外伝(弐)

 

外伝:勇者凱空U〔1〕
俺の名は凱空。初代「赤錬邪」として名を馳せた、現職「勇者」の12歳児だ。
仲間達と別れた俺は、天帝の使者に言われた通りタケブ大陸へとやって来た。
急がねば。「勇者」として、一刻も早く「魔王」の呪縛から人民を解き放たねば。
凱空「ほぉ、ここが「帝都:チュシン」か…。なんだか無駄に広いな…。」
〔帝都:チュシン〕
世界に六つある王国を束ねる強大な権力、そして広大な領地を誇る都。
中でも王宮は特に広く、犬のおまわりさんすら道に迷う。
凱空「ダメだ、広い…広すぎる!このままじゃ助からん!俺は、どうすれば…!」
凱空は尿意がヤバい。

 

外伝:勇者凱空U〔2〕
「魔王」に襲われる前に「尿意」に襲われた俺は、慌ててトイレを探して回った。
事態は急を要する。一刻の猶予も許されない。少しのタイムロスさえも命取りだ。
よし、こうなったらズボンは先に下ろしておこう。これで少しは稼げるはずだ。
あとはもう、最悪トイレじゃなくても気にすまい。人にさえ見られなければいいのだ。
凱空「う、うぐぅ…おぉっ!奥にそれらしい部屋発見!」
バンッ!(扉)

少女「!!?」
凱空「!!!」
少女「・・・・・・・・。(着替え中)」
凱空「・・・・・・・・。(パンツ一丁)」
少女「・・・・・・・・。(硬直)」
凱空「・・・・・・・・。(凝視)」

フッ、彫像か…脅かしやがって。
思いっきり「皇女」だった。

 

外伝:勇者凱空U〔3〕
随分と洒落たトイレだなと思った奥の間は、なんと「皇女」の部屋だったらしい。
だが、気づくのが少々遅かった。我慢の限界で、既に用を足してしまった後なのだ。
皇女「きっ…キャアアアアアアア!だ、誰か!誰かぁーー!!」
凱空「む?呼んだか?」
皇女「アナタだけは呼んでませんの!!」
凱空「よく見るとかなり豪華な部屋だが…ここは何の部屋なんだ?」
皇女「許せませんの!「皇女」の部屋に無断で入り込むだなんて…!」
凱空「皇女?お前が皇女なのか?確か名前は…「皇子(こうこ)」だったか。」
皇子「し、しかも私の目の前で、お、お、おしっ…は、恥ずかしいですのー!」
凱空「大丈夫、俺は気にしてない。」
皇子「こっちが気にしてますのっ!」
凱空「俺の名は凱空。お前からの使者に呼ばれて来たんだが…。」
皇子「知りませんの!いいからとりあえずチャックを閉めてぇー!!」
バンッ!(扉)
兵士「ど、どうされましたか皇子様…ハッ!誰だ貴様は!?」
凱空「俺は凱空。チャックは全開だが一応客だ、心を込めて接客してくれ。」
兵士「…わかった、ついてこい。」
凱空は投獄された。

 

外伝:勇者凱空U〔4〕
客間に通されるのかと思ったら、牢獄に入れられてしまった。気づくのが遅かった。
まったく…。俺は魔王を倒しに来たんだ、こんなことしてる暇は無いというのに…。
凱空「やれやれ、わざわざ赴いた客にこの扱いとは…。お前も酷いと思わんか?」
声「!! …ほぉ、私の気配に気づくとは…意外にもタダ者ではありませんな。」
凱空「お前は誰だ?いや、誰でもいい。とにかくここから出してくれ。」
老婆「私は皇子様専属の執事「洗馬巣(セバス)」。「セバスちゃん」で結構ですぞ。」
凱空「…甘栗?」
洗馬巣「あんまりです!確かにシワシワですが、食べ物に間違うのはどうかと!」
凱空「まぁどうでもいい。まずは出してくれ。早くしないと魔王に滅ぼされるぞ?」
洗馬巣「ご安心を。魔王は現れはしましたが、今は「メジ大陸」におりますゆえ。」
凱空「なに?だがその割には警備が厳重だぞ?蟻一匹通さないほどじゃないか。」
洗馬巣「ええ。それなのに平然と皇女の部屋まで辿り着いたアナタは何者ですか。」
凱空「魔王じゃないとすると…なんだ?何にそんなに怯える必要がある?」
洗馬巣「もう一つの脅威です。あの恐国、「魔国(まこく)」の王子が現れたのです。」
凱空「ま、魔国…?」

〜その頃、帝都護衛軍本部では…〜
兵士A「うぎぁあああああっ!!
少年「・・・・・・・・。」
兵士B「き、貴様ぁ…!目的は何だ!?なぜこの国を襲う!?」
少年「…目的? フフッ、天帝の力を頂きます。逆らえば皆殺しですよ。」
兵士C「くっ…そんなことさせるかぁー!!ぐぁあああああっ!!

少年「力が要るんですよ。私を…この「凶死」を越える力が。」
魔界出身じゃなかったのか。

 

外伝:勇者凱空U〔5〕
帝都を脅かす強敵…それはなんと、若き日の凶死だった。
狙った獲物は逃さない男、「死神の凶死」…。

皇女を追い詰めるのに、そう時間は掛からなかった。
〜皇女の部屋〜
(「ぎぇええええええええっ!!」)
(「うわっ、やめ…うわぁああああああっ!!」)
兵士「くっ、なんて奴だ!この扉が破られるのも、時間の問題か…!」
皇子「うぐっ、えぐっ。みんなが…みんなが死んじゃいますの…!」
兵士「皇子様、お逃げください!ここは私どもが食い止めますゆえ!」
皇子「イヤですの!皇女である私が、国民を置いて逃げるなんてできませんの!」
凱空「まったくだ。」
皇子「アナタはなんで逃げてこれてますの!?」
凱空「フッ、安心しろ。俺は肝心な時には居ない男だ。」
皇子「それはそれでイヤですの!アナタは何者!?目的は何ですの!?」
兵士「ハッ!さては…貴様も死神の手の者だな!?成敗してくれる!!」
凱空「なっ!?ま、待て!話せばわかる! 必殺、「話せばわかるぞキック」!!」
兵士「え゛っ…ばぼふっ!!
凱空のえげつない攻撃。
側近の兵士をブッ倒した。

 

外伝:勇者凱空U〔6〕
危ないところで、なんとか兵士を退治できた俺。相変わらずのナイスタイミングだ。
凱空「キマッた…我ながら怖ろしいほどにキマッた…。」
皇子「ひ、酷すぎますの!なんでも暴力で解決しようなんて最っ低ですの!!」
凱空「まったくだ。」
皇子「アナタに言ってますのっ!!」
凱空「やれやれ。皇女は血統がいいと聞いていたが…とんだデマだったようだな。」
皇子「えっ…?」
皇子は兵士の方を見た。
なんと兵士は煙のように消えた。
皇子「えっ?えっ?な、何がどうなりましたの…!?」
声「…へぇ〜。まさか私の「幻魔術」を見破る人がいるとは…ねぇ。」
音も立てずに凶死が現れた。
皇子「あ、アナタ…アナタが死神ですのね!よくもみんなを…!!」
凶死「少々驚きましたよ、皇女。多少は頭のキレる傭兵もいたようですね。」
凱空「フッ、実はマグレだとは口が裂けても言えん状況だな。」
皇子「言っちゃってる!思いっきり言っちゃってますの!」
凶死「死に行く者に名を尋ねるもまた一興…アナタの名は?」
凱空「俺か?俺は「勇者:凱空」。この世に、悪がある限り…」
凶死「ある限り?ふふっ、まさかこの私を倒すとでも?」

凱空「特に何もしない。」
皇子「してほしいのっ!!」
相変わらずヤル気は無かった。

 

外伝:勇者凱空U〔7〕
気づいた時には背後にいた、謎の少年「凶死」。今までに会ったことのないタイプだ。
凱空「お前が「死神」?見るからに俺より若いようだが…。」
凶死「4歳ですが何か?まさか、無駄に歳だけとっていれば優れているとでも?」
凱空「いや、いくら俺でも本人を目の前に…なぁ?」
皇子「なんでこっちを見ますの!?同い年ぐらいの人に言われたくありませんの!」
凱空「で?コイツに何の用だ?嫁に貰いに来たにしては随分と荒っぽい登場だな。」
凶死「力を得るためですよ。「天帝」には不思議な力があると聞きましてね。」
皇子「ッ…!!」
凱空「なるほど、「不思議ちゃん」なのか。」
皇子「その言い方は違うと思うの!」
凶死「ところでアナタこそ何なんですか?皇女とは一体どういうご関係で?」
凱空「フッ、放尿シーンをも見せ合う仲だ。」
皇子「見せ合ってないのっ!!あ、アナタが勝手に見せただけですの!」
凱空「とにかくまぁ、乗りかかった船だ。好きにさせてやるわけにはいかんな。」
凶死「へぇ〜…面白い冗談ですねぇ。」
凱空「さぁ来い。死神こそが、最も死に近いということを教えてやる。」

キマッた…今日もキマッたぜ…。
凱空はまだチャックが開いている。

 

外伝:勇者凱空U〔8〕
キメ台詞も華麗にキマッた。ボロが出る前にさっさと決着をつけるとしようか。
凱空「最後だ。泣いて謝るチャンスを一度だけくれ。」
皇子「えっ!あげるのではなくて!?」
凶死「ふふふ、随分と強気な人だ。でも武器も持たずにどうするおつもりで?」
凱空「フッ、達人は得物を選ばん。お前ごときチビッ子相手なら、コレで十分だ。」
凶死「やれやれ、そんな燭台で私に挑むとは…無謀ですねっ!」
凶死は〔突風〕を唱えた。
凱空はヒラリとかわし、燭台を振り下ろした。

凶死の頭は砕け散った。
皇子「きゃっ、きゃあああああ!頭が!頭がぁーー!?」
凱空「俺は「勇者」。基本的に何もしないが時々やり過ぎる。」
皇子「やり過ぎにも程がありますの!しかも何故そんなに冷静ですの!?」
凱空「さすがは死神だ、とっても斬新な技だな。」
皇子「技なはずは無いのっ!!」
凱空は発想がおかしい。

 

外伝:勇者凱空U〔9〕
強いのかと思えば、アッサリ一撃で砕けた凶死。少々腑に落ちんがまぁ気にすまい。
凱空「完璧だ…。これならいつでもプロの「スイカ割ラー」になれるな。」
皇子「そんな職業ありませんの!この人殺しぃー!!」
凱空「ん〜、だがなんだか拍子抜けだな。 口ほどにも無さすぎて…ぶぼあっ!!
痛恨の一撃。
凱空は窓の外までフッ飛ばされた。
皇子「なっ、なんで!?なんでいきなり…ハッ!アナタは…!」
凶死「おや、「幻魔術」は初めてですか?口ほどにも無いのは彼の方でしたねぇ。」
皇子「そんな…! ゆ…勇者の人ー!お願いですの!戻ってきてぇー!!」
凶死「無駄ですよ。この高さから落ちたんです、恐らく即死でしょう。」
凱空「そりゃ可哀想に…。」
凶死「フッ、まぁ私に挑んだ時点で…って、えぇっ!?」
凶死のキャラが一瞬崩れた。

 

外伝:勇者凱空U〔10〕
危ないところで、なんとか攻撃を回避した俺。初めて見る技だが今のが幻術か。
凶死「た、確かに命中したはず…。もしやアナタも幻魔術を…!?」
凱空「幻術?アレは「空蝉(うつせみ)の術」だ。俺は魔導士じゃないんでな。」
皇子「「勇者」が「忍術」使うのは問題無いの!?」
凶死「この私を騙すほどの忍術…よほどの師を持つと見える。」
凱空「フッ、「通信教育」だ。」
皇子「そんなのありますの!?」
凶死「…ふっ、あははは!参りましたね、どうやら私の勝てる相手ではないらしい。」
凱空「む?なんだ、諦めるのか?随分とアッサリ引き下がるじゃないか。」
凶死「別に無理して皇女を狙う必要は無いのです。私が欲しいのは「力」ですから。」
凱空「…なるほど。代わりに俺に力を貸せというわけだな?だが何のために?」
凶死「詳しい話はその時に…ではダメですか?」
凱空「ん〜、まぁいいだろう。俺は細かいことと常識は気にしないタチだからな。」
凶死「助かります。逆に私の力が必要な時は、いつでもお貸ししますので。」
凱空「フッ、俺には必要無いさ。そうだなぁ…俺に子でも出来たら頼もうか。」
凶死「わかりました。その時は是非。」
勇者の悪夢が予約された。

 

外伝:勇者凱空U〔11〕
凶死の降参により、事態は収束した。必要以上に空気の読める奴で助かった。
正直、コイツの真の実力は計り知れん。これ以上争うのは得策じゃないだろう。
凶死「では、私はそろそろ帰るとしましょう。幻術って意外と疲れるんですよね〜。」
皇子「だ、ダメ!逃がさないの!みんなのカタキ…見逃せるわけありませんの!」
凶死「…ふぅ、この国では人を眠らせるだけで罪人ですか?乳母も大変ですねぇ。」
皇子「えっ!?眠らせ…って、じゃあ全てが幻術だったってことですの…?」
凱空「凶死よ、ちょっと待て。行く前に少しだけ聞きたいのだが…。」
凶死「メジ大陸の「魔王」について…ですね?」
凱空「お前は「王子」と聞いた。こと魔国の王子なれば、その情報は深かろう。」
凶死「名は「終(おわり)」。年の頃は15・6。それ以上の情報は、残念ながら…。」
凱空「…いや、十分だ。ありがとう。意外と役立たずだなんて全然思ってないぞ。」
凶死「な、なんだか凄く不本意ですが…今日は去ります。ではまた、「その時」に。」
凶死は去っていった。
バンッ!(扉)
兵士「皇子様ー!ご無事ですかー!?…ハッ、貴様は…!」
皇子「私は大丈夫ですの! い、一応この方が…その…。」
凱空「俺は凱空。チャックは未だ全開だが一応客だ。心を込めて接客してくれ。」
兵士「…わかりました。ではコチラへ。」
凱空は投獄された。

 

外伝:勇者凱空U〔12〕
凶死撃退の噂は、瞬く間に帝都中に広まった。
凱空は英雄として崇められ、帝都護衛軍の「兵士監督官」に任命された。

そして、半年が経った。
帝都に着いて、半年が経過した。今は護衛軍で兵士達の訓練を監督している。
本来ならばすぐに旅立ちたいところなのだが、わけあって今は足踏み状態だ。
それに、ここの警備は貧弱すぎて放っておけない。俺が鍛え直してやらねば。
〜帝都護衛軍・訓練場〜
凱空「コラそこー!振りが甘い!そんなスピードじゃかすりもせんぞ!?」
兵士A「す、すみません!うぉおおおおおっ!」
凱空「あとお前もだ!そんな甘い守備で守りきれるとでも思っているのか!?」
兵士B「ハッ!申し訳ありません!」
凱空「今度の敵は強敵だ!みんな気を引き締めてかかれ!!」
兵士達「は、ハイッ!!」
週末に野球大会がある。

 

外伝:勇者凱空U〔13〕
夕暮れ時、俺はこの世で最も高いという塔の頂上に来ることが多かった。
遠方より来たせいか、遙か遠くを眺めているだけで妙に心が安らぐからだ。
凱空「アイツらは、今頃どうしてるんだろうか…。」
声「ガ〜イク♪ またここに居たのね。そんなにこの塔が気に入ったの?」
凱空「…皇子か。この場所は他の何よりも高い。友のいる島すら見えそうでな。」
皇子「そう…。 あ、ところでどうですの?兵士達は順調に強くなってる?」
凱空「フッ、安心しろ。みんなだいぶ飲めるようになったぞ。」
皇子「何を強くしてるの!?お酒なんか鍛えても意味ないの!」
凱空「それより何しに来たんだ?こんな街外れ、皇女が来るような場所じゃない。」
皇子「べ、べべ別に意味なんか無いの!ちょっと空が見たくなっただけなの!」
凱空「む?どうした、なんだか顔が赤いが…収穫時期か?」
皇子「リンゴじゃないの!! …あ、そうそう!大事なお知らせがあったの!」
凱空「悪いがもうじき戻らねばならん。用があるなら早めに済ませてくれ。」
皇子「あ、うん。あのね、来月にね、「武術会」があるの。で、凱空…出てみない?」
凱空「武術会か…まぁ賞品にもよるな。俺は堂々と金品に目が眩むタイプだ。」
皇子「しょ、賞品は!その!いいと思うの!きっと凱空も気に入るの!だから…!」
凱空「よし、ならば出よう。俺の参加を手配しておけ。」
皇子「あ…うんっ☆」

金か装備か…どちらにしろ腕が鳴るぜ。
賞品は「皇女」だ。

 

外伝:勇者凱空U〔14〕
一ヶ月が経ち、皇子の言っていた武術会が明日に迫った夜。事態に動きがあった。
コンコン(ノック)
声「凱空様、大事なお話がございます。洗馬巣と二人、よろしいでしょうか?」
凱空「む?その声は…あの時の使者か?ということは…よし、入れ。」
ガチャ(開)
紳士「お察しの通りです。「魔王」に関する謎、重要なものが幾つかわかりました。」
凱空「そうか、よくやった。で、状況はどんな感じだ?」
紳士「最悪です。古代神…「魔神:マオ」が憑いているという説が浮上しました。」
凱空「神…だと?なんだその偉そうな存在は?生意気な!」
洗馬巣「およそ五百年前…大戦の末、海に封印された伝説の化け物です。」
凱空「神…大戦…。初めて聞く話だが、入手元はどこだ?」
洗馬巣「私の思い出です。」
凱空「何歳なんだ!?お前も立派な化け物じゃないか!」
洗馬巣「私も異星の出身ゆえ、他の方よりほんの少しだけ長生きなのですよ。」
凱空「だが何故だ?その神とやらは封印されたんだろ?」
洗馬巣「ええ、確かに「肉体」は。ですが奴は、直前に「精神」を切り離したのです。」
紳士「まだ調査の段階ですが、恐らくは「転魂の実」の能力かと。」
〔転魂(てんこん)の実〕
食べた者の魂を、体から離脱させることができる果実。
魂だけでは何も出来ないが、相手に同意があれば他人に憑依できる。
自分の体に戻るまでその効果は継続する。
すでに絶滅しており、今では絶対に手に入らない。
凱空「真の敵は精神体か…厄介だな。魔導士の力が要るが、見つかったか?」
紳士「東へ向かってください。「大賢者:無印(むいん)」がアナタを待っています。」

東か…。長い旅に、なりそうだ。
凱空は西の空を見ている。

 

外伝:勇者凱空U〔15〕
武術会当日。だが俺は参加するつもりは無かった。状況が変わったからだ。
魔王の正体が掴めた以上、グズグズしてはいられない。すぐにでも旅立たねば。
コンコン(ノック)
皇子「…どなた?少し待って、いま着替え中で…」
凱空「わかった、終わるまで見てる。」
皇子「ってキャアアアアア!なんで既に中に居ますの!?今のノックの意味は!?」
凱空「お別れを言いに来た。急な話だが、旅立つことになったんでな。」
皇子「えっ…ど、どういうこと…? ハッ!まさかアナタ「魔王」と…!」
凱空「ああ、デートの約束があるんだ。」
皇子「下手な言い訳にも程があるの!バカにしないでほしいの!」
凱空「探させてた有能な仲間も見つかった。これ以上の足踏みは世界が危険だ。」
皇子「だ…ダメ!だって今日は武術会の日だもの!今日だけは絶対にダメなの!」
凱空「悪いな。だが他の奴らも頑張る、俺がいなくても十分に楽し…」
皇子「ダメなの!だって…だって私、優勝者と結婚することになってるのっ!!」
凱空「なっ…!?」
皇子「私、凱空が好き!凱空以外の人と結婚するなんてイヤなの!だから…!」

凱空「…言ったろ?俺は「肝心な時には居ない男」だと。」
皇子「えっ…。」
凱空「俺は「勇者」だ。進むは茨の道…俺の地図に「恋路」という道は無い。」
皇子「そ、そんな…!イヤ!イヤなの!行かないでぇ!!」
凱空「泣くな皇子。お前はもっと優しい男と結婚し、元気な子を産め。 サラバだ!」
皇子「凱空ぅーー! いやぁああああああ!!」

すまん、皇子…!!
凱空は窓の外へと消えた。
皇子「うぐっ、えぐっ。バカ…凱空のバカ…! ここ、30階…。」

凱空「うぉおおああああああああっ!!?
こうして再び、凱空は旅立った。

これが皇子との、永遠の別れとも知らずに。

 

第八章