〜夢の彼方まで〜

 

「夢絵本」―――
それは、ドイツの作家「ライナー・ローゼンバーグ」が描いた絵本の総称。
計三作品が発表されているが、読破されたのはわずか一作品のみである。

はぁ?読破できない絵本とかおかしくね?

そんな謎を解き明かす感じの物語が、今…適当に幕を開ける。

 

1
それはとある日のこと。
とある真っ暗な空間に、少年2人と美少女1人が閉じ込められていた。
少年の名は「アキラ」、「コウジ」、美少女の名は「シズカ」。
シズカ「なぜこのようなことになったのか…話はちょびっと前にさかのぼる。」
アキラ「いや、おもむろに変なナレーション始めないでシズカ。リアクションに困る。」
コウジ「さりげなく自分を美少女扱いなのが特にな。」
シズカ「だって〜2人とも黙ってるんだも〜ん。喋ってないとなんか怖いでしょ?」
アキラ「いきなりナレーション始める方が怖いと思うけど…まぁ可愛いから許す。」
コウジ「ウゼーよシスコン。」
アキラ「まぁ心配するなよシズカ、何が起きようと絶対に僕が守ってやるからな!」
シズカ「うん、ありがとうお兄ちゃん。大好きだから2メートル以上離れてくれる?」
アキラ「フッ、相変わらず照れ屋さんだぜ。」
コウジ「なんかお前らとなら…大丈夫な気がしてきたわ。」
コウジは勇気が湧いた。

 

2
僕の名はアキラ、歳は13歳。コウジも同い年で、可愛い可愛い妹のシズカは8歳だ。
そんな僕らが今どこにいるのかというと…うん、さっぱりわからない。とにかく暗い。
アキラ「なぜこのようなことになったのか…話は少し前にさかのぼる。」
コウジ「やっぱ兄妹だなお前ら。困った所がそっくりだわ。」
シズカ「ヤメてコウちゃん!お兄ちゃんのことはいい…でも私まで一緒にしないで!」
アキラ「そうだよコウジ。僕はともかくシズカは…お?」
コウジ「お前ら仲いいのか悪いのかドッチだ。」
アキラ「にしても…困ったねこの状況。結局ココはドコなんだろう?」
コウジ「流れから考えて、「あの本」に関係してるのは間違い無いんじゃないか?」
シズカ「あの本って…お兄ちゃんのエッチ!」
アキラ「なっ…見たのかあの本を!?バカな、アレはちゃんとベッドの上に…!」
コウジ「いや、上に置くのは斬新過ぎだろ。」
というかその本じゃない。

 

3
 話がまったく進まないので、勝手に少し前にさかのぼる。
〜教室〜
先生「え〜、というのが「夢絵本」の概要です。まだまだ謎がイッパイなのですよ。」
アキラ「なるほど…つまり、「イッパイ」の「イ」を「オ」に変えたら「オッパオ」だと?」
先生「全然わかってない人がいるようなのでもう一度言いますねクソ野郎。」
コウジ「うわヤベェ、先生がキレた…。」
先生「まず…夢絵本は、「読む絵本」じゃありません。「体験する絵本」なのです。」
アキラ「なるほど…つまり、ひと夏の体験が僕を大人に変えてくれると?」
先生「あ゛ぁ?」
アキラ「いきなり本に飲み込まれて、物語の世界へと連れ込まれるんですよね!」
先生「わかってる…なら、なおのことムカつきますね。殺す!!」
アキラは屋上から吊るされた。

 

4
先生を怒らせちゃった僕は、結局放課後まで罰を受けた。おかげで体中が痛い。
〜放課後〜
アキラ「やれやれ…。今日は先生、やけに厳しかったよな〜…いつも通りなのに。」
少女「いつもそんなんじゃそりゃキレるよ。聞いたよ?またバカやったんだって?」
アキラ「あぁ「ミサ姐(ネェ)」か。こんな時間に…ハッ、まさか好きな男の縦笛を…!」
ミサ「舐めねーからっ!普通に部活だよ部活!」
アキラ「7つ集めに!?」
ミサ「何それ願いでも叶うの!?つーか好きな男7人作る時点で大変だから!」
アキラ「まぁそっか〜。僕もシズカだけで手一杯だし。」
ミサ「それはそれで大変だけどな!」
ごもっともなご意見だった。

 

5
放課後たまたま会ったミサ姐は、1コ上の先輩。まぁ幼馴染みだからタメ語だけど。
昔から仲良しで家も近くなので、今日はそのまま一緒に帰ることにした。
でも教室から昇降口に向かうまでの…その短い間に、事件は起きたんだ。
アキラ「まさか、アイツがあんなことになるなんて…。」
ミサ「って勝手にナレーション付けんなってばウゼェ!そしてアイツって誰だよ!?」
アキラ「いや〜、なんかやんなきゃつまらないかなぁと。」
ミサ「教室出てまだ1〜2分じゃねーか!どんだけ人生に刺激求めてんのさ!?」
アキラ「学生も帰宅し、静まり返った図書室…そこで、事件は起こった。」
ミサ「だから起こっ…」
アキラ「シッ!静かにミサ姐、誰か…いる!」
ミサ「え…!?」
二人はこっそり図書室の中を見た。
なんと!昼間キレた榊(サカキ)先生がいた。
ミサ(な、なんか…マジな顔してるな。何やってんのアレ…?)
アキラ(わかんないけど、とりあえず逃げようか。多分…事件の前に先生が怒る。)
誰がウマいこと言えと。

 

6
人気の無くなった図書室で僕らが見たのは、やけに真剣な顔した榊先生。
なんか怒られそうなので逃げよう…かと思ったんだけど、そうもいかない状況に。
アキラ(ん?なんかさ、先生手に本持ってない?)
ミサ(ハァ?図書室なんだから本持ってたっておかしくないっしょ?)
アキラ(じゃあなにか?ミサ姐は動物園では動物持つのかよこの野性児め!)
ミサ(そりゃ持たねーよ!まぁ小動物的なのなら状況によっ)
アキラ(先生が動いた…!)
ミサ(聞けよ!人が精一杯突っ込んでやってんのにっ! つーか動いただけで…)

先生「アァ〜〜〜チョォオオオオオオ!!(絶叫)」
二人(え゛えぇっ!?)
二人は動けなくなった。

 

7
図書室で、いきなり謎の奇声を上げた榊先生。一体何があったんだろう?
アキラ(ど、どうしたんだろ先生…?何かイヤなことでもあったのかな?)
ミサ(いや、アンタだろ!今日で言うなら絶対アンタじゃね!?)
先生「ふぅ〜…やれやれ、これでもダメですか…。やはり他に「方法」が…。」
ミサ(ん…?どーゆーこと?何かの方法を見つけるために、色々試してた感じ…?)
アキラ(プフッ☆なんか面白い展開だね、しばらく見守っ)
ガタッ
先生「ッ!? だ、誰です!?」
ミサ(ちょ、バッ…って早っ!いねぇ!?)
アキラは風になった。

 

8
先生にバレそうになったので猛ダッシュで逃げ、なんとか事なきを得た僕。
でも結局ミサ姐に捕まってボコボコにされた。まったく、これだから暴力女は困る。
アキラ「ちょっ、ま、待ってミサ姐!ギブ!ギブッ!」
ミサ「あ゛ぁ!?イヤだねぜってー許さねぇ!」
アキラ「ギブミー・マネー!」
ミサ「そっちの「ギブ」かよ!なんでこの上さらに金までやんなきゃなんねぇの!?」
アキラ「まぁそんなことより、面白いもの見たよね。これは…調べる価値ありだ。」
ミサ「勝手にそんなこと扱いしてんじゃねーよ!って、え!?調べるって何を!?」
アキラ「フッフッフ、決まってるじゃないか。あ、もしもし?僕だけど。」
ミサ「いや、なに無視して電話かけてんの!?」
アキラ「え…いや、だから詐欺じゃなくてお兄…シズカ!?ちょっ…!」
前回は通報された。

 

9
そしてその夜…僕とミサ姐は、また学校に戻って来た。シズカとコウジも一緒だ。
目的地はもちろん図書室。先生が何をしてたのか、その理由を確かめるためだ。
シズカ「ってコトでいいんだよね?よ〜し行っちゃおー!」
アキラ「えっと、それ全部僕のセリフで…。」
コウジ「さすがシズカちゃんだな。まさに兄いらず。」
アキラ「ガーン!」
ミサ「コイツもそうだけどウチもいらなくね!?ウチはこんなん関わりたくないし!」
アキラ「とか言いつつも出て来ちゃうのがミサ姐らしいよね。このツンデレめ!」
ミサ「ウッセー死ねよボケ!コウジも何か言ってやってよこのバカに!」
コウジ「俺はもう諦めた。 でもどうするんだ?どうやって校舎内に入る気だよ?」
シズカ「大丈夫。夕方トイレのカギを開けといたんだよ、こんなこともあろうかとね♪」
ミサ「どんなこともあろうかと!?」
アキラ「というか…え!?ここ中等部だよ!?」
小等部はそれなりに遠い。

 

10
なぜか予想外の準備をしてたシズカのおかげで、僕らは校舎への侵入に成功。
図書室までも難なく来ることができた。結構楽勝なミッションなのかもしれない。
〜図書室〜
アキラ「さて…じゃあまずは、先生が持ってたあの妙に赤くて怪しい本を探す」
シズカ「あったよ〜♪」
アキラ「という工程は、終了しました。アキラ先生の次回作にご期待ください。」
ミサ「って早ぇーよアッサリし過ぎだろ!先生ももうチョット演出考えてほしいよ!」
コウジ「いや、無茶言うなよ。先生はこの展開を想定してないぞ。」
アキラ「まぁ細かいことは置いといて、早速見てみようか。どれどれ…?」
アキラは表紙を見て驚いた。
アキラ「こ、これは…!」
ミサ「えっ、ななななに!?なんて書いてあんのさ!?」

読めない…!
ドイツ語で「夢の始まり」と書かれている。

 

11
図書室でアッサリ見つけた本は、表紙の文字が全部外国語でよくわからなかった。
アキラ「ん〜、なんなんだろこの本…?表紙を見ただけじゃ、どんな本かもまったく」
シズカ「夢絵本じゃない?」
アキラ「まったく…もう…。」
ミサ「そこはもうチョット溜めて言えよシズカ!確かに流れ的にはそうだけども!」
アキラ「んぎぎぎぎっ…! あれ?どれだけ力入れても開かない…なんでだろ?」
コウジ「普通の方法じゃ開きもしない…なるほど、確かに話に聞いた通りだな。」
ミサ「あ〜、確か夢絵本の読破者がそう言ったんだよな。でも確か、その人って…」
コウジ「ああ。それ以上の秘密を話す前に、急に苦しんで…死んだって話だ。」
アキラ「「関わる気なら命懸け。それが夢絵本」…か。もし本物なら…恐ろしいね。」
シズカ「お、お兄ちゃん…」
アキラ「シズカ…」

シズカ「頑張って☆」
アキラ「危険だからヤメ…お?」
命懸けの兄妹関係だった。

 

12
軽く考えた結果、先生の本は、かの有名な夢絵本なんじゃないかって話になった。
ミサ「こ、これが夢絵本…マジかよ?そんな本が普通学校にあるもんか?」
コウジ「だが、そう考えれば先生の奇行にも説明が付く。色々試したんだろうなぁ。」
アキラ「力でダメなら、こういう場合は大抵…「呪文」が必要だよね?」
シズカ「それは無いと思う。」
アキラ「奇遇だね、僕もそう思う。」
コウジ「今度お前の「奇遇」の定義を教えてくれ。」
シズカ「あ…お兄ちゃん大変、指から血が出てるよ?」
アキラ「ん?あぁ、さっき追っ手を撒いた時にチョットね…。でも大丈夫、かすり傷さ。」
コウジ「いや、いつそんなイベントあったよ?」
シズカ「ダメだよ放っておいちゃ!本が汚れちゃう!」
アキラ「僕の心配じゃなかったのか…ってヤバッ、期待を裏切らず本に付い…」
ピカァアアアアアア…!(光)
なんと!本が凄まじく光った!

そしてアキラは姿を消した。

 

13
血が付いたことをキッカケに、本に吸い込まれてしまったアキラ。
謎は意外と簡単に解けてしまったのだった。
ミサ「えぇっ!?な、なに今の!?アキラはドコへ!?」
コウジ「ま、まさか…今ので本の中に…!?」
シズカ「お兄ちゃん…いい人だったのに…。」
ミサ「ってドライだなオイ!妹且つ一番年下ならもっと動揺しろよお前!鬼かっ!」
シズカ「ん〜〜…よーし!じゃあ私達も行っちゃおー☆」
ミサ「だからなんで楽しそうなんだよ!?コウジも何か言ってやってくれよ!」
コウジ「俺はこれまで、こうなったシズカちゃんを止められた記憶が無い。」
ミサ「諦めんなよ!確かにアキラを放っけない状況ではあるけど、でも…!」
コウジ「仕方ねぇよ…行こうミサ姐。これも何かの運命なんだよ、きっと。」
シズカ「血…血かぁ〜…ちょっと「青龍刀」持ってくるね〜♪」
ミサ「殺す気かっ!つーか持ってんの!?」
こうして3人も後に続いた。

 

14
 と、そんなこんなで…やっと話は、最初の場面へと戻って参りました。
〜暗闇〜
ミサ「オ〜イ、戻ってきたぞぉ〜!みんな生きてるかぁ〜?」
アキラ「あぁミサ姐、どうだった?何か見つかった?」
ミサ「いや、全然。まーーっくらで何にもわかんなかったよ。マジでドコだよココ?」
コウジ「閉じ込められたのか…。まさか、このまま死ぬまでココに…ってなるのか?」
シズカ「お、お兄ちゃん…」
アキラ「大丈夫だシズカ、僕が…」
シズカ「もっと離れてもらっていい?とっても暑苦しいの。」
アキラ「なっ、お前…いつもの発熱が!?チックショウ、こんな時に…!」
コウジ「完全に「ペット」と「飼い主」の関係だよな、お前らって。」
アキラ「ねぇコウジ、コウジはどう思う?本当に…ずっとこのままだって思う?」
コウジ「…いいや、違うな。帰って来た人がいるんだ、絶対に…何か手はある。」
アキラ「だよね! だったら急いでそれを見つけよう、シズカが…苦しんでる…!」
それはアキラ次第だった。

 

15
本に閉じ込められて、もう何時間か経ったけど、一向に何も起こらなかった。
アキラ「でもこのままじゃダメだ。動かなきゃ、何も始まらない!」
シズカ「じゃあまずは自己紹介からだねっ!」
ミサ「なんで!?一体誰に対して何のために!?」
アキラ「僕は「赤池アキラ」!大好きなシズカとなら、ドコへだって行ってやる!」
ミサ「ってやっぱやっちゃうのかよ!」
シズカ「私は「赤池シズカ」♪楽しいコトが大好きでーーす☆」
コウジ「どうせ拒否できないよな…ふぅ。 俺は「植田コウジ」、能力名は「達観」。」
ミサ「ウチもかよ…。 ウチは「平針ミサ」!もうなんだってやってやらぁーー!!」

―――認識した。

ミサ「えぇっ!?な、何!?なんだよ今の声!?」
コウジ「い、今のドコにそんなスイッチが…?」
ピカァアアアアアアア!(光)

突如、激しい光が周囲を包んだ。
そして、羊の顔をした変なのが現れた。
羊紳士「この時を待っていた。今を理解し、未来へと進む意思を示す…その時を。」
アキラ「あ、アナタは一体…誰…?」
羊紳士「我が名は「プロローグ」。汝らを夢へといざなう、案内人である。」
そして全ては動き出す。

 

続く