61
炊事場に戻ると、皆は既に飯を食い始めていた。11人ってことはまだ1人フラフラしてるってことか。
〜キャンプ場:炊事場〜
チョコ「あっ、遅いよ翔ちんー。何やってたのさー?」
翔太「んー?あぁ、ちょっとINとOUTが違ったら何かに目覚めかねないレベルの豪快なウンコがOUTしてな。」
圭子「お、お下品!超お下品だよ翔太君!」
翔太「あー、じゃあ「ちょっとお花を摘みに」?」
圭子「それどこの貴婦人!?」
中二病「おぉよく来たな、戦士『イースト』よ。待ちわびたぞ。」
翔太「いい加減その呼び方勘弁してくれよ黒川。俺まで“闇の眷族”扱いされるじゃないか。そしてなんで上からなんだ。」
チョコ「ハイこれ、私らが採ってきた山菜だよん。お食べよ。」
翔太「おぉサンキュ…これは食えるやつか?」
チョコ「大丈夫、毒見は済んでる。」
中二病「どっ…えっ!?んぐっ…ま、まぁ我は幼少の頃よりあらゆる毒をその、アレしてるから得意ではあるが…えぇーー…」
チョコ「フッ、奇遇だね。私も得意だよ。」
翔太「いや、お前は“吐く側”じゃねーか。」
圭子「あ、お魚も焼けてるんだよー。ちょうど最後の一匹、翔太君の分だね。」
翔太「マジか!そっちの方がいいわ。怪しい植物は時間差で何があるかわからん。」
中二病「し、新魔法…『ポイズン・ハザード』か…!」
魔法というか危機感を覚えた。

 

62
なにやら山菜は微妙な物しか残っていないようで、まともなのは魚ぐらいらしい。食べ盛りの男子が魚と米だけとか物足りないが、まぁ食べられるだけ良しとするか。
翔太「と、思ってたんだがなぁ…。」
幸太郎「オーイオイオイオイ、ちょっと待とうか東堂君〜!それはダメでしょー。それはキミ食べちゃダメでしょー?」
翔太「ハァ…やっぱそうくるか。まーそうッスよね、“俺だけ”釣れてないんだから食う権利無ぇと。」
幸太郎「んー?いやいや、人聞きが悪いなぁ。それはキミが言ったことだろう?「足りないのは自分の責任だから自分は要らない」と。」
翔太「あーそうッスねそうでしたわ。じゃあ要らねッス。」
圭子「そんな…!釣れる釣れないとか運もあるし、誰かの責任とか無いはず…」
翔太「いいんだ小久保、一食ぐらい抜いても死にはしない。」
中二病「意地でも山菜は食わんのだなイーストよ…。」
圭子「で、でも…!」
チョコ「なに、翔ちんってば戦力外だったの?」
翔太「ああ。泳ぎに夢中でな。」
圭子「えっ、ホントに食べる権利無い系!?」
幸太郎「まぁ、最初に“自分から”言いだした通り土下座までするって言うなら、みんなも許してくれるとは思うけども。いや、でもそれは…なぁ?」
卓郎「いや〜、でも確かに言ってたしなぁ。「釣れなかったら土下座します」〜って。」
志保「で、でも…みんなの前で土下座なんて…確かに言ってましたけどそんな…」
翔太(ケッ、臭ぇ芝居しやがる…。そこまでして恥かかせてぇのかよ…!)
圭子「え、なんでこの流れで土下座…?なんか不自然じゃないです…?」
翔太「まぁそう思うのも無理はねぇな。」
チョコ「どーげーざ☆どーげーざぁー☆」
翔太「テメェは血も涙もねぇなオイ!」
幸太郎「ま、俺らはどっちでもいいんだけど、早く決めてね。時間が無いんだ。」
卓郎「そろそろ片付け始めねぇとダメだべ?」
翔太「チッ…!」
翔太は拳を握り締めた。
声「…そんな必要、無くねぇ?」
幸&卓「えっ…?」
声「確かに一匹足りねぇなら一人食いっぱぐれるわけだけど、食べたキミらは文句言える立場じゃねぇと思うのよ。つまり…」
翔太「あ、アンタは…!」
志保(チッ…!)

順平「それ言えるの、僕だけじゃね?」
面倒なのが現れた。

 

63
突如現れた、副寮長の順平先輩。状況から察するに、この人が12人目の班員なのだろう。ここは知り合いであることを喜ぶべきか、変人であることを危ぶむべきか…。
翔太「あ、どうもッス副寮長。覚えてますか?」
順平「あ〜久しぶり、あの件以来だね。確か長谷川…だっけ?」
翔太「いや、訳あって今は東堂翔太ッス。」
圭子「訳あって下の名前まで変わるってどんな状況!?そして相変わらず災難だね葵君!」
翔太「先輩も7班だったんスね。でも今まで何してたんスか?」
順平「ん〜?フッ…色々と準備が必要でね。」
翔太「露骨にフラグ立てましたね…。絶対後で何かあるなこりゃ…。」
チョコ「なに、翔ちん知ってる人なの?」
翔太「あー、うちの副寮長なんだ。つまるところ、学内ナンバー2の変人にあたる。」
順平「オイオイそんな紹介はねぇだろ。あくまで変人E棟の二番手であって、変人度が二番目って訳じゃねぇよ?お前もそれなりに上位だって自覚した方がいい。」
チョコ「で、つまりこの人は味方なの?変人なの?どっち??」
順平「って“敵”って選択肢無ぇのかよ!面白いなお前、はいアドレス交換ね。」
チョコ「えっ、なにその流れるようなナンパ!?どうしよ圭ちん、いきなりすぎて私ちょっと対処できない。」
圭子「わ、私も凄いとは思うけど、ここはとりあえず課題のために聞かれたと割り切ってみたらどう…かな?」
順平「とまぁ挨拶はこれぐらいにして…んじゃそろそろ本題戻ろっか。まぁ、なんだ、今日は楽しいイベントの日じゃん?だから悪ふざけはこれくらいにしようよ。ね?」
幸太郎「い、いや、俺らは別に…なぁ?」
卓郎「お、おう。悪ふざけなんてしてねーし…。」
順平「だったら黙って見とけ。」
幸&卓「ぐっ…!」
翔太「いやー助かりましたわ。危うく土下座…」
順平「てなわけで、これから僕らでゲームをしよう。」
翔太「えっ、ゲーム…?」
順平「そんで負けた方が、「どうぞ魚をお食べください」と…土下座ね。」
余計に酷い事態に。

 

64
さっきまでは“土下座して食べる”か“土下座しないで食えない”の議論だったはずが、知らぬ間に“土下座した上に食えない”という散々な目に遭うかもしれないゲームを提案された。こんなハイリスク・ローリターンな勝負は本来なら願い下げだが、状況的に断るわけにもいかない感じだ。
翔太「やれやれ、やるんスか…一体何やらせる気ッスか…?」
圭子「警戒心MAXだね翔太君。何かあったの?」
翔太「ああ。何があったかは都合上言えないが、結構無茶させる人でな。」
順平「フッ…ま、僕に任せてもらえれば面白くなること請け合いさ。」
翔太「いや、面白さとか全然求めてないんスが。」
チョコ「頑張ってね、翔ちん!期待してる!」
翔太「お前もしや儚く散るとこ見たがってね?面白いことになるのを期待してね?」
圭子「で、ルールは…?」
順平「まずは全裸で…」
翔太「どうぞお食べください!!」
会心の土下座が炸裂した。

 

65
結局何も食えないまま昼食タイムを終え、俺達は一旦今晩の宿泊施設へと移動した。
〜キャンプ場:宿泊館〜
翔太「ふーむ、『キャンプ場』ってくらいだからテントでも張るのかと思ってたけど、意外にも建物なんスね。」
流星「そりゃお前、1つに4人としてもテント300個だぜ?ちょっとした民族大移動っぽくなるだろ。モンゴル人もビックリだろ。」
翔太「いや、四班合同24人部屋×50だって結構ッスよ?一体どんな事態を想定しての施設だよっつー。」
順平「まぁ24人部屋って言っても20畳くらいじゃん。大したことないよ。」
葵「一人一畳無い時点で普通に大したことある状況ではないかと…。」
翔太「なんだお前、生意気にも部屋で眠る気か?」
葵「まさか前提から違うとは思わなかったよ…。」
順平「あーそのへんは大丈夫だよ。僕に…不敵な考えがある。」
翔太「嘘でも“素敵”って言わないあたりもはや清々しいッスね…。」
中二病「殺し合いか…腕が鳴るな。」
翔太「物騒なこと言うなよオイ。つーかお前ヒョロいんだから違った意味で鳴るだろ骨折的な音が。そもそも学園行事で殺し合いとか」
順平「あながち間違ってないから困る。」
翔太「・・・・・・・・。」

五月か…。
翔太は外で寝る気だ。

 

66
午後もまた、午前同様食材集め。ただ午前と違うのは、自力で天然食材をとるのではなく、オリエンテーリング形式のイベントを通して食材を確保するという点だ。
〜キャンプ場:入口広場〜
翔太「さて、頑張るかな…。晩飯こそはたらふく食ってやる。」
圭子「大丈夫翔太君?お腹すいてフラフラしない?イライラしてない?」
翔太「問題無い。イライラしたら黒川に当たり散らしてやる。」
圭子「いや、それを問題と思わない思考が大問題なんだけども。」
チョコ「お腹すいてなくてもだけどね。」
中二病「ろ、『ロング・バレー・リバー・ブルー(葵のこと)』の気持ちがわかるぜ…。」
翔太「で、午後のルールは?誰か簡潔にわかりやすく説明してくれ。」
琢磨「御意に。」
翔太「い、いや班長に言ったわけじゃないスから。まぁ班長から教えてもらえるなら助かるけども。」
琢磨「んじゃ説明するね。午後のフィールドは山の中。各所に食材や調理器具が書かれたカードが隠されてるんだよ。それを各班で奪い合うってわけ。簡単でしょ?」
圭子「なるほどー。今回は12人で行動するんですか?」
琢磨「いや〜、それじゃあ隠密行動には向かないしねぇ。また4×3組に分かれてもらおうかな。」
翔太「またか…。まぁ確かにそうするべきとは思うが…。」
圭子「ん?なに翔太君、組分け嫌なの?」
翔太「い、いや、別にそういうわけじゃ…」
幸太郎(ジロリ)
チョコ「つまるところ誰が嫌なの?」
卓郎(ギロリ)
翔太「直球だなオイ。そんなの言えるかよ、スゲェ気まずくなるじゃねぇか。」
中二病「うむ。それは唱えてはならぬ禁断の呪文だ。」
翔太「な?本人もそう言ってる。」
中二病「!?」
そっちか。

 

67
組分けと聞いて午前の悪夢が若干蘇ったが、なんとかあの三人とは一緒にならずに済んだ。まぁ自己紹介も兼ねてるようだし納得の結果ではあるが。
〜キャンプ場:山中〜
翔太「で、今回はお前と一緒なわけか。なんとなく一安心だぜ。」
圭子「え、それはどういう意味…?まぁ良い意味ならいいんだけども。きっと良い意味なんだろうと前向きに捉えるけども。」
女子「そう、じゃあ私は"不安”をお届けしなきゃ…。」
翔太「え、いやいや、そんなプラマイゼロ要らねッスから。なにその無駄な使命感…えと、二年の『鈴村美樹(スズムラミキ)』先輩…?」
美樹「なっ…なぜそれを…!?」
翔太(…小久保、「今さっき自己紹介したじゃねぇか!」と何かバールのような物でツッコミ入れるのはアリだと思うか?)
圭子(多分ね…この学園で今からそれだと、今後『エクスカリバー』とかまでインフレしてくよ…?)
翔太(かもな…とか思っちまうのが恐ろしいな。さすが小久保、的確な指摘だ頼もしいぜ!あとは班長が普通なら助かるんだが…)
琢磨「あ〜その点なら問題無いよ。僕は「“普通”が服着て歩いてる」とか言われるくらい普通だしね。」
圭子「い、いつの間に背後に…!?この時点で既に信じがたいような…!」
翔太「それにあくまで他人評だしな。まだ他人に見せてないだけかもしれ」
琢磨「僕もそうだと思うよ?まぁどこか違うかと言えば…「服着て」のあたり?」
むしろ見せ過ぎだった。

 

68
午後のオリエンテーリングのメンバーは、俺とツッコミ担当の小久保、恐らくはボケ担当の鈴村先輩、そして全裸担当の琢磨班長の4人となった。いや、全裸に見せ場は無いはずだが。
翔太「んじゃ行きますか。小久保は鈴村先輩の対処を頼む。班長は脱ぐならなるべく視界の外で。」
圭子「え、そのネタ引っ張ってく方向なの?私はちょっとしたお茶目だと受け取ったんだけど…?」
翔太「フッ、冗談だよ。班長はE棟じゃ見たことないしな。ね、班長?」
琢磨「うん、冗談だよ。まぁ厳密に言うとE棟の人達は“入学前に悪事がバレた人”だけどね。」
圭子「結局どっちなの!?冗談なのそれとも「僕はそんなヘマしてないよ」的な話です!?」
美樹「急ぎましょう。夏が…終わりを告げる前に。」
圭子「いや、終わるも何もまだ始まってもいませんよ!?まだ5月ですよ!?」
翔太「この人…黒川家と親戚筋だったりしねぇかな?」
琢磨「さ、行くよ。他の班に先を越されたら面倒だしね。」
翔太「でも最悪奪えばいいんスよね?追って、捕まえて、奪って、縛って」
美樹「埋めて。」
琢磨「そうだね、気楽に行こうか。」
圭子「全然気楽じゃない…!」
圭子はアウェー感が凄い。

 

69
そして始まった、『食材争奪オリエンテーリング』。きっと夜にも何かあるだろうことも考えると、夕飯まで食えないと大変なことになる。俺が、そして黒川が(八つ当たりで)。
だが、今回もまたなかなかに大変だということは、しばらくすると嫌でもわかった。
〜キャンプ場:裏山〜
翔太「ゼェ、ゼェ、やれやれ、なんとか、追っ手は、撒けたか…?」
圭子「う、うん!なんとか撒いたよ!」
美樹「毒は?」
圭子「撒いてないです!」
琢磨「種は?」
圭子「一体何のために!?って、ハァ、ハァ、いや、もうホント勘弁してください、ただでさえ、全力疾走で、息切れてる、のに…。」
琢磨「ん〜、このままじゃ囲まれるね…。一旦散って身を潜めよう、とりあえずアドレス交換しようか。」
翔太「おおっ、初めてこの実習の目的が果たせる…!」
圭子「え、午前はしてないの?私はしたけど…。」
翔太「フッ、こう見えて意外とシャイでな。」
圭子「それは全国のシャイ・ボーイ達に謝るべきだと思うな私。」
翔太「あ、どもッス班長。あとは鈴村先輩…呪ったりしないッスよね?」
美樹「フフ…今はね。」
圭子「私はいつなんだろうな…。(交換済み)」
琢磨「とりあえずジャガイモとニンジンはゲットできたけど、死守するのも一苦労だね。例年似たようなことやるけど、毎年何人かリタイアするし。」
圭子「ジャガイモとニンジンか〜…。順調に行けば“カレー”にありつけたりするのかなぁ?」
翔太「どうだろうな。肝心な“ルー”が入手できなきゃ全てが台無しだし。」
美樹「なんだい藪からスティックに。」
翔太「いや、その“ルー”じゃなしに。」
琢磨「まぁ確かに例年野菜系は比較的容易だね。入手難度が高いのは、やっぱり重要な“肉”、“米”、“調味料”…それらをいかに入手するか、そこにかかって」
声A「オラァ気合入れて探せや!まだこの辺にいるはずだ!」
琢磨(来た…。ひとまずみんな散って。)
美樹「儚く?」
翔太(そうじゃない!!)
とも言い切れないが。

 

70
順調なのかわからんが、一応2品はゲットしたものの、そのせいで他の班に追われている困った状況。まだ自力で探しても見つかるはずなのに、今の時点から襲ってくるということは、どうやら敵は“収集役”と“狩猟役”で分担していると見た。
翔太(ふむ、敵は三年男子×1、二年男子×2に一年男子×1…みんないいガタイしてるし、肉弾戦でまともにぶつかったら不利だな。)
美樹(じゃあやっぱり毒ね…。)
翔太(いや、物騒すぎるわ!ってうぉっ!?ななななんで隣にいるんスか!?散るはずじゃ…)
美樹(この方が面白そうで…。)
翔太(くっ、そういう理屈で動く人か…!薄々感づいちゃいたが…まぁいい。ときに先輩、この状況どう見ます?)
美樹(漫画だとバレなかった試しが無いシチュエーションよね。)
翔太(根拠が漫画なのはさておき、なんとなく同感ッスわ。それに無駄に時間が奪われるのもマイナスだし…。)
美樹(あれは三年の『小唄健(コウタタケシ)』君…。喧嘩も強いし、敵に回すのは恐ろしい相手よ。ちなみにあだ名は『シャイアン』。)
翔太(とりあえずあだ名の名付け親のセンスはパねぇッスね…。)
美樹(ここは、“囮”…かしらね。)
翔太(囮って…アンタ、小久保がかわいそうだとは思わないのか!?)
美樹(思わないんでしょ?)
翔太(ええ全く。)
美樹(でもね、今は彼女より適任がいるのよ。人の目を引く…趣味を持った人がね。)
翔太(人の目を…ハッ!まさか、ここでまさかの“全裸フラグ”回収…!?)

声A「チッ、いねぇな…行くぞ野郎ども!!」

…おや?
色々と無事で済んだ。

 

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