第三十五章

 

4-526:盗賊〔14歳:LEVEL45〕
姫ちゃんを庇った俺を更に庇い、勝手に重傷を負いやがった大バカ盗子。
確かにあのままじゃ俺が食らっていたが、盗子ごときに借りを作るなんて屈辱だ。
賢二「ま、待ってて盗子さん!いま僕が回復を…」
勇者「その必要はない!」
賢二「なっ…ふ、フザけるなよ!!この状況でまだ」
勇者「…コレを使え、「治癒石」だ。コレを抱いて寝てりゃあ、死にはしないだろう。」
賢二「え…ゆ、勇者君…(らしくない…)。」
勇者「「魔道石」もあるぞ、使っとけ賢二。MPが無きゃ貴様は糞の役にも立たん。」
賢二「い、いつの間にそんなアイテムまで…?」
勇者「オイオイ、ここは「城」で俺は「勇者」…となれば、「宝箱」は当然漁るだろう?」
賢二「いつそんな余裕が!?」
勇者「あとは「治癒石」が残り3つ…皆で使うぞ。万全で挑まねば話になるまい。」
姫「治癒石…魔道石…からのぉ〜?」
勇者「すまん姫ちゃん、宝箱に食い物はありえない。」
姫「ぷぅー。」
仮にあっても乾パンとかだ。

 

4-527:絶対〔14歳:LEVEL45〕
死にかけの盗子を残し、俺は姫ちゃん、賢二と3人で大魔王に挑むことにした。
あとは親父さえ生き残っていれば、なんとか少しは希望も見えるだろう。
盗子「ま…待っ…うぐっ、行かないで…勇者ぁ…!」
賢二「だ、ダメだよ盗子さん喋っちゃ…!」
勇者「…お前はこれまで、俺の前で二度死んだ。二度も死んだんだ、盗子。」
盗子「え…?」
勇者「最初は黄錬邪に血を抜かれすぎて、次は首を飛ばされ…まぁロボだったが。」
盗子「そ、それが…?」
勇者「あんな…あんな醜いモノを、三度も俺に見せるなんて許さん!!」
盗子「え…ええぇっ!?」
勇者「ま、のんびり寝てろ役立たず。俺は絶対に勝って、絶対生きて帰って来る。」
盗子「こ…この世に「絶対」なんて無いもん!もし…もし死んじゃったら…!」
勇者「ん?あるさ、「絶対」は…ある。」
盗子「無いもん!!」
勇者「いや、だからあると…」
盗子「無いってば!!」
勇者「絶対にか?」
盗子「絶対にだよっ!! あっ…」
勇者「フッ、一つあるなら…いくつあっても不思議じゃあるまい?」
盗子「い、今のは言葉の」
勇者「もう喋るな盗子、それ以上喋ると…」
賢二「そ、そうだよ!喋ると傷口が…!」

勇者「俺は、“三度目”を見ることになる。」
盗子はお口にチャックした。

 

4-528:限界〔14歳:LEVEL45〕
ウザい盗子は黙らせた。体力も完全に回復した。あとはもう…先に進むしかない。
勇者「さて…じゃあ行くか。この先は地獄…無事に帰れるアテは無いが、平気か?」
姫「ハンバーグセットで…手を打つよ。」
賢二「生きて帰る気マンマンだね…さすがだなぁ…。」
ギィイイイ…(扉)
勇者は扉を開けた。
父「・・・・・・・・。」
ヒュゥウウウ…(風)
勇者「お、親父…親父貴様」
父「ん?」
勇者「元気か!やっぱり元気かよ化け物め!たまには死にかけてみせろよ!」
父「フッ、いやぁ〜…さすがの私も、ぼちぼち…限界だよ…うぐっ!」
勇者「ま、まさか…!」
シリアスモードが。

 

4-529:楽園〔14歳:LEVEL45〕
精神的には限界のようだが、ちゃんと生きてた親父。最悪の事態は免れたようだ。
大魔王「アチャ〜、来ちゃったかぁ〜。やっと色々と慣れてきたのにな〜。」
勇者「おっと、どうやらお困りのようだな大魔王。貴様の命もここまでだぜ!」
大魔王「ま、アリが何匹増えようと…何の影響も無いけどね。」
勇者「あ゛ん!?なんだと貴様!?そりゃ女王アリか働きアリかどっちだ!?」
賢二「お、落ち着いて勇者君!それ大差ないから!」
父「気を付けろ勇者。特に、我が「三つ首の矛」を砕いたあの剣は…侮れんぞ。」
大魔王「あ〜、まるで僕のために創られた感じだよね、この「闘神の剣」って。」
勇者「なっ!?そ、それが神の創った剣だって言うのか!?」
賢二「そんな…!見つからないどころか、敵が持ってるだなんて…!」
大魔王「キミ達は虫レベルだけど、そっちのお父さんは別格…ちょっと邪魔だねぇ。」
勇者「それは同感だ。」
父「意味が違わねば良いのだが…。」
大魔王「とゆーわけで!邪魔な大人には…退場してもらうとしよう。」
父「なっ!?しまっ…」

カッ!!(光)
大魔王は〔永劫楽園〕を唱えた。

 

4-530:子供〔14歳:LEVEL45〕
大魔王が唱えた魔法は一瞬で周囲を包み、気づけば親父の姿が消えていた。
勇者「なっ…ま、まさか死んだのか親父!?くそっ、まだ遺産の手続きが…!」
賢二「えっ、まずそこ!?」
大魔王「いや〜、ちょっと追い出しただけだよ。この領域には、子供しか入れない。」
姫「私はもう一人前だよ。ううん、三人前は…イケるね。」
賢二「それ多分カキ氷とかの話だよね…?」
勇者「チッ、結界張られた腹いせに張り返したってわけか。フザけやがって。」
賢二「ど…」
勇者「「どうしよう勇者君」禁止な。どうしようも何も、もうやるしかないだろう。」
姫「ド…」
勇者「「ドーナツ」も後にしてくれ姫ちゃん。」
大魔王「さーて、じゃあさっさと終わらそうか。もうキミには、何の興味も無いしね。」
勇者「ほぉ、斬新な冗談だ…死ぬほど笑えんがな。」
死ぬほどピンチでもあるが。

 

4-531:開戦〔14歳:LEVEL45〕
大魔王の策略により、親父の力は無効化されちまったらしい。やれやれ困ったぜ。
勇者「だがまぁ、黙って殺されてやるほどお人よしじゃなくてな。 賢二っ!」
賢二「わ、わかってる!援護は任せて!」
勇者「姫ちゃんっ!」
姫「わかってるよ!団子は任せて!」
勇者「いや、今回ばかりは…!」
キィン!(受)
賢二「ひ、ひぃいいい…!」
大魔王「へぇ、よく受けたね。おフザけだけが取り得の雑魚じゃなかったんだ。」
勇者「フン、ナメるなよ?かつて「深緑の泣きチワワ」と蔑まれた賢二を!」
賢二「かえってナメられるからヤメてくれる!?というか発信源キミだよね絶対!?」
キン!チュィイン!
勇者「ったく、なんだよヤケにせっかちじゃないか。前までの余裕はどこへいった?」
大魔王「遊ぶのヤメたんだよね。なんか…誰かを殺したくて、ウズウズしてるんだ。」

フン…まぁわからんでもないが。
わかっちゃダメだろ。

 

4-532:無駄〔14歳:LEVEL45〕
どうやら「断末魔」のせいで完全に覚醒しちまったっぽい大魔王。
まぁ最後の大舞台だ、ダラけた敵とやり合うよりはマシなのかもしれん。
ズバシュッ!ドバシュッ!
勇者「うぐっ…! いや、やっぱ全然マシじゃねぇ!もっとダラけやがれクソガキ!」
賢二「じゃ、じゃあ今度は僕が…!」
賢二は〔氷点下〕を唱えた。
だが効果が無かった。
大魔王「僕が…何?」
賢二「諦める番かなぁと…。」
大魔王「ん〜、「賢者」か…でも無印さんに比べると落ちるねぇ。」
勇者「無駄ダマ撃つな賢二!中途半端な魔法じゃ効かん、MPが減るだけだ!」
姫「私は…わかってたよ。」
姫はちょっとは頑張れ。

 

4-533:俺達〔14歳:LEVEL45〕
想像以上に大魔王は強くなっていて、普通にやっても勝ち目が無いのがわかった。
勇者「こうなったらやはり…“あの技”しかないな。MP的にはやれるだろう?」
賢二「あ、あの技って…でもそれじゃあ…!」
勇者「諦めるな!人数が足りないくらいで…」
賢二「いや、姫さんに通じないかと。」
姫「大丈夫、まだまだ食べれるよ。」
勇者「ひ、姫ちゃんは「炎系」を頼む!賢二は「氷系」と「風系」、両方こなせ!」
大魔王「えー。まーだ何かやる気なの〜?」
勇者「貴様の敗因は、俺を…いや、“俺達”を…ナメすぎたことだ。」
大魔王「うわっ…!?こ、この強烈な波動は…!」
勇者「いくぜ!海を…いや、未来をも斬り開く究極の魔法剣…「断海(モーゼ)」!!」
勇者、必殺の一撃!
灼熱の暴風が駆け抜けた。
凍てつく吹雪が駆け抜けた。

 

4-534:名案〔14歳:LEVEL45〕
かつて失敗した魔法剣「断海」だったが、今回は完璧に出せた。さすがは俺だ。
勇者「ハァ、ハァ、当たった…よな?アレが効いてないようなら、もう後が無いぜ。」
賢二「そ、そんな不吉なこと言わないでよ。いくらなんでもそんな…」
勇者「ッ!!」
大魔王「・・・・・・・・。」
勇者「フッ、やれやれ参ったぜ。来る前にちゃんとセーブしてくるんだった。」
賢二「ぼ、僕はイヤかな…同じ悪夢何度も見るの…。」
大魔王「さすがの僕も、ちょ〜っと効いちゃったかなぁ…ムカつく。」
勇者「…オイ賢二、一つだけだが名案があるぞ。乗るか?」
賢二「えっ!ホントに!?も、もちろん乗るよ!」

勇者「姫ちゃんを連れて…逃げろ。」
勇者は死ぬ気だ。

 

4-535:無理〔14歳:LEVEL45〕
直撃したはずの大技も、致命傷には至らなかった模様。どうやらお手上げのようだ。
となれば、俺にできるのは姫ちゃんを逃がすことのみ。大丈夫、外には親父もいる。
勇者「さぁ行けぃ賢二!美咲の翼があれば、窓を破って逃げるのも容易だろう!」
賢二「で、でも勇者君…!」
大魔王「キミってやっぱバカでしょ?僕がすんなり逃がすわけ…」
勇者「バカは貴様だ!たった今、この俺をナメて痛い目に遭っ…ぐぁああああ!?
痛恨の一撃!
勇者は壁に叩きつけられた。
勇者「ぐふっ! チッ、ここまで差があるか…!だが、この先は俺が通さん!」
姫「じゃあお母さん役は私ね。」
勇者「おっと!そりゃなんて素敵なママゴト…ってなぜまだここに!?賢二は!?」
賢二「無理だよ勇者君…」
勇者「こ、この期に及んで貴様ぁ…!!」
賢二「キミを見捨てて行くなんて、僕には無理だよ。」
勇者「なっ…!?」
賢二「それに…見捨てて逃げて、後で化けて出られても困るしね。アハハ。」
勇者「…ケッ!ケッ! 泣き虫賢二ごときが生意気言うじゃねーかクソがっ!」
姫「早く帰ってお茶にしようよ。ね、勇者君?」
勇者「フッ…まったくその通りだな!諦めるのは、まだ早いか!!」
勇者はヤル気を取り戻した。

 

4-536:死気〔14歳:LEVEL45〕
俺としたことが不覚にも心が折れかけたのだが、姫ちゃんのおかげで目が覚めた。
「断海」じゃ倒せなんだが、まだパワーは残ってる。まだ…暴れる余力はあるんだ。
賢二「で、どうしよう勇者君?作戦とかあったりする?」
勇者「無い!!こうなったら死ぬ気でやれとしか言いようがない!とりあえず…」
大魔王「死のうか。」
ザシュッ!(斬)
勇者「くっ…!作戦会議中に斬るとはマナーのなってない奴め…!」
姫「大丈夫、傷は私が治すよ! むー!〔死滅〕!!」
勇者「とぉっ!(避)」
大魔王「おわっ!? チッ、今のがフェイクとは…大した演技力だねぇ。」
勇者「ナメるな!ガチだっ!!」
賢二「ヤダなぁ…同士討ちとか…。」
だが可能性は高い。

 

4-537:馬耳〔14歳:LEVEL45〕
大魔王と、あと姫ちゃんの攻撃をかわしつつ、どうにかこうにか俺はまだ生きている。
勇者「ハァ、ハァ、よし、じゃあ今度はお前が魔法であがけ!俺は少し休む!」
賢二「ま、任せて!えぇえええええええええい!〔火炎地獄〕!!」
ブォオオオオオオオ…!(燃)
大魔王「これは無印さんお得意の…フッ、でも効かないよん♪」
大魔王は魔法を打ち消した。
賢二「えっ!?そんな…炎系の最上級魔法なのに…!」
大魔王「ちょっと危険だからさ、前に対策考えたんだよね。だから僕には効かない。」
賢二「くっ…!」
姫「ふふふ、私にも効かないよ。」
賢二「姫さんはもっと言うこと聞いて…。」
勇者「いや、それはお前だ賢二。奴の言葉を聞いてなかったのか?雑魚めが。」
賢二「え…?」
勇者「奴は言ったんだ、「危険」だとな。つまりもっと、強力な火炎魔法ならば…!」
大魔王「いや、さっき「最上級魔法」と…。」
全員きかない子だった。

 

4-538:危険〔14歳:LEVEL45〕
大魔王のわずかな弱点を見つけたかと思えば、全然見つけてなかった今日この頃。
勇者「ったく…やれやれ、賢二はこれだから困る。」
賢二「なんで僕のせいなの!?無いものは無いでしょうがないじゃないか!」
大魔王「アハハ!確かに炎系はちょっとだけ苦手だけど…残念だったねぇ。」
賢二「…やっぱりそうなんだ。だったら、やってみる価値はあるかもね。」
大魔王「ハァ?ハッタリはヤメなよ。アレ以上の火炎魔法なんて、聞いたことも…」
賢二「だろうね。お師匠様…あの無印様が、晩年に開発した未発表魔法だもの。」
大魔王「む、無印さんが…!?」
勇者「なんだ、とっておきがあったんじゃないか出し惜しみしやがってクソが。」
賢二「ぼ、僕だって使えたことないんだよ!それにちょっと、ハイリスク過ぎて…。」
勇者「それは、数年ぶりに会った旧友の借金の保証人になるのとどっちが?」
賢二「それはそれで危険だけども!でも比べるまでもなくこっちだから!」
勇者「そうか…覚えておく。」
賢二「え…あっ、貸さないよ!?」
そもそも勇者は奪うタイプだ。

 

4-539:自分〔14歳:LEVEL45〕
なにやら賢二に何か手があるらしい。リスクがどうとか言ってやがるが知ったことか。
勇者「チッ、少々不本意だが仕方ない。この俺が時間を稼いでやるから唱えろ。」
賢二「いや、ダメだってば!その魔法が燃やすのは、相手だけじゃなくこの一帯…」
姫「燃える展開…ってヤツだね?」
賢二「物理的にね!?だから、もし彼を倒せるとしたら…それは同時に…」
勇者「俺達の死を意味する…ってことか。」
大魔王「やってみれば?ただの自殺で終わりそうだけど、うまくいけば英雄じゃん。」
勇者「ッ!!? け、賢二貴様ぁ…!それが狙いだったのか!!」
賢二「思い出して!これまでの会話の流れをちゃんと思い出して!」
勇者「俺以外が英雄だなんて…断じて許さん!許さんぞぉおおおおおおおお!!」
賢二「いや、だから…って、えっ…!?」
ゴゴゴゴゴゴ…!
勇者「ふぉおおおおおおおおおおおおお!!」
勇者は理不尽にキレた。

 

4-540:一族〔14歳:LEVEL45〕
その頃…部屋を追い出された父は、盗子と合流していた。
〜大魔王城最上階:終焉の間 前〜
父「むぐぐ!むぐぉおおおおおおおおお!!」
盗子「が、頑張って勇者親父!もうアンタだけが頼りなんだよ!」
父「ふぅ…やはりダメだな。どうやら私達は、ここから見守るしかないようだ。」
マジーン(首)「マジかよオイ…そりゃ大ピンチじゃねぇか。」
盗子「ギャアアアアア!! し、心臓に悪いよアンタ!アタシまだ治りかけなのに!」
マジーン(首)「俺も急いで復活しようと頑張ったんだが…無駄みてぇだなぁ。」
盗子「そ、そんなぁ〜!勇者、もう魔力も無いのに…!」
父「…いいや、絶望するのはまだ早い。むしろ、それは希望かもしれんぞ。」
盗子「えっ、それってどーゆー意味!?」
父「そもそも我が一族は、魔力を持たぬ正統な「勇者」の家系だったのだ。」
盗子「いや、まったくもって説得力が無いんだけど…。」
マジーン(首)「ああ、想像もつかねぇ…。」
父「しかしそれが、長い戦いの歴史を経て、徐々に呪われ今に至る。つまり…」
マジーン(首)「魔力がスッカリ抜けちまった勇者は、本来の力に目覚めると…?」
父「そう。誰よりも目立ちたいという、究極の自己顕示欲…「我力(がりょく)」がな。」
困った一族だった。

 

第三十六章