紳士に誘われ、俺達は奥の部屋へと進んだ。俺は必死に抵抗したのだが、サンドウィッチを盾に取られては仕方ない。
〜1F:終わりの部屋〜
拳次「ふぅ〜…やっと着いたぜ…。短距離とはいえ慣れない匍匐前進は疲れ…ってちょっとは手助けしてくれよ冷てぇ奴だなオイ!」
藍流「まぁ気にするな。それにしても、1部屋目だってのに“終わりの”とは縁起でもないな…なんなんだこの部屋は?」
紳士「フッフッフ…ま、深い意味はありませんよ。この部屋から先…最上階までの間の、尋常ならざる世界について…この部屋で簡単に説明させていただきます。」
藍流「尋常ならざる…だと?」
紳士「ハイ。これからお二人に挑んでいただくゲーム…既にお察しのこととは思いますが、確実にその想像以上に、普通ではございません。」
拳次「フン、普通じゃないだと?こちとらそんなの言われ慣れてらぁ!」
藍流「いや、それ自慢げに言うセリフじゃないからな?バカにされてんだからな?」
紳士「百聞は一見にしかず…そうですねぇ、ではまずは手始めに、このカードの中から、どれか一つを選んでみてください。」
紳士は怪しげなカードを取り出した。
藍流はその中の一枚を引き抜いた。
紳士「ほぉ、『火炎(ファイア)』ですか。わかりやすくていいですねぇ。 それではそのカードを、そちらの『バインダー』のスロットにセットしてください。」
拳次「バインダーってこの手帳みたいなやつ?確かにカード入れるっぽい箇所あるけど…よし、じゃあやってみろよ藍流。」
藍流「フッ。悪いが拳次、俺は石橋って苗字の奴は片っ端から叩いて歩くタイプだぞ?」
拳次「お前それ石橋一族に謝れよ!叩いていいのは無機物の方の石橋だけだっつの!」
藍流「いや、大丈夫だろ。教頭もいい歳だし。」
拳次「教頭の石橋かよ!なんかスゲェなお前!…って、まぁいいや。じゃあ俺がやるよ…ハイ、セットしてっと…で?こっからどうすんの?」
紳士「バインダーに手をかざし、カード名を唱えてください。」
拳次「オーケー!ファイアアアアア…アアアアアアア!?
なんと!マジで炎が出た。
拳次「うわっち!!えっ!?えぇえええええ!?なっ、なんでなんで!?」
藍流「な…なんのトリックだ…!?」
紳士「信じる信じないはお任せしますが…とにかくこれからアナタ方には、このカードを駆使して、争っていただくことになります。」
急にファンタジーなノリに。

 

5
何かあるとは思っちゃいたが、予想の斜め上を行く展開に俺は少々戸惑っている。
拳次「うぉおおお魔法かぁあああ!燃えるぜぇええええ!!」
藍流「って適応早いなオイ!こういう時だけはその単純さが羨ましいぜ…。炎出すなんてどこぞのマジシャンにだってでき…る…とか言うのは簡単だが、まぁこの際だ!そういうテーマパークにでも来たつもりで、全力で乗っかってやろうじゃないか!」
紳士「おや、よろしいのですか?他の方々はご理解いただくのにもう少し時間がかかりましたが…」
藍流「問題ない。俺は無愛想に見えて、一度吹っ切れれば意外とノリノリになっちゃうのがチャームポイントでな。」
紳士「フッフッフ、そうですか。それでは簡単に、このカードの使用方法についてご説明しましょうか。」
◆カードの種別は『呪文(スペル)』、 『道具(ツール)』、 『召喚(サモン)』の3系統
◆バインダーには計3枚のカードをセットできる
◆カード名を唱えることで、カードの効果が発動される
◆発動させるためには、必ず一度バインダーにセットしなければならない
◆一度セットしたカードは、バインダーの外に出すと10秒で消滅する
◆回数や時間等、カードごとに定められた制限を越えるとカードは消滅する
◆制限を越えていなければ、発動を解除してカードに戻すことができる
◆カードが消滅するか、具現化されたものが消滅した場合、双方消滅する
紳士「…とまぁ、大体このようなルールとなりますが、ご理解いただけましたか?」
拳次「フン、バカかアンタは?わかるわけねぇだろうが!!」
藍流「どっちがバカだよ。 ま、習うより慣れろだろ、やってみるしかないな。」
紳士「その他の、ゲームに関する基本ルールは『1Fチェックポイント』にて別途説明がありますのでご安心を。 それでは、ご健闘を祈ります…『瞬間移動(テレポート)』。」
藍流と拳次は転送された。

 

6
気が付くと、俺達は見知らぬ部屋にいた。ああは言ったものの9割がた疑っていた俺だが、この瞬間移動のトリックはどうにも説明がつかん。ならば宣告どおり、全力ではしゃいでやろうじゃないか。
〜1FチェックポイントE〜
藍流「ふむ、ここがジジイの言ってた『1Fチェックポイント』ってやつか…。その名から察するに、各階にこんな部屋が用意されてるっぽいな。」
拳次「マジか、じゃあどんな部屋なのか調べなきゃだな!よし、探検しようぜ!」
藍流「つーかお前は足グチャグチャのくせになんでそんなに元気なんだ。一歩目から満身創痍な分際で、逃走どころか最上階を目指そうとか…冗談は三親等以内の血族の顔だけにしてくれ。」
拳次「フッ、まったく…。素直に心配もできねぇとかどんだけ照れ屋さんだよお前は…」
藍流「だがまぁ実際、みんなフザけた顔だしな…仕方ないか。運命ってやつは残酷だ。」
拳次「て…照れてるんだよな?そうじゃなかったらお前、ウチも一族ぐるみで受けてたつぜ?石橋一族と手ぇ組むぜぇ!?」
少女「…ハァ、うるせぇんですよアンタら…。ちったぁ静かにできねぇんですか?」
同年代の少女が現れた。
拳次「お〜、他にも人がいたんだな。 俺は拳次だ、よろしくなベイベー!」
少女「フン、誰がアンタらなんかと馴れ合うもんですか!自分以外はみんな敵だっつんですよ!」
拳次「まーまーそう言わず名前くらい教えてくれよ。アンパンマンだってバイキンマンの名前くらい知ってるぜ?」
少女「な、なんですその意味不明な理屈…で、でもまぁ名前くらいなら」
藍流「大丈夫だ、興味無い。」
少女「なんですって!?」
拳次「フッ、相変わらず人見知りが激しいな藍流。けど女の子には優しくするもんだぜ?」
藍流「オイオイ失敬なこと言うなよ拳次、可愛い子にはちゃんとするぞ。」
少女「アンタが失敬ですから!人を見かけで判断す…誰がブサイクですか!!」
藍流「ったく、ギャーギャーうるさい奴だな…。騒ぐ前にまず名ぐらい名乗れよ。」
少女「水差した張本人が何言うです!?フザけてんじゃねぇですよ!」
藍流「やれやれ、この未知の状況…敵は少ないに越したことないって時に、誰彼構わず喧嘩を売るとは愚かにも程があるな。」
少女「だからアンタには言われたくねぇですってば!」
藍流「いや、俺は選んでるぞ?」
少女「なお悪いですから!!」
藍流は生き生きしている。

 

7
俺らよりも前から部屋にいたらしい、やかましい少女…名は『藤子(フジコ)』とか言うらしい。仲間は少しでも多い方がいい状況ではあるが、この手の輩は下手に出るとつけあがる。上下関係をしっかりとわからせた上で、従えるのがいいだろう。
藤子「って聞こえてますから!なんでそんなに上から目線です!?」
拳次「けどまぁ、一人ってのも不安だろ?仲良くしようぜフ〜ジコちゃ〜ん。」
藤子「フジコちゃん言うなです!アンタはどこの大泥棒ですか!?」
藍流「そうだぞ拳次、こんな奴に「ちゃん」なんてもったいない。アグネスがブチ切れるぞ。」
藤子「アグネスのそれとは別物と思うですが!?」
藍流「にしても…遅いな。さっきのジジイの口ぶりだと、ここでも何かしらの説明があるはずなんだが…」
藤子「あ〜、それってコレのことです?仕方ねぇから見せてやるですよ、そこのテーブルに置いてあったんですけどね。」
藤子は小さな紙切れを取り出した。
拳次「URL…?これって俺らがこの『潜入ゲーム』知ったとこじゃね?」
藍流「ちょっと待てよ…ふむ、内容が更新されてるな。さっき聞いた話以外の情報となると…」
◆各フロアのクリア制限時間は、階数×1時間(例:最上階5Fなら5時間)
◆制限時間を越えた場合は失格となり、『監獄ルーム』に転送される
◆各階のチェックポイントでは、空きスロットにランダムにカードが補充される
◆カードは、フロア内のどこかにある『宝箱』から入手できる場合もある
◆瀕死状態になったら自動リタイアとなり、『監獄ルーム』に転送される
◆5月1日午前0時をもって、ゲーム開始とする
藍流「なるほど、これでいくつかわかったな。」
藤子「ええ。あと10分後…0時からゲームは始まる。第一文から、フロア数は5だとわかるです。」
藍流「この部屋が『チェックポイントE』で3人いるってことは、最低でも15人…A〜Zまであると仮定すると、総勢78人の壮絶バトルって感じか。」
拳次「宝箱か…テンション上がるな!」
藍流「お前はもう少し貢献する気は無いのか雑魚め。」
藤子「賞金は先着1名なのか山分けなのか…よくわからねぇですが、5階もある以上、単独で動くのは得策じゃねぇですしね。仕方なくご一緒してやりますよ。」
藍流「クリア条件が書かれていないのも少々気になるが…まぁ最上階のどこかに辿り着くことが、それにあたると判断するのが妥当だろう。」
拳次「監獄ルームか…なんかゾクゾクするな!」
一人使えないが大丈夫か。

 

8
ゲームのルールも大体わかり、あとは開始時間を待つのみとなった。
拳次「あ〜そういえば!みんなカードは?どんなカードが配られたのか確認しとこうぜ!俺は…おっ、入ってる入ってるぅ!まず『[魔]火炎(ファイア)』…これはさっきのだな。あとは『[道]竹刀(バンブー・ブレード)』、それに『[召]猟犬(ハンティング・ドッグ)』か〜!お前らはどうよ!?」
藤子「私はもう確認したですよ。アンタらなんかに教える気はねぇですけどね。」
藍流「フッ、奇遇だな俺もだ。」
拳次「えぇ〜〜!?なんだよそれつまんねぇなー!ってか仲良くしようぜマジで!こういう時はチームワークが大事だろ!?」
藍流「な〜に、俺も別に表立って敵対しようってわけじゃない。単に、出会ったばかりの人間達が、そう簡単に信用しあえるとは思っていないって話だ。むしろ、簡単に手の内明かす奴の方が信じられんなぁ俺は。罠かと疑うぞ。」
藤子「最終的には賞金奪い合うかもしんねぇ仲ですよ?共闘こそすれ、仲良しごっこなんてまっぴらですわ。」
拳次「要は二人とも照れ屋ってことだな?」
藍&藤「違うし!!」
藍流「チッ…まぁいい、そろそろ時間だ。制限時間は1時間…全員無事に2Fに辿り着く…まずは、それだけを考えろ!!」
拳&藤「おぅよ!!」
拳次は既に無事じゃないが。

 

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