外伝(拾)

 

外伝:盗子が行くV〔1〕
それは、「天帝の試練」の日のこと―――
盗子が逃亡するまでのわずかな間の物語。
化けて出てきた実のお母ちゃんの導きで、最後の試練を受けることになったアタシ。
話聞く前はなんだってやってやるって気でいたけど、さすがに3年間はありえない。
お母ちゃんは「1日だけ帰って来た」とか言ってたし…じゃあその後はアタシ1人!?
無理無理絶対耐えらんない。3年も誰にも突っ込めないとかアタシ絶対無理だもん。
それに、絶対悲しむし。このアタシが3年もいなくなったら、絶対に寂しくて泣く人が

いないのが悲しい。
盗子はわかってきた。

 

外伝:盗子が行くV〔2〕
とまぁ色々考えた結果、諦めることにしたよ。所詮アタシなんてその程度だよ、うん。
〜試練のほこら:伝承の間〜
盗子「だから、その…帰るね?期待にそえなくてゴメンだけど…。」
皇子「まずは試練の説明をするの。」
盗子「えっ、スルー!?アタシ拒否権無いわけ!?」
皇子「当然なの。それが天帝の家系に生まれた者の宿命なの。」
盗子「そ、そんなの知んないよ!なんで他人のためにアタシがそんな苦労…」
皇子「ワガママは認めませんの!」
盗子「じゃあアタシもママだなんて認めないもん!」
皇子「…死にますの。」
盗子「えっ!?ちょっ、ゴメッ…ってもう死んでるよね!?」
皇子「説明に入りますの。」
盗子は逃げられない。

 

外伝:盗子が行くV〔3〕
まったくもって聞く耳持たない感じのお母ちゃん。でも、今回ばかりは負けらんない。
盗子「アタシだって…さ、そりゃ頑張れるなら頑張りたいよ?でも、3年は長いの!」
皇子「何をそんなに急いでいますの?」
盗子「大魔王だよ!大魔王が世界を滅ぼそうとしてんの!」
皇子「だ、大魔王…!?」
盗子「そうだよ大魔王!だから3年も待つ間もなく世界滅んじゃうかもなんだよ!」
皇子「それは大変ですの。でも…だったらなおさら、天帝の力は必要なの。」
盗子「え…そんなスゴいの天帝の力って…?」
皇子「ええ、スゴいですの。何がスゴいって当たり外れが。」
盗子「じゃあ絶対イヤだよ!3年も頑張って外れ引いたらどーしてくれんのさ!?」
皇子「私は、大当たりでしたの。元気に成長した娘と…会うことができたの。」
盗子「お、お母ちゃん…。」
皇子「説明に入りますの。」
皇子は空気を読まない。

 

外伝:盗子が行くV〔4〕
どうあってもアタシに試練を受けさせたいっぽいお母ちゃん。ホント話が通じない。
やっぱ昔、勇者親父と色々あっただけあるね。この空気の読めなさは異常だよ…。
盗子「ハァ…じゃあ聞くだけ聞くけど、最後の試練ってどんななのさ?」
皇子「とっても辛いの。普通の神経では、3年どころか1ヶ月ももたないの。」
盗子「苦行すぎるじゃん!そんなのを実の娘に強いるのはどうなの!?」
皇子「私もやったことなの。アレは…最初の関門が、一番の難関でしたの…。」
盗子「さ、最初の関門って…?」
皇子「コレを持ちますの。このメーターがMAXになるまで、「孤独」に耐えますの。」
盗子「何さこの変な古代機械…?それに、なんで孤独が関係してくんのさ?」
皇子「他人の大切さを知るためなの。究極の孤独…かなりの時間を要するの。」
盗子「きゅ、究極の…孤独…。」
皇子「まずは今の「孤独度」を測りますの。そのスイッチを、押してみるの。」
盗子はスイッチを押した。

メーターは振り切った。

 

外伝:盗子が行くV〔5〕
難関どころか、一瞬でクリアしちゃった最初の関門。なんだろこの複雑な気持ち…。
皇子「し、信じられないの。私はあんなにかかりましたのに…。」
盗子「そういえば…常人なら耐えられないくらい…孤独な人生だったかな…。」
皇子「生みの親として申し訳ない気持ちでイッパイなの。強く生きてほしいの。」
盗子「あ、憐れみは要らないよっ!そーゆー目線が一番傷つくんだよ!」
皇子「…でも、これなら話は変わってきますの。3年なんてかかりませんの。」
盗子「ほ、ホント!?じゃあサクッと終わらして帰れちゃうの!?」
皇子「それはアナタ次第なの。アナタに、命を懸ける覚悟があるか…なの。」
盗子「き…聞くだけ聞く。」
皇子「逃げる気マンマンなのがバレバレなの。まぁ、とりあえず…コレをあげるの。」
盗子は不思議な小袋を手に入れた。
盗子「えっと…コレは?」
皇子「形見の一種なの。でも、人気の無い広い場所で慎重に開けてほしいの。」
盗子「なにその爆発物的な感じ!?このタイミングで形見渡す意味も謎だし!」
皇子「念には念を、なの。」
盗子「答えになってないのが怖いんだけど!?」
皇子「一度でいい、私のこと…信じてほしいの。悪いようにはしないの。」
詐欺師がよく言うセリフだ。

 

外伝:盗子が行くV〔6〕
そんなこんなで、結局諦めて言うこと聞くことにしたアタシ。まぁ一度くらいは…ね。
盗子「で、次はどんな試練なの?できれば短時間で強くなるのがいいんだけど…。」
皇子「そういうことなら、手は無いでもないの。」
盗子「ハッ!まさか、1時間が1日に相当する不思議な空間的なものが…!?」
皇子「冗談は顔だけにするの。」
盗子「アンタにだけは言われたかないよ!遺伝て言葉知ってるよね!?」
皇子「とりあえず、手っ取り早く経験値上げるのなら…コレ以上の方法は無いの。」
皇子は謎の本を取り出した。
盗子「この本ってもしかして…「夢絵本」?そうか、コレなら…!」
皇子「そう、現世で流れる時間は本を読むのに掛かる時間程度…なの。」
盗子「あ、あのさ、ちなみにコレって…死んだりしないよね?」
皇子「大丈夫。伝承によると、この本は読み手によって内容が変わるらしいの。」
盗子「全然大丈夫じゃないじゃん!もしかしたら…うわっ、ちょ」
皇子「行ってらっしゃいなの。」
盗子は夢の世界へ旅立った。

 

外伝:盗子が行くV〔7〕
かなり強引な感じで、無理矢理「夢絵本」の世界に押し込まれちゃったアタシ。
まぁ天帝候補を殺すわけないし、死ぬ話じゃないとは思うから安心ではあるけど。
盗子「…と思ってたのに、のっけからこんな状況!?前置き無いのこの本!?」
盗子は木に縛り付けられている。
少年「あっ、起きた!起きちゃったよどーする!?」
盗子「な、何なのさアンタら!?とにかくこの縄ほどいて…」
少女「おっと、喋るなブサイク。私はうるさい弟とお前が、大嫌いなんだ!」
勇者監修作か。

 

外伝:盗子が行くV〔8〕
気づいたら木に縛り付けられてて、そんで勇者っぽい女の子に罵倒されたアタシ。
このままじゃ下手すると殺されそうだし、なんとか落ち着いてもらわないと…!
盗子「え、えっと…とりあえずお話しようよ!とりあえず自己紹介しようよ!ね?」
少女「断る!簡単に敵に素性を明かすなんて愚の骨頂!なぁ「雄飛(ゆうひ)」?」
雄飛「なら勝手に俺のを明かさないでよ「英羅(えいら)」!」
盗子「な、なに今の斬新な自己紹介…?」
英羅「ちなみに不本意ながら双子だ。フッ、どうだ全然似てないだろう?」
雄飛「いや、不本意なのはこっちの」
英羅「喋るな汚物!」
雄飛「む、ムッキィーー!!」

なんだろう、この既視感…。
まさに勇者と盗子だった。

 

外伝:盗子が行くV〔9〕
話すほどに、なんか勇者とアタシの関係に似てる謎の双子。なんなのコイツら…?
盗子「あ、ところで…さ、結局のところ、アタシなんで縛られちゃってるわけ…?」
英羅「ん?まぁ大したことはない。お前は今夜の夕飯なんだ。」
盗子「って一大事じゃん!全然大したことなくないじゃん!」
雄飛「いや、食べないから!ただの冗談だから大丈夫だって!」
英羅「冗談なものか。天涯孤独の私達が生き抜くには、もはやコレしかないのだ。」
盗子「え、天涯孤独って…?」
英羅「両親は、私らが生まれてすぐに死んだと聞いた。フッ、どうだ参ったか?」
盗子「いや、それならアンタらの方が数倍参ってるような…。」
英羅「てなわけで、私は腹ペコなんだ。大人しく胃袋に…マズそうだなお前。死ね。」

えぇっ!?
英羅はいい目をしている。

 

外伝:盗子が行くV〔10〕
食べられなかったのは良かったけど、理由は釈然としない今日この頃。まぁいっか。
盗子「って、なんでアタシまでついてかなきゃなんないわけ?アタシに自由は!?」
英羅「ん?そんなの無いに決まってるだろ。お前はメシ係だ、気合いで探せ。」
盗子「えぇっ!?アタシが人を狩る役!?」
英羅「あ?お前はバカなのか?どこの世界に人を食らう人間がいるんだ。」
盗子「だ、ダメだ…この手の人種には勝てる気がしない…。」
雄飛「なんか、ゴメン…。」
盗子「あ!ところでさ、アンタらって何してる人なのさ?何の旅人?」
雄飛「えっとね、「魔王」を…捜してるんだ。」
盗子「え!「魔王」!?」
英羅「そう…この私の世界を滅ぼそうなんて奴は、グッチャグチャにしてやる!!」
コイツじゃあるまいか。

 

外伝:盗子が行くV〔11〕
そんなこんなで、妙な双子の旅に巻き込まれちゃったアタシ。
でもこの二人…メチャメチャ強い。ボディガードとしてこれ以上はないってくらいに。
〜タケブ大陸:チュオウ平原〜
魔人A「ば、バカな!ガキの分際で、俺達を赤子扱いだと…!?」
英羅「フン、この私に喧嘩売ろうってのが間違いなんだよ雑魚どもめが。」
ザシュッ!
魔人B「おっとぉ、背後がガラ空きだぜぇーー!?」
雄飛「それはこっちのセリフーーー!!」
ズバシュッ!
盗子「つ、強いねやっぱ…。なんかさ、もう敵無しなんじゃない?」
魔人C「あ゛ぁ!?ナメるな!貴様らなんぞ、我らが主の敵ではないわ!」
英羅「む?」
魔人D「そうだそうだ!なんたって主は、“あの星”からやって来たのだから!」
英羅「ほほぉ、あの星だと?どこだそれは?」
魔人D「フッ、常軌を逸しすぎて誰も理解しきれぬ謎の星…「変態星:キノア」さ。」
後にY窃を生む。

 

外伝:盗子が行くV〔12〕
敵の魔人が言うには、なんかボスの変態がとっても強いみたい。
そうなるとまぁ展開上、当然のごとく戦う流れになるわけで…。
〜タケブ大陸:エキン山〜
男「…来たか、招かれざる客どもよ。」
英羅「よぉ。貴様が敵の親玉…変態伯爵か。」
男「何がどう間違ってそうなったのかは知らんが、我は伯爵…「ロツシュ卿」だ!」
盗子「「卿」を付けるからじゃない!?要らぬ誤解を生むからヤメようよそれ!」
伯爵「貴様らだろう?我が軍に仇なすという愚か者は。」
雄飛「人々を襲われるのは困るんだよね。もし良ければ…引いてくんない?」
伯爵「えーーー…。」
雄飛「いや、そっちの意味じゃなしに!」
英羅「さぁ来るがいいオッサン。貴様が「魔王」かどうか、この私が見定めてやる。」
伯爵「「魔王」?そんな禍々しいものと一緒にするな。我が職業は…「秘密」だ。」
英羅「秘密だとぉ?フン、フザけるのはそこの二人の顔だけにしてもらおうか。」
盗子「なんでそこでアタシにくるわけ!?」
雄飛「てゆーか仮にも双子に向かってそれはどうよ!?」
伯爵「我はこの星に来て間もない。まだ旅の疲れも残るというのに、やれやれ…。」
英羅「諦めるがいい!貴様のような変態は、私の…」
伯爵「フン、「刀のサビにしてやる」とでも言うつもりか?」

英羅「ウップンのはけ口にしてやる!!」
そこに「正義」は無かった。

 

外伝:盗子が行くV〔13〕
山にいた変態伯爵は、さすが変態と言われるだけあってやっぱ変な人っぽい。
でもなんかフザけた奴だし、実は大して強くはないかもしんない。
…とか思ってたんだけど、そんなことなかった。このオッサン…すんごい強い…!
ズバシュッ!
盗子「うわっ!ひぃいいいいい!」
英羅「お、オイお前…!」
盗子「大丈夫っ!偶然転んだおかげでなんとか避けれたから!」
英羅「いや、名前なんだっけなぁと。」
盗子「盗子だよ!結構一緒にいたのに今さら…そしてなぜこの大変な時に!?」
雄飛「くっ…!どんな攻撃かもわからない攻撃なんて、一体どうしたら…!」
伯爵「ぐわっはっは!もっと怯えるがいい!未知の恐怖に泣き叫ぶがいいわ!」
英羅「ハハハッ!それは面白い!是非私にも見せてくれ!」
盗子「いや、なんでアンタまでそっち側なの!? って、アレ…!?」
なんと!伯爵の頬に傷が。
伯爵「な、なにぃ!?バカなっ、まさか我が職業の謎に気づいたと…!?」
英羅「悪いな、全然わからんがなんとなくできちゃう…それが「天才」というものだ。」
伯爵「な、なんとなく…だと…!?」
英羅「さて、私が見切るのが早いか、それとも貴様か…かけようじゃないか、命を。」
盗子は出番が無い。

 

外伝:盗子が行くV〔14〕
盛り上がってきた所だが、例のごとく時間の都合で割愛します。
結果はまぁとりあえず、なんとか勝った。
結構満身創痍な感じにはなったものの、どうにか勝てて一安心。ホント良かった…。
盗子「ふぅ〜…終わったね…。 んで、二人はこれからどうするの?」
英羅「…私は先の戦いで片足を失い、もはや旅は続けられん身だ。隠居…するよ。」
盗子「そんな…。」
英羅「代わりに雄飛が二人分、死ぬまで過酷な旅をする。」
雄飛「そんな…!」
英羅「お前はどうするんだ?えっと…ウ●子?」
盗子「盗子だってば!失礼な覚え方するくらいならむしろ忘れて…って、えっ!?」
ピカッ!(光)
盗子から激しい光がほとばしった。
英羅「ふむ…どうやら時が来たか、異界より来た珍獣よ。」
盗子「誰が珍獣…って、気づいてたの!?」
英羅「そうかやはり珍獣だったか!」
盗子「いや、そっちの方じゃなしに!」
英羅「フン、安心して去れ。自分達の使命くらい、心得ているつもりだ。」
盗子「し、使命って…?」
英羅「私はこの地に都を築こう。民を鍛え、国力を上げる。人は一人では戦えん。」
雄飛「俺は世界を旅し、民を救って回ろう。我が父…「勇者:英雄」の名にかけて。」
盗子「えっ、“都”に“勇者”…それって…!」
ピカァアアアアアア…!(輝)
盗子は本から追い出された。

 

外伝:盗子が行くV〔15〕
そして―――
気が付くと、そこは試練のほこら。ってことは、無事に帰って来られたってわけ…?
皇子「おかえりなの。元気そうで何よりなの。」
盗子「危うく死ぬとこだったけどね!むしろ生きてたのが奇跡だって程に!」
皇子「で、何か得るものはあったの?」
盗子「ん〜…まぁ因縁めいた昔話は聞けた…かな?ホントかどうか知んないけど。」
皇子「なんかガッカリなの。」
盗子「しょーがないじゃん!ストーリー考えたのアタシじゃないよ!?」
皇子「でも大丈夫、問題無いの。」
盗子「へ…?」

皇子「もう1冊あるの。」
盗子は逃げ出した。

 

第三十二章