第五章

 

61:昇格〔5歳:LEVEL1〕
俺のトドメも綺麗に決まり、やっとこさゴップリンを葬り去ることに成功した。
ということで俺達は、しばらくその歓喜の余韻に浸ったのだった。
一同「やったー!勝ったー!(というか生き延びたー!)」

いぃぃよぉお〜!ポンポンッ!(効果音)

勇者はレベルが上がった。
勇者はレベル2になった。

「非道」が3上がった。
あと他のパラメータも適当に上がった。

いぃぃよぉお〜!ポンポンッ!(効果音)

盗子はレベルが上がった。
盗子はレベル2になった。

盗子は盗みがうまくなった気がした。
(気のせいかもしれない。)

いぃぃよぉお〜!ポンポンッ!(効果音)

賢二はレベルが上がった。
賢二はレベル2になった。

パラメータが上がったり下がったりした。
(基本的には下がった。)

いぃぃよぉお〜!ポンポンッ!(効果音)

姫はレベルが上がった。
姫はレベル2になった。

姫は「天然」が5上がった。
納豆が少しだけ好きになった。


宿敵…は何もしてないので変化無し。

 

62:用事〔5歳:LEVEL2〕
ひとしきり喜びを分かち合った俺達。ぼちぼち外に出た方がいいのかもしれない。
宿敵「さぁ勇者君、敵も倒したことだしそろそろみんなの所に戻ろうか。」
勇者「なんだ、まだいたのかこの役立たずめ。」
宿敵「そ、そんな…。」
勇者「悪いが俺にはまだ勇者としてやるべきことが残ってる。盗子、付き合え。」
盗子「えっ!こんなところで愛の告白!?イヤン☆」
勇者「ブスをこじらせて死ね。」
盗子「わーん!ひどすぎるぅー!」

〜数分後〜
勇者「…さて、用事も済んだことだし…戻るか。」

洞窟はすっかりカラになった。

 

63:正直〔5歳:LEVEL2〕
財宝をたんまり抱えた俺達は、皆と合流しようと出口付近まで来てみた。
すると、なにやら外から級友どもの話し声が聞こえてきたのだ。
少女A「あれから…もう随分経つね…。や、やっぱり…。」
少年A「チックショー!勇者達まで…あのクソ怪物めー!」
少女B「盗子ちゃん、姫ちゃん…ううう。」
少年B「もう許せねぇ!あの野郎ブッ殺してやる!」

出るに出られない。

教師「みなさんその意気です。さぁ、第二班出陣といこうじゃありませんか!」

生徒「イヤです!」

みんな正直な子だ。

 

64:離島〔5歳:LEVEL2〕
外にいた奴らは、俺達が死んだと思って勝手に悲しんでいた。
だが、カタキ討ちよりも自分の命が大事らしい。まぁ当然といえば当然なのだが…。
勇者「て、テメェら…!」
教師「なっ…!!」
生徒「出たぁーーー!!」
賢二「ち、違うよ!幽霊じゃないよー!」
教師(…あ、もしもし?さっきの話ですが…ハイ、「慰霊祭」じゃなくて「祝勝会」に。)
教師「いやぁ〜、さすがはみなさん!私は信じてましたよ!」
勇者「まる聞こえだよ!勝手に殺すな!」
教師「ホントにすみませんでした。じゃあ次からは責任持って殺しますね。」
盗子「えぇ!そこに謝るの!?意味違うってば!」
教師「さーて、そろそろ帰りましょうかー!」
勇者達「誤魔化すなー!!」

こうして勇者は島を後にした。

忘れ去られた親父を残して。

 

65:転職〔5歳:LEVEL2〕
奇跡的にも死者を出すことなく終わった春の遠足。
翌日俺がボケーッとしていると、宿敵のやつが深刻そうな顔で話しかけてきた。
宿敵「あのさ、勇者君…」
勇者「断る!!」
宿敵「いや、まだ何も…」
勇者「「もっと戦闘向きの職業に転職したいんだが、何がいい?」…だろ?」
宿敵「えっ!なんでわかるんだい!?」
勇者「俺は空気の読める男だ。」
宿敵「読めすぎだよ!不自然だ!」
勇者「行けばいいじゃん、天職探しに。」
宿敵「え?」
勇者「特に出番とか無いし。」
宿敵「え゛?」
一同「逝ってらっしゃい。」
宿敵「えええええっ!?」

宿敵は追い出され旅立った。

 

66:初夏〔5歳:LEVEL2〕
春も過ぎ行き、初夏。 最近はだんだんと転入生らの顔も覚えてきた。
少女「私は「霊媒師」の霊魅(れみ)。勇者君、アナタの後ろに霊が見える…。」
勇者「貴様、初めての挨拶に不気味なオプションを付けるな。」
霊魅「だって…見えるんだもの…。」
勇者「きっと天国の級友達が俺に期待し、応援してるんだろ。フッ。」
霊魅「・・・・・・・・。」
勇者「黙るな!そこで黙るな!」
霊魅「いっぱいいる…。」
勇者「まぁたくさん逝ったからな。」
霊魅「うごめいてる…。」
勇者「だからイヤな表現をするなってば!」
霊魅「宿敵君も…」
勇者「宿敵もいるのか!?もう!?」

霊魅「じきに…。」
勇者「あぁ…じきにか…。」

結構どうでもいい。

 

67:宿題〔5歳:LEVEL2〕
明日から夏休み。きっと今年もろくでもない宿題が出されることだろう。やれやれだ。
教師「去年の「魔獣狩り」は危険すぎたので、今年は「昆虫採集」に変更ですよ。」
生徒「やったー!」
勇者「…いや待て、そんなうまい話があるわけない!気づくんだ貴様ら!」
生徒「ハッ!!」
盗子「そういえば最近…西の小島で巨大昆虫が大量発生してるとか…。」
賢二「あぁ…確かそれで村が壊滅の危機だとか…。」
教師「そうなんですか?じゃあそれで。」
生徒「やってもうたーー!!」

今年の夏も休めない。

 

68:計画〔5歳:LEVEL2〕
宿題発表の後、俺は仲間を募り宿題攻略の作戦を立てることにした。
集めたのは賢二、盗子、姫ちゃんの三人。他の奴らはまだ実力わからんので却下。
勇者「やはり「勇者」としては、全昆虫を駆除するべきだと思うんだが…」
盗子「無理!絶対無理!」
勇者「あぁ、俺もお前は無理。」
盗子「わーん!死んでやるー!」
賢二「こ、こっぴどい…。」
姫「楽しいピクニックになりそうだね。」
盗子「楽しくないしそもそもピクニックじゃなーい!」
勇者「楽しみだな、ピクニック…。」
盗子「ヒイキだー!」

作戦を決めてください。




・強気に攻めろ
・頭を使え
・逃げ回れ
・運良く生き残れ

 

69:選択〔5歳:LEVEL2〕
話し合いの結果、夏休み初日に早速旅立つことにした俺達。
どうせやらねばならんのなら、早めに済ますに越したことはないからだ。
その朝、俺が一足先に港に向かうと、そこには既に他グループの奴らも数人いた。
勇者「よぉ!お前らも今日発つのか?」
少年「ああ。逃げるなら今だ。」

その手もあった。

 

70:集合〔5歳:LEVEL2〕
学校を恐れた奴らは大陸行きの船で逃げて行った。家族とかどうするのだろうか。
盗子「やっほー!勇者おまたせー!」
賢二「ごめん、ちょっと遅れちゃった。」
勇者「死ねばいい。」
姫「自転車に乗り遅れちゃった。ごめんね。」
勇者「それは大変だったな。許しちゃう。」
盗子「だから扱いが違…ってゆーか自転車には乗り遅れないよ!」
賢二「あ、ちょっと勇者君!先生がいる…。」
賢二が指差す方向を見ると、そこには確かに教師の姿が。でも一体何しに…。


チュドーーーン!!(バズーカ砲)

あ、あの方向には…。

船の残骸がある。

 

71:出港〔5歳:LEVEL2〕
教師が張る港を後にし、俺達を乗せた船は港を出た。
勇者「まぁみんな安心しろ。俺のこの武器さえあれば何も心配は要らん。」
盗子「でもさ、また前みたく親父にリュックいじられてるなんてことが…。」
勇者「フッ、大丈夫だ。そうならぬよう親父には昨夜、一服盛っておいた。」
盗子「マジでー?まぁあの親父なら猛毒盛っても死ななそうだけどね!アハ☆」
勇者「ああ、死ななかったよ。」
盗子「猛毒盛ったのかよ!」
勇者「てなわけで、今回は準備万端な俺の武器コレクションを見よ!」

チョメ太郎「…ポピュ?」

とんだ伏兵が現れた。

 

72:持物〔5歳:LEVEL2〕
武器の代わりにリュックに詰まっていたチョメ太郎。寝相とかそういう次元じゃない。
おかげで俺の作戦はすべてパー。あとは他の奴らに期待するしかないわけだ。
盗子「アタシ「盗賊の腕輪」を持ってきたよ。コレがあれば素早さ上がるんだから!」
勇者「攻撃に役立つものは?」
盗子「はぁ?それってさ、か弱い女の子に期待するもの?」
勇者「帰れ。」
賢二「僕は「魔導符」を持ってきたよ。家財道具とかいくつか売ったんだよ!」

〔魔導符〕
書かれた呪文を読み上げることで、
未修得の魔法であってもMP消費のみで使うことが出来る呪符。
ただし、一度使うとなくなる。

勇者「MPは?」
賢二「足りない…。」
勇者「死ね。」

姫は手ブラだ。

 

73:到着〔5歳:LEVEL2〕
西の小島に到着。大発生と聞いていたのだが、とりあえず港に敵の姿は無かった。
恐らく壊滅的被害を被っているという「ニシコ村」にでも陣取っているのだろう。
勇者「よーし、んじゃ早速戦地へと赴くか!」
盗子「ちょーっと待ったー! あのさ、先に港町で武器とか調達した方が良くない?」
勇者「なるほど、それもそうだな…盗子のクセに生意気な。」
盗子「なにをー!?」
賢二「MPを増幅できる道具さえ売ってれば…。」
姫「私もハチミツとか買いたいよ。」
盗子「木に塗る気かよ!」
勇者「そうか!昆虫なだけに!」
賢二「うぅ〜ん…ま、まぁ確かに相手は昆虫だから何かの役には立つかも…。」
勇者「というわけだ。とりあえずハチミツ屋を探すぞ。」
姫「パンも忘れずにね。」
盗子「やっぱアンタ用かよ!」

大好物だった。

 

74:遭遇〔5歳:LEVEL2〕
街にはろくなアイテムが無く、結局ハチミツとパンだけを購入した俺達。
仕方なくそのまま村を目指して歩いていると、途中の山道で行き倒れに遭遇した。
勇者「貴様、ニシコ村の村人か?つーか生きてるか?」
村人「返事が無い。ただの屍のようだ。」
盗子「返事しちゃってるよ!むしろ元気そうだよ!」
賢二「大丈夫なんですか?虫達に酷いことされたんじゃ…。」
村人「ええ、かなりヤバいです。死ぬかもしれません…虫野郎どもめ…くっ!」
盗子「えっ…!ね、ねぇ大丈夫!?ねぇ!?」

村人「水虫が死ぬほど痒くて。」
盗子「死んでしまえ!」

ただの無駄骨のようだ。

 

75:村話〔5歳:LEVEL2〕
妙にナメた態度の村人を救った俺達は、とりあえずそいつに村の話を聞いてみた。
勇者「んで?状況はそんなにヤバいのか?」
村人「ハイ、かなり痒いです。」
勇者「水虫の話じゃねーよ!村のことだ!」
村人「あー、そっちの話ですか。もう完全に占領されちゃいましたよ。」
勇者「やはりそうか。急がねばならんな。」
賢二「でも、ある程度対策を立てないと…。敵はどんな虫なんですか?」

村人「水虫です。」
それが最期の言葉となった。

 

第六章