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寮母のババアの態度から察するに、どうやらこのE棟は悪童達が集う魔の巣窟らしい。大変不本意ではあるが、まぁ心当たりは無いでもないので気にするのはやめておく。こうなったらもはやルームメイトもそれなりなのは確実なので、そこも気にしない。 〜男子寮E棟404号室〜 翔太「…とはいえ、あんまりな結果だなコレは。」 モテ王「えっ、なになになに!?なんかあったの翔太っち!?」 翔太「いや、これから嫌ってほどあるんだろうなぁと。」 モテ王「いやいやいや!大丈夫だよ俺めっちゃ空気読めるし!な!?」 翔太「お前それで読めてるとか空気に謝れよ。呼吸するのもおこがましいよ。」 モテ王「にしてもさぁ、あと二人ってどんな人だろうな?先輩って線もあるんだろ?」 翔太「この学園に一年以上いた変人か…なるべく関わりたくないもんだがな。」 声「ハッハッハ!ならば残念だったな後輩、我こそは私立恋愛学園二年…『恋学の失恋大魔神』こと、『篠田流星(シノダリュウセイ)』様だぁあああああ!!」 |
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モテ王「ど…どう思う翔太っち?」 翔太「ああ。格好はさておき…この学園じゃ致命的な二つ名を堂々と名乗るあたり、なかなかの逸材と見たぜ。もちろん悪い意味でな。」 流星「ま、とにかくヨロシクな後輩ども!この俺様が、お前らを導いてやる!!」 |
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二段ベッドの上段になぜか半裸で隠れていたのは、どう考えても変人な二年の先輩だった。顔面偏差値は決して低くない…どころか結構イケメンにも関わらず『失恋大魔神』ということは、よっぽどの変態なのだろう。なるべくなら関わり合いたくなかったが仕方ない。 翔太「えっと…よろしく頼んます篠田先輩。いや、軽くでいいんで。」 流星「あー、俺のことは『流さん』ぐれぇでいいよ?毎日顔合わすわけだしな、堅苦しいのは息が詰まるわ。」 翔太「了解ッス。あ−、俺は翔太ッス。」 流星「オーケーよろしくな翔太。そっちのお前は?」 モテ王「お、オラ!孫悟空!!」 翔太「お前…なんでそんな無駄にハート強ぇんだよ一回で懲りろよ…。紛らわしいから言うけどコイツは『小次郎』ッスよ?通称は『モテ王』だけど。」 流星「なぁああああああにぃいいい!?貴様ぁ、この俺様を差し置いてモテ王だぁ!?太ぇ野郎だ、小太りだけに!」 モテ王「いや、小太りじゃないです!俺、“ぽっちゃり系”ッスから!」 流星「フン、そう言ってられるのも今のうちさ。気ぃつけろよ?ウチは共学だが…ここは男子寮だ。」 モテ王「え?それが何か…」 流星「デブは、オッパイ揉まれっからな。」 |
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その後、強引に乳を揉まれたモテ王が程よく半泣きになった頃、流さんが昼飯に行こうと誘ってきた。食堂が共同館にあるのは知ってはいるが、やはり最初は勝手を知る人間がいた方が心強い。だが、その前に一つ確認しておくべきことがある。 翔太「飯はいいけど流さん、もう一人のルームメイトって待たなくていいんスか?」 流星「ん?あー“あの人”は…うん、いいんだ。まぁまた今度紹介するわ。」 翔太「今度…?」 流星「いいから行くぞ、出遅れっと席が埋まっちまうからなぁ。」 翔太「あ、うぃース。」 モテ王「なぁ翔太っち、俺…痩せるわ。」 翔太「お?あぁ、そうだなそうしてくれ。夏場室温上がりそうだし。」 モテ王「そ、そこまでポチャってねぇし!デブなわけじゃねぇし!」 翔太「それを決めるのはお前じゃない。世の飢えた男どもさ。」 モテ王「そこはせめて女子に委ねてぇよ!女にデブって言われんなら俺も反省するわ!」 流星「オラオラさっさと支度しやがれ!E棟は扱い悪ぃからなぁ、共同館にも一番遠いんだ!」 モテ王「いや、でも飯が無くなるわけじゃないんスよね?後で空いてから行っても…」 流星「共同館は、寮内で女子と交われる…限られた場所なんだぜ?」 |
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猛ダッシュで走っていったモテ王はそのまま行方知れずになったため、俺は流さんと二人で食堂へと向かった。何か無茶しそうな気がするモテ王ではあるが、そんなのもう知ったこっちゃない。 翔太「ハァ〜…まったくなんでアイツは女がかかるとあんなに全力疾走なんだ…。」 流星「なんだ、お前は「俺は女子なんかにゃ興味無ぇぜ」とか気取っちまうアウトロータイプか?そういう奴は無駄に苦労するぜ?」 翔太「いや、別にそういうんじゃないッスよ?かつては要らなくなったエロ本を川原に捨ててたら近所のガキに“神”と噂されてたらしいってレベルで興味津々ッス。単に露骨に出すのが苦手なだけですよ。」 流星「そうか、ならいいんだ。ちょいと同室に“こっち系”がいたら尻の穴が穏やかじゃねぇなと思っただけさ。取り越し苦労なら良かったわ。」 翔太「…やっぱ、いるんスか?」 流星「まあな…。近年はおネェ系芸能人の台頭や腐女子の普及もあって、一昔前よりだいぶ認知されてきたせいか、結構カミングアウトしてる奴もいてな…。ちなみに、そういう奴らも多くがE棟に飛ばされる仕組みだ。」 翔太「先輩…もしそのリストがあるならある程度金出します。」 流星「お、お前…チャレンジャーだな。」 翔太「いや、乗り込むわけじゃねーよ!距離おくためにだよ!」 流星「ま、安心しろよ。公言してるような奴は逆に無害さ。本当にヤベェのは…ま、とりあえず体育館裏の便所には、近づかねぇことだ。」 |
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そして共同館に到着。共同館には食堂の他に浴場とか休憩所もあるらしい。どんな施設があるかは早いうちに調査しといた方が良さそうだ。 〜食堂館:1F〜 翔太「食堂は一階か二階…でもこれで全校生徒入るんスか?」 流星「部活やってる奴とか時間帯違うし、まぁ各棟にも一応簡単な売店ならあるしな、意外となんとかなってるよ。長居すんなよってルールはあるがなぁ。」 チョコ「おー翔ちんじゃん!今日はチョイチョイ会うね〜。」 翔太「ん?よぉチョコ、お前も飯か。悪いがストーカーなら他を当たってくれ。」 チョコ「しねーよ思い上がんな!食うもん食わなきゃパワー出ないっしょ!?」 流星「お、オイ翔太、だだだ誰だその子は…?」 翔太「あ、同じクラスの野中千代子ッス。この人は俺と同室の篠田流星先輩、通称『流さん』な。」 チョコ「ヨロシクでーす。あ、『チョコ』でいいんで。」 流星「う、あ…お、おっといかん!ちょっと急用を思いついた!すまん翔太、悪ぃが帰るわ!なんてことだ…急がねぇと…!!」 |
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翔太「…そうか、あの人は女が苦手なのか。」 チョコ「ぽいね…。急用は思いつくもんじゃないよね…。」 翔太「イケメンなのに失恋大魔神、女が苦手、さっきのホモ話…いや、まさかな…。」 |
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俺について来い的なことを言った割に颯爽と消えた流さん。まぁ後でいじめるネタができたので良しとしようか。 翔太「ところでチョコ、そっちの人は?」 チョコ「あ〜、私と同室の『白鷺紫苑(シラサギシオン)』先輩。他の二人にまだ会ってないんだけどね。」 翔太「俺は東堂翔太、よろしくッス。」 紫苑「ん〜、よろしくね〜。チョコちゃんの彼氏さんかなぁ〜?」 チョコ「いやいやいや、違いますし。今日知り合ったばっかですし。」 翔太「うむ。そんなリア充ならそもそもこんな学校入ってないしな。」 紫苑「そうなんだぁ〜。羨ましいなぁ〜。」 翔太(全然通じてねぇな…。室内に“歩くお花畑”がいるとか、なかなかに華やいだ部屋だなお前の部屋。) チョコ(やかましいわ黙っとけよ!ちょっぴり天然入ってるだけ…だと思うことにしたの!) 翔太(いや、実際そんな本物の“天然”なんて存在するわけねーだろ。涙ぐましい“計算”と、驚異的な“ハートの強さ”の上に成り立ってんに決まってんじゃねーか。) 紫苑「あ〜、翔太ちゃんは一階で良かったの?一階は和食で二階は洋食だよ〜?」 翔太「あ、大丈夫ッスよ。好き嫌いとかあんま無いし、基本的に和食の方が好きなんで。それよりシステムとか色々教えてもらえると助かるかな。」 紫苑「そこはまっかせなさーいっ!えっとね〜、まずは食券を買うんだよ〜。学生証かざせば買えるからお金は要らないの。んでね、食べ物はアッチで受け取ってぇ、飲み物は全部アッチで…あ、でもカレーだけは二階だけど…」 翔太「いや、カレーを飲み物扱いするのは一部の層だけなんで。」 紫苑「カレー美味しいよね〜。今日は何カレーにする〜?」 翔&チ「・・・・・・・・。」 |
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人の話をまったく聞かない白鷺先輩に連れられ、結局2Fで飯を食うことになった。この人、一言で言えば“天然系”なんだろうが…よく漫画とかに出てくるような不思議ちゃんが実在するとは思えない。きっと何か裏がある…気をつけなきゃなるまい。 〜共同館:2F食堂〜 紫苑「ん〜、やっぱりたらこパスタは最高だよね〜☆」 翔太(おいチョコ、カレーはどうしたんだとさりげなくも大胆に聞いてみてくれ。) チョコ(バッ、嫌だよ言えないよ!きっとこの人にはこの人の謎のルールがあるんだよ常人にはわからない何かが!いいから何か話ふってよ!) 翔太「あー…えっと、紫苑さんは三年なんスよね?卒業後の進路とかもう考えてたりするんスか?」 紫苑「進路ぉ〜?んん〜〜…私はやっぱり“お嫁さん”かなぁ?好きだもん料理とか」 翔太「お、いいッスねー。見た目どおり女の子らしいというか」 紫苑「食べるのが☆」 翔太(作るのが誰かによって大きく判定が分かれる内容だな…。念のため聞くのはやめておくが。) チョコ「せ!先輩はなんでこの学園に来たんですかー?先輩くらい美人なら、わざわざ学ばなくても男からホイホイ寄ってきそうだけど…?」 紫苑「あ〜…なんかねぇ、告白とかされたら私、あんまり考えないでオーケーしちゃうとか〜親が心配しちゃって…ね?そんなことないのにねぇ?」 チョコ(あ、ありえる…!!) 翔太「白鷺先輩…俺の、恋人になってください!」 紫苑「いいよ〜。」 チョコ「ちょ、アンタいきなり何言っ…早い!!えっ!?突っ込む間も無く即答て!!」 翔太「いやいやいや!思いっきりダメダメじゃないッスか先輩!完全に名前負けですよ白“鷺”どころかいい“カモ”ですよ!?親御さんグッジョブだよよく見てるよ!」 紫苑「えぇ〜〜…?」 |
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話すほどに自由人っぷりがほとばしる白鷺先輩。聞けばやはり女子側のE棟所属だという。ということはチョコも…ふむ、少々付き合い方を考える必要があるのかもしれない。いや、俺にも言う資格は無いわけだが。 翔太「ふむ、なんか…アレだな。この三年間、暇しないで過ごせそうだな俺達。」 チョコ「アンタ前向きだね。そういう割り切り方嫌いじゃなくってよ。」 少女「あら?そちらにいらっしゃるのは白鷺さんではなくって?」 |
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紫苑「え〜?あ、『綾音(アヤネ)』ちゃ〜ん。お久しぶり〜。」 綾音「…帰りのホームルームぶりですわ。」 紫苑「ん〜、時が経つのは早いねぇ〜。」 翔太「ふむ、その漫画の中にしか無さそうなお嬢様言葉に取り巻き二人…どこかの資産家のご令嬢とかそういう設定の先輩?」 取り巻きA「いやいや、“設定”とか失敬な!ですがまさにおっしゃる通りそのままのこのお方は、あの『雲林院(ウンリンイン)グループ』で有名な雲林院家の長女にして、この学園が誇る才女…」 取り巻きB「その名も…!!」 翔太「雲林院綾音さん。」 取り巻き達「ちょちょちょちょっとぉーーーー!!」 |
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ほのぼのとした昼食に割り込んできた無粋な輩は、白鷺先輩と同じクラスの雲林院先輩と、その取り巻きの二年の先輩二人。取り巻き二人は『祐美(ユミ)』と『佐奈(サナ)』らしい。名字は知らんし、双子のような名前のくせに他人らしいが興味も無い。 お嬢様キャラに相応しく、雲林院先輩はかなりの美形。どうやら白鷺先輩に一方的にライバル心を持ってるようだが、見事に相手にされていないのは俺にもわかる。それでも健気につっかかるその姿は、むしろいじらしくも見えた。が、いい加減ウザい。 綾音「…というわけですの!大体アナタは…」 翔太「あのー…これってまだ続くんスかね?もう飽きたんスけど。」 綾音「…ハァ?なんですのアナタ、人が話している時に失礼じゃなくって?」 祐美「そうですわ!お嬢様に楯突くとかなんて失礼な!」 佐奈「まったくですわ!後輩の分際で生意気ですの!超失礼ですわ!」 翔太「フン、失礼だぁ?じゃあ人が飯食ってる時に割り込んできて勝手にギャーギャー騒ぐ奴らは失礼じゃねーのかよ?アンタらが白鷺先輩に謝れよ。」 紫苑「翔太ちゃん…」 翔太「いいんスよ先輩、目上の人だろうと言うべきことは言わねぇと…」 紫苑「呼ぶ時は『紫苑ちゃん』でいいよぉ〜?」 チョコ「ここで!?今このタイミングでそれ言います!?」 翔太「ま、まぁとにかく、ここは飯食う場所であって人に絡む場所じゃねぇってことッスよ。それがわかんねぇようなバカには見えないけど?」 綾音「…確かにおっしゃる通りですわね、今日はここで失礼しますわ。ところでアナタ…お名前は?」 翔太「俺?俺は…フッ、俺の名は長谷川葵…後にこの学園を統べる者だ!!」 チョコ「いや、顔バレした状況でやっても意味無くないそれ?」 綾音「長谷川君ね…覚えておきますわ。行きますわよ祐美、佐奈。」 取り巻き達「あ、ハイ綾音様!」 |
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後半バタバタしつつも、なんとか昼食を終えた俺達。だがまだ午後なのでこのまま部屋に戻るのはもったいない。聞けば『共同館』というのは男女共通施設の総称で、この食堂館以外にも色々あるらしい。どうせならこのまま、紫苑さんに他の施設とか案内してもらいたいものだが。 翔太「というわけで、もし時間があるなら案内してもらえないッスか紫苑さん?」 紫苑「し・お・ん・ちゃ・ん♪口調ももっと普通でいいよぉ〜?」 翔太(ど、どうしようチョコ…俺結構辛い。) チョコ(気にすんな男っしょ?いいって言ってんだから求められるままにYou言っちゃいなよ。) 翔太「ふぅ〜〜…オーケーわかった!ならば言おう、し、紫苑ちゃん!この後この辺りを案内してもらえたりしま…しない?」 紫苑「いいよ〜。じゃあどこ行く?お風呂〜?」 翔太「おふっ…本来なら「一緒に入る?」とか軽くボケをかますところだが、洒落にならなそうなのでやめとこうか。」 チョコ(…先輩、わざとやってません?) 紫苑「ん〜?えへへ♪」 チョコ「ま、お風呂はどうせ夜行くわけだし他行きません?なんか知ってて得になる場所がいいなー。」 紫苑「おっけ〜♪じゃあどうしよっかな〜。共同談話室でしょ、ネットルームでしょ、あと懲罰房に調理室…」 |
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