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【No.1:失恋】 【Side:快人】

バチィン!!

思い切り頬を引っ叩かれた。
それは僕の、99回目の失恋を意味していた。

教室から飛び出し走り去る彼女を、僕はただ呆然と眺めていた。
そしてしばらくすると、いつも通りの聞きなれたセリフが聞こえてきたんだ。

少年 「よぉ、終わったか快人(カイト)?その顔じゃ…結果は聞くまでも無い感じだなぁ。」
快人「な、なんだよ健二その言い草は!?親に辛くあたるぞ!」
健二「いや、『表情』って意味な。誰もブサイクだとは言ってねーよ。」

彼は『大塚 健二』、僕と同じ中学3年生。中学からの仲なのに、一番気を使わず話せる親友だ。ちょっと口は悪いけど、裏表の無い奴と思えば気にはならない。 

コイツが話しかけてきたってことは、また『例の時間』ってことか…。

健二 「さーてどうすっか、晩餐でもする?記念すべき『100回目の失恋』のさっww」
快人 「バッ…ち、違うよまだ99回だよ!1回多いわっ!」
健二 「へ?あーゴメンゴメン間違えた。んじゃ『王手』ってことでw」
快人 「フッ、『王手飛車角取り』とでも言ってもらおうか。」
健二「いや、自分で自分追い込んでどうするよ。つーかなんで自慢げだよ。」
快人「ハァ〜…なんでだろ。なんで、フラれたんだろうな…。」
健二「そりゃお前、変人だからだろ。」
快人「ハハッ、よせよ健二。冗談は顔だけにしてくれ。」
健二「俺こそ親に辛くあたるぞ。」

 

 

【No.2:反省会】 【Side:快人】
失恋の後、健二と二人でその恋を振り返る…いわゆる『反省会』を行うのは、知らぬ間に僕らの習慣になっていた。
99連敗という今の状況が状況なだけに、この習慣に学ぶものがあるかどうかは微妙だけど…とりあえず愚痴りたい僕にとって、頼んでもないのに付き合ってくれる健二のこの人の良さは、何気に貴重だったりする。

健二「で?今回はどんな素敵な文句で口説いたんだ?殴られるってよっぽどだろ?」
快人「え?いや、そこは普通に『生まれたままの姿』を…」
健二「OKそこだ。」
快人「見せた。」
健二「おっとゴメン間違えたそこだ!」
快人「なにぃ!?う、嘘だ!そういう大胆な男を女は好むって本に書いてあったぞ!?」
健二「だからって応用しすぎだろ!どこのバカが『大胆』=『全裸』と読み換え…ってウワォ!そのまま書いてあるし!なんなんだよこの本!?」
快人「僕のバイブル、『How To 負け戦』。」
健二「なぜ買った!?タイトルからして惹かれる要素は…ある意味抜群だけどもっ!」
快人「あ、興味あるなら持ってくるよ?全部持ってるしこのシリーズ。」
健二「しかもシリーズ物!?」
快人「メチャクチャ面白いんだよ、著者の生き様が。全てが実体験をもとにしてるから信憑性もあるしね。 まぁ一つだけ惜しい点があるとすれば…」
健二「あるとすれば?」

快人「その人、独身なんだ。」
健二「ダメじゃん!」

 

 

【No.3:続・反省会】 【Side:快人】
その後、健二に散々罵倒され続けること30分。
納得いかないことも色々言われたけど、言い争ってるうちに気も晴れてきた。
ありがとう健二、僕はまだやれる!

快人「フン、いいさまた次を探すよ。女なんか、星の数ほどいるんだしなっ!」
健二「あ、相変わらず早い立ち直りだな…。でもそれは俺が言うべきセリフじゃないか?」
快人「星って一体いくつあるんだ? んー…多分死ぬまで毎日1万人にフラれたところでお釣りがくる計算だ!」
健二「なんだお前はギネスにでも載る気か?つーかフラれるのが前提ってお前…」
快人「よしっ、そうと決まれば善は急げだ、次のハニーを探しに行くぞ!」
健二「へ…?お、オイ待て快人、ちょっ…!」

とりあえず街へ行こう。動かなくっちゃ、何も始まらない!

健二「ふぅ、星の数ほどねぇ…。 ま、星の距離ほど遠いわけだけど…な。」

後ろで健二が何か言ったみたいけど、聞こえなかったからまぁいいや。
ぬぉおおおっ燃えてきたぜっ!新たな出会いが、僕を待っている!!

 

 


【No.4:出会いのチャンス】 【Side:快人】
学校から街へは、電車で30分ほどかかる。大した時間じゃないんだけど、帰宅ラッシュの時間帯だから車内は超満員。そのせいで時間は倍以上に感じられた。
でも、満員ってことはその分人も多く乗ってるわけで…考え様によっては出会いのチャンスと思えなくもない。いや、思えまくる!!

快人「ん〜、1…2…3…あっちにも…うん、全部で5人ってとこか。でも状況的に全部は無理…1人に絞る必要があるな…。」
健二「ん?どうした快人、こんな状況でキョロキョロしながらブツブツ独り言は結構キモいぞ。」
快人「フッ、照れるぜ。」
健二「まずはその無駄にポジティブなの治そうか。」
快人「なぁ健二、あっちの壁際の子なんだけど、お前何か接点とか無いか?」
健二「あの制服…ありゃ『愛桜(あいおう)付属中』だな。あの子がどうかしたか?」
快人「惚れた。」
健二「う゛ぇっ!?は、早ぇな…。その手の競技があったら間違いなく世界獲れるよお前。」
快人「てなわけで、とりあえずお近づきになってみる。んーちょっと遠いな…だが負けん!」
健二「ちょっ、お、オイ快人…! ハァ、またかよ…。」

 

 

【No.5:許せぬ事態】 【Side:快人】
健二の制止を振り切り、人ごみをダイナミックに掻き分けて、僕はなんとか彼女の近くまでやってきた。あとはタイミングを見計らって声を…!と思ったんだけど、なんだか様子がおかしい。
彼女は何かに耐えるようにうつむき、そして小刻みに震えていたんだ。

声「や…ヤメて…ヤメてください…。」

すると、蚊の鳴くような、か細い声が聞こえた。
この満員の状況でこのセリフ…まさか…!と思って周りを見ると、彼女の背後に案の定、深々と被った帽子にサングラスという、いかにも怪しい男がいやがった。見れば彼女の尻をガッシリと鷲掴みに…。 間違いない、コイツ『痴漢』だ!許せねぇ!!

僕の彼女に、なんてマネを…!

快人は快人で問題だった。

 

【No.6:護るべき者】 【Side:快人】
快人「おいおいオッサン…なんだよこの手は?」

『人生直球勝負』がモットーで曲がったことが大嫌いな僕は、考えるよりも先にオッサンの腕を捻り上げ、明らかに動揺するその目を睨みつけていた。

男「なっ、何を言うのかねキミ?わわ、私は何も…!」
快人「フッ、動揺が筒抜けだぜオッサン!この勝負もらったー!」
健二「お、オイ待てって快人!お前何やってんだよ!」

見せ場はこれからって時に、なんと味方のはずの健二が邪魔しに現れた。なんでコイツは時々こう空気が読めないんだ…!

快人「は、離せ健二!邪魔すんなよ!」
健二「ちょい落ち着けって快人。もしコレ冤罪だったらお前…大変なことになるぞ?」
快人「フッ、もう手遅れだが?」
健二「股間を指すな!そっちの意味じゃねーよ! てかこの状況で興奮すんなよバカ!」

彼女は俺の方を見つめながら更に震えていた。
可哀相に、よほど怖かったと見える。でも大丈夫、俺が助けてやるからな…!

少女は快人に怯えている。

 

【No.7:トラウマ】 【Side:快人】
男「う、訴えてやる!私は何もしていない!冤罪だ!こんな…こんな屈辱…!」

健二のセリフに反応してか、打って変わって今度は冤罪冤罪と騒ぎ始めたオッサン。
ウゼェ…そしてムカつくぜ、この上なく…!あんなコトしておいて冤罪だと!?フザけんな!!

男「名誉毀損だ!キミはドコの学校だ!?親御さんに連絡を取って…」
健二「いや、オジさんもちょっと落ち着いて…」
快人「黙れ変態ジジイ!いいかよく聞け、女の尻は男のオモチャじゃねぇんだ!もっと包み込むように優しく…愛でるべき存在なんだ! こんな感じにっ!」

少女「キャッ…!」

駅員さんにこってり絞られ、家に着いたのは夜10時過ぎだった。 

 

 

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