第十一章

 

151:秋味〔6歳:LEVEL3〕
今年の冬は雪山登山ではなく、本泥棒を捕まえるという役目が与えられた。
先公らの調べによると、敵の正体は「ベビル」という名の「怪盗」らしい。
というわけで俺達は、例の如く作戦会議から入ることにしたのである。
ちなみに「怪盗」と「盗賊」の違いは、「怪盗=泥棒」「盗賊=強盗」みたいなもんだ。
勇者「敵の名前はわかったものの、居場所がわからんのではどうしようも無いな。」
賢二「僕はまだそういう魔法は覚えてないし…。」
少女「あ、ああああのぉ〜…。」
盗子「ん?誰アンタ? バッヂからして一号生みたいだけど…。」
少女「わ、わた、わた…」
姫「わたあめ。」
勇者「め…めぐすり?」
盗子「コラそこ!勝手にシリトリ始めない!」
芋子「あ〜、この子はあがり性なのよね。あんまイジめないでくれる?」
勇者「む? なんだ芋っ子、お前の知り合いか?」
少女「わ、わ私は「機関技師(カラクリぎし)」の、「栗子(くりこ)」と申し上げました!」
賢二「なんか緊張のあまり敬語がおかしくなっちゃったね。」
勇者「今度は栗か。今年の一号生は芋やら栗やら秋の味覚が満載だな。」
盗子「ところでさ、一号生のアンタらがわざわざ何しに来たわけ?」
芋子「今回は、一号生と三号生はペアなのよ。だからワタイは…芋、食いたい。」
盗子「肝心なとこを芋に持ってかれないでよ!まぁ内容は大体わかったけども!」
栗子「そ、それでこんな物を作ってきたんです。ぜぜ是非とも使えばいいじゃん!」
勇者「なんだか釈然としない敬語だが…まぁいい。 なんだコレは?」
栗子「べ、ベビルさんにだけ反応するコンパスです。」
勇者「随分とピンポイントだなオイ。」

どうやって作ったのか。

 

152:六本〔6歳:LEVEL3〕
栗子の珍妙な機械のおかげで、敵は北の「六本森」にいることがわかった。
そこで俺達は翌日、適当にチームを組んで現地へと赴いたのである。
勇者「ここが「六本森」か。なんだか暗くて薄気味の悪い場所だな。」
姫「1、2、3、4、5、6…7……8……あぅぅ、騙されちゃった。」
盗子「数えるまでもないよ!木が六本の「森」なんてあり得ないでしょうが!」
賢二「まぁ名付けた人も名付けた人だけどね。」
勇者「任せろ姫ちゃん!今から俺の手により、この森は生まれ変わる!」
盗子「ま、まさかブッた斬る気!?そんな暇ないってばー!」
勇者「いくぜ相棒(魔剣)よ!姫ちゃんのために立派な「キコリ」になろう!!」
賢二「結構すんなりと「勇者」を捨てるんだね…。」

勇者は力を込めて木を斬りつけた。

「ゴップリンの魔剣」はアッサリ折れた。

勇者「なんだとぉーーーー!?」
盗子「バカバカバカーー!これから戦闘だってのに剣を折るなんてバカーー!!」
賢二「しかも折れた魔剣は泉の底に…って、えっ!?」

ピカァアアアアア!(光)

泉の精「旅人よ、もしかして今…剣を落とされましたか?」

突如「泉の精」が現れた。
その手には三本の剣が握られている。

そして頭には、折れた魔剣が刺さっている。

 

153:駆引〔6歳:LEVEL3〕
剣を泉に落としたら、「泉の精」が湧いて出た。まるでどこかで聞いたような話だ。
ただその剣が頭に刺さっているだけに、落としたことを認めていいのか悪いのか。
泉の精「アナタが落としたのは、この「金の剣」ですか?それとも「銀の剣」ですか?」
盗子(うわー、やっぱりそうキター! ゆ、勇者…わかってる?わかってる??)
勇者(ああ、わかってる。こういう時に欲深な奴は、いい目を見ないのが世の常だ。)
泉の精「それともこの「肩叩き剣」ですか?」
勇者「ちょっと待て!なんだその人をナメきったような名の剣は!?」
泉の精「かつて伝説の「勇者」が使ったとされる剣です。」
勇者「それを落とした。」
盗子「アッサリ釣られたー!!」
泉の精「彼は大層なお爺ちゃん子だったそうです。」
勇者「そっちか!そう使っちゃってたか!!」

ミス!勇者は選択をしくじった。

泉の精「ホントにコレでいいんですか?ファイナルアンサー?」
盗子(やた!ラストチャンスあったよ勇者!今度こそうまくやってよね!?)

勇者「貴様を倒して全部いただく。」

勇者は「金の剣」を無理矢理奪った。
勇者は「銀の剣」を無理矢理奪った。
勇者は「肩叩き剣」も一応奪った。

勇者は「ゴップリンの魔剣」を失った。

別にどうでも良かった。

 

154:願望〔6歳:LEVEL3〕
「ゴップリンの魔剣」は失ったが、代わりに三本の剣を手に入れた俺。豊作豊作。
攻撃力はイマイチわからんが、まぁ最悪売って新しいのを買えばいいだけの話だ。
勇者「さて、武器も増えたことだし…気を取り直していくか!」
盗子「そうだね!頑張んなきゃね!」
勇者「どれどれ、あと何本…」
盗子「そっちかよ!まだキコる気なの!?」
勇者「当たり前だ!俺は姫ちゃんとの約束は死んでも守る!!」
姫「疲れたから早く帰ろうよ。」
勇者「よーし帰るぞ!俺は今すぐ帰るぞー!!」
賢二「ダメだって!敵を倒してからだって! えっと、栗子さん…敵の場所わかる?」
栗子「は、ははははい!も、もうちょっと行った先の木陰にいたらいいですね!」
賢二「いや、そんな「願望」っぽく言われても!」
芋子「芋、食いたい。」
賢二「ホントに願望を言われても!」
盗子「アタシの願望を言うなら、今回の敵は前ほど強くなきゃいいなってことだね。」
勇者「うむ。まぁ確かに五錬邪は強すぎたし…」
?「あ・れ・は〜ダレ〜だ?ダレ〜だ?ダレ〜だ?」
勇者「むっ!なんだ、どこからともなく不気味な歌声が…!?」
盗子「な、なんかスゴ〜く嫌な予感が…。」
?「あ・れ・は〜ベビ〜ル♪ ベビ〜ルさ〜ん♪ベビ〜ルさ〜ん♪」

一同「・・・・・・・・。」

勇者「…貴様がベビルか?」
ベビル「なぜわかった!?」

今度の敵はアホそうだ。

 

155:呪縛〔6歳:LEVEL3〕
まるでどこかからパクッてきたようなテーマ曲と共に現れた、今回の敵「ベビル」。
どう見ても強そうには見えないが、手加減してやろうなんて気は毛頭無い。
ベビル「なるほど、キミらはあの学校の子達だな?ベビルさんわかっちゃったぞ!」
勇者「貴様には聞きたいことが山ほどある。死にたくなくば、大人しく死ね!!」
盗子「ゆ、勇者!ちょっと言葉がおかしいよ!」
勇者「安心しろ、お前の顔ほどじゃない。」
盗子「ひっどーーい!うわーん!!」
暗殺美「気にするなさ盗子!もう見慣れたさ!」
盗子「フォローになってないよー!うわーん!!」
ベビル「そうかそうやってフザけて惑わす作戦か!でもベビルさん騙されないぞ!」
賢二「勇者君、今ある剣はどれも細身だけど…大丈夫そう?」
勇者「全然問題ない。むしろ前の魔剣はデカくて使い勝手が悪かった。」
暗殺美「だったらもっと早くに替えとけばよかったのにさ。アホめ。」
勇者「さぁ、いくぞベビル!我が剣技の前に血肉をブチ撒けろ!!」

勇者は「ゴップリンの魔剣」を構えた。

勇者「な゛っ…!?」
盗子「えぇっ!?な、なんでその剣がそこにあるわけ!?」
賢二「き、きっと何かの間違いだよ!だってアレは泉に…というか折れたはず…!」
勇者「…フンッ!!」

勇者は魔剣を放り投げた。

勇者「さ、さぁ!気を取り直していくぞこの野郎!!」
ベビル「おフザけはもう終わりか!?ベビルさんはまだ騙されてないぞ!?」

勇者は「ゴップリンの魔剣」を構えた。

魔剣は呪われていたようだ。

 

156:魔本〔6歳:LEVEL3〕
呪われた魔剣のおかげで、せっかく入手した新しい剣が使えない。やれやれだ。
まぁ別にコレでも一応闘えるのだが、この大振りじゃ使えない技が山ほどあるのだ。
勇者「チッ、仕方ねぇか…。まぁ貴様程度には丁度いいハンデだがな!」
ベビル「おっと、甘いよ?甘すぎ! この「拷問大全集」をナメたら死んじゃうぞ!?」

〔拷問大全集〕
様々な拷問器具が描かれた魔の絵本。
本を手に名を呼べば、その器具を召喚することができる。

勇者「うわっ!な…なんて本なんだ!」
ベビル「ひっひっひ!ビビッた?ビビッた??」
勇者「なんて趣味の悪いデザインなんだ!」
ベビル「そこにかよ!! …あっ!」

盗子はベビルの手から本を盗んだ。

盗子「勇者!早く受け取ってー!こんなおっかない本なんて持ってたくないよー!」
勇者「ナイス盗子!コイツで逆に攻撃できる!」
ベビル「フフン!残念だったねー! その本は邪悪な者にしか開けな…」
勇者「ふむ。なかなか難しそうな本だな。」
ベビル「開いとるぅーーー!!」

勇者は「拷問大全集」を読んでいる。

 

157:悪夢〔6歳:LEVEL3〕
久々に役に立った盗子のおかげで、俺は「拷問大全集」を手に入れることができた。
「魔本」だろうが何だろうが自由に使いこなす…それが「俺流勇者道」だ!
勇者「さぁ死ねベビル!この俺が選びに選んだ、極悪の拷問を食らうがいい!」
ベビル「ま、待て!コイツがどうなってもいいの!?」
盗子「ゆ、勇者〜!ゴメンー!」

盗子が人質に取られた。

勇者「構わん!死ねぇーー!!」
ベビル「ナニィーーーーッ!!?」
盗子「やっぱりーーーー!!!」
勇者「終わりの見えぬ絶望に溺れるがいい! いでよ、「悪夢の虜」!!」

〔悪夢の虜(エンドレス・ナイトメア)〕
世にも恐ろしい悪夢を見せ続けるという、枕を模した拷問器具。
この拷問を受けた者は、うなされ、寝言で自白するという。
ほのかにオッサンのニオイがする。

勇者「おやすみ。」
ベビル「絶対イヤ!」

そりゃそうだ。

 

158:問題〔6歳:LEVEL3〕
この俺としたことが、戦闘中に「枕」を出してしまうとは迂闊だった。使えやしない。
だが、俺はすぐに他の拷問器具に切り替えたりはしなかった。いや、できなかった。
なぜなら、どの器具を出しても必ず持ち上がってくる問題に気づいてしまったからだ。
勇者「くっ…しまった!俺はなんて大きな間違いを…!」
盗子「そうだね、使い勝手悪すぎるよねソレ。」
勇者「違う、そんなことじゃない!問題はもっと根本的な所にあるんだ!!」
暗殺美「あん?なにさ、他にどんな問題が…」
勇者「そもそも俺達は…何を自白させればいいんだ!?」
盗&暗「ハッ!そういえばっ!!」
賢二「べ、別に無理して拷問しなくてもいいと思うんだけど…。」
栗子「あ、あああのぉ〜…! わ、わた、わた…」
姫「わたしぶね。」
勇者「ね…ねこじゃらし?」
盗子「だからシリトリは始めなくていいから!」
栗子「わわ私、思うんですが…。」
勇者「む?なんだ、言ってみろ。だが…くだらんことを言ったらブッた斬るぞ?」
栗子「お、思わないんですよ!わわ私は全然、なんにも思わないでしょ!?」
賢二「いや、「でしょ!?」とか聞かれても!」
芋子「ったく、この子はイジめないでって言ったのに。今度やったら芋食うわよ?」
賢二「いやいや、全然脅しになってないよソレ!」
ベビル「…あのさぁ、そっち一段落するまでベビルさん寝てていい?疲れちゃった。」
勇者「ん?あぁ、なんか悪いな。じゃあコレでも使うがいいさ。」
ベビル「あ〜、ありがと。助かるよ。」

勇者は「悪夢の虜」を手渡した。
ベビルはうなされている。

 

159:迂闊〔6歳:LEVEL3〕
まんまと罠に掛かったベビル。これほどうまくいくと、かえって不安になるから困る。
盗子「なんか、今までの中で一番アホな敵だよね。」
賢二「いや、そう思わせといて実はスゴいとか…」
ベビル「もう食べられないよぉ〜☆」
賢二「…なさそうだね。」
暗殺美「てゆーか「悪夢」見てるはずなのに、妙に幸せそうな寝言なのは何故さ?」
勇者「あ〜、ところで、さっき栗子は何を言いかけたんだ?言ってみろ。」
栗子「あ、はははい!そのぉ〜…べ、ベビルさんはどうみても強そうに見えなくて…」
勇者「そんなのは一目瞭然。 ハイ、ブッた斬ります。」
栗子「だ、だからその!つ、強い「式神」を倒したひ、人が他に…いるのではと…。」
勇者「…なるほど。 命拾いしたな。」
栗子「よよよ良かった…。死なずに済みやがりました…。」
盗子「じゃあその「協力者」を自白させようよ。 ちょうど今あの枕を…えぇっ!?」
ベビル「うにゅう〜…ハッ!アレッ!?寝てた!?ベビルさん寝ちゃってた!?」

「悪夢の虜」は消滅した。

勇者「う〜む…。 どうやら俺のレベルでは10分が限界のようだな。」
ベビル「ひっひっひ!惜しかったね!枕なんてセンス悪いの選んでるからだぞ〜!」
勇者「あん!?じゃあテメェならどれ選んだってんだよコラ!?」
ベビル「えっ?ん〜…あ、コレあたりかなぁ?」
勇者「というわけで「バプロフの鈴」!」
ベビル「わーーーっ!!」

〔バプロフの鈴〕
「条件反射」という能力を備えた鈴。
この鈴の音を聞いた者は、空腹に耐え切れず自白するという。
オプションとして「ヨダレ掛け」がついてくる。

チリリーン♪チリリーン♪(鈴の音)
勇者「さぁどうだベビル!?」

ベビル「お腹が減った!」
勇者「同感だ!!」

勇者は「耳栓」をし忘れた。

 

160:定食〔6歳:LEVEL3〕
ウッカリ腹が減ってしまったので、仕方なくみんなで定食屋へと向かった。
店主「ヘイ!8名様いらっしゃーい!」
勇者「おいオヤジ、とりあえず全員に「子供酒」をくれ。」
店主「あいよー。」

〔子供酒(こどもざけ)〕
子供用に作られた、中毒性も依存性も無い安全なお酒。
水を飲めば一瞬で分解される特殊なアルコールを使用している。

勇者「んで、俺は「獣焼き定食」を頼む。」
盗子「あ〜、アタシもそれでいいや。」
ベビル「じゃあベビルさんは「特製定食」でいいぞ。」
姫「私は「カキ氷定食」。」
盗子「そんなんメニューに無いから!」
店主「お客さん、通だねぇ〜!」
盗子「隠しメニュー!?」
賢二「えっと、僕は「日替わり定食」でいいです。」
暗殺美「じゃ、じゃあ私も一緒のが…い、一緒ので、いいさ☆」
店主「ハイ、「カキ定」追加ね〜。」
暗殺美「そっちじゃないさ!!」
芋子「じゃあワタイは「芋定」で。」
勇者「ならばお前は「栗定食」だな?」
栗子「えっ、えぇぇっ!?」
店主「あいよ、子供酒お待ち〜!」
勇者「おぉ、来たか。 よーし、じゃあとりあえず乾杯といくかー!」
一同「オッケー☆」
勇者「では、我ら仲間の今後の生き残りを祈ってぇ〜…カンパーイ!」
一同「カンパ〜イ☆」

ベビルは敵だ。

 

161:別口〔6歳:LEVEL3〕
酒も少し入り、ベビルの奴もだいぶ油断してきたように見える。よし、作戦通りだ!
そこで俺は、酔いが回る前に例の「協力者」の名を聞き出してやることにした。
勇者「ところでベビル、「極秘書庫」に入った時に「式神」を倒したのは誰なんだ?」
ベビル「式神…?ベビルさんが入った時には、そんなのいなかったぞ?」
盗子「えっ!じゃあ先に誰かが倒したってこと!?」
ベビル「あーそういえば、ベビルさんが帰る頃に少年少女の声が聞こえたぞ。」
勇者「それは多分俺達だな。 そうか、別クチだったか…。」
姫「もしくは別バラだね。」
勇者「そうか!敵は甘いのか!」
盗子「違うよ勇者!そんなに甘くはないはずだよ!」
賢二「と、盗子さん!?ツッコミが中途半端だよ!?」
栗子「ちょちょちょっと酔いが回ってき、きてるみたいでやんすね…。」

〜数分後〜
芋子「おやっさん、芋焼酎おかわり。」
店主「あいよー!」
姫「そして芋焼酎おかえり。」
勇者「いよぉー!おっかえりー!!」
盗子「ご飯にするー?お風呂にするー??」
暗殺美「いやーん!盗子ちゃんてば新婚さんみたーい☆」
賢二「もうみんなベロンベロンだね…。」
ベビル「あ〜、ところでベビルさんの「特製定食」だけまだ来てないんだけど…?」
店主「あっ、ちょうど今できやしたー! はいよー!」
ベビル「よーし!いっただっきまーす☆」
勇者「おぉ、なかなかうまそうだなこの野郎め!」
店主「なんたってウチのお勧めだからね、「毒製定食」。」

ベビルはピクピクしている。

 

162:仰天〔6歳:LEVEL3〕
まさかの「毒製定食」に瀕死状態のベビル。店のオヤジはウッカリしていたようだ。
聞き違えるのはわからんでもないが、そんなのがメニューにあるのは間違ってる。
賢二「え、えっと…どうする?このままじゃベビルさん死んじゃいそうだけど…。」
勇者「どうするもこうするも〜、そんなん決まってんだろーがー!」
盗子「そうだー!決まってんだろーがー!」
姫「…ゥイック。」
賢二「決まってるって…どう決まって?」
勇者「………決まってんだろーがー!」
賢二「えっ!な、なに今の間は!?ひょっとして何も考えてない!?」
暗殺美「気にしない気にしなーい☆ 屍なんて乗り越えていくものだよー☆」
賢二「いや、まだ「屍の一歩手前」なんだけど…。」
勇者「つーわけで、こんな奴ほっといて飲も…」
?「ダメだよ!!」
勇者「…あ゛ん? オイ…この俺様に指図するたぁ〜どこのどいつだコラァ!?」

姫「今ならまだ間に合うよ!魔法で解毒して…うん大丈夫!私は「療法士」だよ!」
一同「え゛っ…え゛え゛ぇっ!!?」

姫が急にシャキシャキとしはじめた。
みんなの酔いは一気に醒めた。

勇者「ひ…姫ちゃん?」
姫「まずは私が「解毒」の魔法をかけるよ!そしたら勇者君は心肺蘇生を!」
勇者「え、あっ…お、おう!」
賢二「姫さんは酔うと…シッカリするんだね…。」
盗子「これぞ「お酒マジック」…って感じ?」

姫「じゃあいくよー! むー!「死滅」!!」

姫は〔死滅〕を唱えた。
「お酒マジック」にも限界があった。

 

163:卒業〔6歳:LEVEL3〕
あの後ベビルはピクリとも動かなくなったため、そのまま定食屋に放置してきた。
まぁ姫ちゃんの「死滅」はレベル的に不完全だから死んだかどうかはわからんが。
そして今日は卒業式。 どうやら今年は五年ぶりに卒業生が出たらしい。二人もだ。
校長「まずは一人目…余命一年之助君、卒業おめでとう。」
余一「ありがとうございます。」
校長「この先に希望がありそうには見えませんが、とりあえず頑張ってください。」
余一「そ、そんなっ…!」
校長「そして武史君、卒業おめでとう。」
武史「何度も言わせるな!俺は卒業なんかしねぇからな!来期も盗子を守…!」
校長「…ん?(「人生」を卒業しますか?)」
武史「あ、ありがとうございます…。」

校長は目で殺した。

 

164:送辞〔6歳:LEVEL3〕
卒業式はまだ続く。 次は在校生による「送辞」のお時間だ。
一号生「卒業生のみなさん、卒業…よくできたね。」
在校生「よくできたね!」
二号生「短い間でしたが、大変お世話になりました。」
在校生「お世話になりました!」
三号生「思い返せば、様々なことがありましたね。」
在校生「思い出したくもないですが!」
四号生「春…。 みんなで行った、地獄の宝探し。」
在校生「むしろ地獄!」
五号生「ゴール際での争いは、とても醜かったです。」
在校生「血生臭かったです!」
一号生「秋…。 遠足を中止して行われた、五錬邪の討伐。」
在校生「殺す気かっ!」
二号生「活躍したのは、主に三号生でした。」
三号生「テメェら何してやがった!?」
在校生「何してやがった!?」
三号生「冬…。 テメェら何してやがった!?」
在校生「何してやがった!?」
四号生「そして今日、卒業式。」
在校生「卒業式!」
五号生「次のプログラム「闘辞」は、「答辞」の間違いでは…?」

間違いではない。

 

165:終業〔6歳:LEVEL3〕
そして「闘辞」が始まった。「闘辞」とは、卒業生vs在校生のガチンコバトルらしい。
勇者「敵はわずか二人!しかも片方は生まれついての手負いだ!殺れるぞ!」
在校生「オーーー!!」
武史「お前らなんぞに負けられるかー!」
賢二「わー!マシンガン取り出したー!」
余一「病気なんかに負けられゲフッ!」
盗子「うぎゃー!血ぃ吐いたー!!」

教師「…校長、やはりベビルは単独犯だった模様です。」
校長「だろうな。もし式神を倒すような奴なら、名が割れるようなヘマはしまい。」
教師「敵の目的はやはり…」
校長「我が「学園校」…いや、この「カクリ島」の秘密を知る者、そう多くはない。」
教師「しばらくは…様子を見ます。」

結局、武史の粘りにより二人には逃げられてしまった。俺もまだまだ甘いようだ。
もうじき春が来る。そして俺は四号生になる。

残りはまだ三年もある。

 

外伝(参)