赤頭巾チャンス! |
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ある家の前に、とても大きな狼が立っていました。 それは人間の大人の男よりも大きく、なぜか二本足で立つ不思議な狼でした。 狼「ココか…。マジでこの家に、俺の探す娘がいるのか…?」 しかも喋りました。ビックリな事態ですが、気にしたら負けなのでスルーしてください。 そんな狼がボケーっとしていると、家の中から老婆の声が聞こえてきました。 声「おや、そこに誰かいるのかえ?『チャン』…ワシの可愛い孫娘なのかえ?」 狼(チャン…?もしやそいつが例の…?) 狼は、黙って家に入りました。 老婆「すまないねぇチャン。お婆ちゃん寝たきりじゃて、出迎えられんでなぁ。」 狼「・・・・・・・・。」 老婆「おまけに目も見えんし耳も遠い。声も太くて、まるで爺さんのようじゃ…。」 狼「・・・・・・・・。」 〜1時間後〜 老婆「体ももうヨボヨボで…!」 狼(帰りてぇ…。) |
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老婆の愚痴を3時間ブッ続けで聞かされ、狼はグッタリしてしまいました。 そしてやっと、黙って付き合ってあげる義理は全く無いことに気がついたのです。 狼「おいババア、もういい黙れ。テメェに付き合ってる暇は無ぇんだよ。」 老婆「…チャン?お前さん、しばらく会わんうちに随分とワイルドに」 狼「気づけよ!孫娘がこんな野太い声になってたらまず疑えよ驚けよ!」 老婆「ならばお前さん、誰なんじゃい?」 狼「フン、俺か?俺はまぁ…ただの、名も無き狼だよ。」 老婆「ッ!!?」 それを聞くと、老婆は驚きの表情を浮かべました。 狼「フッ、どうやら驚いたようだな。」 老婆「ワシを…口説きに!?」 |
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勝手に勘違いしてほんのり頬を染める老婆を前に、狼は膝から崩れ落ちました。 早いとこ弁明しないと狼の沽券に関わります。 狼「悪いがババア、俺はテメェが思ってるような意味の狼じゃねぇ。本物の、狼だ。」 老婆「む?フォフォフォ…喋る狼かい。最近妙なコトが多いのぉ、世も末じゃて。」 狼「黙ってろババア。口答えしやがると食っちまうぞ?」 老婆「イヤン…☆」 狼「だからそういう意味じゃねーよ!誰がテメェみたいなクソババアを…」 老婆「おや知らんのかい?カレーは何日か寝かせた方が美味いんじゃ。」 狼「テメェの場合「何日か」のレベルじゃねーだろ!とっくに永眠してるわ!」 とまぁそんな感じで、どうにも老婆に軽くあしらわれているようにしか見えない狼。 ですが老婆は、急に真面目な顔になりこう言ったのです。 老婆「ワシを…どうする気かえ?」 狼「フッ、それは…テメェ次第だなぁ。」 老婆(ドキドキ☆) |
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その後、なんとか誤解を解くべく狼は事情を説明しました。 黙って殺せば済む気もしましたが、それはプライドが許しませんでした。 老婆「…なるほどのぉ、そのような事情があったのかい。難儀なことじゃなぁ。」 狼「つーわけで、俺はお前の孫娘を食わなきゃならんのだ。」 老婆「こ、このエロスめ…!」 狼「だからそういう意味じゃねーってば!」 老婆「じゃが、それで本当に救われるのかえ?その保証はあるのかえ?」 狼「旅の占い師に聞いた話だ。真偽は知らんが、ワラにもすがりてぇ状況でな。」 老婆「そうかい…。しかし、そうと聞いては…放ってはおけんのぉ。」 そう言うとなんと、老婆は豪快に起き上がったのです。 狼「なっ…!?ババア、テメェ…動けねぇはずじゃ…?」 老婆「はてさて、この錆び付いた老体…どれだけ動いてくれるかのぉ。」 |
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それまでのダラダラした流れを一掃するかのように、突如突入したバトル展開。 老婆は意外な力を秘めていたのでした。 狼「そ、その奇妙な気配…テメェ、何モンだよ?」 老婆「ワシかえ?ワシはかつて世界を魅了した美少女戦士」 狼「訂正を求める。」 老婆「くっ…! ワシは、古き『魔法使い』…もはや現役退いて久しい身だがのぉ。」 狼「魔法使いか…奇妙な生き物は俺だけだと思ってたが、他にもいたとはなぁ。」 老婆「退いては…もらえんかのぉ?ワシももう歳じゃ、無理はしとうない。」 狼「フッ、別に構わねぇぜ?テメェが黙って孫娘を渡すってんならなぁ。」 老婆「フォフォフォ。それは…できぬ相談じゃ、なっ!」 突然、老婆から不思議なオーラがほとばしりました。 狼「ほぉ、面白ぇ…やってやるよ!」 |
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数分後、そこにはただただ呆然としている狼がいました。 狼「くっ、なぜだ…なぜこんなことに…!」 そこには既に、老婆の姿はありませんでした。 狼「ま、まぁ特に異常はねぇようだし…気にすることはねぇか。」 するとその時、扉を叩く音が聞こえてきたのです。 声「お婆ちゃーん、いますかぁー?孫娘さんが参上ですよぉー!」 狼(ッ!! 孫娘だと…!?つーことは、コイツが…!) 狼は、慌てふためきとりあえず老婆の使っていたベッドに潜り込みました。 ベッドからはお線香の香りが超ほとばしっていましたが気合いで耐えた狼。 そんな中、部屋に入ってきたのは、赤い頭巾を被った可愛らしい少女でした。 頭巾「あのぉ〜、お婆ちゃん…ですかぁ?」 狼「・・・・・・・・。」 |
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老婆の強烈な残り香に耐え切れず、不覚にも気絶してしまった狼。 数分後、なんとか目覚めはしましたが、しばらくは朦朧としていました。 頭巾「あっ!お婆ちゃん起きました!それはもうとても良かったです!」 なんと、少女は狼を自分の祖母だと思っている模様です。 一体どんな目をしているのかと小一時間ほど説教したいレベルでした。 ですが狼は動けない状況なので、そのアホさ加減を利用することにしたのです。 狼「お、おぉ久しぶりだねぇ…えっと、チャンよ。元気にしていたかい?」 頭巾「あ、ハイ!すこぶるお元気です!それはもう末期的に!」 狼「いや、末期て…ま、まぁいい。元気そうで…あ、安心したよ。」 頭巾「お婆ちゃんはなんかグッタリで心配…というか、なんか…変わりましたぁ?」 狼「ッ!!」 |
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狼と祖母のギャップに、やっと気が付き始めた赤頭巾の少女。 果たして狼は、無事に少女を騙しきることができるのでしょうか。 狼「か、変わった…かえ?ま、まぁ人なんて、月日が経てば変わるものさね。」 頭巾「あ、そうですよね!ボクもイッパイ大きくなったのですよ!」 なんともアッサリ騙せました。拍子抜けにも程があります。 頭巾「でもお婆ちゃん…お婆ちゃんのお耳は、なんでそんなに大きいですか?」 と見せかけて、攻撃の手を緩めないアグレッシブな少女がそこにはいました。 狼「ぐっ…そ、それはね。その…一部のマニアにウケがいいからだよ。」 頭巾「ね、ネコ耳的なアレですか!?でもそれ、見た感じ犬さん系のような…」 狼「は、発注ミスでね…。」 頭巾「それは大変なことです!」 |
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どうにか最初の質問は誤魔化した狼。 ですが、少女の攻撃は止みませんでした。ここからが正念場です。 頭巾「ところでお婆ちゃん、お婆ちゃんの目は…なんでそんなに大きいですか?」 狼「う゛…そ、それはね…『埋没法』の功績だよ。」 頭巾「せ、整形的なアレですか!?パッチリ二重を目指した結果ですか!?」 狼「あとは、こう…切ったり?」 頭巾「メスまで入れてるですか!恐るべき美への執着…!」 |
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そんなこんなで二つ目の質問もなんとかやり過ごし、狼はホッとしていました。 ですが油断は禁物。最後にトドメの質問が降ってきたのです。 頭巾「じゃあお婆ちゃん、お婆ちゃんのお口は…なんでそんなに大きいですか?」 狼「なっ!?そ、それはね…それは…」 全く言い訳が思い浮かばず、狼は困ってしまいました。 狼「それは、お前を食べるためだよぉおおおお!!」 そして開き直りました。 頭巾「イヤン☆」 狼「遺伝かっ!」 |
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少女の質問に答えきれず、ついに正体を明かした狼。 最初は祖母の冗談かと思った少女でしたが、やっとそうでないことに気づきました。 頭巾「え…お、狼さんですか?じゃあホントのお婆ちゃんは…?」 狼「あん?あぁ悪いな、食っちまったよ。」 頭巾「え、エロスです…!」 狼「だからそういう意味じゃねーよ!なんなんだお前の一族は!」 頭巾「食べちゃったって…丸呑みですか?それとも、しっかりとよく噛みましたぁ?」 狼「結構残酷なこと聞くなお前…。いや、実際は「食った」とは違うんだがな。」 頭巾「じゃ、じゃあやっぱり…!」 狼「だから違ぇよ!そうじゃなく、なんか…『同化』とかいう魔法を唱えて、消えた。」 頭巾「そ、それって…!」 |
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狼「とまぁ雑談はこの辺にして、食らわせてもらうぞ。いただきまーーす!」 頭巾「こ、これは…ピンチですっ!」 そしてやってきた大ピンチ。少女は逃げようと思いましたが、無理でした。 狼「暴れるなよ小娘。大人しくしてりゃあ一飲みに…ぬぐっ、なんだぁ…!?」 ですがその時、強烈な痛みが狼の全身を襲いました。 しかもそれだけでなく、頭の中から妙な声まで聞こえてきたのです。 声(おっと、そうはさせないよ。そのためにワシは、禁断の魔法を使ったのさね。) 狼「そ、その声…ババアか!?なんで頭の中から…声が…!?」 そう、その声は消えたはずの老婆の声でした。 頭巾「や、やっぱり…!お婆ちゃんは、狼さんと『同化』しちゃったんですぅ!」 狼「ふ、フザけるな!どうかしてたのはババアだけだ!俺は関係無い!」 頭巾「いや、そういう意味じゃ無しに!」 |
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少女を襲おうとした狼を止めたのは、なんと先ほどの老婆でした。 狼は凄まじくイヤな予感を抑えつつ、とりあえず少女に尋ねてみたのです。 狼「オイお前…なにやら知っているようだが、『同化』ってのは何の話だ?」 頭巾「ずーっと昔に聞いたことがあるです。合体しちゃう魔法があるとか違うとか。」 狼「なっ…!てことは、あのババアは今は俺の中にいるってことか!?」 声(そう、それはもうネットリと絡み合うように…) 狼「卑猥な言い方をするな!生きてくことに絶望するわ!」 頭巾「ひ、ひぃいい!なんか独り言言ってますぅー!怖いですよぉー!」 〜数分後〜 狼「…なるほど。つまりババアは、自らが枷となり俺が孫娘を襲えんようにしたと?」 老婆は答えませんでした。 頭巾「えと、どうやらそういう時にしか出て来ないようですね。お婆ちゃん…。」 狼「なんか…疲れたなぁオイ…。」 |
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謎の老婆にとり憑かれ、もうなんというか放心状態になるしかない狼。 頭巾「これは…チャンスですっ!」 この状況を好機と見るや、少女は狼に事のあらましを尋ねてみました。 祖母と何があったのか、なぜ自分を襲うのか、そしてそもそもなぜ狼なのかと。 狼はとても嫌そうでしたが、半ば投げやりな感じでしぶしぶ語り始めました。 狼「俺は…呪われてるんだよ。」 それを聞いた少女は、申し訳なさそうにこう答えました。 頭巾「えと、すみません。ウチのお婆ちゃんが…。」 狼「いや、そういう意味じゃねーよ。いや、それもある意味合ってはいるが。」 頭巾「え…じゃあ、どんな呪いなんです…?」 狼は、とてもめんどくさかったので簡単にこう言いました。 狼「とにかく、『生け贄』が必要なんだよ。俺が、『人間』に戻るためにはなぁ。」 |
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頭巾「に、人間に…ですかぁ。詳しく聞いちゃっても良いですかぁ?」 大体の状況はなんとなく察した少女でしたが、とりあえず続きを聞いてみたのです。 狼「とある占い師に言われたんだ。指定された生け贄を食らえば元に戻れるとな。」 頭巾「えと、訴えたいので後でその方の住所を教えて欲しいです。」 狼「生け贄の数は12だ。『3匹の子ブタ』、『7匹の子ヤギ』、『羊飼いの少年』…」 頭巾「そして最後が、『赤頭巾の少女』…ボクのコトですかぁ…。」 狼「そういうわけだ。まぁ運命だと思って諦めて死ね。」 頭巾「で、でもなんかそれ…個人を特定するにはあまりにも曖昧な条件では…?」 狼「んなこたぁどうでもいいんだよ。該当する奴ぁ片っ端から食らうと決めたんだ。」 頭巾「じゃあ、あのぉ…もうどなたか餌食になっちゃったですかぁ?」 狼「ん?いや、まだ全然でな。お前が栄えある一人目だ、光栄に思えよな。」 ちっとも光栄じゃないと少女は思いましたが、言える雰囲気ではありませんでした。 少女はビビりつつ、若干諦めつつも慎重に、よ〜く考えて、そしてこう言いました。 それはとても意外な言葉でした。 頭巾「これは…チャンスですっ!」 狼「あ゛?チャンス…だとぉ?」 頭巾「ボクのコトは後回しにして、まずは他の方々を追いましょう!手伝いますぅ!」 狼「お、お前…見かけによらず発想が鬼だなオイ。」 頭巾「こう見えてボクは『魔法使い』の末裔!意外とやれちゃうのですよぅ!」 その提案を受け、しばらく考えた後、狼はこう答えました。 狼「…ま、どうせババアのせいで手ぇ出せねぇしな…。無い話でもねぇなぁ。」 頭巾「交渉成立ですぅ!ではでは、早速行っちゃいましょー!」 |
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