第一章

 

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0時ジャストに扉が開き、外に出ると…そこには屋敷の中とは思えない光景が広がっていた。
拳次「お、オイオイオイオイなんだよこのジャングルみてぇな感じは!?家ん中じゃなかったっけ!?」
藍流「なるほど…まぁ、魔法だなんだって状況だ、フィールドが現実離れしてても不思議じゃないか。」
藤子「とりあえず、近くに敵は見えねぇみてぇですね…。どうします?」
拳次「まぁ安心しろよ、何かあったらこの『竹刀』でなんとかしてやる!」
藍流「3枚しかないってのにためらいなく使ったなお前…。ま、当面は杖の役にしか立たんと思うが。」
藤子「開始前から手負いとか最悪もいいとこですよ!走ることもできねぇですし!」
藍流「シッ!静かに…!」
藤子「えっ、ななななんです!?敵ですかっ!?」
藍流「いや、やかましいなぁと。」
藤子「アンタがやかましいですわ!!冗談言ってる場合じゃ…」
拳次「ッ…!いや待て、マジでやべぇ…!!」
拳次は二人を突き飛ばした。
元いた場所に矢が突き刺さる。
声「へぇ〜、今のを避けるなんて…探知系の魔法か何か使ってるのかなぁ?」
藤子「チッ、マジで敵ですか…。思ったより早い遭遇ですねぇ…!」
少年「僕は『智人(チート)』。早速で悪いけど、お兄さん達…ここで終わってもらうよ♪」
生意気そうなガキだった。

 

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どこからともなく襲撃してきたのは、智人とかいう小学生くらいのクソガキだった。他の姿はまだ見えないが、スタートからの経過時間を考えるときっと近くにいるのだろう。
拳次「ゼェ、ゼェ、と、とりあえず撒いたはいいが…どうするよ藍流?」
藍流「ふむ、まずは現状分析だな。敵のうち一人は小僧、敵カードのうち1つは『弓矢』でいいだろうが、見たところ持ってはいなかった…近くにもう一人はいたな。少なくともその程度の連携は取れているわけだ。」
拳次「弓矢か…いくら俺でも飛んでくる矢を竹刀で打ち落とすみてぇのはキツいぜ。」
藤子「てゆーか人に向かって矢ぁ撃つとかありえねぇんですけど!死んだらどうすんだって話ですよ!これだからゲーム脳のクソガキは…」
藍流「いや、「瀕死になったら監獄ルームへ」っていうルールからすると、死ぬほどの何かをやっても死ぬことはない気もするぜ?つーか、そう考えんとやりづらい。」
藤子「な、なるほど…確かにそうかもですね!だったら細かいことは考えねぇ方向で、豪快にやっちまいましょうか!」
拳次「だな。まぁあんなガキが前線に出てくるようなチームなら、俺らが本気出しゃ一瞬で…」
藍流「…いや、ナメてかかるべきじゃない。この手のゲームは、ガキの方が適応力が高いもんだ。過去の遊びの経験から組み立てて、俺達には想像できん手を打ってくる危険性がある。」
藤子「だ、だったらどうするってんです!?このままチンタラしてたら時間切れですよ!?」
藍流「拳次をオトリに時間を稼ぐ。」
藤子「鬼ですかアンタは!?アンタら友達なんじゃねぇんですか!?」
拳次「オトリか…フッ、腕が鳴るぜ。」
藤子「って鳴っちゃうですか!?ドSとドMの素敵なご関係ですか!?」
藍流「大丈夫だ、コイツの運なら何発か食らっても死にはしないだろう。」
藤子「食らわない名案あっての話じゃなくて!?」
藍流「よーし、さぁ逝ってこい拳次!」
拳次「任せろ!!」
拳次は颯爽と這っていった。

 

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いつまでも隠れていては時間切れになるだけなので、とりあえず拳次を派遣してみることにした。奴の強運をもってすれば、少なくとも何か面白いことにはなるだろう。
藤子「行かせる方も行かせる方ですが、行っちまう方も行っちまう方ですよね…。」
藍流「余所見をするな。奴の役目は全ての敵をあぶりだすこと…。俺達は、それを見逃さず討たねばならん。もししくじったら、死んだアイツも浮かばれんぞ?」
藤子「前半は同意ですけど後半のドライな先読みはスルーしていいもんです!?」
藍流「さっきも言ったろ?死にかけたら『監獄ルーム』…だが放っておいたら死ぬと考えると、何かしらの回復手段があると見ていいだろう。つまり、その方がアイツは今よりも元気になれるんだよ。」
藤子「た、確かにわからんでもねぇ理屈ですが…確証も無ぇのにリスクが高すぎじゃねぇです…?」
藍流「ま、バカは死ななきゃ治らんとも言うしな。」
藤子「結局助けたいのか死んでほしいのかどっちです!?」
藍流「まぁそれはそれとして…ときに藤子よ、お前何か攻撃向きのカードは持ってないか?」
藤子「呼び捨てを許した覚えはねぇですが…まぁいいです。でもカードだけは教えねぇですよ、人に聞きたきゃまず自分の手の内を明かすべきですねぇ。」
藍流「ふむ、実はな…俺のは『割引券』と『福引券』と、『肩叩き券』だった。」
藤子「せめて嘘でもそれっぽいモン挙げてくんねぇです!?」
藍流「時間が無いんだ、早くしろ。拳次の面白い死に際に間に合わない。」
藤子「動機は不純ですが…わかったですよ。とりあえず1枚、『[魔]突風(スコール)』ってのがあったです。」
藍流「なるほど、突風か…使えそうだな。ならば俺が合図したら使うがいい。」
藤子「ハァ!?なんでそんな命令に従わなきゃなんねぇです!?フザけんじゃねぇですよ!」
藍流「おめでとう、拳次が化けて出るなら…きっとお前の所だ。」
藤子「えっ…!?」
藤子は従わざるを得ない。

 

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そうこうしている間に拳次が視界から消えてしまったため、俺達は仕方なく追いかけることにした。
藤子「だ、大丈夫なんですかねあの人…?もうやられちまってるんじゃ…?」
藍流「ん?ギャーギャー聞こえるしまだ大丈夫だろ。」
藤子「悲鳴を上げる状況は十分大丈夫じゃねぇと思うですが…。」
藍流「怯えるな。俺の予想が確かなら、恐らくまだ死ぬほどの目には遭わん。」
藤子「へ?なぜです??」
藍流「しばらく経った後ならまだわかるが、一部屋目を出てすぐ…ルールの多くが不明瞭な状況で、いきなり殺す気で矢なんか放てると思うか普通?」
藤子「いや、アンタならできそうな気が…。」
藍流「安心しろ、俺は普通じゃない自信がある。」
藤子「それはそれで一緒にいる身としては安心できねぇですが…。あっ、でも弓道経験者で自信があったからって線は無ぇですか?」
藍流「もし仮に経験はあったとしても、100%殺さない自信でもない限り、人に向かって撃ったりなんかできんだろう?」
ドシュッ!(刺)
矢が足元に突き刺さった。
藤子「って、言ってるそばから撃たれてますけど!?」
藍流「ああ、撃たれたな。最初に撃たれて以降、逃げ切る前にも何発か…全て足元に、な。 漫画じゃないんだ、そんな精度で撃てる奴なんているわけないだろう?」
藤子「な、何が言いたいです…?」
藍流「ま、超至近距離からってんなら…話は別だがな。」
藤子「へ…?」
声「…ほほぉ、いつ気づいた?」
藤子「えっ!な、なんです今の声!?どこから…!?」
藍流「あまりに狙いが良すぎるんでな、途中から矢の出所をうかがってたんだが…何発か、壁の方から飛んできたのがあったんだよ。どうせなら、茂みの方とかもっと人が隠れていそうな方面から狙うべきだったな。」
声「ほぉ、なかなかの観察眼じゃ…じゃがしかし、もしも魔法の矢だったら?遠隔操作可能な魔法の矢…この世界なら、そういう場合もあるじゃろう?」
藍流「フッ…」

…その発想は無かった。
危ないところだった。

 

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運良く予想が当たり、敵の爺さんを炙り出すことに成功した俺。危ういところだったが、まぁ結果的にうまくいったのだから気にすまい。
老人「やれやれ、どうやらちょうど『[魔]透明(クリア)』の効力も切れたようじゃな。矢の方も無くなってしもうた。」
藍流「やはり透明化の魔法だったか…。ところで爺さん、名前は?」
老人「ワシか?ワシは『弦十郎(ゲンジュウロウ)』、かつては弓道の師範をしていた頃もあるが今は隠居のジジイよ。貴様は?」
藍流「俺の名は『メソポタミア三世』、ブラジルと南極のハーフだ。」
藤子「なんで真顔でそんなあからさまな嘘つけるですか!?しかも南極て!メソポタミアとも全然関係無ぇですしっ!」
弦十郎「のぉメソポタよ、おヌシ…ワシと手を組む気は」
藍流「無い。」
藤子「早っ!!もうちょい考えてあげてもいいんじゃねぇです!?」
藍流「鬼になれん奴はこの先ついて来られまい。足手まといは不要だ。」
弦十郎「フォフォフォ、こっぴどいのぉ。じゃからこそ、改めて頼みたい。その表裏の無い性格は信用できる。」
藤子「いや、正解は「“裏”しか無ぇ」ですがね…。」
藍流「ふむ…なぜだ?老い先短いジジイの分際で、なぜこんな危険なことをしてまで金を求める?」
弦十郎「フォフォ、単純なことじゃわい。借金があるのじゃよ、ちょうど一千万…積もりに積もった、ビデオの延滞料金がのぉ!」
藍流「豪快だなオイ!何をどれだけどうやったらそんな事態に陥るんだ?」
弦十郎「むろん、全てアダルトじゃて!!」
藤子「ジャンルは聞いてないし!ってか無駄に若ぇですね爺さん!」
藍流「ふぅ、ここに拳次がいなくて良かったぜ。奴なら「エロは年齢も国境を越える!」とか言い出しそうだ。」
弦十郎「で、どうじゃろう?この憐れなジジイに、手を貸してはくれんかのぉ?」
藍流「フッ…いいだろう。むっつりスケベは信用できんが、がっつりスケベは信用できる。」
藤子「アンタも似たようなもんじゃねぇですか!」

ま、こうはなりたくないが。
確かに悲惨な老後だった。

 

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敵の戦力も削げて一石二鳥ということで、とりあえずエロ爺さんとは一時休戦、一旦お供にしてやることにした。裏切ってくる危険性もあるが、もしそうなったらすぐさま遺骨にしてやる。
藍流「ときにエロ爺、アンタのチームの残りのメンバーは?やはり三人なのか?」
弦十郎「そうじゃ。一人は『智人』とかいう小学生の坊主、もう一人は二十歳くらいの太った娘で、名は…確か『丸実(マルミ)』じゃったか。」
藍流「デブか…残念だな。」
弦十郎「夢も希望も無いのぅ。」
藤子「容赦無ぇですねアンタら!ってか別に痩せりゃいいだけの話じゃねぇです!?」
藍流「フン、わかってないなお前。痩せれないから太ってんだよ!!」
弦十郎「ふむ、深いのぅ…。」
藤子「い、言いますねアンタ…。全国のおデブちゃんを敵に回すと生きづれぇですよ…?」
藍流「そういう奴は、アレだ。仮に痩せたとしても、歳をとり女であることを忘れたら高確率でまた太るな。「だが心しておけ、いずれ第二第三の俺が」的な感じで去っていった脂肪が再び降臨するわけだ。」
藤子「いや、脂肪ってばそんな大魔王的な存在じゃねぇですよ!?」
弦十郎「うむ。「奴を倒したくらいで調子に乗るな、奴は四天王の中でも最弱…」的な。」
藤子「四天王でもねぇし!ってか感性若ぇですね爺さん!」
藍流「で、つまりだ!!」
声「もうヤメてぇえええええ!!」
藤子「へ…?」

丸実「も…もうヤメて……えぐっ。」
知らぬ間に心理戦だった。

 

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作戦が面白いようにハマり、二人目の炙り出しにも成功した。相手がバカで良かった。
丸実「ひぐっ、えぐっ、も、もう酷いこと言わないで…お願いだから…ぶひっ。」
藤子「いや、だったら最後の鳴き声は逆効果なのでは…って、もしや気づいてたですかアンタ!?」
藍流「フン、チラチラ見切れてたんだよ。あんなので隠れてるつもりなんだから笑わせる。」
藤子「じゃあ彼女がいるの知ってて…?ってことはさっきまでのおデブ批判は…?」
藍流「ん?バカかお前、人を見かけで判断するなんて最悪じゃないか。」
藤子「初対面で人をブサイク呼ばわりしといて何言ってんですかブチ殺しますよ!?」
藍流「フン。「好みじゃない」は悪口じゃない、単なる事実だ。」
藤子「な、なんですとぉーー!?」
藍流「俺に言わせりゃお前の方が鬼だがな。さっきお前は「痩せればいいだけ」と言ったが、それは特に気にしないでも体型を維持できちまう人間だけが言える、心無いセリフだぞ?多くの者が苦しみ悩み、諦めた者から肉の鎧を纏っていくんだ。」
藤子「う、うぐぅ…。」
藍流「確かに俺は痩せた子が好きだが、太るにも体質だったり病気だったり心理的なものだったり、事情もあるだろう。何も知らずに否定するほど俺は愚かではない。ま、何の努力もしない怠惰な」
丸実「えぐっ、一千万が…痩せる薬が…。」
藍流「やっぱお前養豚場へ帰れ。」
丸実「ブヒィーーー!」
弦十郎「で、どうするんじゃメソポタよ?この子も連れて行く気かえ?」
藍流「ああ。この表面積なら、いい盾になるだろう。」
丸実「い、いやぁああああああ!そんな…そんな目に遭うくらいなら、私…逃げるぅうううううう!!」
藍流「ば…バカ待てそっちは…!」
丸実は突き当りを右に曲がった。
そして炎に飲まれた。
丸実「ぶ…ぶひぃいいいいいいい!!
藤子「うわーーー!?えっ、なになになんなんですなんで炎が!?チッ!仕方ねぇです、出てきやがれ『[召]水蛙(ウォーター・フロッグ)』!」
水蛙「ゲロゲェーロォーーー!!」
弦十郎「まずいぞ急ぐんじゃ!服が燃え上がって…おぞましき三段腹があらわに!!」
藍流「あのスタイルでストリップショーか…見るに堪えんな。さすがの俺でも擁護できんぞ。」
藤子「デリカシー持てやアンタら!!」
水蛙「・・・・・・・・。」
蛙はゲロのように水を吐いた。

 

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水蛙のおかげで焼死こそ免れたものの見事に丸焦げになりかけた丸実は、しばらくもだえた後にフッと消えてなくなった。ちなみに水蛙も疲れ果てたように消えた。
弦十郎「ふむ、消えてもうたのぉ。なるほど、『監獄ルーム』とやらの話は本当じゃったということか。」
藤子「って水蛙アレだけです!?なんちゅー役立たずな奴ですかもうっ!」
藍流「それにしても今の炎…まさか、伝説の魔法『[魔]焼豚(チャーシュー)』か!?」
藤子「そんなピンポイントな魔法無ぇですよ!?アレってまさか、あの骨折野郎が持ってた『火炎(ファイア)』じゃ…」
弦十郎「む?そういえば、先程からの悲鳴が消えたのぉ。」
藍流「ッ!! まさか…!!」
藍流は炎が噴き出してきた道へ出た。
なんと!血まみれの拳次が転がっていた。

藍流「け、拳次…!ちくしょう、見損ねた…!」
藤子「いざ目の当たりにしてもなおそれですか!?真性のドS野郎ですか!?」
智人「アハハハ!あ〜遅かったねぇお兄さん達、もっと早く来れば良かったのに〜。面白かったんだよこのお兄さん♪」
藍流「フン、この俺を前にして逃げ出さんとは…さっきに続いてやはりいい度胸だなぁクソガキ。 ならばどう面白かったのか教えてもらおうじゃないか!笑えんかったらブチ殺すぞ!?」
拳次「こ、小僧…テメェ…!」
藤子「あっ、まだ生きてるです!一体何がありやがったですか!?」
拳次「な、長い付き合いだ…俺にはわかってたぜ藍流の考えは…。敵を炙り出そうってんだろ…?だから使ったのさ、『[召]猟犬』を…人の気配がしたんでな…。」
智人「そしたら、自分が真っ先に襲われてるんだもん!キャハハハ!!」

フッ…マズい、怒るに怒れん。

藍流は笑いが止まらない。

 

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より一層満身創痍になりつつも、なんとかまだ生きてるっぽい拳次。俺の勘が確かなら、多分コイツの前世はゴキブリだ。聞けば『猟犬』には裏切られ、『火炎』は奪われ散々だったようだが、面白かったので良しとする。
藍流「よぉ拳次、無事なようでなによりだ。」
拳次「フッ、まあな。(※血まみれです)」
藤子「いや、どう見ても“無事”じゃねぇですよね!?“惨事”ですよね!?」
智人「あ〜〜!なになにお爺ちゃん、そっち寝返っちゃったわけー!?なんだよ最悪じゃーん!」
弦十郎「フォフォフォ、おぉ悪いのぅ。求めるは少々ゲームが得意な小僧より、わずかなオッパイじゃ。」
藤子「って何がわずかですかナメんじゃねぇですよ!も、もうちょっとあるもん!!」
藍流「つーか俺じゃなかったのか!俺の知略に惹かれた的な感じじゃないのか!」
拳次「オイオイその前に大丈夫かよ?敵だった奴だろ信じられんのかよこの爺さん?何者かわかってんのか?」
弦十郎「エロスの伝道師じゃ。」
拳次「オーケー信じるぜ!!」
藤子「やっぱ単純ですねオイ!えっ、男ってみんなこんな感じなんです!?」
藍流「とまぁ…そういうわけで、4対1だ。いくら自信があろうとも、この戦力差は圧倒的だろう?」
智人「ん〜、そうでもないんじゃない?僕はまだ3枚残してるし、その瀕死のお兄さんはさっきのでもう3枚目でしょ?」
拳次「な、なんだとぉ!?誰が三枚目だ!!」
藍流「いや、いろんな意味で的確だろ。」
智人「でもまぁ確かに、4人はちょ〜っと多いかな〜。てなわけで、少しだけ…減ってもらおうかな♪」
智人は『[召]黒虎(ブラック・タイガー)』を使った。
黒虎「グルァアアアアアアアア!!」
藍流「・・・・・・・・。」

ふむ、ダメかもしれん。
一気に形勢が傾いた。

 

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智人が召喚したのは、どう考えても人間が勝てる相手じゃなかった。人数的に不利な割に、やけに余裕だった理由はこれか。
拳次「オイオイオイオイこりゃ反則だろオイ…!こんな殺人的なカードまであるってのかよ…!」
藍流「チッ、名前通りのチート野郎だな…。おいエロ爺、アンタまだ召喚残ってるだろ?何がある?」
弦十郎「む?確か『[召]黒豚(ブラック・ピッグ)』とかいうのじゃったが、もう無いぞい?」
藍流「なっ、いつ使った!?俺ら見てないぞ!」
弦十郎「うむ、最初にのぅ…軽く揉んどいた。」
藤子「なんちゅー用途に使ってやがるですかアホですか死ねばいいのにっ!」
藍流「チッ、そうなると俺が3枚藤子が2枚、あとは拳次の竹刀だけ…ホントに大差無ぇじゃねーかオイ。」
智人「さ〜て、どうしよっかな〜?誰から餌になっちゃいたい〜?」
弦十郎「餌か…そうなると、賞味期限切れのジジイの出る幕じゃないのぅ。」
藍流「そういうことなら程よく血抜きされた拳次が適任だな。よっ!この食べられ上手ぅ!」
拳次「いやいや、いくらノリのいい俺でもさすがにそこには乗れねぇぜ…!?」
智人「ねぇねぇどうするのー?決めてくんないなら適当に襲わせちゃうよー?」
藍流(…藤子、俺が敵の目を引き付ける。合図をしたら例のものを使え。)
藤子(えっ!わ、わかったですが…大丈夫ですか!?死にゃしねぇです!?)
藍流「フン、安心しろ。俺は一見頭脳派な割に、いざって時には行き当たりばったりなタイプだ。」
藤子「やっぱり全然安心できねぇんですが!?」
藍流「よぉおおおおし!いくぞぉおおおおおおお…じゃなしに、行けぃ拳次ぃいいいい!!」
藍流は拳次を放り投げた。
智人「あれぇっ!?」
藤子「確かに目は引き付けましたが他人を使うとかアリですーー!?」
黒虎「ガルァアアアアアアアア!!」
藍流「いいからやれぇ藤子!今なら虎とガキと拳次が、一直線に並んでる!」
藤子「なんか一人余計な気がしますが、いいんですよね!?えぇーーーい!!」
藤子は『突風(スコール)』を使った。
黒虎と拳次は吹き飛ばされた。
ドガァアアアアアン!!
拳&虎「ぐへぇええ!!
藍流「チッ、なぜガキは避けて…まぁいい、まずは確実にコイツに、トドメを刺す!」
拳次はピクピクしている。

 

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うまいこと策がハマり、黒虎と拳次には大ダメージを与えることができた。完璧なタイミングだったのにガキが食らってないのが若干解せんが、まずは敵を減らすのが先決だ。
藍流「よし!あとは俺に任せろ拳次、安らかに眠れ!」
黒虎「グル…ル…グルァウウウ!!
藍流「…と思ったが、俺に任せず起きろぉ拳次ぃ!!」
藤子「とことん自分の手は汚さない主義なんですね!?とんだチキン野郎ですねアンタ!」
藍流「なっ!?誰がチキンだ失敬な!現実主義と言うがいい!」
藤子「確かに普通の人なら逃げる状況ですが、でも…」
藍流「と見せかけて…!!」
智人「あっ!戻って黒虎!!」
藍流「なっ…チッ、だが今さら退けん…!『[道]爆弾(ボム)』!!」
ドッゴォオオオオオオオン!!(爆発)
ミス!一瞬早く、黒虎はバインダーに戻された。
藍流「ちくしょう!テメェ…何かやってやがるな?例えば、人の心を読むような…何かを!」
智人「アハハハ♪あ〜バレちゃった?結構使えるんだよね〜、この『[魔]切札(トランプ)』ってさ♪」

なんなんだコイツ…運営に親でもいるのか?
戦地に送る親もどうかと。

 

20
途中で感じた嫌な予感はどうやら当たっていたらしく、頼みの綱だった爆弾でトドメが刺せなかった。まさか虎よりも厄介なカードを持ってやがるとは思わなかったぜ。
藍流「ったく、やれやれだな。折角の奥の手が…これで振り出しだ。」
藤子「てゆーか、あんなカードあるなら言っとけですよ!ビビッたっつーの!」
藍流「フッ、よく言うだろ?「敵も騙すし味方も騙す」と。」
藤子「えっ、そんな最低野郎の生き様っぽい言葉でしたっけ!?」
智人「さぁ、もう一回行っておいで『黒虎』!もう殺しちゃっていいよ〜♪」
黒虎「グルァアアアアアアアア!!」
藍流「ばっ…なにボケーっと突っ立ってやがる!?クソがっ!」
なんと!藍流は藤子を庇った。
藍流「うぐっ…! フッ、虎の一撃をかわせるなんて、俺もなかなか漫画じみたとこがあるじゃ…ぐっ。」
藤子「な、なんで助けたです!?アンタそういうキャラじゃ…」
藍流「べ、別にアンタのためじゃないんだからね!勘違いしないでよねっ!」
藤子「そんなキャラでもなかった気が!!」
藍流「…フン!今は一人でも多く味方が欲しい時だからな、あっけなくやられてもらっちゃ困るんだよ。それだけだ。」
藤子「そ、そですか…わかったです!この借りは返すですよっ!」
藍流「ならばよく聞け藤子よ。さっきから奴は、さりげなく手の中の何かを覗いていた。『切札』という名からして、そこに俺達の作戦が記されていると見ていいだろう。」
智人「おぉ〜大正解!あったまいいね〜お兄さん♪ でもさ、それがわかったからってどうしようもないよね〜?」
藍流「そう、守ってばかりじゃ埒があかん…よし!全員バラバラに突撃して活路を見出すぞ!俺は右に、藤子は左に、エロ爺は…いない!なぜだっ!?」
藤子「あ、あんのクソジジイ…!一人で勝手に逃げくさりやがっ…あっ!」
黒虎「ガルァアアアアアアア!!」
藍流「ヤバい、今度は間に合わな…」
グサッ!!(刺)
なんと!黒虎の脳天に矢が突き刺さった。
黒虎「ギャアアアアアアアアアア!!
智人「えっ!?そ、そんな…!」
藍流「…チッ、矢も無くなったってのは嘘だったのかよ…この狸ジジイめ。」
弦十郎「フォフォフォ。騙し騙され…そういう類は、年季がモノを言うものよ。」
信頼していいやら悪いやら。

 

21
爺さんの会心の一撃が命中し、黒虎は悲鳴と共に消え去った。エロ爺の分際で偉そうなのがなんかムカつくが、まぁ助かったので許してやろう。
弦十郎「やれやれじゃ。人でないとはいえ、やはり生き物を射るのは辛いのぅ。」
藤子「で、でもなんであの子に作戦読まれなかったです…?」
藍流「…なるほど、“射程距離”か。俺としたことが迂闊だったぜ、確かに無い方が不自然だ。それで少し離れて機をうかがってたってわけだな…。だがもう少し早く撃てなかったのか?」
弦十郎「いや〜、この歳になるとキレが悪くてのぉ。」
藤子「小便してんじゃねぇですよ!生きるか死ぬかって時に何やってるです!?」
藍流「いや、むしろ小便が先で作戦は後付けだったんだろう。でなければ、射程を出る前に気づかれていたに違いない。」
藤子「ハッ!もしかして召喚カードの話も嘘で…」
弦十郎「いや、アレはガチじゃ。」
藤子「嘘であってほしかったですガチで!」
智人「…あ〜あ。あーあ!やられちゃった!つまんないつまんないつまんなーい!」
藍流「フッ、どうやらご機嫌斜めらしいな。まぁそりゃそうだろう、あんな強そうな虎」
智人「もうみんな死んじゃえよ!死んじゃえよ『[道]機関銃(マシンガン)』!!」
藍&藤「って嘘だぁーーーーーー!!」
ズガガガガガガガン!!(乱射)
藍流は死を覚悟した。
だが藤子が『[道]大盾(ビッグ・シールド)』を使った。
藤子「ゼェ、ゼェ、ま、間に合った…です…!」
藍流「で、でかした藤子…今のは不本意ながら褒めざるをえんぞ…。にしても、あのガキ…3枚ともとんでもないカードじゃねぇか…!」
弦十郎「だがどうするんじゃ?このまま動けんようじゃ、弾が尽きるが早いか盾が消えるが早いか…」
藍流「盾三枚か…確かに心もとないな。」
藤子「残り二枚は誰です!?」
藤子はわかってて聞いた。

 

22
敵の機関銃の前に、俺達は防戦一方。盾を押しつつジリジリ距離を詰めてはいるが、このペースでは先に盾が砕けちまうかもしれん。だが、もはや他に策は無い。
藤子「ど、どーするですか?このまま押してってどうにかなるです?近づいたらかえって危険じゃ…」
藍流「我に秘策アリだ、このまま奴の方へ突っ込むぞ!全力で押せぇーーー!!」
弦十郎「了解じゃ任せぃ!むぐぐぐぐ…ぬぉおおおおおおおお!!」
藤子「で、でもまた作戦読まれちまうんじゃ…?」
藍流「あの銃の反動はガキにはキツそうだ、加えてあの錯乱状態…カードを確認する余裕は無いと見た。今がチャンスなんだ!」
藤子「な、なるほど…って、ヤベェですもう盾が限界みてぇです!!」
藍流「なにぃ!?使えん盾め…仕方ない、全員飛べぇーー!!」
三人は盾の陰から飛び出した。
その直後に盾は砕け散った。
智人「あ〜良かった♪壊せなかったら危なかったなぁ〜。 で、どうするの?そんな木陰から何ができるのぉ〜?」
藍流「チッ、止むを得ん…少し距離があるが、使うしかない!!」
智人「プッ…プププ…キャハハハ!甘いね気づいてるよ!お兄さん最初っから考えてたじゃん、「いざとなったらヒールを使う」ってね!」
藍流「なっ…!?」
藤子「そうか!その魔法で骨折野郎を治して後ろから…ヤバいしバレてるしっ!」
智人「だったらまず先に、こっちのお兄さんの息の根を…」
藍流「…フッ、やはりその程度の情報か。ならばこの勝負、俺の勝ちのようだな。」
智人「ハァ?なに負け惜しみ言って…」

藍流「出てこい!『[召]悪役(ヒール)』!!」
悪役「やんのかオラァアアア!!」
智人「えぇーーー!?」
まさかの同音異義語だった。

 

23
予想通り予想外だったらしく、これまで一貫して余裕ぶっていた智人もさすがに動揺した模様。さらに連続で乱射してきやがったため悪役は派手に散ったが、おかげで残弾も尽きたようだ。
藍流「つーわけで、これからお前を公開処刑する。覚悟するがいい。」
智人「ちょ、ま、待って!まだだよ!まだもう一個、マガジンがあるんだ!取り替えればまた…」
藤子「えっ、マジです!?なにその反則並みに手厚い感じ!?」
藍流「フン、やってみるがいい。所詮は素人…この距離なら、お前が手間取ってる隙に俺の攻撃が先に当たる。」
智人「ハァ!?何言っちゃってんのぉ!?そんな距離一瞬で詰められるわけないじゃん!どう考えても僕の方が早いし!」
藍流「ならば見てみたらどうだ?この俺が、どんな切札を隠し持っているのかを。」
智人「あ、あぁそうだったねウッカリしてたよ!アハハ、バカだねぇお兄さん♪敵に情報与え…えっ…いざとなったらヒールを…えっ!?なんでまだ同じなの!?」
藍流「フッ、つまりは…こういうことだ。」
藍流は『[魔]治療(ヒール)』を使った。
拳次が元気に飛び起きた。
智人「そ、そんな…ちゃんと“そっち”も、持ってたなんて…。」
拳次「おっと動くなよ小僧?動けばこの竹刀が、お前の初めてを奪っちまうぜ?」
藤子「お子様になんてことをっ!」
藍流「さぁクソガキ、好きな方を選ぶがいい。時間切れで監獄ルームへ行くのと、痛い目を見て行くの…どっちがいい?」
 智人は軽くチビッた。

 

24
4人がかりで、なんとか倒すことができた智人。連れて行くべきか迷ったが、戦力的に得するよりも裏切られて損する可能性の方が高そうなので、先にリタイアしてもらうことにした。 なお、どっちの方法をとったかは秘密だ。
藍流「エレベーターか…これで上がればこの階はクリアーって感じか。」
籐子「ふぅ、良かったです…。もうみんなカード使い切っちゃってるから、敵が来てたらヤバかったですね…。」
拳次「おっと、まだ俺の竹刀は生きてるぜぇ?ナメてもらっちゃ困るぜ!」
弦十郎「にしても、メソポタの作戦はなかなかじゃったのぅ。最初からどこか余裕があったのは、あの治療魔法のおかげじゃったわけじゃな。」
藍流「まあな。仮にやられても、即死じゃない限りなんとかなると思えば大胆にやれたよ。」
籐子「だから骨折にも厳しかったんですね!ホントにヤバくなったら回復させるつもりで…」
藍流「…ん?」
籐子「鬼です!やっぱ鬼ですよこの人!こんなのとこの先も一緒とか…」
藍流「うぐっ!さっき虎にやられた傷が…!誰かさんのせいで負った傷が…!そんな自分より拳次を治した俺を鬼呼ばわりとは…!鬼だ…俺の目の前にこそ真の鬼がいる…!」
籐子「む、むぎゅうううう〜!」
拳次「やめとけよフジコちゃん、コイツに口で勝つには悪魔に魂売る覚悟がいるぜ?」
籐子「う、うるさいです骨折!私は…アンタらなんかには絶対に屈しないもん!」
拳次「ってかさ、いい加減名前呼んでくれよフ〜〜〜ジコちゅあ〜〜ん♪呼び捨てでいいからさぁ?」
籐子「だからフジコちゃん言うなです骨折!アンタなんかまた折れちまえばいいのに!」
藍流「さて、じゃあぼちぼち乗るぞ。ここで時間切れになったらマヌケだしな。」
弦十郎「じゃな。早く休憩ルームで休みたいわい。」
籐子「ハァ…もっとまともなお仲間さんいないですかねぇ…。」
拳次「よぉーし!次もノリノリでいってみようかーー!!」

やれやれ、これがあと4階か…骨が折れそうだ。
なんとか1Fを突破した。