第七章

 

91:精進〔5歳:LEVEL2〕
いよいよ始まった二度目の体育祭。 どうでもいいが校長の話が長すぎる。
賢二「あうぅ〜…僕、もうダメかも…。」
盗子「ちょっ…頑張んなよ賢二!貧血で倒れるなんて恥ずかしすぎだよ!?」
勇者「フッ、雑魚めが。日頃の精進が足らんからそういうことになるんだよ!」

〜3日経過〜
校長「…で、あるからして……」
勇者「・・・・・・・・。」


パタッ。

パーティーは全滅した。

 

92:昏睡〔5歳:LEVEL2〕
目が覚めたら病院にいた。 見渡す限り生徒の山…皆が貧血というのが恐ろしい。
女医「あら勇者君、お目覚め?」
勇者「まったく酷い目に遭ったぜ。まぁ貧血じゃ死ぬことはないだろうがな。」
女医「それがねぇ…そうでもないのよ。一人だけ昏睡状態の人がいてね…。」
勇者「あん?俺より悪いのか?一番粘ったのは俺だったと思うんだが…。」
女医「キミもよく知る人物よ…。」
勇者「ま、まさか…姫ちゃんじゃねぇだろうな!?助けろよ!絶対助けろよ!」

女医「校長先生。」

死んでよし。

 

93:雪遊〔5歳:LEVEL2〕
秋が過ぎ、冬。 昨夜は大雪が降ったので、校庭は一面の銀世界と化していた。
勇者「よーし、野郎ども外へ出ろ!雪遊びするぞー!」
賢二「えぇ〜。さ、寒いよ勇者君〜…。」
勇者「賢二よ、雪ダルマ作るのと火ダルマになるの、どっちがいい?」
賢二「それはもはや二択じゃないよ…。」
勇者「血ダルマって線もあるがな。」
賢二「す、素直に雪合戦でもやろうよ…。」

勇者「準備はいいか?雪合戦始めるぞー!負けたチームは春まで雪ダルマだ!」

命懸けの遊びが始まった。

 

94:三対〔5歳:LEVEL2〕
こうして始まったクラス内対抗雪合戦。「勇者」として勝負事には負けられない。
最初は各組十人で始めた争いも、気づけば三人ずつを残して他はくたばっていた。
〔勇者チーム〕
勇者「敵の大将は所詮賢二…悪運続きもここまでだ!仕留めるぞ!」
弓絵「え、将来の夢ですかぁー?もちろん勇者先輩のお嫁さんでーす☆」
勇者「まさか人数合わせで入れた、一号生のお前が残るとはな…。」
姫「きっと名前が「雪絵」だからだよ。いっぱしの雪ん子だよ。」
弓絵「私は「弓絵」ですぅー!」
姫「そうとも言うよね。」
勇者「姫ちゃん、そりゃちょっと失礼だよ。雪絵に謝るべきだ。」
弓絵「弓絵…勇者先輩のために雪絵になります!」
〔賢二チーム〕
賢二「好戦的なのは勇者君だけ…なんとか彼を封じればとりあえず死なない!」
盗子「それだったら任せといて!アタシのお色気攻撃でイチコロよん☆」
賢二「…霊魅さん、何かいい案ないですか?」
盗子「スルーかよ!」
霊魅「アナタの隣を霊がスルー。」
盗子「いやぁあああああっ!!」

勇者組「いくぞぉーーーー!!」
賢二組「負けるかぁーーー!!」


ゴゴゴゴゴゴ…

ズザァアアアアアアッ!!(雪崩)

 

95:救助〔5歳:LEVEL2〕
「大雪×大声=雪崩」という定番方程式にやられ、アッサリ雪崩に飲まれた俺達。
どうやら裏山に積もった雪がすべて校庭に流れ込んだようだ。
なんとか自力で這い出せたのは俺、賢二、霊魅のみ。他の奴らは見当たらない。
勇者「くっ、早く助けないと姫ちゃんが…!他はともかく姫ちゃんがー!!」
霊魅「今日は霊界も大漁でしょうね…。」
勇者「賢二、何かいい魔法は無いのか!?たまには根性見せやがれ!」
賢二「む〜…そうだ!夏休みに覚えた炎系魔法…「灼熱」!!」

賢二は〔灼熱〕を唱えた。

 

96:絶望〔5歳:LEVEL2〕
賢二なんぞをアテにした俺がバカだった。早くなんとかしなければ姫ちゃんが…。
…ゴボッ!
勇者「姫ちゃんか!?」
盗&弓「ぷっはーーー!!」
盗子「ゲホッゲホッ! わーん!死ぬかと思ったよー!」
弓絵「寒いですぅ〜!先輩の愛で暖めてくださ〜い☆」
勇者「・・・・・・・・。」
その後一時間以上探したのだが、結局…姫ちゃんが発見されることはなかった…。

勇者は絶望に包まれた。

姫「イチゴ味しか無かったよ〜。」
一同「シロップを買いに!?」

雪は食い物じゃない。

 

97:雪山〔5歳:LEVEL2〕
明日は冬の行事「地獄の雪山登山」がある。
去年は雪が降らず中止になったのだが、今年はちゃんと降ったので大丈夫だろう。
教師「明日はお待ちかねの雪山登山です。みなさんハリキッて遭難しましょうね!」
勇者「誰がするか!そもそも遭難なんて狙ってするもんじゃねーよ!」
教師「そこを狙うのがプロの腕ってやつですよ。」
盗子「だから狙わないでいいから!てゆーか何のプロだよ!?」
賢二「と、ところで今回の目的…いや、むしろ敵は?」
姫「きっと「ユキダルマン」とかだよ。」
盗子「うわ〜、いそうだよ…ベタベタな感じだけどメチャメチャそれっぽいよ…。」

教師「敵は「スイカ割り魔人」です。」

夏にやれ。

 

98:荷造〔5歳:LEVEL2〕
今日は雪山へ行く。この真冬にスイカ割りだとかぬかしてるアホを殺しに行くのだ。
というわけで昨夜は荷造りに励んだ俺。今回こそは失敗は許されない。
まぁ親父とチョメ太郎は鎖で縛っといたので、さすがに大丈夫だとは思うのだが…。
勇者「よう盗子!今日も朝からウザい顔だな!」
盗子「失敬な!死ねっ!!…って、あれ?今日は手ブラ?」
勇者「やってもうたーー!!」

リュックは玄関先だ。

 

99:持物〔5歳:LEVEL2〕
せっかくちゃんと準備したのに、肝心のリュックを忘れてきてしまった俺。
おかげで作戦はすべてパー。今回も他の奴らに期待するしかないようだ。
盗子「アタシ「盗賊の指輪」を持ってきたよ。コレがあれば盗み効率上がるんだよ!」
勇者「攻撃に役立つものは?」
盗子「あ〜、アタシは武闘派じゃないから。」
勇者「帰れ。」
賢二「今回は使える「魔導符」を持ってきたよ。僕のMPでもなんとかなるやつを!」
勇者「効果は?」
賢二「増毛…。」
勇者「死ね。」
姫「シロップならなんでもござれだよ。」
勇者「…グッジョブ!」
霊魅「背後霊なら山ほど…」
勇者「要らん!」
弓絵「愛なら誰にも負けません☆」
勇者「なぜここに!?学年違うだろ!」
父「まったくだ。」
勇者「お前こそだよ!なんでいるんだよ!?」
チョメ太郎「…ポピュ?」
勇者「お前もだよ!」
教師「今日は特別ゲストがいます。」
勇者「誰だよ!?」
オナラ魔人「プ〜。」
一同「お前かよーーー!!!

挨拶代わりにこくな。

 

100:登山〔5歳:LEVEL2〕
臭いのを乗せた我らが大獣車はひた走り、とりあえず雪山のふもとに到着した。
だが既にこの時点で大半の奴らはグロッキー状態。俺も鼻がもげそうだ。
勇者「んで?これから俺達は何すりゃいいんだ?」
教師「雪道からだと時間が掛かるので、この絶壁を素手で登ってください。」
盗子「無理!絶対無理ー!」
教師「じゃあ気合いで。」
賢二「先生、それは解決策になってないです!」
父「じゃあアロハで。」
勇者「服装は聞いてない!しかもアロハて!」
オナラ「じゃあ「オナラジェット」で。」
盗子「死んでもイヤ!てゆーか死んじゃう!!」
チョメ「ポピュッパ!」
勇者「わからない!」

〜その頃、山頂では…〜

スイカ「粗茶だが。」
姫「ヌルいね。」

なぜか和んでいた。

 

101:飛翔〔5歳:LEVEL2〕
ふと気づけば姫ちゃんがいない。まさか一人で上に…つーかどうやって!?
勇者「急いで登るぞ!オイ賢二、空飛ぶ魔法とか無いのか!?」
賢二「あ、あるにはあるけど…。」
勇者「なら早く!モタモタしてて姫ちゃんに何かあったら殺すぞオナラ魔人を!」
オナラ「え゛っ、なんで私を!?」
勇者「臭いから。」
賢二「じゃ、じゃあ心置きなく…「飛翔」!!」

賢二は〔飛翔〕を唱えた。

盗子「うわっ、はっやー!やるじゃん賢二!」
賢二「でも…止まり方知らないんだ…。」
盗子「え゛。」
勇者「よし頂上だ!飛び移るぞ盗子!」
賢二「えっと、僕は一体どうしたら…!?」
勇者「さらば賢二、お前は立派な星になれ!」
賢二「え゛!?えええええぇぇぇぇぇぇ…」

キラン☆

賢二は「思い出」になった。

 

102:対面〔5歳:LEVEL2〕
宇宙へと旅立った賢二に別れを告げ、俺達は敵のいる山頂に降り立った。
賢二…お前の犠牲は無駄にしない。時々なんとなく、空を見上げてやるからな…。
勇者「で、貴様がスイカ割り魔人だな?」
スイカ「いかにも。」
盗子「うわっ、スイカだ!頭がスイカ!!」
勇者「スイカのくせに「スイカ割り魔人」とは大胆な奴め。」
スイカ「よく来たな小僧ども。四方を断崖に囲まれたこの地…逃げ場は無いぞ?」
勇者「俺は逃げも隠れもせん!賢二のカタキは俺が討つ!」
盗子「勇者、違うよ!賢二は自爆だよ!」
姫「あ〜、勇者君いらっしゃい。ヌルいお茶はいかが?」
勇者「姫ちゃん、無事だったか! …それじゃ一杯もらおうか。」
盗子「飲むのかよ!そんな場合じゃないっしょ!?」
スイカ「あぁ、ワシも一杯。」
盗子「お前もかよ!もっと緊張感とか大事にしようよ!」

スイカ「では死んでもらおうか。」
盗子「アタシもお茶ね!とびっきりヌルく☆」

小一時間程くつろいだ。

 

103:目隠〔5歳:LEVEL2〕
一時間が経ち…もう十分くつろいだ。これ以上まったりしてたら闘う前に凍え死ぬ。
スイカ「よし、勝負だ!ルールは単純、どちらかのスイカが割れるまで闘うのみ!」
勇者「一緒にするな!俺の頭はスイカじゃない!」
スイカ「じゃあお互いの…心のスイカを砕くまで。」
勇者「持ってねーよ!」
スイカ「ええい、もう始めるぞ! とりあえずワシが先攻で…目隠しを…」
勇者「(目隠し…?フッ、閃いたぜ!)わかった、俺は動かん!かかって来い!」
スイカ「さぁギャラリー達よ、スイカの位置を教えるがいい!」
盗子「だぁ〜れが敵のアンタに…(ハッ、そうだ!姫、嘘の誘導してやろうよ!)」
姫「(あ〜、了解。)えっと、三丁目の魚屋さんを右だよ。」
盗子「嘘にも程があるよ!!」
スイカ「フン、やれやれ…まぁいいわ。ワシほどの達人となれば、気配で…」
勇者「(敵前で自ら視覚を奪うとは自殺行為よ!)死ねぇーー!!」

ササッ!(避)
勇者「なっ!避けただと!?」
スイカ「フッ、ナメるでない!その程度の企みが見抜けぬワシではないわ!!」
勇者「・・・・・・・・。」
スイカ「まだまだ甘いな若造!ガッハッハー!(谷底に落ちながら)」

ダイナミックに避けすぎた。

 

104:無事〔5歳:LEVEL2〕
結局自爆しやがったスイカ割り魔人。強いのか弱いのかすらわからなかった。
教師「いや〜、みなさんお疲れ様でした。さすがですね〜。」
生徒「ブラボー!」
勇者「テメェらいつの間に…って、どうやって!?」
教師「エレベーターで。」
盗子「そんなんあったの!?山なのに!?」
姫「あ〜、私もそのインベーダーで来たんだよ。」
盗子「違うよ!インベーダーじゃなくてエレベーターだよ!」
姫「ちょっとした宇宙旅行だったよ。」
盗子「もしやホントのインベーダー!?」
勇者「つーかそもそも今日は「登山」じゃなかったのか?それをエレベーターて…。」
教師「まぁいいじゃないですか。みなさんが無事でホントに良かったですよ。」

賢二のことにはノータッチだ。

 

105:一年〔5歳:LEVEL2〕
季節は巡り、冬は終わりを告げようとしていた。
思い返してみると、様々なことがあった一年間。短かったようで…長かった…。

春:宿敵が旅立っていった…が、結構どうでもいい。
夏:チョメ太郎が村を一つ滅ぼした…が、まぁバレてないようなので別にいい。
秋:姫ちゃんがイモ園を焼け跡に変えた…が、可愛いから許す。
冬:賢二が星になった…が、きっとアイツは恒星じゃないから見えない。

もうじき春が来る。そして俺は三号生になる。

これといって希望は無い。

 

外伝(弐)